33話 邪魔が多くて話が進まない
「こんにちは」
「こ、こんにちは」
イケメンではないけども、それなりに爽やかだと思うスマイルを浮かべて三宮院家のお嬢様であらせられる巴嬢に話しかけた。
巴嬢の三宮院の象徴でもある緋色の髪は、まことに艶々しておられ肩位の長さで切り揃えられた綺麗なボブカットでございます。
お目目がパッチリの美少女だけど、貴族の女が美女なのは当たり前だからもういちいち言わなくてもいいか。
それよりも今気づいたけど巴嬢もアリスも、近くにいる巴嬢の女友達も百合子様も幼馴染たちも、みんなあんまり化粧してないな。本当に最低限の化粧だけか中には普通にスッピンの人もいるな。
都市伝説かと思っていたけど貴族など上流階級の女は重要な行事以外では化粧しないというのは本当だったのか!?
まあ、素の状態でも頑張って化粧をして街中を歩いているギャルとかの500倍は可愛いしな。それどころか着飾った女優やアイドルよりも華やかで人目を引き付けるし。
生まれながらに強力な魔力を持つからか、ただ居るだけで全身から溢れ出るオーラというか強い存在感みたいのもあるし必要ないのかもな。
………でも待てよ。睦美や京子もあまり化粧はしていないよな。二人は魔力は強くないけど外見だけなら貴族級だが………なんか最近の流行なのか?いや、正直あんまり興味ないから気にしてなかったけど。
個人的には厚化粧じゃなければ何でも良いし。
「あ、あの?」
おっと、いつものようにどうでも良い考え事をしてしまった。
不思議そうな顔をしているな。
「ごめんごめん。ちょっと気になることがあってね。」
「あ、いえ……」
言葉を返したら下を向いて黙ってしまった。
でも何か言いたいことがるのか口が開いて閉じてを繰り返している。
パクパクしてるのは可愛い、というか微笑ましい光景だな。
どうせだからもう少し観賞しながら巴が話し始めるまで考察でもするか。
さてさて巴が眷属であるのは確定です。だってアリスと同様に部下たちよりも強く魔王の眷属の気配を醸し出しているもの。
でも俺がいつ眷属にしたのかはわからない。
俺の記憶では今日が初対面だけど、やはり強い既視感がある。
なにより飾り気のない制服のスカートから出る太腿を見ていると、巴の裸体を抱いたイメージが鮮明に浮かぶ。妄想じゃなくて実際に触れた感覚がある。制服の下で程よく膨らんだ胸がどんな形でどんな色かも徐々に頭の中で浮かび上がる。きっとこのイメージと現実は一致するはず。
確認したい。
今すぐ押し倒したい。
抱きたい。
………
………おっと性欲が増幅しているな。いかんいかん。こんなとこで暴走したら性犯罪者として実験場送りだ………ダサすぎる。
しかし性魔法で抑制しているのにもかかわらずムラムラするな。
もしかしてこいつら眷属たちの影響を受けてるのかもしれない。
ここにはアリス、巴に加えて巴の横に立つ黒髪の女や、ちょっと離れたとこでこちらを見る金髪ストレートの女、金髪ポニーテールの女、別の黒髪、蒼髪、茶髪など眷属であろう女がたくさんいる。
どいつもこいつもテレビとかで見たことのある顔、見事なまでに貴族の本家のお嬢様ばかりだな。
ただ百合子様は違ったから貴族全員ではないだろうし……………法則がよくわからん。
ついでだが知らない顔っていうか、おそらく貴族ではない女の中にも1人眷属がいる。
今のところの共通点は全員美女、それもスタイルのいい優秀な美女ってだけだな。
「笹川さん。」
「どうした?」
不意にアリスが話しかけてきた。巴の方は未だに口を開け閉めしている。とはいっても数秒しか経っていないけどな。
アリスに聞き返すと、顔を耳元に寄せ小さな声で囁いてきた。
「三宮院さんは人見知りですわ。特に男性との会話はかなり厳しいようですからこちらから話題を振りませんと。」
「そうなの?貴族なのに?社交界とかあるんだろう?」
「ありますが……やはりそこは人それぞれですわ。勿論問題もあるでしょうがそれ以上に彼女は優秀な魔法使いですので特に強く咎めることはないようです。」
「ほ~。そうゆうものなのか。……あ、それと『笹川さん』じゃなく『大祐』で良い。自分の女には名前で呼んでもらいたい。」
「わかりましたわ、大祐。」
超至近距離から小さな声で話し合う俺たち。これを見た周りは再び驚いているな。
いい加減慣れろよ、と思うがそれだけアリスらしくない行動なのだろう。
てか『俺の女』という表現にも訂正とか一切入らなかったな。これはもう堂々と自分の女扱いしても良さげだと判断するぞ。
さて、周りがこちらを注視しているのにも気づかず下を見てる巴に声をかけるか。
「ともえちゃ―――」「あ、あの!」
俺が言い出しかけたところで、顔を上げて話しだした巴と見事に声が被さる。
巴は驚いて再び顔を下に向けそうになってるので慌てて阻止する。
「どうしたの?」と言いつつ巴の顔を両手で挟む。あ、力はいれてないぞ。
顔を固定され顔を上げたままの巴は「え、や、あう。」とか意味を為さない声を出してる。顔色がリンゴみたいになっているが嫌がってはいないようだ。
しかし周りはそう思わなかったらしく、先ほどとは違うざわめきが起きる。さっきまでは驚きで、今度は不快というか非難が混ざっている。
お前らどこ見てんの?巴が嫌がってないのはわかるでしょ?と思うが、これまた普段の巴のイメージから怯えているように見えるのかな?
