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94 海南島攻略戦 初日

タイトルどおりについに日米と中華大陸連合の大規模な戦いが勃発しました。その初手は・・・・・・

 翌日、南大東島の国防空軍基地に俺たちを迎えにチヌークが到着する。



「はぁー、1日経つと見たくない現実が待っているのね」


「俺たちは魔力バズーカのテストにこの島に来たんだ。これから戦場に連れて行かれるのは前々から承知だっただろう」


 美鈴の気持ちとしてはもう少し昨日の夢に浸っていたいというものらしい。もちろん俺にも同様の気持ちはあるが、いつまでもお花畑の住人ではいられないと承知している。あ、そうだ! 大事なことだが昨日は俺と美鈴はキス以外はしていないぞ! 宿舎に戻ると一緒に食事を取ってから別々の部屋で就寝したんだ。周囲の目があるからこれは仕方いことだ。ちょっと残念だったけど・・・・・・



「でももうちょっとだけ甘い夢に浸りたいじゃないの!」


「夢は目が覚めるとどこにも存在しなくなる物だからな」


「もしかして聡史君は昨日の出来事をなかったことにするつもりなのかしら?」


「そんな筈ないだろう! でも俺たちの平穏は一瞬で終わる。異世界で散々学んだだろう」


「そうだったわね。まだ私は浮かれ気分が抜けていなかったようね。ここからは大魔王として振舞うべきなのね」 


 こうして俺たちはテストに参加した技官とともにチヌークに乗り込んでいく。総勢13人に上る大所帯なので、こうして大型の輸送ヘリが出迎えに来ている。それにしてもこの島は俺たちの思い出に残る場所になったな。そんな感慨を抱きながら離陸したチヌークの窓から小さくなっていく島影を眺めるのだった。




「本機は南大東島の北東150キロを20ノットで南下している〔ひゅうが〕に50分後に着艦予定です」


 なるほど、海南島攻略のために南シナ海に向かっている第1艦隊に途中で拾ってもらうんだな。昨日の早朝に横須賀港を出たと聞いていたけど、船足が速いんだな。たった一日でもう俺たちが居る南大東島近海に姿を現しているのか。


 機長のアナウンスどおりに定刻になると眼下には大海原を悠然と航行する国防海軍第1艦隊が豆粒のようなシルエットで飛び込んでくる。空母に改装された〔いずも〕を旗艦としてその後方には俺たちが着艦する輸送艦〔ひゅうが〕、そしてこの2艦を取り囲むようにしてイージス艦4隻と駆逐艦5隻が輪形陣を描いて整然と航行している。真っ白な航跡が青い海にそこだけ違う色を描いているな。それにしても見事な艦隊行動だ。


 美鈴と妹は済州島攻略の出撃で〔ひゅうが〕に乗り込んだんだけど、俺は初めて足を踏み入れるから今から楽しみだな。内部がどんな構造になっているのか隅々まで見学したい。軍オタの血が騒ぐのを抑えられないな。可能ならば〔いずも〕に乗り込めたらいいんだけど今回は無理かもしれない。何しろ戦後初めて日本が所有した空母だけに、どうにかして内部を見学したいのは軍オタとしては当然だ。




 艦隊上空を旋回した後にチヌークはゆっくりと〔ひゅうが〕に接近して高度を落としていく。そして物理法則に逆らうような信じられない滑らかさで飛行甲板に着艦していく。美鈴が気流と重力を操ってスムーズな着艦を支援していたのだ。大魔王様の魔法が万能過ぎるぞ! その様子を目撃した甲板上の誘導員の目が点になっていたのは言うまでもない。 



「お待ちしていました。〔ひゅうが〕の副長の吉岡です。皆さんを歓迎しますよ」


「わざわざありがとうございます。本名は明かせませんがスサノウとルシファーの2名と技官11名、しばらくこの艦にお世話になります」 


「私たちは海の上に居る時間が長くて、滅多に特殊能力者にお目にかかる機会がないからね。ああ、そちらのお嬢さんは覚えているよ。済州島攻略では大活躍だったそうだね」


「覚えていただいて光栄です。またよろしくお願いします」


 わざわざこの艦の副長さんが俺たちを出迎えてくれたよ! ちょっとビックリだな。国防海軍の白い制服に身を包み、潮に焼けた正に海の男という風貌だ。階級は少佐だな。それにしても1度乗艦した美鈴を覚えていたんだ。ということは更に印象が強烈な俺の妹のことも覚えているんだろうな。ここは敢えて触れないでおくとしよう。精神の安定を保つ上ではきっと聞かない方がいい。絶対にそうだ、間違いない!



