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第17話 初心者の森

門から町を出て西に進むと森が広がっている。

その森が初心者達に薦められる比較的安全な森だと書いてあった。


パッと見た感じはそんなに傾斜もなく平坦な森に見える。ここからずっと先に少し大きめの川が流れているらしいのでそこまでが低ランク向けの場所のようだ。


朝も早い時間帯の為、人気は全くない。

空気も爽やかで気持ちも晴れやかに歩き始めると、ベルと少し離れたところにいる光達も心なしか嬉しそうにふわふわと飛び回りながらついて来る。


少し奥に入れば目当ての薬草はすぐに見つかった。

初心者向けらしく値段も大した事ないが、その分沢山生えている。

奥に少しだけ金額の良い薬草も見つけ採取用のナイフでキレイに根元から採取する。


すごく冒険者っぽい。


感動しながら採取を続けていたが、ふと振り返って言葉を失う…。


浮かれて少しの間、周りを見ていなかったのだが…


…私の少し後ろには身長程に積まれた薬草の山が出来ていた。

そして、その山の右側にもまた種類の違う薬草の山。

左側にもこれまた種類の違う薬草の山。


初めて見つけた薬草に浮かれて気が付かなかったが、既に大量の薬草を摘んでいたのか…?…いや、そんなはずはない。


『主様。私たちも少しだけ集めてみましたが、まだまだ足りないですか?』


…そうだよね…いや、本当は知ってたよ。


だってまだ摘み始めてちょっとしか時間過ぎてないし…。


「…いや、ありがとう。…ありがとうなんだけど…」


ベルは無邪気に笑い光の玉達も周りを嬉しそうに飛んでいる。


「…ちょっと量が多くて…持ちきれない、かな…」


私の持っている袋は雑貨屋で購入した普通の袋だ。よくある収納量拡張のマジックバック類ではない。


沢山の薬草を目の前にして…目的が達成出来たと喜ぶべきか、それとも自分で採取出来なかった事を悲しむべきか…


そして、この大量の薬草をいったいどうしたら良いのか…


薬草の処理に悩みつつ遠い目をする私に向かってベルが何やらキョトンとしている。


『え?主様はここにいれないのですか…?』


不思議そうな顔で手を振って空間に隙間を作った。


…そう、まるで某4次元ポケットのようなものを気軽に作って見せたのだ。


「…」


…いや、何その便利収納機能。


ベルはそこから先日出してくれた超貴重な薬草を取り出してみせる。


『あ、そういえばこの薬草はもう要らないですよね』


超貴重な薬草を大量に取り出してその辺にドサっと積む。


『…主様が必要ないならここで処分しちゃおうかな…』


ベルはなんて事のないように話しつつ手には火を浮かべ始めた。ここで燃やすつもりだ。


「ま、待って」


ひとまずベルを止める。


なんてもったいないことを…あれすごく高いのに。


たとえ今は売れなくても気軽に燃やすのはさすがに抵抗がある。


ベルはまたもや不思議そうにしているがひとまず手の中の火は消えている。


貴重な薬草なのだからわざわざ燃やす必要はないだろう。


収納量に問題がないのなら元の場所に片付けて欲しいとお願いすると二つ返事ですぐに元の収納場所へと戻してくれた。


この収納空間は収納量に問題はないが、沢山入りすぎるので色々な物を入れて、何を入れたか忘れてしまう事の方が問題らしい…。


そして、わたしもベルの真似をしてみたらアッサリと収納空間を作る事が出来た。


なんて、素敵なファンタジー。

いや、私やベル達の存在からして既にファンタジーなんだけどね…。


ここまでで、森に入って15分くらい。目的の薬草は予定以上の量を摘み終わり、本日予定していた薬草採取分は完了した。


いや、早過ぎる…。


初めての採取なので気合いを入れて早めに来たのに始めてすぐに終わってしまった。


さすがにこれ以上無駄に採る気にもならないし…。


…まぁ、せっかくなので少し森を探検する事にしようかな。


張り切っていた薬草採取が予想外に早く終わってしまった事に少し残念な気持ちを持ちつつもせっかく初めて森に来たのだからと気持ちを入れ替える。


改めて森を見渡すが、初心者の森はとても穏やかで魔獣等も見当たらない。


ついでに朝もまだまだ早めの時間帯なので人も見当たらない。


…そう、人の気配はない。




「…ベル、…誰か来たら教えてくれる?」


『任せて下さい!』


私はフワリと浮き上がる。


懐かしいこの感じ。


重力から解放されて気持ちも軽くなる。

あまり高く上がって誰かに見られてしまうといけないので木の高さぐらいにとどめてフワフワと浮き上がり気の向くままに森の中へと進んでいく。


この世界に来てからなんだか気持ちも精霊の頃に寄っている気がする。


