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第50話 Cランクへの昇格


「今回の試験にてランクが上がる事が決定した」


後日呼び出されたギルドにて、わざわざ上階にある一室でギルド長及び副ギルド長から挨拶を受けて直々にそう通達された。


当然の結果ではあるけれど、こうして正式に結果が出ると嬉しくなる。


そんな明るい気持ちの私とは反対に何故か部屋の空気が重い…


「…お前には不服かもしれん。…だが、今回の昇格試験はあくまでCランクへの昇格試験であって…」


「……?」


何やら言いづらそうにそう続きを話すギルド長を見ながら、私は何かよくわからないまま話の続きを聞く。


私はCランクへの昇格試験を受けて、それに受かったので、別に何も間違ってはいないと思うのだけれど…一体何の言い訳を聞かされているのだろう…。



「…つまり、…試験ではCランク以上の実力を確認したが今回の試験ではCランク以上はやることが出来んのだ…」


「…?」


とても申し訳なさそうにそう言われたが、やはり内容がよく理解出来ない…


当然の事を申し訳なさそうに言われて混乱してしまう。


「いや、実力がそれ以上という事は理解しているのだが、…今回の試験だけではそれ以上のランクを与えるには少し弱くてな…」


「…あの、…えっと…私はCランクになれたという事ですよね…?」


私がよくわかっていない顔をしていたのがわかったのかギルド長は少し困った顔になった。


私たちのやり取りを見かねた副ギルド長も話へと参加してくる。


「今回の試験では、貴方の実力がCランク以上…いえ、恐らくはAランクに匹敵するモノである事は理解しました…

…それ程の実力を持ちながらCランクでは納得出来ないかもしれませんが、今回の試験はあくまでCランクへと上がるためのモノなので…」


「…」


“Aランクに匹敵”…?

“それ程の実力”…?


今回はむしろ大人しい蜘蛛を捕まえてくるだけのとても簡単な試験だったと思う。

散々大変な試験だと言われた身としては拍子抜けも良いところだった……


それが出来たからといって、こんな風に言われる程の事はないと思うのだけど…


あ、私が若く見えるから“歳の割には…”って事なのかな?



…しかし、話を聞いていると私がとてつもなく強いという事前提で話が進んでいる気がする…。


しかも、何故か私自身がCランクより上のランクを要求していると思っているようにも聞こえるのだけど…。


「あ、あの、私はCランクになれたのならそれで十分なのですが…」


私の言葉にギルド長と副ギルド長の言い訳が止まり、お互いに顔を見合わせた。


「…そうなのか。…いや、それでも、なんか…悪いな…」


「…そうですね。そう言って頂けると助かるのですが、こちらとしても本当は見合ったランクを差し上げたいとは思っているのです…」


とても申し訳なさそうな2人に逆に戸惑ってしまう…


「…い、いえ。…あの、私そんな…実力は無いと思うのですが…」



「いえ、謙遜は結構です。つきまして…今回の試験の様子を鑑みた結果、希望するなら通常Cランクでは受けることの出来ないAランクへの昇格試験を引き続き受ける事も出来るよう手配致しますがどうされますか?」


「…へ?」


「今回の試験はあくまでCランク用のものでしたので、実績の少ないミサト様ではこれ以上の昇格は難しく……。しかし、推薦制度を希望されるならこのままBを飛ばしてAランクの試験まで受ける事は出来るように手配致します」


「…」


…いやいやいや…え…?


今回のあんな試験で一体どんな報告がされたの!?


プチ混乱しながらも話が進まないので気になった事を聞いてみる。


「……あ、あの、ちなみになんですが、Aランクになるとどんなメリットとデメリットがありますか?」


わたしの質問にギルド長が視線を上げて答えてくれた。


「…そうだな。まずメリットとしては単純に依頼料が上がる。それと依頼の幅も広がるな」


「そうですね。それに補足する内容になりますが貴族の方等からの依頼も入りますのでお金の面だけでなく信用やコネなども作る事が出来ます」


…うーん…コネか……コネは別に今の所、いらないかな。


「他にもギルド関連の専用施設……訓練所、宿泊施設などで優遇されたり、欲しい情報が集めやすくなったりします」


おお、施設や情報は有難い。


「…んで、デメリットは…面倒事が増える事、だな」


「…やはり、危険な依頼が増えますし、逆に簡単な依頼を受ける事が難しくなります。

…それに金額が上がる分、緊急依頼や難易度の高い依頼などに指名される事がありますし、ごく稀にある緊急依頼の場合には余程の理由がない限り高ランク者は断る事が出来ません。

