27話 過去の話 (東心峰入学以前)
話が長くなったため悪ルートへの分岐は次話のあとになります。
※前書きの一部を削除しました。
さて話すと決めたはいいがどこから話せばいいかな…
もう一回言っておくけど全然盛り上がらない話だぞ!?
他人が聞いても何の面白味もない話だ。
「お前は俺の弟妹や幼馴染を知ってるんだよな?」
「はい。幼馴染の人たちはみんな同じ研究室ですから。あなたの弟妹もそれほど接点はありませんが候補生として我々の教育機関に来ていますし知っています。」
「そっかそっか。ま、家族のことは置いといてだ。俺と幼馴染を見てどう思う?」
「どうとは?」
サーマレイスは聞き返してくるがホントは俺の言いたいことがわかっているのだろう。
けど人の外見のことを率直に言えるような性格ではないか。
観客も俺の話を聞こうとしてるのかシーンと静まり返っている。俺がどうやって強くなったのか知りたいのかな?
けど他の人にはほぼ不可能な方法だし聞いてて盛り上がるような話ではない。
何気なく観客席を見渡しながらマイクを切ろうかと考えた時に京子や睦美が見えた。
2人ともホントに可愛いな~
手を振ってみたら2人とも返してくれた。ってか東心峰の人たちの多くが振り返してるるんですけど!
「あの~」
サーマレイスが躊躇いがちに呼びかけてくる。
心配しなくても大丈夫。今から始めるから!
マイクは切らなくてもいいな。京子や睦美にもいつかは言った方が良いことだろうし一緒に聞いてもらおう!
サーマレイスの方を向くと改めて話し始める。
「俺とあいつら6人は仲のいい幼馴染だったけどさ、明らかに俺だけ浮いてるんだよな。わかるだろ?」
「え?あ~いや、どうでしょう…」
サーマレイスは外見が俺だけ明らかに劣ってることに気付いてるんだろうけど、それには答えない。
かなりキョドって目が動き回ってる。
こんな感じの話は苦手なのかな。意外だ!
まあ、凄い動揺してるし、いじめるのは可哀想だから話を進めるか。
とりあえず極力サーマレイスに話は振らないでおこう。
俺の幼馴染は6人いる。
満野樹 ハヤテ
鈴木 雄介
ロイヤード=ストーンハウス
長谷川 沙夜
水木 友美
茉莉=カーヴェスタン
男3人に女3人だ。このうち雄介と友美が1つ上の学年で他は俺と同い年だ。
言うまでもなく全員が美男美女だ。まあ、タイプは違うけどね。
おまけに頭も良く運動もでき、魔法使いとしても優秀だ!さらには性格も良い人たちでまるで物語の主人公みたいな人たちだ!
6人のうち俺の話で深くかかわるのはハヤテと沙夜だからこいつらのことだけはもう少し詳しく言うぞ。
ただ最後に会ったのは結構前だから今は変わってる可能性はある。まあ、超低い確率だけど。
ハヤテは黒髪黒目、高身長、爽やかイケメンだ!性格は男女ともに好かれる良い男!よくある物語の主人公みたいなやつではあるが決して鈍感ではない。むしろ鋭い人間で周りの人の機微に敏感で気を回せる優しい性格。
そしてただ優しいだけではなく怒るべきところは怒るし戦うべきところでは戦えるやつだ!困ってる人は助けるし冗談も言えるもうホント弱点はなしかよ!って感じだったな。
沙夜は綺麗というより可愛いタイプの女だ。大人しくて家庭的で料理を作るのが上手で、尽くしてくれるタイプの女の子。身長は150後半くらいでスタイルは――――――スレンダーな感じで胸のボリュームがちょっと物足りない。無いわけではないけど巨乳好きの『今の』俺には物足りないな。
沙夜は大人しいんだけどいざという時はやるべきことをやれる女だ。
そんでスペックの高い幼馴染の中で俺だけは残念な存在なんだよなぁ。
身長は170に届かない。顔が大きめで足が短い。あり得ないほどの不細工ではないけど格好良くもない。勉強、運動、魔法全てにおいて幼馴染には大きく劣っている。
悲しいことに弟妹は違うんだ。2人は俺と顔の1つ1つのパーツは似ているのに美男美女の主人公側の高スペックなんだよね。
