33話 祝典での一コマ -結構大事ですね-
パレードに参加するのは始めてでした
辺境伯ユーハン=ストークマンの演説は30分ほど続いていた。日頃からの駐屯軍の献身的な任務に対する感謝から始まり、”試練の洞窟”の戦闘で自らの犠牲をも厭わない奮闘ぶりを讃え、住民にも駐屯軍に対して感謝の拍手を求めていた。住民からの拍手の最中にユーハンは大きく手を振りかざして拍手を止めるとさらに大きな声で話し始めた。
「諸君!さらにこんな勇士もいた!隊に女性がいる中で自分が伝令として指名された兵士の話だ。彼は部隊長から伝令を頼まれると『来週、結婚をするからと言って女の子を犠牲にするような男を彼女は認めてくれないでしょう』と!その彼は女性に伝令を譲り魔物に対して戦い続けた。ミルコ!前に!」
ユーハンに呼ばれたミルコは緊張した面持ちで群衆の面前に立つとユーハンに対して最敬礼を行った。ユーハンはミルコに対して報奨金として金貨5枚と勲章を手渡し慰労の声を掛けた。
「ミルコ、他人を思いやれる君の勇気は駐屯軍の範となる気高き行為である。その気持を今後もドリュグルの街の為に役立てて欲しい」
「ハッ!このミルコ、ドリュグルの街のために守護の盾となって民を守り、破魔の剣となって魔物を駆逐いたします!」
「今後共よろしく頼む。だが!結婚前の女性を悲しませるようなまねをした罰は受ける必要があるぞ」
ユーハンの激励に対してまじめに答えたミルコを見てニヤリと笑うと群衆に向かって手招きを行った。群衆の中から女性が1人ユックリと2人の前に出てきた。
「ミルコ」
「フィ、フィリーネ?どうして君がここに?結婚式の準備で村に戻ってるはずじゃ?」
「私が呼んで来てもらったんだよ、ミルコ。君に与える罰は本日より1ヶ月の勤務禁止だ。これから村への出立準備を整えて盛大な結婚式を上げる事!報奨金にはその分も入っていると思え!」
婚約者のフィーリネは感極まった顔でミルコに抱きつくと嬉しさのあまり泣き始めた。そんな彼女の頭を撫でながらユーハンに対して再度、感謝を込めて最敬礼をするミルコであった。
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「へー、やるじゃん。辺境伯さん」
亮二の呟きにカレナリエンが「どうされたんですか?」と尋ねた。
「いや、ユーハン伯が結構やるなと思って。駐屯軍への感謝を前面に出して住民に対して軍の存在価値を伝えた。そしてその中で、ちょっとした内容を出して『俺は細かな所も見ているぞ』と群衆や関係者にさり気なく伝えた上で、『罰を与える』と言っといて婚約者を呼んで感動の再会を演出して長期休暇まで渡している。見てよ、あの住人たちの楽しそうな顔。あれは完全にユーハン伯に対して絶大の信頼を寄せているね」
先ほどの演出を一気に説明した亮二にマルコが苦笑しながら会話に参加してきた。
「おいおい、リョージ。そんなにぶっちゃけないでくれないか。あいつなりにドリュグルの街の為、強いては領民の為に頑張ってるんだからよ」
「当然分ってるよマルコ。別にぶっちゃけてる訳じゃなくて感心してるんだよ。その辺にいる貴族だったらそんな事もせずに放蕩三昧で領民からは搾取するばっかりの奴しかいないだろ?」
亮二の返答に「そんな奴も多いけど、ちょっとは遠慮で包んで話せ」と苦笑が苦り顔に変わったマルコにカレナリエンも若干引き攣った笑顔で頷いた。亮二達が話してる間にも式典は進んでおり、ついに最後の恩賞に移ろうとしていた。
「では、今回の主役である人物を紹介しよう!先ほどのパレードを沿道で見ていた者なら先頭を進んでいた子供を見ただろう、彼が今回の主役だ!彼のお陰でドリュグルの街にも被害が出たかもしれない牛人出現を一騎打ちの末に討伐したのだ!彼が出てきたら盛大な拍手で出迎えて欲しい。では、リョージ・ウチノ前に!」
ドリュグルの住人たちの前に現れたのは、先ほどのパレードで先頭を進んでいた子供であった。後2~3年経ったら周りの女性が騒がしくなるであろう整った顔をしているが、どう見ても牛人相手に一騎打ちをするような体格をしておらず、どちらかと言うと「学者の助手」を想像するような風貌だった。
- やっぱり、俺が牛人を倒したって信じられないよな。11才のチミっこい子供だもんな。イオルスも13才で転生させるって言ったんならしっかりとやれよ。こっちに来て未成年って事で微妙に苦労しそうだわ -
群衆がかなりざわざわしているのを他人ごとのように眺めているとユーハンが小さな声で亮二に話しかけてきた。
「リョージよ。お前が持っている剣は”ミスリルの剣”との報告は本当か?」
「ええ、本当ですよ。マルコもカレナリエンにも見せてますしね」
「そうか、その剣に属性付与が出来ると聞いたが今でも可能か?」
「それも大丈夫ですね。何でしたらここで見せましょうか?」
「ああ、そうしてくれ。出来れば、【雷】属性の2重掛けで頼む」
「えぇ!?」
小声で話をしていたが、属性付与の話になってユーハンの質問に冗談交じりに答えた亮二に対して真面目な顔で突然、属性付与の2重掛けを頼まれて思わず大声を出してしまった。
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「そうだ、群衆の中にはお前が牛人を倒した事を信じていない者がいる。そんな奴らを一撃で黙らせる為にも頼めないだろうか?」
「それって、目の前の群衆にですか?それとも列席者も含めた群衆ですか?」
「くくく。さすがにマルコに目を掛けられただけはある。そうだ、今回の立役者のはずのお前の事を信じられないと言っている奴がいるんでな。すまないがそう言った連中を黙らせるためにも派手に頼むよ」
ユーハンの意図を読み取って回答した亮二に対して嬉しそうに答えると、大きく頷いて属性付与を群衆に対して行うように重ねて頼むのだった。
無茶ぶりはいつも突然なんでビックリです