実際のところはよくわからんが、沙夜たちと話していた時、巴と親しそうに会話をしてた爽やかイケメンが俺に近づいて来た。
なんか男性アイドルグループのセンターをやれそうな甘いマスクのイケメンが少し怒ったような顔で近づいてくる。
「おい。何するんだ!巴ちゃんに失礼だろう!手を離せ!」
イケメンが、俺の腕を掴んで力を込めてきた。
こいつの名前がわからんからなんて呼ぼうか。
特徴と言えばイケメンであることぐらいだが…
「イケメン…イケメン……イケメン之助……腐れイケメン野郎……イケメン大臣……イケメンボーイ……イケメン太郎……メン太郎……メン太郎だな!」
「はぁ?」
「メン太郎に決定だ!」
「え?」
「お前の呼び名はメン太郎だ。よろしくなメン太郎!」
「…………まさか僕のことを言ってるのか?」
呆然とつぶやくメン太郎。
「そうだよ。どうだ、良い名前じゃないか?」
「ッ!?どこがだ!何だいきなり!バカにしてるのか!」
「バカになんかして無いって。ポイントを的確に捉えた名前だろう?」
「ふざけ――」
巴のことを忘れてんのかあだ名のことで今度は食って掛かってきそうなメン太郎。それを制してアリスに俺の素晴らしいネーミングについて聞いてみた。
「アリスどう思う?」
「素敵ですわ。」
「えええええーーーーー!?!?!?!?!?!」
超かわいい笑顔で答えてくれるアリス。叫ぶメン太郎。
「だよな!?特徴をとらえた素晴らしいあだ名だよな!」
「はい。大祐が考えた名前ですから。本当に羨ましい限りですわ!」
冗談とはいえ嬉しいことを言ってくれるアリスの頭をなでるとアリスも嬉しそうに目を細めた。
一方でメン太郎にとっては予想だにしない反応らしく、「え、え~~~~~~!?」とかすれた声で叫ぶ。おかげで巴の頬から引き離そうとする手の力が大きく抜けた。
その隙にメン太郎から距離を取る。
ついでに手を巴の顔から移動させ肩を抱き密着する。
慌てて迫るメン太郎を見て思うんだが……
なんとなくだけど。
な~んとなくだけどこいつからは部下たちと同じにおいがする。
眷属ってことじゃなくキャラ的にって意味でだ。イケメンだけど部下たちと近いオーラを放っている。
「おい、いい加減に――」
「アリス~」
「はい。」
落ち着いた時ならメン太郎とは仲良くなれそうだが、今はメンドイ。
本題はあくまで研究スカウト。そのあとに眷属についての話し合いだからメン太郎と歩み寄るのはまた今度だ。
巴に触れてると性欲もヤバくなりつつあるしな。さっきからなんか巴に恥ずかしいことをさせて楽しんでいる映像が頭の中に浮かんでくるし。あ、映像では巴は嫌がってはいないぞ。あくまで合意の上でだ。
そんなわけでメン太郎の相手をするのがめんどくさいからアリスに声をかける。
俺の言いたいことを理解してくれたアリスがメン太郎の前に立ちはだかる。
メン太郎は驚きながらも、巴から俺を引き離すため近づこうとしているがアリスが道を遮るために近づけないでいる。
とうとう焦れたメン太郎が
「そこをどいてくださいファスナイルさん。僕は―――」
力強く言いかけたところで、いきなりビクッとなったメン太郎は言葉を止める。
アリスが強烈な魔力を放ち始めたからだ。
正直凄い魔力だ。
質も量も。
ただの威嚇だから本人には軽くのつもりなんだろうけど今の俺では全く敵わない魔力だ。
アリスの力はサーマレイスよりも明らかに格上だな!