ベル達のようにくるりくるりとまわりながら飛んでいると楽しくなってきた。


魔獣も出るらしいが、ベルも光達も気にする様子はないし私も危機感を全く感じない。


奥へ奥へと進む中で掲示板に貼ってあった魔獣によく似た生き物も見掛けたが、特に敵意も感じないのでそのまま進む。


森の奥へ奥へとスイスイと飛びながら進むとすぐに川が見えてきた。


この川までが低ランク向けの場所だったな…。


一旦止まり考える。


「ベル、このまま進んだ場合、危険とかあるかな?」


私の質問にベルも光達もおかしそうにクスクスと笑いながら私の周りを飛び回る。


『ふふ、主様にかなうものなんていません。

…え?…主様に危険を感じさせるモノなんてあるのですか…?』


「…」


…まぁ、どうにかなるだろう。


くるりくるりと飛び回りながら川を越える。


川は思っていたよりも大きくて流れもあるので向こう岸に渡るにはある程度以上泳げるか、船を用意しないといけないだろうな。


私は飛んでいけるので関係ないが…。


渡る途中に覗き込んだ川の中にも生き物がいる。


見た事のない魚(?)も多くて見ているだけでも楽しい。


川を越えると草が鬱蒼と茂り、道らしい道が無くなった。


私は飛んでいるので気にならないが、普通に歩いたら大変そうだ。木や雑草の背も高くなり蔓や蔦子がそこら中の木に絡んでいる。


木が高くなって日差しが遮られる為、多少暗く感じるが木漏れ日が差し込んでいる様子は素敵だと思う。


自然の景色に目を奪われながらのんびりと飛びながら移動している時、何か少し大きめの気配を感じて視線を向ける。


すると背の高い木の横からは円な瞳のネコ科な生き物がこちらを見ていた。


大きな瞳を見開いてウルウルの瞳でこっちを見ているので、思わずフラフラと近付いてしまった。


どこか怯えたような、でも逃げることもなく視線をこちらに向けたまま…まるで横の木々に同化したように身動きせずこちらを見ていた。


とても大人しいので近くに寄ってそおっと撫でてみると、驚いたのかビクッとして目を開いて更に固まってしまった。

思ったよりも柔らかいのにしっとりとした手触りの毛皮に夢中で撫で続けていると敵意はないと理解したのか徐々に目を細めてゴロゴロと喉をならし始めた。


可愛い…。


慣れてくると頭を手に擦り付けるようにして甘えてくる。身体の力も抜けて、すっかり大きな猫状態で溶ける姿はひたすらに可愛らしいものだった。


あまりの可愛さにこのまま連れて帰りたい気持ちにもなったけれど、ちょっとサイズが大き過ぎるので宿には泊まれなさそうだ。


名残惜しい気持ちを持ちつつも、ある程度撫でて満足したらなんとか離れる。


別れを惜しみつつ更に奥へと進むと今度はイヌ科の真っ白な毛並みの生き物が居た。


こちらをジッと見つめていたが、目が合うとフワフワのお腹を見せて来たのでついついモフモフしてしまった。


この世界の動物は少しサイズが大きめだけど人懐っこい上に大人しくて可愛い生き物が多いようだ。


しばらくモフモフして満足すると、やはりこちらも大きくて家には連れて行けないので泣く泣く別れる。


更に進めば熊もどきに美味しそうな果物を貰ったり、綺麗な鳥に羽を貰ったり、ツノが生えた生き物に木の実を貰ったり、よくわからない生き物に不思議な色の石を置いていかれたり…


皆、ジッとこちらの様子を伺って私が手にするとホッとした空気を感じるので、頂いた物はお礼を言って収納空間へと入れていく。


いつか、お礼に何かお土産でも持ってきてあげたいな…。


なんだか…この世界の生き物はファンタジーというよりもメルヘンチックな良い子な個体が多い…


こんなのでは食物連鎖の厳しい世界でやっていけてるのかが心配になってしまう…。


私の心配を他所にベルは横で何がおかしいのかずっと光達とケラケラと笑っている。


楽しい時間は過ぎるのも早く、お昼を過ぎたくらいで一度引き返す事にした。


寄り道をしないと移動は早いので川を渡って初心者の森へと帰る。


川の近くは人気も少なく誰にも見られる事もなく来た道へと帰ることが出来た。



初めての薬草採取は予定外の事も多かったが、予定分の薬草は無事採取出来た。



そして、この世界の可愛い動物達をたくさん見る事も出来たということで、充実した満足感を感じつつ軽い足取りでギルドへの帰路へとついたのだった。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 自由できままな精霊生活だー [一言] 以前好きだった別の方の作品では精霊なのに周囲に気を使いすぎて周りの人間に良い様に使われるだけの作品になってしまったのでこの作品ではそうならない事を願い…
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