「さて、挨拶はもういいだろう。実は君たちの司令官が首を長くして待っているんだ。早速案内するからついてきてくれ」


「了解しました!」


 俺たちは副長さんの後についてゾロゾロと艦橋内に入っていく。そしてその内部の会議室のような部屋にお馴染みの神埼司令がいつものようなしかめっ面で待っていた。



「それでは私はこれで失礼します」


 副長さんはうちの司令に敬礼するとそそくさと部屋を出て行く。どうやら司令が醸し出す強烈なオーラに耐えられないらしい。これが一般の人の当たり前の反応だよな。俺の妹とは全く別の意味で強烈なんだよ。技官たちは司令に魔力バズーカの試験結果を報告すると、自分たちがあてがわれた区画に荷物を運んで引き篭もるようだ。この場に残されたのは司令と俺と美鈴の3人しか居ない。



「魔力バズーカの性能試験ご苦労だった。結果には私も満足している」


「なんだか威力が当初の予定の3倍くらいになっているみたいなんですが」


「気にするな。どうせなら景気よく吹っ飛ばす方がいいだろう」


 いやいや、たった1発の射撃で半径500メートルを更地にする威力が出ているんですよ! 確かに景気いいかもしれないけど、甚大な被害が予測されているんだから、おいそれとは使用できないんじゃないかな。



「さて、具体的な話に移ろうか。作戦開始の日時は明後日の2000と決定したぞ。当面は日米の空爆によって敵基地の防御能力を削いでいく。ある程度体制が整ったところで我々が殴り込みに行くから、それまでは英気を養っておくんだ」


「殴り込みですか?」


「ああ、お前の妹も本来ならば連れて来たいところだったな。その方が殴り込みには相応しいだろう」


「いやいや、あれが居ると俺の気持ちが休まる暇がないから今回は遠慮します。できれば次回以降も」


 もちろんこれは俺の偽らざる本心だ。それにしても殴り込みという表現はこの際どうなんだろうな? まあ気にしても仕方がないか。俺たちの出番はもうしばらく後のようだから、その間は船の内部でも見学しようかな。


 ああそうだ! 何か足りないと思ったらこの場に勇者が居なかったな。なんでだろう?



「司令、勇者はどうしたんですか?」


「ああ、この艦の自室に居るぞ。あれは米軍に対するカムフラージュだよ。お前たちの能力は出来るだけ秘匿したいから、もし能力者の合同作戦を提唱されたら派遣する方針だ」


 なるほど、表向きは勇者が日本国防軍の能力者を代表する形になるのか。そこそこの能力しか持っていない方があちらさんも安心出来るだろうからな。もっとも俺たちの能力をどこまで隠しきれるかはわからないけど。


 こうして第1艦隊は一旦沖縄に寄港して食料等の補給を行ってから南海海域へと向かうのだった。








 2日後の午後8時、俺たちは〔ひゅうが〕の戦闘指揮室(CIC)に集まっている。米軍との合同作戦の概要は知っているけど、具体的にどんな戦術で海南島を攻略するのかは実のところ正確には知らされていなかった。その点ここには作戦情報の全てが集約されるから、進行状況が手に取るようにわかる。まさかこんな軍の中枢部に足を踏み入れられるとは思っていなかったから、俺は猛烈に感動している最中だ。室内に置かれた20面以上のモニターと、戦術コンピューターを操作する係官の様子を食い入るように見つめている。



「聡史君、もうちょっと落ち着いたら」


「美鈴、それは無理だ! こんな場所はもう2度と入れないかもしれないから、俺は全て頭の中に焼き付けるぞ!」


 会話をするのも憚られる張り詰めた空気が流れているので、俺と美鈴は互いに耳打ちしながら話をしている。俺たちの隣に腰を下ろす司令も真剣な表情でモニターを見つめている。



「富士駐屯地から高エネルギー波が発射されました!」


「中華大陸連合の衛星に命中! 衛星の消失を確認!」


「第2波、発射!」


「目標に命中! 信じられない精度で衛星を破壊しています!」


 ついに始まったか。作戦の最初の段階で魔力砲を用いて人工衛星を破壊するとは聞いていた。今回は出力を3分の1に絞って発射しているらしいな。軌道がはっきりとわかっている衛星ならその程度の威力でも十分なんだろう。次々に撃ち落される衛星の報告を聞きながら、俺たちはモニターを見つめ続けるのだった。









 同時刻、中華大陸連合の北京航天飛行制御センターでは・・・・・・



「資源1号、反応が消失しました!」


「誤作動や見間違いではないか? もう1度復旧プログラムを作動させよ!」


「反応ありません!」


「中星9号、反応消失!」


「天鍵1号、反応ありません!」


「おかしいぞ! 突然複数の衛星が消失するはずがない! もしや日米の攻撃によるものか?!」


「東方紅2号、消失!」


「海洋1号、消失!」


「原因を探れ! ミサイルが打ち上げられていないか周辺空域を広範囲に探査しろ!」


「中星11号、消失!」


「日本の富士周辺から高エネルギー波が宇宙空間に向けて連続して照射されています!」


「それが原因か! すぐに政府と軍部に連絡しろ!」


 大混乱が続く北京航天飛行制御センターから政府及び軍部にこの情報がもたらされた頃には、すでに衛星攻撃が開始されてから30分が経過していた。この時点で国土上空に存在している衛星の内約5分の1が撃ち落されている。