そんな魔力で威嚇され、メン太郎だけじゃなく大勢のギャラリーも動きを止ている。この広い部屋の離れたところにいる連中も動きを止めている。
平然としているのは他の貴族の本家の人間やそれに匹敵するようなごく一部の強い奴だけなのだろう。
そんな中で何も言わずただメン太郎を見つめるアリス。
メン太郎だってここにいるってことは実力者だろう。俺の見立てでは上級BMだ。ぶっちゃけ俺より強いと思う。それにもかかわらずアリスの魔力で威圧されて動きを止めている。
ただ他の連中もメン太郎も完全にビビっているわけではないようで、これが殺し合いの場とかだとちゃんと動けるんだと思う。動きを止めてるだけで震えたりはしてないからな。
俺の腕の中にいる巴は顔色を変えて慌てていた。魔力で威圧されているのではなく単純に場の空気の悪化を懸念しているようだ。
このまま硬直するかと思いきやさっきまで巴の隣にいた、巴と同じくメン太郎のハーレムの一員っぽい黒髪の女が一歩前に出た。
そしてアリスの威圧など気にせず平然と言う。
「アリス!そこまでにしろ。笹川も今日から所属の割には随分と態度がでかくないか?」
腕を組みアリスの前に堂々と立ちそう言う女。胸がでかい 。Hカップくらいあるんじゃないか?
だから腕を組むと凄い強調されてそこに目が行ってしまう。
先ほども言ったがこいつも貴族の女だ。確か御剣家の御令嬢だったかな。ここの家は黒髪で特に変わった色ではない。サラサラロングな髪をポニーテールにしていてこいつはカワイイよりも綺麗と呼ばれるタイプだと俺は思います。
そんなことを考えている間、徐々に周りの魔力濃度が高くなっていた。
アリスがより強く威圧しそれに巨乳ちゃんもやり返しているかたちだ。
「あ、う、どうしよう…」
傍にいる巴はオロオロしてる。
う~ん…なんか貴族っぽくないけど……アリスが言うように人それぞれか。
それよりこの場をどうするか?
俺が乱入すれば止まるのはわかっている。
アリスが俺に従うように、巴が大人しく俺に抱きしめられているように御剣のお嬢様にも近づいて会話でもすれば直ぐに従うようになるとは思うけど………それによって性欲も増加しちゃう気がする。
実際アリスと話して増加して、巴に近づいてさらに増加してるしな。わからないことだらけの状態でこれ以上性欲が増幅するのはあまり好ましくない。現状ではまだ巨乳ポニーとの会話は避けるべきだな。
だがこのまま見学というわけにもいかない。
未だに高まり続ける魔力にさすがの上級BMたちも少しずつ怯えるものが出始めている。やっぱり貴族の本家となると上級の中でもずば抜けているのだろう。
はぁ~仕方ない。
もう少し巴の柔らかい体を堪能していたかったけど……惜しみまくりながらも手を離した。
次いでアリスに声をかける。
「アリス。もう良いよ。」
「はい。」
俺に返事をしたアリスは魔力を消し、何もなかったかのように俺の隣へと戻ってきた。
周りも緊張が解けホッとしたような感じだな。
ただ御剣のお嬢様やメン太郎は警戒しているようだ。
……ちょっとメンドイやつらだなぁ。
このままだとまったく本題に入れなさそうだし…………
ひとまず研究に関してはアリスがいれば最低限は何とかなるだろう!
これ以上無駄な時間をかけるのもバカバカしい。さっさと研究室を確保し、まずはアリスと眷属関連の話をしよう。
研究はどうせ年単位で行うのだからスカウトはまた今度ってことにして、アリスと移動だ!
近くでは巴が何か言いたげなのがわかるがそれはあえて無視してアリスに尋ねる。
「移動する。専用の部屋が欲しんだけど確保できるか?」
「わたくしが普段利用している部屋ならありますが研究内容次第では改めて別の場所を確保した方が良いかもしれません。ひとまず今後の予定を話すということでしたら、わたくしの個室をお使いください。」
「そうするか。案内しろ。」
「はい。」
俺の命令に対してアリスは頷き承諾する。そして周りの様子など欠片も気にすることなく俺の手を取って歩き始めた。
未だにフリーズしている人や警戒している人たちの横を何もなかったかのように素通りし、最初に俺が入ってきた扉へと向かう。
あ、ロイ達に言うの忘れてた!