俺はまるでイケメンになりうる顔のパーツを変になるように配置されたかのようだ。
そんな俺は幼馴染とずっと一緒に育ったわけだけどあいつらは良い連中で仲良くしてくれて俺もみんなが好きだった。
ずっと仲良く過ごしていたんだ。
あ~俺の初恋は沙夜だった。
けど幼いながらも俺なんかじゃあ無理だと悟り直ぐに違う人を見るようになったけどな。
雄介と友美は1つ上だから自然とそこで仲良くなって、ロイヤードと茉莉は親同士が元々仲が良いらしく家族間での交流も多い。自然と子ども同士も親しくなっていた。
そんなわけで残った俺とハヤテと沙夜で過ごすことが多かったわけで単純な俺は可愛くて優しい沙夜が好きだった。
けどハヤテも沙夜が好きだった。行動でバレバレだし、俺と二人で話したこともあるからな。
沙夜の方はよくわからん。多分だけど子供の頃はそういう恋愛感情そのものを意識して無かったと思う。
ハヤテは優しいけど戦うべき時は戦う男で、沙夜のことは絶対に引かないだろうとわかっていた。
俺が戦っても勝てない男だとその当時から認識してた俺は、沙夜を諦めるのに時間はかかったけど他の女の子を意識するようになった。
そんな感じで時に喧嘩もすることはあったけどみんなで仲良く過ごしていた。
変わったのは中等部の頃だ。
学生時代ではありがちな話だがこの当時の俺は外見で女を判断していた。
この時好きだったのはちょっと不良グループだが見た目は良く、スタイルも良い女だった!
名前は美幸だったかな。
性欲を覚え始めたこのころは、スカートが膝くらいの女子が多い中でパンツが見えそうなほどミニの美幸ちゃんに夢中だったんだ。
美幸ちゃんは毎日俺に話しかけてくれて、俺と凄く仲が良かった!
まあ、結論から言うとそれはすべてハヤテ目当てだったからだけど…………
この後、何が起きたか簡単にまとめるとだ
1.美幸ちゃんは俺からハヤテの情報を聞き出す。
2.俺は、ハヤテは沙夜が好きだがまだ付き合っていないことを伝える。
3.美幸ちゃんは二人が付き合う前にハヤテを誘惑しようとして、ハヤテに拒絶される。
4.美幸ちゃん、ネバーギブアップの精神で迫りまくる。ハヤテは最初やんわりと拒絶してたがあんまりにもしつこいから、がっつりと拒絶した。
5.泣いてる美幸ちゃんを慰めようとする俺、あり得ないくらいに罵倒される!
6.傷つく俺。幼馴染が慰めてくれる。特に沙夜は家に来て、泣きまくる俺の話をじっと聞いてくれた。おまけに頭を撫でてくれた!
7.沙夜への恋心復活!
「ここまでの話はわかった?」
黙って話を聞いているサーマレイスに問いかけた。
微妙に柔らかい風が吹いていて、サラサラの紫色の髪が揺れている。
俺より背が高いから守備範囲外だがこいつもまた相当綺麗なんだよなぁ~
俺が見惚れているのに気づいてるのかわかんないけどサーマレイスは静かに頷いた。
「じゃあ、続きだけどな。改めて沙夜に惚れたわけだけど直ぐにそれも終わったんだ。」
あれは半年後くらいだったかな。
マンガを買いに街へと出かけたら沙夜とハヤテが“手を繋いで”歩いていた。
それだけだ。
たったそれだけのことだけど俺は打ちのめされた。
悪口を言われたわけでも無視されたわけでもない。
ただ二人が手を繋いでいるのを見ただけで美幸ちゃんに罵倒された時より激しく傷ついたんだ。
「今にして思えば俺は沙夜のことを諦めてなんていなかったんだろうな。諦めたふりをしててもやっぱりずっと沙夜が一番好きだったんだと思う。沙夜は優しくて可愛い女の子だし。」
笑いながらそう言うとサーマレイスも「そうですね。」と答えてくれた。
「人によって恋愛の大事さというか比重は違うだろう?親の庇護下にあり金に困るわけでもない、仕事をしているわけでもない、守るべき子がいるわけでもない学生の多くにとって恋愛は大きな部分を占めるものだと思うんだ。少なくとも俺にとってはそうだった。」