 この報告に慌てた国防軍首脳は戦力ミサイル部隊に指示を出す。



「策源地を攻撃せよ。有りっ丈のミサイルを撃ち込め!」


「現時点ですぐに打ち上げ可能なミサイルは固体燃料式ミサイル15基です。弾頭はどうしますか?」


「当然核弾頭だ! 報復として東京まで焼け野原にせよ!」


「了解しました!」


 こうして核弾頭を搭載したミサイルがトレーラーのような発射車両に載って格納庫から引き出されていく。だが発射の準備に取り掛かる係員は当惑の表情を隠せなかった。



「GPSが機能しません! 正確な照準の設定が困難です!」


「核弾頭なのだから照準は大まかで構わない。速やかに発射せよ!」


「了解しました!」


 こうして山岳地帯に秘匿されたミサイル基地から富士と首都圏に向けて核弾頭搭載の弾道ミサイルが次々に発射されていくのだった。










 輸送艦〔ひゅうが〕のCICでは・・・・・・



「中華大陸連合、四川省の秘匿基地からミサイル多数発射されました。標的は東京を含む首都圏全域、60分後に着弾します!」


「不味いぞ!」


 俺はこの報告を聞いて焦った。当然中華大陸連合から何らかの報復があるとは思っていたが、まさかいきなり弾道ミサイルを発射してくるとは思わなかった。



「楢崎訓練生、そう慌てるな。この事態を想定してすでに魔力砲2号機がスタンバイしている」


「えっ! 司令、そんな話は聞いていなかったですよ」


「話していなかったからな。フィオ特士にはかなりの負担を掛けたようだが」


 そうだったのか! 俺と美鈴が魔力バズーカのテストで駐屯地を発ってから、いつの間にやら2号機が実用段階まで漕ぎ着けていたのか。これは大きな安心材料だな。



「吉岡副長、首都圏の防空網はどうなっているんだ?」


「神埼大佐、前回のミサイルの襲撃を受けて以前よりは整備されつつあります。さて、我々もミサイルの数を減らすのに協力しましょう」


 位置からすると日本本土よりも遥か南方に突出している第1艦隊の方が早くに弾道ミサイルの迎撃に取り掛かれる。もちろんこの情報は艦隊の全艦で共有されているので、4隻のイージス艦はすでに迎撃準備に取り掛かっているそうだ。



 やがて艦橋の外が明るくなったと思ったら、イージス艦からは炎の尾を引いてSM-3が発射されていく。合計で30発の迎撃ミサイルが遥か宇宙空間に向かって飛び立つのだった。そして20分後・・・・・・



「敵ミサイル15基中11基の撃墜を確認! なお撃墜されたミサイルの内4基は弾頭の無事を確認しました。15分後に大気圏に再突入します!」


「いいだろう、これだけ数を減らしてもらったら後は我々に任せてもらおう。富士との通信を開いてくれ」


「通信可能、いつでもどうぞ!」


 司令はヘッドセットを装着すると矢継ぎ早に指示を送る。



「中華大陸連合の弾道ミサイルを全て撃破しろ! なお、本体を破壊されて弾頭だけになったものが4基残っているそうだ。軌道を逸れている可能性があるがこれも宇宙空間で確実に破壊せよ」


「了解しました! 魔力砲2号機の性能試験を兼ねて粉砕します!」


 スピーカーからは頼もしい声が聞こえてくるな。たぶん居残っている西林さんの声だろう。俺と一緒に何度も照準の設定をした人だから、魔力砲の扱いには一番慣れている。必ずや全部撃ち落してくれるはずだ。そして10分後・・・・・・



「敵弾道ミサイル、全て迎撃しました! 残存している弾頭もありません!」


 さすがは魔力砲だね! 俺の暴走した魔力程ではないが、対象を分子単位まで粉々にするから、弾道ミサイルは宇宙の塵になって消えてしまった。それと同時に別の報告が入ってくる。



「米軍艦船が弾道ミサイル複数発射! 目標は四川省! どうやら戦略ミサイル基地を破壊するようです」 


「弾種は不明! おそらくはバンカーバスターかサーモバリック弾だと思われます!」


 これは相当にアメリカも本腰のようだな。中華人民共和国時代から山岳地帯に秘匿されてきた戦略ミサイル基地をこの際徹底的にぶっ叩くつもりらしい。バンカーバスターとは弾頭の重量で地中深くまで潜り込んで、地面の30メートルとか50メートル内部で爆発する。地盤に大きな衝撃を与えて、地中に秘匿されたトンネルや構造物を破壊するのが目的だ。サーモバリック弾は日本語にすると燃料気化爆弾、その威力は通常爆弾では最強と称されている。


 その間にも富士駐屯地から発射される魔力砲は次々に中華大陸連合の衛星を撃ち落して行く。こうして海南島攻略戦の初日は俺たちが見えない所で着々と進行していくのだった。




次回はいよいよ海戦と航空戦に移行します。投稿は来週の中頃の予定です。どうぞお楽しみに!


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