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ハーメルンの音楽祭  作者: NiO
浦野ハイツ中庭:金属の笑顔
37/46

かごめかごめ

 時刻は午前6時前、場所は巨大な橋の上。


 二人の男女が、塔を目指して進んでいます。


「んー……こうでもないか……違うなー……」


 『おとな』の少女は、何やら自身の携帯電話を見ながらブツブツと呟いています。


「何を見てるんですか?」


 『かたりべ』の中年が、少女の後ろからついてきながらそう言いました。


「いや、次の、『金属の笑顔』の『どこかの誰かの噂話』だよ。

 なんていうかさ、これだけ他の七不思議と違うよねー」


 『かたりべ』の中年は、送られてきた『金属の笑顔』の『噂話』を思い出して、頷きます。


「確かに……でも、これって『7不思議は全て知ってはいけない』系の、どうやっても解らないヤツじゃないんですか?」


 中年の言葉は実に最もでした。

 何せ、ついさっきまで少女のそう考えていたからです。


「そうかもね。

 ただ、なんというか……日本語に違和感がありすぎて……暗号に(・・・)見えるんだよねえ(・・・・・・・・)


「可能性は、あるでしょうね。

 ……しかし、それ、考える必要ないでしょう。

 今はむしろ、脱出する方法について考えるのが先じゃないですか?

 以前のメールを確認すると……ほら、金属の笑顔について出されるクイズは、別に解く必要もない物と書いてあったと思うのですが……」


 確かにそうだったな、と少女も頷きます。


「まあ、良いじゃない。

 せっかくここまで来たんだし、完全クリアを目指したいのは人情でしょ?」


「……仕方ありませんね、最後まで付き合いますよ」


 少女の言葉に苦笑いしながら、中年も『金属の笑顔』について考え始めて。


「うん、全然解りませんね……」


 そして早々に、諦めかけているようです。


「……ところで、質問、いいですか?


 先ほどの、しりとりについて、なんですけど」


「……うん?」


「べにがらす、すいむ、むくろえき、きんじろうぶね、ねずみ、みさきぼっこ、こども、もめんどうふ、ふえふき、きんぞくのえがお。


 ここまではしりとりになってますけど。


 『かたりべ(・・・・)の私と(・・・)


 『おとな(・・・)の貴女が(・・・・)出てきませんよね(・・・・・・・・)?」


 『かたりべ』の中年の当たり前の質問に、『おとな』の少女は、普通に答えます。


「ああ、そんなこと?


 最初と(・・・)最後(・・)だよ(・・)


「最初と、最後?


 ……ああ、なるほど……」


 少女の言葉に、中年が納得しています。


かたりべ(・・・・)、べにがらす、すいむ、むくろえき、きんじろうぶね、ねずみ、みさきぼっこ、こども、もめんどうふ、ふえふき、きんぞくのえがお、おとな(・・・)


 出てくる7不思議と、私たちの固有名詞で、しりとりが出来る、という訳ですか……」


「それだけじゃないよ。


 この、しりとりの順番こそが、この『ハーメルンの音楽祭』を脱出するための……順番(・・)……それを、示していたんだ」


「ん、んんんん?」


 『かたりべ』の中年は、疑問の声を上げようとして……気がつきました。


 『きんじろうぶね』で殺された『ねずみ』の小児。

 『みさきぼっこ』で脱出を断念した『こども』の老婆。

 そして……『もめんどうふ』で置いてけぼりにされた『ふえふき』の壮年。


 まるで、示し合わせたかの(・・・・・・・・)ように(・・・)しりとりの(・・・・・)タイミングで(・・・・・・)いなくなっている(・・・・・・・・)のです(・・・)


「あ、あ、ああああああ!


 つまり、この、しりとりの順番こそが(・・・・・・・・・・)



 この『ハーメルンの音楽祭』からの脱出できる順番になる、ということ、なんですね!」


 中年がテンションを上げている間も、『おとな』の少女は、無言で出口へと向かいます。


 そして、橋のゴールである、搭が見えてきました。


 塔の下には、見慣れた『緑色の扉』が既に準備されています。


 『おとな』の少女が、そのノブに手を回して、先へと進みます。


 その後ろを、『かたりべ』の中年が、続きます。



 扉の先は……『浦野ハイツ』の中庭、でした。

 目の前には、ハイツと外を隔する、緑色の扉(・・・・)

 この先は、恐らく現実世界……ゴール、なのでしょう。


「……あれ?

 このしりとり、なんだかオカシイですよ?」


 少女の背後で中年が、声を上げました。


「この通りだと、『かたりべ』の私は、どこで脱出できるんでしょうか?」


 中年の疑問は最もです。


 何せしりとりの通りだと、『かたりべ(・・・・)』は『べにがらす(・・・・・)』の()


 脱出のタイミングが(・・・・・・・・・)無いのです(・・・・・)! 


「ああ……それはね。



 あんたは(・・・・)脱出する必要が(・・・・・・・)ないから(・・・・)じゃないかな(・・・・・・)?」



「……は?」



「……お、ああ、そういうことか。


 やっぱりコレ、暗号だ。


 『金属の笑顔(・・・・・)』、解けたわ(・・・・)


 少女が一人で話を進めていますが、中年は置いてけぼりになっています。


「ちょ……え?

 脱出する必要が、ない?


 あの、私も脱出したいのですが……」




 ♪ぴろり~ん♪



 ここで、2人の会話を阻むかのように。


 最後の、メールが、届きます。


 『おとな』の少女は、もう謎々の答えが解っているかのように、自信たっぷりに携帯電話を覗きました。





『サービス問題  




 うしろのしょうめん だあれ?』





 『おとな』の少女は笑いながら、うしろのしょうめん(・・・・・・・・・)にいる『かたりべ』の中年に、話しかけました。 









「……あんた(・・・)


 ……ニッケルさん(・・・・・・)でしょ(・・・)?」

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