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第39話 マントの男

目が合った気がすると思っていたら、そのマントの男は真っ直ぐにこちらへと向かってくる。


しれっと視線を外してみたけれど男の気配はこちらへと近づいているし、急にアタフタと逃げるのも不自然かと考えている間に男はすぐ近くまで来ていた。


「…お前は何者だ?」


正面に立つと、遠目で見ていた時には時には気付かなかったが中々に背が高い。そして、彼から問いかけられた声は若かった。


「…」


…いや、急に何者だって聞かれてもそんなの答えれる人ってどれだけ居るの?


声の若さへの驚きよりも問われた内容への返答への困惑が勝つ。


「何の目的でこの街に来た…?」


返事をしない私に男は更にたたみかけてくる。


「…」


「何故、俺を見ていた…?」


「…?」


たまたま見ていただけでこんな風に詰め寄られるのなんて予想外の事だ。


なんと答えるべきか頭を悩ませる私にベルから声がかかる。


『主様、この者にかけられた魔法から精霊の気配を感じます』


「え、精霊…」


「…⁉︎」


ベルに横から教えてもらった言葉をウッカリ口に出してしまった…思わずこぼれた言葉に男から息を呑む気配がする。


「…お前…」


「…」


男からは鋭い探る様な気配を感じる。

気まずい気持ちでおそるおそる顔を上げると、何故か男は無言になった。


「…?」


ひとまず魔法を解析する。どうも男に掛けられていた魔法は認識阻害系の魔法のようなので、これを解析、改良したら今後とても使い勝手が良さそうで少し嬉しくなる。


ふむふむ…どうやらこの魔法はマントに付けられた物なのだな…。


ベルの言っていた精霊の気配も多分このマントから感じたもののようだ。


…解析が終わると自然にマントの中の顔が見えてきた。



目はまん丸で口をポカンと開けた間抜け面、なのにそんな姿も絵になりそうな程に顔立ちの整った男の姿が見えてきた。


なるほど。確かにこんなにキラキラのイケメンだったら、隠さないと目立ちそうかもしれない…


年齢は私よりも少し上っぽい。銀髪碧眼の美青年の姿に私も多少驚きつつ納得していたが、今はそんなこと考えている場合ではなかった。


…えっと、…私は何者でなんの目的でこの街に来たのか答えれば良いのかな…


「あ、あの、精霊を探しにこの街に来ました」


「…」



なんか、言葉にするとアホの子っぽいな…


気まずい沈黙の末、男はため息を吐き出す。


「…まだ、子供じゃないか…。まったく、紛らわしいな…」


男は1人ぶつぶつと独り言を言うとこちらへと再び声をかける。


「…俺の勘違いだ。悪かったな」


そう言うと去っていく…。


何やらよくわからなかったが、男は1人納得したようなので…良かった…のかな?


