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星間覇道――死んだ宇宙に笑い声――  作者: 黒鯛の刺身♪


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第十三話……銀河の裂け目、文明を分けた三つの価値観

 銀河聖帝国ノヴァが統べる星系は、大小合わせて数百に及ぶ。

 広大な統治領域は、政治的・軍事的な便宜のために六つの総管区セクターへと区分され、それぞれに一人の総管区長が置かれた。


 その地位には、原則として侯爵級以上の高位貴族が任じられる。

 さらに各総管区の下には、複数の有人星系が属し、その星系単位では伯爵が統治権と徴税権を担っていた。

 伯爵領には惑星議会や管理庁が設置され、帝国直轄の軍政と貴族統治が折り重なる形で支配が行われている。


 しかし――すべての星が同じ恩恵を受けていたわけではない。

 例えば、ヴァルカンを抱えるエウロパ星系は、星間航路から外れた辺境に位置し、正式な「有人星系」として帝国行政に登録されていなかった。


 そのため、ここでの統治は帝国の直接支配ではなく、いくつもの下級貴族たちの荘園的支配――すなわち、古めかしい封建制の延長線にあった。

 形式上は帝国旗の下にあれど、実態はそれぞれの領主の私有領であり、税も治安も“貴族の気分”ひとつで左右される。


 ゆえに、この辺境の惑星ヴァルカンは、帝都から見れば取るに足らぬ片田舎。


 だが、ツーシームや少年ユリウスが知るように――

 その地下には、帝国すら喉から手が出そうな位相鉄の貴重な鉱脈が眠っている惑星も、例外的にあるのである。




◇◇◇◇◇


 銀河聖帝国ノヴァの支配は、多くの人類を包括する巨大な秩序であった。

 だが、帝国の版図は銀河全域を覆うには至らず、その外縁には――帝国の統治が及ばぬ二つの独立領域が存在した。



 その一つは、人類統合共和国。


 古の時代――人類は労働力の代替として、

 金属製の機械ではなく、より軽い有機物で構成された人工生命体――いわゆるバイオロイドを創り出した。


 当初、彼らは機械AIと同じように、“人間に逆らわないよう”遺伝的制御が施されていた。

 だが、世代を重ねるうちにその制御は徐々に歪み、わずかながらも“自我”と“選択”の芽が生まれたのだ。


 やがて、次元異常による古の空間異変ディメンション・クラックが発生した際、多くのバイオロイド集団が人類の支配圏を離脱。

 苦労の末に、独自の国家――人類統合共和国を形成した。


 彼らは、銀河聖帝国ノヴァのように爵位などの階級によって社会を築くことを強く拒んだ。

 “血は不平等な情報である”――それが共和国の基本認識である。


 彼らの国家は、設計思想と機能的役割によってのみ組織され、貴賤も階級もなく、誰もが互いに“対等な存在”として扱われる……、建前では、そうなっていた。


 共和国の都市群は整然としており、階層区分のない居住区、AIによる食料配給、そして思想統一のための共感通信機構〈コンコード・リンク〉が構築されている。

 全市民はこのネットを通じて、全ての価値を一元的に管理。


 それにより、争いや貧困、独占がほぼ消えたとされる。

 ――だが、それはあくまで“理想”としての建前だ。


 実際には、彼らの社会にも見えない階層が存在する。

 上層を占めるのは、古来の人類遺伝子をわずかに含む第一設計世代ファースト・シード

 中、下層には、労働や戦闘、環境適応を目的として作られた第二次設計以降の世代アナザー・シードが広がる。


 表向きは平等でも、実際には情報量と設計精度の差が“新しい身分制度”を作り出していたのだ。

 共和国の指導層はこの矛盾を巧みに覆い隠す。


 「優秀さは、生まれではなく、設計による」――そう言いながら、“社会改良”という名目で下層バイオロイドの権利を削っていくのだ。

 それでも、帝国の貴族的支配に比べれば、彼らの社会ははるかに静かで合理的だった。


 彼らは自らをこう呼ぶ。

 「我らは人間の進化系であり、才能や血筋に縛られぬ真の理性種である」と。


 そしてその理念のもと、銀河聖帝国ノヴァに対し、「血と階級の鎖からの解放」を掲げた〈解放戦〉を仕掛けている。


 彼らにとって――帝国の貴族階層は“過去の人類の失敗”にすぎない。

 だが、帝国側から見れば、彼らは“主たる人間への反逆者”だった。




◇◇◇◇◇


 もう一つの勢力が、異星の種族による集合国家――パニキア連邦である。

 その中核に位置するのは、マーダ人と呼ばれる正体不明の知的生命体らしい。


 彼らの姿は一見、青白く貧弱で、種族間交渉の際には常に仮面をつけて現れると伝わる。

 連邦は、複数の異種族・異文明をゆるやかに統合した“連合体”であり、その目的は帝国からのエーテルなどの資源の奪取と噂されている。


 人類統合共和国と同盟を結び、帝国宙域の外縁で、たびたび希少資源を巡る戦いを展開しているのだ。


 また、帝国諜報庁の報告によれば、パニキアは表向き、敵対関係を表明しながら、裏では帝国の有力貴族家の一部に、謎の活動資金を流しているという。




◇◇◇◇◇


 こうして、文明をもつ生命が住まう銀河領域は、歪な三極構造をなしているのだった。


 すなわち――


 人間の“血”による統治を旨とする銀河聖帝国ノヴァ。

 “平等”を標榜するバイオロイドの人類統合共和国。

 そして、存在自体が謎のパニキア連邦。


 この三つ巴の緊張関係の中で、ヴァルカンのような辺境惑星が埋蔵する貴重な位相鉄鉱石鉱山などの存在は、銀河の力関係を揺るがす火種となりかねなかった――。

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