37:戦うか、留まるか
今日も二回更新です。
「あのラジオは怪物の作り手が故意に仕込んだものでしょう。問題は、あれが声の主の言っていた通りの犯行声明であるのかどうか、ですわ」
――学園が終わった放課後、わたくしたち四人は財前家本邸へ集まっておりました。もちろん、あのラジオの件について会議を開くためですわ。
小桜さんは稀に見る難しい顔で唸っており、志水さんはガタガタと震え、アマンダさんは好奇心に目を輝かせていらっしゃいます。そんな彼女らを見回しながらわたくしは言葉を続けました。
「万が一あれが真実だとすれば、明後日、この世界はあのロボット怪物で溢れ返ることが予想されますわ。それだけはなんとしても阻止しなければなりません」
「で、でも」志水さんが震える声で叫びました。「あんなの嘘っぱちに決まってるわ! だ、だって、世界をめちゃめちゃにするのが敵の狙いだったとしたら、あたしたちに言う方がおかしいじゃない! ただの悪戯に決まってるでしょ」
「シオリは全然わかってませんね〜。言ってたじゃないですか。ワタシたちはその仕掛け人にとっておもちゃでしかないんですよ。その怪物とワタシたちがどうやって戦って、『魔王』の元に辿り着くか。それを楽しみたいっていう、変態さんなんです」
「そんなのどうかしてるわ! 狂ってるわよ……」
そもそも狂っていなければ、あんなゾンビやらミイラやらエイリアンやらに似せたロボットを街に放ち、壊滅的な被害を及ぼそうなどと考えるはずもないでしょう。つまり敵は頭のネジが外れている方と想定する必要がございますわ。
そうして考えた時、先ほどの犯行予告はおふざけではないとわたくしは思うんですの。あれは『魔王』と名乗った正体不明の敵の言う通り、彼からの挑戦状なのですわ。
「そもそも、私たちの力の素のところのタネをくれたのも多分、あの『魔王』だよね」
と、唐突に小桜さんが口を挟んでいらっしゃいました。
「ええ。おそらくそうですわね。わたくしたちを戦隊として選んだのは同一人物と考えられるでしょう。どういう理由で選んだかはわたくしにはわかりかねますが、とにかく性質の悪い『魔王』ですこと」
そもそも自ら『魔王』と名乗るのもどうかしていますわ。ファンタジー小説の読みすぎではなくて? 戦隊といい魔王といい、発想が幼稚すぎますのよ。
……ともかく、その正体不明の敵が非常に迷惑な遊びを始めようとしていることは、おそらく間違いないことだと思います。本当に犯行声明通りの日時であるかは怪しい話ですが。
「とにかく、ぶっ飛ばしに行きましょうよ! ついにラスボス登場って感じでワクワクするじゃないですか〜。もしかして【パンチング・ヒロインズ】の人たちも来るかも知れませんよ? また会いたいです!」
「アマンダ! ちょっと冷静になりなさいよ。相手は何者かわかんないのよ? あたしたちは普通の中学生で、学園生活だってあるの。もしも危険なことに巻き込まれたらどうするつもり!?」
「危険なこと? 今更じゃないですか〜。馬鹿でかい怪物と戦っている時点で危険極まりないですよ。戦隊として、悪と戦うのは当然のことですよね? シオリったら怖気付くなんて情けないですねー」
「べ、別に怖くなんてないし! あたしは全ッ然平気なんだからね!!!」
志水さんが唾を飛ばしまくっています。汚いですわ。怖がりなことはもうとっくの昔にわかっておりますので、そこまで意地を張らなくてもよろしいのに。
そんな彼女を宥めるようにして、小桜さんがこんなことをおっしゃいました。
「ならとりあえず行ってみたらいいんじゃない? もしも『魔王』がいなかったら御の字だし、いたら戦わなきゃ。あの内容が本当なら街が危ないんでしょ? 放っておくわけにはいかないよ」
「わたくしも小桜さんに同感ですわ。この案件をそう容易く放置しておくことはできませんもの」
――戦うか、留まるか。
結局わたくしたちは戦う道を選びました。留まっていてもきっと何も始まりませんし、この戦隊ごっこをいつまでも続けているわけにもいきませんから、そろそろ決着をつけるにはちょうどいい頃だとも思いましたの。
志水さんも渋々了承し、明後日、ヒーロースーツに着替えてわたくしの屋敷にて集合することになりましたわ。そのひはSR学園があるのですが休まざるを得ませんわね。
戦う相手は不明、一体どんな事件が起こるかも未知数。
そんなわけのわからない『魔王』の挑戦状にわたくしどもは挑むことになったのでしたわ。