また、貴方は見た目が…その、幼いので…ひょっとしたら権力者や他の冒険者から嫉妬や妬みを受ける可能性もあります…」


「…」


いや、低ランクでも既に権力者から目つけられてるんだけどね…


「ま、要するに大金が入るし優遇されて楽になるが、代わりに危険が増えて面倒な付き合いも増えるってとこだな…」


なんだか、ギルド長と副ギルド長の話を聞いていると高ランクへの魅力を全く感じない…


ランクが上がれば責任も増えそうだな…



「…あの、今回は辞めておきます」


わたしの返事に2人は意外そうな顔をみせる。

 

……いや、その説明で何故私がランクを上げると思ったのかをむしろ聞きたい…。


「…そうか。なら、Aランクへの推薦状だけ渡すから、ランクを上げたくなったらギルドに来てくれ」


そう言うと引き出しから推薦状らしき物を出してこちらへと渡された。


「…ありがとうございます」


「いや、本来、ギルドでは実力者は大歓迎だからな。…いつでも待ってるぞ」


「そうですね。ぜひお待ちしております」


「…」


いや、Aランクに上げる気は今の所ないのだけど……



よくわからないが、ひとまずCランクへと昇格する事は出来た。


なんとなく複雑な心境ながらもお礼を言ってその場を後にする。






「…私、試験の時なんて大した事してないよね…?」


『主様はいつでもすごいです!』


…うん。聞いた相手が悪かった…


なんだか思っていたのとは少し違うけれど目的は達成出来たので…まぁ、良しとしよう。



そう気持ちに折り合いを付けながら一階のギルドへと降りていく。



ギルドに降りると受付付近からざわめく人々の声が耳に入ってきた。


何やら受付で誰かが何かを訴えているようだ。


「…どうか、どうかお願いだよ…!!…孫を…孫を探しておくれ!…昨日から帰ってこないんだ……!!」


何やら聞き覚えのある声の気がして其方の方を伺うと…騒いでいるのは昨日会ったマールお婆さんだった…。


昨日会った時の笑顔はなく、今のマールお婆さんの顔は青ざめ、若干窶れた顔に涙をこらえながら懇願していた。


しかし、ギルドの受付もそれを見ている冒険者たちも何故か困った顔でお婆さんを見ているだけだ。


「……?」


そんなお婆さんを放って置けなくて私はそっと近づいていく。


「こんにちは、昨日ぶりですね。…こんなところでどうしたんですか?」


「……あ、あんたは…」


なるべく落ち着いた声で優しく問いかけるとマールお婆さんは驚いた顔をした後にくしゃくしゃの泣き顔へと変わり、縋るように話を始めた。


「…孫が……うちの孫が、昨日から帰ってこないんだ。街へ昼にお使いに行って、それきり……」


どうやら昨日沢山聞かせて貰った自慢のお孫さんが帰ってこないらしい…


しかも、昨日はお祝い用の材料の一部を買いに行ったらしく、寄り道なんてする筈がないと言う。


「…昨日、お使いに行ったまま……ですか?」


「…そうなんだよ。あの子はしっかりしてるから寄り道なんてする子じゃないし…きっと何かあったんだ……」


え、それはとても一大事なのではないだろうか!?


事件が事故かはわからないけど一刻も早く見つけてあげないと…


これは直ぐにでも依頼を出す案件だと思う。


「…それは大変じゃないですか、直ぐに依頼を……!?」


受付へと視線をずらす。


しかし、視線の先にいるギルドの受付は何処か気まずそうな顔をしていた。


「…あの、そうは言われましても、こちらでは…」


何故か言葉を濁す受付。


「…依頼としてお受けする事は出来ますが…それ以上は難しいです。…一応、依頼としてすぐに貼り出しはしますが、人手や対応は受け手次第な為、すぐに動く保障は出来ません…」


「え…これは緊急依頼とかには、ならないのですか?」


「…これだけの情報では、まだそこまでの扱いにはなりません。緊急依頼では被害予測が大きい場合や事件性、危険度が確認されてから出されますので今の状態では…。…それに、通常依頼の形で貼り出したとしても、こちらのご婦人が出せる金額的にそこまで沢山の人員を集めるのは難しいでしょう…。

多くの目撃情報や協力が必要だと考えれば、一人一人に渡す金額はボランティアのような金額になりますので…」


ミサトは小さく息をのんだ。


ギルドは非営利団体ではない為、出来る事には限りがあるのだろう…


あちらの世界の警察や消防みたいにすぐに対応して貰うのは難しいようだった。


そして、今回のような万が一の事故や事件に遭ったとしても、犯人は捕まえてくれても被害者への補償なども何もない…



「お願いだよ……あの子はまだ小さいんだ……」


「…こちらでも、出来る限りのお声がけと依頼書は出しておきますので…」


お婆さんの手は震えていた。



『…主様?』


……放っておけない。


ベルに問いかけられた私は肩にとまっていた小さな光の精霊をそっと撫でる。


そして、決意を固めてお婆さんを見つめた。



「…お婆さん、私も一緒に探します」





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