当時の俺にとってはそうだった。
『今の俺』から見れば些細なことでも『昔の俺』にとっては何よりも大きなことだった。
沙夜がハヤテを選んだ。
俺はそれだけで動けなくなった。
自分の部屋に引きこもり不登校になったんだ。
「な、くだらないだろ?」と苦笑しながら聞いてみた。
「え?あ、いや~どうでしょうね?難しいですね。」
やっぱりサーマレイスは困ったようにしている。てか動揺しすぎて悪いことした気分になってくる。
「あれから時間が経ちいろんなことを経験した今の俺は笑って話せる。けど当時の俺は笑うどころか学校にも行けなくなってさ。まあ、他にも原因はあったんだろうけど。」
二人が出来てることがショックならそれを隠していたこともショックだった。親友なのに裏切りだ!とハヤテを恨みまくったな~
まあ、これにはいろんな意味での嫉妬も混ざっていたんだろうけど。
自分でも気づかなかっただけで、小さなころからハイスペックでモテまくる幼馴染全員に俺は嫉妬していたんだ。
けど仲がいいし、俺もみんなが好きだし、自分へのプライドもあるから気づかないフリをしていたんだ。
その貯めこまれていた嫉妬もこの時一緒になって爆発し、でも悪いことをしたわけでもないあいつらにぶつけることもできなく、結果として引きこもるという逃避行動をとったんだろうな。
家族も親友たちも学校の友達もみんな心配してくれたけど、どうしても動けなかった。
俺は理由を言わなかったけどみんなは察したんだろう、沙夜とハヤテは最初の1回だけ来てあとは友美や雄介たちだけできていた。余談だが沙夜とハヤテが付き合っているという話は結局誰も何も言わなかった。
半年くらい経つとクラスメイトは来なくなった。
けどまたハヤテや沙夜が来るようになった。どうやら俺の機嫌がいい日になると親や弟妹が教えているようだった。
来てくれて嬉しかったけど俺は冷たい対応をしていたんだよな。
もう意地を張りまくり状態だったんだ。
それなのに親友たちは俺を見捨てずに毎週来てくれてたんだ。
俺だったらとっくに見限ってたかもしれないのに……実際クラスメイト達とは結局ずっと会ってないし。
変化が起きたのはそのあとすぐだ。
いつものように一人でゲームをしてるとすごく唐突なんだけど急に自分がみじめに思えてさ。
あまりにもダサすぎだし、みっともないって!
や、最初から知ってたけど気づかないフリをしていたんだ。
そして一度自覚するともう駄目だった。
何をしててもみじめにしか思えなくなってな。
最初はいらいらしてたけど徐々に頭が冷えた今度は悩み始めてさ。
悩んで悩んで悩んで悩んで悩みまくってようやく俺は前向きなことを決意したんだ!
もう1回だけ頑張ってみようって!
今までも勉強、運動、魔法であいつらに、特にハヤテに勝ちたいと思ってそこそこの努力はしてたんだ。結局何一つ勝てなかったけどな。それも引きこもりの理由の1つだったんだろうけど…
恋愛はもう無理だけど、他のことでとにかく何か1つあいつらに勝てるものを手に入れようって!
これまでの努力では足りなかった。だからこれからは食事とか風呂とか睡眠とか最低限必要な時間以外は全て訓練に使って頑張ってあいつらを超えてやろうと決めたんだ!
このとき選んだテーマは『魔法』だ!
魔法使いとして俺は上に行くと誓った。
そして今度やってダメだったら、使える時間全て使ってそれでも負けるならもう仕方ない。
これは運命なんだと、引きこもるなり自殺するなり好きにすればいいと思った。
決意した後は久しぶりに外へと出た。そんでみんなの家に行きこれまでの事の感謝と謝罪を伝えて、しばらく会わないように頼んだんだ。
あ、学校には戻らなかった。かわりに図書館とか特別授業みたいのを受けて勉強した。
そして高等部はみんなから離れた別のエリアの学校に行くことにしたんだ。これまで甘えっぱなしだったから、自立するためにもな。




