かごめかごめ
時刻は午前6時前、場所は巨大な橋の上。
二人の男女が、塔を目指して進んでいます。
「んー……こうでもないか……違うなー……」
『おとな』の少女は、何やら自身の携帯電話を見ながらブツブツと呟いています。
「何を見てるんですか?」
『かたりべ』の中年が、少女の後ろからついてきながらそう言いました。
「いや、次の、『金属の笑顔』の『どこかの誰かの噂話』だよ。
なんていうかさ、これだけ他の七不思議と違うよねー」
『かたりべ』の中年は、送られてきた『金属の笑顔』の『噂話』を思い出して、頷きます。
「確かに……でも、これって『7不思議は全て知ってはいけない』系の、どうやっても解らないヤツじゃないんですか?」
中年の言葉は実に最もでした。
何せ、ついさっきまで少女のそう考えていたからです。
「そうかもね。
ただ、なんというか……日本語に違和感がありすぎて……暗号に、見えるんだよねえ」
「可能性は、あるでしょうね。
……しかし、それ、考える必要ないでしょう。
今はむしろ、脱出する方法について考えるのが先じゃないですか?
以前のメールを確認すると……ほら、金属の笑顔について出されるクイズは、別に解く必要もない物と書いてあったと思うのですが……」
確かにそうだったな、と少女も頷きます。
「まあ、良いじゃない。
せっかくここまで来たんだし、完全クリアを目指したいのは人情でしょ?」
「……仕方ありませんね、最後まで付き合いますよ」
少女の言葉に苦笑いしながら、中年も『金属の笑顔』について考え始めて。
「うん、全然解りませんね……」
そして早々に、諦めかけているようです。
「……ところで、質問、いいですか?
先ほどの、しりとりについて、なんですけど」
「……うん?」
「べにがらす、すいむ、むくろえき、きんじろうぶね、ねずみ、みさきぼっこ、こども、もめんどうふ、ふえふき、きんぞくのえがお。
ここまではしりとりになってますけど。
『かたりべ』の私と。
『おとな』の貴女が、出てきませんよね?」
『かたりべ』の中年の当たり前の質問に、『おとな』の少女は、普通に答えます。
「ああ、そんなこと?
最初と、最後、だよ」
「最初と、最後?
……ああ、なるほど……」
少女の言葉に、中年が納得しています。
「かたりべ、べにがらす、すいむ、むくろえき、きんじろうぶね、ねずみ、みさきぼっこ、こども、もめんどうふ、ふえふき、きんぞくのえがお、おとな
出てくる7不思議と、私たちの固有名詞で、しりとりが出来る、という訳ですか……」
「それだけじゃないよ。
この、しりとりの順番こそが、この『ハーメルンの音楽祭』を脱出するための……順番……それを、示していたんだ」
「ん、んんんん?」
『かたりべ』の中年は、疑問の声を上げようとして……気がつきました。
『きんじろうぶね』で殺された『ねずみ』の小児。
『みさきぼっこ』で脱出を断念した『こども』の老婆。
そして……『もめんどうふ』で置いてけぼりにされた『ふえふき』の壮年。
まるで、示し合わせたかのように、しりとりのタイミングで、いなくなっているのです!
「あ、あ、ああああああ!
つまり、この、しりとりの順番こそが!
この『ハーメルンの音楽祭』からの脱出できる順番になる、ということ、なんですね!」
中年がテンションを上げている間も、『おとな』の少女は、無言で出口へと向かいます。
そして、橋のゴールである、搭が見えてきました。
塔の下には、見慣れた『緑色の扉』が既に準備されています。
『おとな』の少女が、そのノブに手を回して、先へと進みます。
その後ろを、『かたりべ』の中年が、続きます。
扉の先は……『浦野ハイツ』の中庭、でした。
目の前には、ハイツと外を隔する、緑色の扉。
この先は、恐らく現実世界……ゴール、なのでしょう。
「……あれ?
このしりとり、なんだかオカシイですよ?」
少女の背後で中年が、声を上げました。
「この通りだと、『かたりべ』の私は、どこで脱出できるんでしょうか?」
中年の疑問は最もです。
何せしりとりの通りだと、『かたりべ』は『べにがらす』の前。
脱出のタイミングが、無いのです!
「ああ……それはね。
あんたは、脱出する必要が、ないから、じゃないかな?」
「……は?」
「……お、ああ、そういうことか。
やっぱりコレ、暗号だ。
『金属の笑顔』、解けたわ」
少女が一人で話を進めていますが、中年は置いてけぼりになっています。
「ちょ……え?
脱出する必要が、ない?
あの、私も脱出したいのですが……」
♪ぴろり~ん♪
ここで、2人の会話を阻むかのように。
最後の、メールが、届きます。
『おとな』の少女は、もう謎々の答えが解っているかのように、自信たっぷりに携帯電話を覗きました。
『サービス問題
うしろのしょうめん だあれ?』
『おとな』の少女は笑いながら、うしろのしょうめんにいる『かたりべ』の中年に、話しかけました。
「……あんた。
……ニッケルさん、でしょ?」




