表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハーメルンの音楽祭  作者: NiO
202号室:ミサキボッコ
29/46

7不思議その5:ミサキボッコ

あ……そういえば『かたりべ』さんて、指が何本かない状態でしたよね。


……そんな人に運転させていいのかしらん。

 時刻は午前3時、場所は時速150㎞で高速を走るタクシーの中。


 車の周りを、黒い影がペタペタと這い回っています。


「外は気に……するな、問題に集中……するんだ!」


「わ、わかってるよ、わかってるけどさあ!」


 『ふえふき』の壮年の声に、『おとな』の少女は頭を振っています。


「全然、分からないねえ……」


 声を震わせながらも、『こども』の老女も必死に考えているようです。


「い、急いで下さい……今、180㎞出てます……こんなスピードの車、操作したこと……ありません!!」


 『かたりべ』の中年が、別の汗をかきながら声を上げます。


 『おとな』の少女は頭を掻きむしりながら、届いたメールを再度確認しました。


 泥酔したタクシー運転手と少女の交通事故。

 どう考えても10:0の案件でしょう。

  

 タクシーの運転手さんが、すごい権力を持っていた?

 さつちゃんが、自分からタクシーに突っ込んでいった?


 いや、それでも何の罪にも問われないなんて……。


 ふと、窓の外を見ると。


 そこには。




 ……真っ黒な(・・・・)子供がいました(・・・・・・・)



「ぎ、ぎいいやああああああああああ!!」


 


 『おとな』の少女は、恐怖で老女へとしがみつきます。


 近くで見て、やっと分かりました。

 ミサキボッコの黒は、焼け爛れたための物ではありません。


 何度も何度も執拗に(・・・・・・・・・)轢かれたタイヤ痕に(・・・・・・・・・)よるものだったのです(・・・・・・・・・・)



 ミサキボッコはケタケタと笑いながら。




 ……タクシーの窓を、物理的に(・・・・)、開けようとしています。



「ちょ、ちょちょちょ!」



 少女は急いで窓が閉まるボタンへ飛びつきました。


 しかし(・・・)




 めぎぎぎぎぎぎぎぎg(・・・・・・・・・・)




 窓は、ゆっくりと下がり始めて。


 時速210㎞の風が、車内を荒れ狂います。



「おねがい、閉まって、閉まってぇぇぇえ!!」



 『おとな』の少女は、窓が閉まるボタンをぎゅーっと押しながら、窓を上に押し上げてなんとか対抗しています。



 ……まあ(・・)無駄ですが(・・・・・)



 めぎぎぎぎぎぎぎぎg(・・・・・・・・・・)



 タクシーの窓は、ゆっくりと、ゆっくりと、開いていきます。


 少女の抵抗も空しく。

 窓はすでに、半分以上開いており。

 その広さは、ミサキボッコも十分に通れる物になっていました。


 そして、唐突に。




 ミサキボッコは、猫の少女に抱き着きます。


 そうです。


 連れていく(・・・・・)つもりなんでしょう(・・・・・・・・・)



「ひ、ひ、ひいいいいいいいいい!?」



 万力で抱きしめられた『おとな』の少女は、目の前のミサキボッコを見るしかありません。



 どこまでも黒い瞳は、どす黒い怨念とか、呪いとか、そう言ったものを煮詰めて掻き混ぜたかのようです。

 コールタールのようなそれ(・・)が、どろどろと流れて顔にかかってくるような。


 そんなどうしようもない錯覚を覚えながら、少女は目から鼻から口から、汁を零しています。



 その時です。



「……そうだったんだねぇ」


 『こども』の老女が、ぼそりと呟いたかと思うと、少女ごとミサキボッコを……。



 ……抱きしめたのでした(・・・・・・・・・)

 

 目を白黒させるミサキボッコ。


「自分でも覚えていないんだねぇ……きっと、凄い事故だったんだろうねぇ……。


 ミサキボッコちゃん。


 貴女は……。




 子供じゃあ(・・・・・)ないんだね(・・・・・)?」



「「……あっ!」」



 壮年と少女が、思わず声を上げます。


 なんとなくミサキボッコのその姿と、『さつちゃん』という言葉に引っ張られていましたが。



 『さつちゃん(・・・・・)が子供だとは(・・・・・・)どこにも書いてません(・・・・・・・・・・)


 となると、泥酔したタクシーの運転手さんが罪に問われなかった理由も、分かってきます。



「あんたの死んだ事故で、車を運転していたのは(・・・・・・・・・・)あんたなんだよ(・・・・・・・)


 そして、事故にあったのは、タクシーに(・・・・・)乗っていない(・・・・・・)歩行者の(・・・・)タクシーの運転手さん(・・・・・・・・・)




 ギャギャギャギャギャ!


 突然、急激なGか掛かりました。


「ぶ、ブレーキが利きます!

 皆さん、何かに掴まっていてください!!」


「チッ……もっとゆっくり止め……ろ……」


「できるものなら、やってます!」


 車は激しく左右に揺れながらも。



 ……何とか無事に、停止することができたのでした。


#######################################3


 車を降りると、そこにはいつもの、緑色の扉が待ち構えていました。

 運転席と助手席から、男2名がフラフラになりながら、降りてきます。


 しかし。

 ……何故か『こども』の老女と『おとな』の少女が、車の中から出てきません。


「……どうしました、『こども』さんに、『おとな』さん。

 先に、進まないのですか?」


 不審に思った『かたりべ』の中年が、車に向かって声をかけます。


「あ、えーっと、なんというか……」


 すると、歯切れの悪そうな少女の声と。


「あ、すまないけど先に行っててくれないかねえ。


 私は(・・)ここで脱落するから(・・・・・・・・・)


 ……すっきりしたような、老女の声が聞こえました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