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第13話 【勇者召喚】


王宮の中でも特別な場所である本殿は王家と限られた高位の者しか立ち入ることを許されない神聖な場所である。

そのため、通常人々は王宮の外に併設された神殿を訪れ、日々の祈りや儀式を行っていた。


本殿は、国家にとって重要な儀式や神聖な召喚の場として利用されており、王家の威信を象徴する場所でもあるのだ。


その本殿のさらに地下――最奥の秘密の空間にてその儀式は成された。


重厚な石造りの部屋は、古代より続く祝福の証である美しい文様で覆われており、部屋の中央では魔法陣が青白い光を放って輝いていた。


外界から隔絶されたこの場所で、通常とは違う静けさの中、ただならぬ張り詰めた緊張感が漂っていた。


そんな緊張感の先には魔法陣の円の中にいる2人の少年。


しかし、その原因となる少年達は気を失っているようだった。


そして、それを囲むように数人の神官達の姿。

神官達の前には1人の可憐な少女が全てを代表するかのように立っていた。


少し離れた部屋の外には騎士達が待機して緊張感の中こちらも固唾を飲んで見守っている。


神官達の額にはうっすらと汗が光っていた。




「ナディア様、成功いたしました。

…しかし、予想外に魔力が暴走し予定より多くの力が奪われてしまったようです。」


1番重厚感がある神官服を着た年嵩の神官が疲れた様子でナディアと呼ばれる少女へと話しかける。


横にいる他の神官達も心なしかぐったりと疲れた様子だ。


「…勇者召喚はなんとか無事成すことが出来たようですね。

…でも、魔力をゴッソリと持っていかれてしまいましたわ。

…それに、勇者が2人も来るなど予定外の事です…。」


神官へと返すナディアの言葉に皆が同意を示す。


「…予想外の魔力の暴走はコレが原因でしょうか?」


「…そうですわね。

詳しくは分かりませんが、原因のひとつだと思いますわ。

…今まで召喚された勇者様は1人だけだったのに…。

…まさか2人いらっしゃるだなんて…」


「…と、いうことはどちらかは勇者ではないという事ですか?」


「…それは、まだわかりませんけれど。」


国の中でも特に優秀な神官長とそれに準ずる者で挑んだ今回の勇者召喚。


魔力の多いこの国の姫でもあるナディアも加わり、過去の文献でも類を見ないほどの魔力を込めた。


失敗は許されない為準備にも力を注ぎ、勇者への祈りの言葉も姫自らが買って出たのだが、結果はこの通り。


目を閉じていてもわかる程の美しい少年と黒髪の普通の少年。


我が国、いや世界の希望をかけて呼び出した勇者は一体どちらなのか。


見た目だけならば美しい方の少年かと思われるが間違いがあってはならない為、慎重に事を運ばなければならない。


「ひとまず、お父様への報告と、勇者様達をお部屋へとお連れしてあげて」


ナディアの声掛けに部屋の外で控えた騎士達が返事をする。


「あなた達もご苦労だったわ。

予想外の魔力の放出で辛いと思うけれど報告だけ済ませてから休んでちょうだい」


部屋にいた神官達もナディアに向かって深く頭を下げるとそれぞれ部屋の外へと向かう。


(…出来る事ならば、聡明な勇者であって欲しいわ)


運ばれる勇者候補の2人を見つめながらナディアは思う。


民の希望であり、待ち望んだ勇者召喚。


成功したならば、きっと最近増えつつある魔獣含め、魔王を討つこともきっと出来るであろう。


民の希望である勇者とこの国の姫であるナディアとの結婚は国の悲願である。


全ての国から重視されている勇者を手に入れようと狙っている国はとても多い。


討伐成功の報酬の中には、この国の王も自身の娘であるナディアとの結婚を含めて考えているはずだ。


そこにナディアの意思は関係ない。


この2人のうちどちらかがナディアの未来の伴侶になるということだ。


父王の決めた事であり、既に伴侶となる覚悟は出来ていた。


(……そう、伴侶となる覚悟は出来ているわ。 

…だから、せめてこの二人のどちらかは私に相応しい聡明な者となりますように…)


討伐成功の報酬として権力と美貌を兼ね備えた自分が望まれるのはごく当たり前の事であり、求めない者などいないと思っていた。


だからこそ、ナディアは諦観と希望のこもる複雑な気持ちで運ばれる勇者達を見続けていた。



…それが、まさか全く意味の無い心配だと気付く事もなく。



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