いや、マントにかけられた魔法になぜ精霊の気配を感じるのか等、もう少し聞きたかったような…いや、でもそんな事を聞いた面倒になる事間違いないな。


…と、いう事でやっぱりこれで良かったのだ。


それにしても…急に知らない人から声を掛けられるのはストレスなので、彼のマントに使われていた魔法を今後参考にさせて貰う事にしよう…。


男が去ったことでホッとしているとベルに声を掛けられる。


『主様、あの人間は王族らしいですよ』


「…」


フワフワとベルの周りを新しい光達が飛んでいる。きっとその子達から教えて貰ったのだろう。


『どうやら、あの魔法は昔お城にいた精霊が皆で頑張って付けた物らしいです』


そうか…王族ならそんなマントを持っている事もあるかもね。


こんな所に何故王族が居るのかはわからないが、きっと王族にも色々とあるのだろう。


ひとまず、その情報は夜にでもゆっくり教えて貰おうと思い直し、私は視線を再びギルドの納品受付へと戻す。


まぁ、とりあえず私には関係のない事だし、一旦薬草をお金にかえて街の散策でも楽しもう…


こうして、私の意識からマントの男の事をすっかり消えていったのだった。




薬草を納品する為に受付へと進む。


何人も受付の人は居るが、一番奥の納品受付へと進んだ。

無愛想で他の受付よりも人が寄り付いていない様子だが、さっき小さめの小汚い冒険者が一直線にこの受付に来ていた。


他の受付には立派な装備の冒険者や慣れた様子のグループ等が居る。


通り過ぎる時に手前で対応している受付の若い男の様子をチラリと見る。

受付の男は愛想良く対応しているが、ずっと観察していたら気がついた。彼は人によって態度を変えていた。


さっきまで対応していたまだ若い冒険者相手にはとても素っ気ない態度だった。


人間なので多少の得意、不得意な相手はいるだろうが…彼は、強かったりそれなりに稼いでる者には愛想が良く、そうでないものにはあからさまに雑な対応だった。


他の受付も大なり小なりそんな雰囲気なのでこのギルドではそういった方針なのかもしれない。


薬草をここで納品するのは止めようかとも思ったけれど、そんな中で一番奥の無愛想な男だけは誰に対しても無愛想に対応していた。


対応された若い冒険者はそんな無愛想な様子も気にせず何やら嬉しそうにしていたのでなんとなく無愛想な受付に興味がわいた。


「納品をお願いします」


そう声を掛けてギルドカードを出すと無愛想な男がこちらを見る。


私の顔を見て少し驚いた様子を見せるがすぐに無愛想な顔へと戻ってしまった。


「こんなに小さい女の子がランクD?」


カードを確認してポロリと呟いた声が聞こえたが…なんか思っていたよりも優しい声だった。


…それにしてもDランクって別に驚かれるようなランクじゃないよね…?


私は少し不思議に思いつつも無愛想なのに声は優しい受付へと意識が向ける。


後に知った事だが、何か功績を残さない限り真面目に依頼を受けているだけでは登録して2〜3年はランクが上がらないらしく、年齢よりも若く見られる私がDランクというのは充分驚かれる要因だったらしい。


ちなみに、ランクの抜け道を使った者はうっかり高ランクの依頼をしてしまわないように職員だけが分かる印が付いているそうだ(ベル情報)。



「あ、失礼。納品の品はこちらにお待ちですか?」


顔は無愛想でニコリともしていないのに声も言葉遣いも丁寧で優しい…。


そのギャップに少し驚きつつ返事をする。


「…はい。薬草なのですがこちらにお出しして良いですか?」


「あぁ、薬草はとても有難いですね。今、お持ちのようなら勿論コチラでも大丈夫です。初めての方ですか?」


「はい」


「このギルドは外にも納品口がありますので、納品だけの場合は其方でも受け付ける事ができます」


そう言うと、彼はこのギルドについて丁寧に説明してくれる。


訓練場の利用法やギルド内の施設について、街にある施設や安くて安全な宿についても教えてくれた。


この間、顔はずっとつまらなさそうな上に不貞腐れたような表情。


モゴモゴと喋っているようで、声は聞き取りやすくその見た目と話す声や内容のギャップに呆気に取られる。


「…あの、大丈夫でしょうか?」


顔は無表情…よりも面倒そうな表情なのに声は心配そうに聞いてくる。


「…はっ。すいません」


我に帰り思わず謝ると更に不機嫌そうな顔になる。

顔だけ見ると不貞腐れた不機嫌そうな顔だ。


「いえ、…よく無愛想な顔だと言われるので…。

こちらこそ申し訳ありません…」


声は困ったような、こちらに気を使うような優しい声だ。


「いえ、とんでもないです。丁寧に教えて頂きありがとうございます」


「そう言って頂けると嬉しいです」


声はハニカムような嬉しそうな声なのに、顔は再び無表情へと戻っている。


なんか、苦労してそうな人だな…


彼への同情を顔に出す事もなく、私は鞄へと入れておいた道中見つけた薬草を取り出す。


「…これを…お願いします」


「これは、…とても丁寧に採取されていますね。…種類毎に分別もされていてとても助かります…」


彼はつまらなさそうな無表情とは裏腹に嬉しそうな声で確認を始める。


結果、通常の料金に少し上乗せした金額で買い取って貰う事が出来た。


「ぜひ、またお待ちしております」


顔と比例した爽やかな声で見送られ、無事納品を済ませる事が出来た。


次回も私は彼のいる受付で納品しようと思った…。



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