51:戻って来た平和
「だからごめんってば。そんなに怒らなくたっていいじゃん」
「良いわけがありませんわ! あれからわたくしたちがどれほどの苦労をしたか。それこそ『魔王』を倒すより大変でしたのよ!?」
「とにかく『魔王』を倒せたんですからお祝いしましょうよ〜。アズサ、せっかくの可愛い顔が台無しですよ?」
「そ、そうよ! べ、別に、あんたに全部押し付けて逃げようだなんて思ってなかったもの、あたしたち!」
「……詩央里。キミ、口が滑りすぎだと思うよ」
――グリーンさんと二人で、無事にわたくしたちの街に帰りついてからのこと。
先に逃げ帰った三人を叱ったわたくしですが、案の定軽く受け流され、あれよあれよという間にお祝いムードに呑まれてしまいましたわ。
『魔王』を打ち倒したことで、皆さんのテンションはこれ以上なく上がっている様子です。本当、わたくしの気も知らないで、いい気なものですわね。
これ以上怒っても無駄と思い、わたくしはため息を吐きつつパーティーに参加することにいたしました。
パーティーと言っても近くの高級レストランでわたくしの奢りで食べるだけなのですけれど……。まあ盛大なパーティーをするには時間が足りませんし、仕方がありませんわ。
わたくし、小桜さん、志水さん、アマンダさん、碧海さん。
共に戦隊として『魔王』を打ち破った五人に加え、毒蜘蛛事件でリタイアしていたはずの朝陽さんや紫宇田さんまで交え、大人数での夕食となりました。
疲れ切った体には食事が沁みるようですわ。食事を楽しみながらわたくしたちは、勝利を祝い合ったり今までの思い出話をしたりととても盛り上がりましたの。
食べ終わる頃にはそれはもう大満足でしたわ。
「ああ、楽しかったですわ。ご馳走様でした」
「仲間じゃないボクらまでこんなに良くしてもらい、申し訳ないくらいだよ」
「ご馳走様〜。なんか今日はありがとうね〜」
「ほんま今日は色々あって大変やったし、迷惑もかけてもうたけど、最終的に無事にこの戦隊ごっこが終わったみたいで良かったわぁ。ほな、またな」
「こちらこそ! 若菜ちゃんと戦えて良かったよ」
「べ、別に、別れが寂しいとか思ってないし!」
「またどこかで会えますよ、きっと」
握手を交わしながら、わたくしたち【キラキラ★ベリベリキューティーガールズ】と【パンチング・ヒロインズ】は別れることになりました。
少し名残惜しいですけれど、しばしの間でも共にいられたことを喜ぶべきでしょう。もう二度と会えないかもしれませんがそれで構わないのですわ。わたくしたちはわたくしたちの、彼女らは彼女らの人生があるのですもの。
「さようなら、お元気で」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
屋敷に戻った頃にはもう夜の深い時間になっておりました。
そこから慌てて眠ったのですけれど、案の定すっかり寝過ごしてしまったようです。けれどわたくしの心境はとても穏やかで清々しいものでしたわ。
チラリとニュースなどを見てみれば、日本各地が『魔王』騒動のことで持ちきりでした。
ここ最近の騒動が一日で激化した上さらにその夜には沈静化していたのですから、警察なども大混乱なのでしょう。
逮捕された正体不明の少年、タワーの前で目撃されたこれまた正体不明の少女たち――。謎はまだまだ多いようですわねぇ。ふふふ。
けれど、これで本当に平和が戻って来たのだと安心できましたわ。
もうわたくしは戦隊などになって戦う必要もないのです。普通の少女としてまた日々を送れると、そう思って喜んでいたんですの。
――――――校門の前に待ち構えるたくさんの新聞記者たちを見るまでは。




