間話4:嘘つきの証言
……志水さんに引っ張られて現場に辿り着くと、そこにはたくさんの野次馬の生徒たちと、それを制止しようとする教職員で溢れ返っておりましたわ。
わたくしが現在いるのはSL学園の三階と二階を繋ぐ大階段。
石造の階段は螺旋を描いており、そこに人がごった返しております。階段下にはさらに大勢が集まり、わあわあとうるさく喚いていらっしゃいますわね。
けれどそんなことはどうでもいいのです。とにかくお怪我なさったという小桜さんの姿を探し、わたくしは三階から階段下へと駆け下りようとしました。
が、それを止めたのは意外にも志水さんだったんですの。
「逃げる気!?」
「小桜さんを見に行くだけですわ。離しなさいっ」
「もう保健室に連れて行かれたわよ! ひどい捻挫だって言ってたわ」
わたくしは言葉を失い、しばらく固まってしまいました。
と、ちょうどその時でしたわ。
「アズサ! シオリ! 探しましたよ二人とも」
心地よい太陽のような朗らかな笑顔のアマンダさんが、わたくしたちに喋りかけてきたのです。
でも状況が状況ですわ。わたくしも志水さんも思わず身構えましたの。
「あれ? どうしたんですかこの騒ぎ。もしかして怪物が出たとか? それなら早く知らせてくださいよ〜」
その能天気さに呆れる他ありませんでしたわ。
どうやら彼女、まだ何も知らないようです。何と言うべきか迷っていると、周囲の野次馬の一人がわたくしの存在に気づいて声を上げましたの。
「あれ、財前梓じゃないか」
それからはもうものすごい嵐でも吹き荒れたかのような騒ぎでしたわ。
皆が皆わたくしを捕まえようと躍起になり、一瞬で志水さんとアマンダさんごと取り囲まれてしまいました。
そしてそれだけでは飽き足らず、わたくしを犯人だなどと罵り始めたんですのよ。
小桜さんが階段から落ちたのは、昼食が始まるほんの少し前だったそうです。
わたくしと会うために三階の食堂へ階段を登っていた彼女。しかし突然上から別の生徒が現れて、小桜さんに勢いよくわざとぶつかったのだと……。
階段下まで転げ落ちていった彼女をよそにすぐに犯人は逃げてしまったそうですけれど、その後ろ姿がわたくしと瓜二つで、しかも、「構わないでくださいまし。この礼儀知らずが」と罵っている声を聞いたとの証言が多数ありましたわ。
もちろんわたくし、こんなことはしておりません。そもそもするメリットが何もありませんので。
確かに小桜さんと一緒に『悪役令嬢ざまぁ作戦』とやらは実行しておりましたわよ? だからと言って別に彼女を疎ましく思う理由もございませんし、階段から突き飛ばすなんて言語道断ですわ。
これが誰が吐いた戯言なのか突き止めねばなりません。
いいえ、突き止めるまでもなく犯人はわかっているのです。それは今回の事件の目撃者を名乗ると共に、毎日わたくしを主にいじめ貶す同じ教室の生徒たちですわ。
とことんわたくしを貶めたかったのであろう彼女らはついにわたくしの友人に手を出したのです。まさかここまでやられると思わなかったわたくしの迂闊さが生んだ惨劇であることには間違いありませんわね。
けれど――。
「度し難いですわ。……あなたたちの卑劣な行い、この財前梓が正して差し上げますわよ」
わたくしに指を突きつけて「犯人だ」と嘘で罵倒してくる目撃者たちに、わたくしは言い切りましたわ。
背後には呆気に取られるアマンダさんと、わずかに震える志水さん。彼女たちを守るようにして両手を大きく広げます。
相手は少し気圧されながらもわたくしに叫び返しましたの。
「アタシらがはっきり見てたんだからアンタがいくら嘘を並べたところで覆りはしないよ」
「諦めた方がいいわよ〜」
「まあ。目撃者がこんなにいて財力だけで助かるとでも? お金持ちのお嬢さんは羨ましい頭をしているんですねぇ」
確かに数では劣ります。しかし、こんなことで負けるわけにはいきませんもの。
わたくしはそう決意を固めてぎゅっと拳を握り締めましたわ。
「そんなにわたくしを悪者扱いしたいなら正々堂々と勝負なさい。正義は必ず勝つものでしょう? ――わたくしと決闘ですわよ」
抑え切れず、次の瞬間に開いた手からボワっと炎が燃え上がったのでした。