あいつらも急展開を超えた超展開についてこれず、さっきから静かだったから。
完全に存在を忘れていたぜ。
「沙夜~!ロイ~!その他~!塔の案内はアリスにさせるから自分の班に戻って大丈夫だよ。積もる話は今度落ち着いた時にでもハヤテを含めてしよう。ご飯でも食べながらさ!」
突っ立ったままのみんなに呼びかけると、一人だけ回復してた沙夜が反応する。
「うん、わかったよ。でもあとでいろいろ話そうね。」
ふんわり微笑みながらそう言い返してきた。
あ、ロイとか他の連中はダメだ。急展開についていけてない。
沙夜は昔からのんびりというか、おっとりしてるところがあるけど何気に適応能力が高いんだよな。
「おう。また今度な!他の連中のことはよろしく!」
言うべきことは言ったから、あとは移動して話し合いだ!
何か普通なら数分で終わることなのにやたら時間がかかったな……
精神的に疲れたがあとはアリスと二人で話すだけ。それが終わったら“久しぶりに”アリスの身体を堪能して今日は帰ろう!
間違いなく処女だろうから優しくしないとな!場所はどこにしようかな~?
……そんなに世の中甘くなかった。
エロいことを考えていたからなのか、再び邪魔が入ることになった。
アリスの温かく柔らかい手に気分を良くしながら入り口まで到着。
ドアの前に立つ俺たちを感知し、自動的に扉が開く。
ドアから出て、さぁ出発だ!
そう思いながら、移動用の魔法陣に乗った俺たちの後ろに複数の気配がした。
「ちょっと待ちなさい。」
気の強そうな女の声が後ろから聞こえる。
明らかに俺たちに言ってるんだろうけど気づかないフリをして、魔法陣を動かそうとすると後ろの連中が魔法陣に乗り込んできた。
だが、忍耐強い男になりたい俺はあえて振り向かず魔法陣を動かし始める。隣のアリスに至ってはまったく表情がかわらない。
「じゃあ、場所わからんからここからはアリスに任せるぞ。」
「はい。ここからだと5分ほどかかりますわ。何かありましたら声をおかけください。」
アリスは言いながら魔法陣を操作する。
魔法陣が宙に浮かび上がり、それに乗る俺たちも宙に浮かぶ。そしてゆっくりと動き始めた。
ちゃっかりと乗り込んだ女たちを乗せたままだけど。
後ろの女たちは「ちょっと聞いてんの?」「こっちみなさいよ!」とか喚いているが、それを完璧に聞き流している俺たち二人。
目的地への設定を終えたアリスが俺の傍に寄り添い、抱きつきながら聞いてきた。
「研究施設内の案内は話し合いが終わってから行いましょうか?それとも」
「また別の日で良いだろう。」
「はい。」
寄り添いながら会話をする俺たち。
初対面だけど初めてじゃないからテンポよく会話も進む。
軽くイチャイチャしようかと思い始めたところで、先ほどからずっと無視されている女たちのうちの1人がキレたらしく、魔法陣を強制停止させてしまった。
「いい加減にこっちを見れや!」
もう全然貴族の令嬢らしくない叫び声と共に強い魔力を浴びせられる。
メン太郎に対してアリスが放ったのよりもずっと強い魔力だ。おまけに少しキレかかっているから敵意を感じる。
アリスは平然としているが俺のこの脆弱なスペックのボディには結構キツイ。
眷属の影響を受けたらどうなるかわからんから無視してたのに……かといってこれ以上無視すると余計に収拾がつかなくなるだろうしな………
「なんすか~?今忙しいんですけど~?」
振り向き話を聞くことにした俺。
でも言葉は露骨に適当なものになってしまったけど仕方ないよな?
「おまえッ――」
「奈瑠美はちょっと黙ってて。天音、このコを抑えてて。」
「了解です~!」
「はぁ?ふざけ――」
奈瑠美と呼ばれた女が他の女に口を押えられ後ろに下げられた。まあ、あの剣幕で話したらまとまる話もまとまらないよな。
暴れる奈瑠美、――確か倉島家のお嬢様だな――を引き離した後、指示を出した女の子が改めて話しかけてきた。
「少し話したいことがあるのだけれども良いかしら?」
いや、全然よくないんですけど。
今、目の前にいるのは6人のお嬢様。
『リフィル』『風蓮寺』『華月』『七浄』『倉島』計5つの貴族の家系のお嬢様たちとおそらくは一般家庭の女だ。
これにさっき話した『三宮院』と『御剣』、そして俺に抱きついている『ファスナイル』を加えた計9名がさっきの部屋にいた、魔王の眷属のような気配を感じさせる女たちだ。
で、この残りの眷属たちが一斉に押しかけてきたわけだけど………正直なところあまり良くない状態だ。
さっきまでは性欲のみだったが、少しずつ闘争心みたいのが沸々と湧いてきている感じがする。
女たちから発せられる眷属の気配によって、俺の魂が影響を受けているのかもしれない。
やべぇな!暴走するレベルではないけど、負荷は少ない方が良いに決まっている。
適当に話してひとまず解散させるとしよう!




