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ハーメルンの音楽祭  作者: NiO
203号室:目前立札
36/46

割れ鍋に綴じ蓋

 時刻は午前6時前、場所は巨大な橋の上。


 目前立札を挟んで、2人が向かい合っています。


「ふっふーん^^。


 やっぱり、ガリ勉君だったか」


 猫の少女が、笑います。


「全力で隠していたのですが……ばれたのであれば、仕方ありませんね」


 鶏の少年も、苦々しそうに笑います。


「……で、何で隠してたの?

 いくらでも、教える方法はあったよね?」


「理由はいくつかありますが……実は私、一番最初にメールを読んだ時点で、大体謎を解き終えてました」


「はあっ!?」


 鶏の少年の驚くべき発言に、猫の少女が目を見開きます。


「し、しりとりも!?

 あの時点では七不思議の内容も、解らなかったよね?」


「七不思議は昔、西……さんが夢中になっている時に覚えさせられましたよ。

 他にも七不思議なんていくらでもあるのでしょうが、今回この町で起こったことも考えると、この七不思議以外ない、と思ったんです」


「え、固有名詞は?

 自分のは解っても、他のみんなの固有名詞が解らないと、しりとりは解けないでしょ?」


「舞台が『ハーメルンの音楽祭』で、私が『ふえふき』ですからね。

 他の人の固有名詞は、大体予想がつきましたよ」


「天才か」


 つまり、あの時。


 「なんで自分だけ……」だの「情報が多すぎ……、デパートみたいな品揃え……だな」だの。

 ブツブツと文句を言っていた段階で、鶏の少年は既に(・・・・・・・)物語の謎を解いていた(・・・・・・・・・・)と言うのです(・・・・・・)


 謎解きの最中に話しかけられて、しかも自分の名前を名乗っちゃいけないと考えていたせいで、思わずよく使う偽名を口にしてしまったというのも仕方ないことかもしれません。


 「(なみ)……くん、を殺さないといけないことも解ってました。

 ただ、この世界では謎の答えは自分で見つけないといけない……つまり、何故殺したのか(・・・・・・・)説明したくても(・・・・・・・)出来ないんです(・・・・・・・)

 変に擦れ違って疑心暗鬼になるくらいなら、最初から嫌なヤツキャラで行った方が面倒がないかと思ったんです」


「……もしかして『目前立札』の内容も、一番最初の時点で解ってたの?」


「自分と『かたりべ』さんのどちらかを選ぶ内容だと言うのは予想できていました。

 まあ最悪、『俺はここに残る!』って言えば良いだけでしたけど」


「超天才か」


 猫の少女は、自分がやっとたどり着いた答えを開始時から完全に把握していた鶏の少年に、溜め息を漏らします。


「……ところで、西……さん。


 ちゃんとクリアの方法、解ってるんですよね?」


「」


 猫の少女が顔を逸らしたのを、鶏の少年は見逃しません。


「え、ちょ、ちょっと。


 大丈夫ですよね?


 緑のドアの進行方向が、※※※※※※※ですよ?」


 言葉を発して、鶏の少年は青ざめます。

 このバカ猫は、謎を全然解き終わっていなかったのです!


「にゃは。

 だいじょうび、だいじょうび。

 謎は解かなくても、何が正解かは解ってるし」


「は?

 それはどういう……」


「そ・れ・よ・り!」


 猫の少女は、鶏の少年の言葉を遮ります。


「『正体を隠していた理由はいくつかある』って言ってたけど。

 他の理由も、知りたいなあ~?」


「……黙秘します」


 鶏の少年がどうでもいいことのように切り捨てると、猫の少女は得意気に、声をあげました。


「ピザデブ引きニートになっているのを『14歳の頃の』私に知られるのが、嫌だった?」


「!?」


 顔を真っ赤にして口許を隠す、鶏の少年。


 どうやら、図星のようです。


「ねェ、どんな気持ち?

 せっかく隠しきろうとしたのに最後の最後でバレちゃったワケだけど。

 ねェ(・・)()どんな気持ち(・・・・・・)?」


「相変わらず、西……さんは人の嫌がることを進んで行うことが得意ですねえ」


「ま、大丈夫。

 そんな体型だと、結婚相手なんて、私しかいなかったでしょう?」


「ぐう!?」


 恐ろしいほどの洞察力に、鶏の少年はぐうの音しかでません。


「な、何を根拠に」


「さっきから、『西……さん』って、どもってるよね。

 つまりガリ勉君は、普段私の事を『西さん』て呼んでないわけだ。


 普段はなんて呼んでるの?

 このスケベ!」


「……うう……!!」


 立ち上がっていた鶏の少年は、顔を両手で隠しながら、再度へたりこみました。

 今度のは演技ではないみたいですね。

 それにしても、嫌がらせに特化したこの洞察力を、どうして別の方向に向けられないのでしょうか。


「……別に、太ってもニートでも、ガリ勉君はガリ勉君だよ。

 私がバリバリのキャリアウーマンになって、ちゃんと養ってあげるから、ね」


 猫の少女は、ニヤニヤ笑いながら鶏の少年の肩に、手を置きます。


「そのためには、ちゃんとゴールしなきゃ、だね。


 またね(・・・)、ガリ勉君!」


 そう言うと少女は少年に背を向け……『かたりべ』の中年の元へと歩いていきます。


 大分ショックを受けたようで、鶏の少年は言葉もなく地面に突っ伏しているのでした。


####################


「……もう大丈夫ですか?」


「うん、だいじょうび、だいじょうび~」


 中年の言葉にそう返すと、少女は猫のように伸びをして。


「……さてと。

 それじゃあ、進みますか」


 最後のステージに、向かうのでした。

割れ鍋に綴じ蓋。


 どんな人にも、ふさわしい配偶者がいるものだという例え。

 また、何においても似通った程度の者同士がよいという例え。

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