381話 一度は誰もが憧れる -扉を勢い良く開けますね-
作戦開始です。
「失礼致しました。我が主のリョージも反省しているようです。英雄とは言え、まだ成人していない子供ですのでご容赦下さい」
謁見の間にマルコの声が響き渡った。最終選考は一時中断しており休憩時間となって枢機卿達は寛いでいたが、マルコの声に一同の視線が集中する。その一同の視線は、マルコが手に持っている錫杖らしき袋に注がれていた。
「マルコ殿。その手に持っている物は? ここを出る時にはお持ちでは無かったかと?」
「ああ、これはリョージ様から預かった錫杖になります。先程の騒ぎを反省しているようで、後で渡す予定だったのを、少しでも早く渡して謝罪に変えたいと申しております。それで謝罪になるとは本人も思っておりませんが、どうしてもオルランド教皇に渡して欲しいと言いまして」
ラッチス枢機卿が一同の疑問を代表する形で問い掛けると、マルコは申し訳なさそうに答えつつ、袋に包まれている物を取り出した。
「「「おぉ!」」」
「な、なんと神々しい錫杖だ」
「全てがミスリルで出来ているのか?」
錫杖を見た一同から驚きや戸惑い、羨望の視線とともに様々な感想が聞こえてくる。マルコも表面上は平静な顔を保っていたが、内心では震えそうになる手を必死で押さえ込んでいた。
(おいおい! なんで、こんな神具に近い物を紙の袋に入れてるんだよ! それにあいつ、『これ、オルランドに謝罪な感じで渡しておいて。ちょっとした品だけど、たいしたことないから。それと、ティアラもエリーザベトさんに渡しておいて』とも言ってたよな! これだけ注目を浴びてるのに、嬢ちゃんに近付けるわけないだろ!)
マルコは気楽に受け取った事を後悔しながら、心の中で罵詈雑言を亮二に浴びせながら、平静を保った表情でオルランドに近付きながら話し掛ける。
「こちらをお納めください。我が主からの謝罪の品になります。結婚が決まられた際は、こちらの錫杖と対となる法衣を献上すると申しておりました」
「このような神々しい物をリョージ殿が私に? それに法衣も?」
「はっ! 彼にとっては教皇猊下は大事な友人との事です。今から錫杖をお渡し致します」
マルコから錫杖を受け取ったオルランドは、錫杖を軽く構え音を鳴らす。謁見の間に涼やかな音が鳴り、一同の耳に爽やかな余韻を残した。オルランドは恍惚とした表情で錫杖を見ていたが、枢機卿達の視線を感じると柔らかい笑顔で話し掛ける。
「どうです? 皆さんも錫杖を見ませんか?」
「よろしいので?」
「当然です。イオルス神の敬虔なる信者のリョージ殿からの贈り物です。この部分に施されている細工などは芸術的な美しさですよ」
オルランドの言葉に、ラッチスを始めとする枢機卿達が錫杖の周りに群がるように集まった。エリーザベトも遠慮がちに近付こうとしたが、マルコによって阻まれる。
恨めしそうな目でマルコを見ていたが、彼からこっそりと渡されたアイテムボックスと腕輪を受け取ると表情が一変する。さらに小声で告げられた内容に表情を改めると、小さく頷いて腕輪を装着するのだった。
◇□◇□◇□
「んん! そろそろ続きを始めませんか? リョージ殿が作った錫杖については、後日に鑑賞会でも開けばよろしいではありませんか?」
「あ、ああ。そうだな。申し訳ない。あまりにも素晴らしい錫杖だったので、我を忘れてしまっていた」
アロイージオから嫌みが混じった咳払いに、ばつが悪そうに謝罪したラッチスが続きを始めようと休憩の終了を告げる。
「錫杖については後日、鑑賞会を行う。よろしいですな? オルランド猊下?」
「ああ。構わないよ。皆もゆっくりと見たいだろうからね」
オルランドは鷹揚に頷きながら許可を与える。鑑賞会の日程は後日に決めることになり、仕切り直すように婚約者候補の最終選考を始めようとした。
「では、引き続き……」
「ちょっと待ったぁぁぁぁ!」
突然、扉が全開し息せき切った様子の亮二が入ってきた。一同が唖然としている中、亮二は荒々しく謁見の間の中ほどまで進むと、勢い良く言い放つ。
「この婚約者候補最終選考に異議あり! やり直しを求める!」
「なっ! なにを急に? なんの権限を持って発言をしている!」
亮二の言葉にアロイージオが亮二に近付きながら怒鳴りつける。亮二はゆっくりと歩きながら話し始める。
「あれ? 息せき切って入場したのはスルー? まあ、いいけど。では、んん! 最初は、私にも分かりませんでした」
「なんの話をしている?」
「まずは、教皇の婚約者候補を決めるための勅命が見付かった事が発端です。誰が見付けたのか? 貴方ですよね? アロイージオ枢機卿」
先ほどのテンションとは違い、突然静かに話し始める。あまりの緩急の落差について行けず沈黙している一同に、亮二は後ろ手にしてユックリ歩くようにしながら語る。
「他にもおかしな点がありました。アロイージオ枢機卿とモニカ嬢の事。婚約者候補を絡めて質問すると頭痛を起こすラッチス枢機卿。今までエリーザベトさんに投票していたはずの信徒が、次の投票ではモニカ嬢に入れていた」
「それがどうした? 途中で投票する人物を変更するなんて良くある話だろう」
したり顔で話している亮二に、苦虫をかみつぶしたような顔で応えるアロイージオに対して軽く頷きながら話を続ける。
「その通りです。良くある話のはずです。それが三人であろうと、一騎打ちであろうと同じ投票率になっていなければです。あなたは最終選考になるように調整しましたよね?」
「な、なんの話だ! しょ、証拠はあるのか!」
「ええ。ありますよ。良かったですね。貴方の証拠。私が探しましたよ。会いたいですよね? では、登場して頂きましょう!」
亮二が扉を指し示すとゆっくりと扉が開き、カレナリエンとエレナを両脇に連れてフランソワーズが堂々と謁見の間に入ってくるのだった。
徐々に追い詰めていきましょう!




