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星間覇道――死んだ宇宙に笑い声――  作者: 黒鯛の刺身♪


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第十四話……銀河文明の三つの基盤

 エーテル機関の誕生。


 二十四世紀。

 既存の反物質炉や重水素推進では、いかなる技術をもってしても光の速度の壁を越えることは不可能だと、古の人類は悟った。

 彼らが次に目を向けたのは、宇宙を満たすダークエネルギーの一種――エーテルである。


 その未知の力を燃料とする実験炉〈深域跳躍炉〉、〈虚域航行機関〉が次々に試作され、やがて両者を統合・改良した総合次元推進機構〈エーテル機関〉が誕生した。

 それは、人類史上初めて空間跳躍――ワープ航法を実現した装置である。


 この発明を契機に、人類の文明圏は瞬く間に太陽系の外へと拡大し、百年も経たぬうちに数百の星系にまで進出した。

 以後、人類の銀河史は「エーテル紀(Etheric Era)」としても記録されることとなる。


 やがて地球人類の文明は、空間異変ディメンション・クラックの発生により失われたが、エーテルという燃料の供給は絶えなかった。


 異常空間の裂け目――「エーテル層(Ether Stratum)」から抽出された流体が精製され、以後の人類文明を支える恒星間エネルギー源として利用され続けている。




◇◇◇◇◇


 位相鉄鉱とアダマンタイト鋼の誕生


 二十五世紀。

 人類が太陽系を離脱してから久しく、過酷な宇宙空間に耐え得る新素材の探索が進められていた。


 その最中、外縁宙域の小惑星地帯におけるレアメタル採掘中、作業員たちは奇妙な鉱石を発見する。

 それは赤褐色に輝き、接触した者に幻覚や過去の記憶を見せるという不可解な性質を持っていた。


 初期調査の結果、化学的にはほとんど反応を示さず、

 既知の元素のどれにも分類できなかった。


 研究者たちはそれを〈位相鉄鉱石〉と命名し、長らく“観賞用の奇石”として博物館に展示するほかなかった。


 だが、ある一人の科学者がその鉱石の異様な硬度と構造の不安定性に注目する。

 ――ウォーレン=アダマンタイト博士。


 博士はエーテル機関の派生技術である〈空間撹拌機(Spatial Agitator)〉を用い、位相鉄鉱石が持つ多層構造の“位相ずれ”を安定化させる実験を行った。

 結果、鉱石は通常物質とは異なる結晶秩序を保ちつつ、既存の金属をはるかに凌駕する強度を発揮したのである。


 この発見は、物質工学の革命を意味していた。

 地球の物理産業学会は、博士の名を冠して〈アダマンタイト鋼〉と命名。


 以後、精錬技術が確立され、位相鉄鉱を溶解・安定化したこの超合金は、標準型外洋宇宙船の外殻、軍事兵器の装甲、そして大型兵器の構造材として急速に普及していった。


 やがてこの貴重な位相鉄鉱石の鉱脈を巡り、辺境の惑星では、当然の様に利権と戦乱が生まれることになる――。




◇◇◇◇◇


 エーテル兌換制度の成立。


 二十五世紀。

 エーテル機関の普及とともに、経済活動の主軸は銀河全域へと広がり、人類社会はついに統一的な銀河経済圏を形成した。


 この時代、貨幣は高度な演算技術を基盤とする暗号通貨システムが担っていた。

 しかし――地球文明の消滅後、中央サーバ群や量子演算網の多くが失われたことで、その維持は急速に困難となった。


 さらに〈銀河聖帝国ノヴァ〉の御代において、数度の銀河規模の恐慌エコノミック・クラックが発生。

 暗号通貨網の信頼は完全に崩壊し、経済秩序の再構築が迫られた。


 こうして誕生したのが――エーテル兌換券(Ether Exchange Note)である。

 その発行母体は帝国中央エネルギー庁。


 券面価値の裏付けとして、帝都地下に備蓄された〈高純度エーテル〉が充てられ、帝国経済の安定を象徴する“実物裏付け貨幣”として機能した。

 この兌換券はすべてが超高額貨幣であり、庶民が目にすることはあまりない。


 一方、地方経済においては、帝国中央が各惑星政府に金貨・銀貨・銅貨などの発行権を委譲し、惑星ごとの流通を許可した。


 庶民の生活には主に銅貨と銀貨が用いられ、高額取引や貴族階級の間では金貨・白金貨が用いられる。

 ただし、貴金属以外の貨幣発行は帝国法で厳禁とされたため、各星系は経済発展のためにも、希少鉱山の確保をめぐって内紛を繰り返さねばならなかった。


 良質な鉱脈を持つ惑星は、時に「黄金の星」と呼ばれ、帝国貴族たちの投資と陰謀の標的となっていく。


 そして、すべての租税――すなわち帝国への貢納金は、例外なくエーテル兌換券で支払われた。

 この制度によって、銀河の富は流れのすべてを帝国中央へと吸い上げる仕組みとなり、やがてその過剰な集積が、次なる経済の歪みを生むことになる――。




◇◇◇◇◇


 極低周波通信機と地球文明の末路。


 地球の超文明は、他次元宇宙との交信実験の果てに、〈空間異変ディメンション・クラック〉を引き起こし、ついには自らの文明を滅ぼすに至った。


 しかし、その悲劇の一世紀前には、すでに〈極低周波通信機〉が実用化されていた。

 〈エーテル機関〉による恒星間航行が可能になった当時、人類は一つの奇妙な問題に直面した。


 ――“通信よりも、船のほうが速い”。

 すなわち、通常の電波通信は光速を超えられず、ワープ航法によって移動する艦船の到達よりも遅れて届くという、前代未聞の現象が頻発したのだ。


 この問題を解決すべく、地球の研究者たちは時空共振とエーテル波干渉を利用した新技術――〈極低周波通信機〉を開発した。


 それは、空間そのものを媒質とすることで、距離や時差をほとんど伴わず通信できる革新的な装置であった。

 しかし、文明崩壊の混乱の中で、この技術理論は完全に失われた。


 地球文明の消滅とともに、設計データ、理論書、基礎学問体系がことごとく失伝。

 現在においても、極低周波通信機のコア部品の多くは発掘遺物に頼っており、完全な再現は不可能とされている。


 それゆえ、今なおこの通信機は「古代地球文明の遺産」と呼ばれ、極めて高価な額で取引されていることが多い。

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