69 魔法アカデミー 2
なぜかさくらが魔法アカデミーに連れてこられる話の続きです。
「ふー、美味しかった! ごちそう様でした! 小腹が空いていたからちょうど良かったよ! ところでこの後どうするんだっけ?」
どうも! 毎度お馴染みのさくらちゃんだよ! たった今奢ってもらったビッグマ○クのセットを食べ終えた私は、何か約束をしていたような気がしてひとまずは明日香ちゃんに用件を確認してみたんだ。奢ってくれると聞いた瞬間、頭の中がハンバーガーとポテトで一杯になって肝心な話を何も聞いていなかったんだよ!
「さくらちゃんはもう忘れちゃったの? 私と一緒に魔法アカデミーに行ってくれるんでしょう! 夕方まで付き合うって約束したじゃないの」
「確かにそんな話をした気がするね。しょうがないから一緒に行ってあげるよ。その魔法アカデミーというのはどこにあるのかな?」
「2つ隣の駅から歩いて10分くらいの所にあるの。もうすっかり遅刻しちゃう時間だから急いで行きましょう!」
こうして明日香ちゃんに手を引っ張られるようにしてつい今しがた出てきた改札口に再び戻って電車に乗り込んでいったんだよ。
電車の中では明日香ちゃんが魔法のことを色々と話してくれるけど、どうも魔法っていうのは私には向いていないんだよね。全然使えないわけじゃないんだよ。身体強化と魔法陣からペットのドラゴンを呼び出すのは可能だからね。でも火の玉を飛ばすためにわざわざ術式を組む作業が面倒なんだよ。そんなことをしている暇があったら自分の拳で殴り付けた方が明らかに手っ取り早いからね。
おや、そんな話をしているうちに電車が目的の駅に到着したね。2人で降りると改札を出て北口の方の通りを歩いていくよ。明日香ちゃんの話どおりに10分くらい歩くと目的の建物が見えてくるよ。
「さくらちゃん、ここが魔法アカデミーよ」
「ふ-ん、なんだか教会みたいな感じの建物だね」
「何でもヨーロッパの偉い魔女の力を崇める宗教団体が運営しているらしいの。私は宗教なんて興味はないけど、魔法の力を自分のものにしたいからここに通っているの」
「うーん、なんだか怪しさ満点のような気がするね。そのヨーロッパの魔女というのはどこかで聞いたような気がするけどまあいいか」
つい最近駐屯地でそんな話題が出たような気がするんだけど、たぶんその時は私は食事中だったからね、殆ど耳を素通りして何も覚えていないよ。まあいつものことだから今更気にしたってしょうがないよね! それじゃあ中に入りましょうか。
「さくらちゃん、中に入ったら受付があるからそこで住所と名前を書いてね」
「わかったよ」
建物の正面にある大きな木製のドアを開くと、そこはエントランスホールになっていて机が1つ置いてあるね。どうやらそこが受付みたいだよ。男の人がニコニコして座っているね。
「ようこそ魔法アカデミーに! おや、明日香さんには珍しく遅刻ですか?」
「すみません、駅でお友達に会ってしまって・・・・・・ ここの話をしたら魔法に興味があるらしくて連れて来ました」
「明日香ちゃん、私はビッ○マックに釣られて・・・・・・ ムグムグムグ!」
急に明日香ちゃんに口を押さえ込まれたよ! 特に魔法に興味がある訳じゃないって言おうとしたのに・・・・・・・
「そうですか、明日香さんのお友達なら大歓迎しますよ! それではこの紙に住所と名前を記入してください」
ようやく口を押さえ込んでいた明日香ちゃんの手から解放された私は、言われたとおりに用紙に名前と住所を記入する。今住んでいるのは駐屯地だけど、あそこの住所なんて知らないから自宅でいいよね。よし書けたと・・・・・・
「楢崎さくらさんですね。それでは初めての方に対するガイダンスがありますからお部屋にご案内します。明日香さんは初心者向けの魔法の練習に参加してください」
「はい、わかりました。さくらちゃん、また後でね」
「わかったよ」
こうして明日香ちゃんと別れた私は案内にしたがって応接室のような場所に連れてこられる。しばらくソファーに座って待っていると、神父さんのような姿をした外人の男の人が現れたよ。
「魔法アカデミーにお出でくださってありがとうございます。私がこの施設の責任者のアランです。このアカデミーの目的などを簡単に説明します」
うーん、別に魔法に興味があってここに来た訳じゃないのになんだか丁寧に説明をしてくれるみたいだね。でもダメだ! ソファーに座った瞬間からなんだか眠くなってきたよ!
「世界中には神秘的な術を用いる伝承が沢山ございます。日本の陰陽術や中国の仙術などが東洋ではポピュラーな存在でしょう」
おお、私が知っているフレーズが出てきたよ! 陰陽師の人たちは駐屯地で実際に目にしているからね。私から見ればあの人たちも大した力を持っていないけど。でも知っている話が出てきたおかげで、ちょっとだけ眠気が覚めてきたかな。
「当アカデミーは古代オリエントに発生してヨーロッパに受け継がれてきた正統的な魔法の源流を広めようとする目的で設立されました」
うーん、私が知らないワードだらけだね。ヨーロッパの魔法で知っているのはバチカンの魔法使いくらいだよ。あいつらはこの前景気良くぶっ飛ばしたからしっかり覚えているんだよ。せっかくだからちょっと聞いてみようかな。
「バチカンとは関係ないのかな?」
「ほう、良くご存知ですね。バチカンはカトリックの総本山です。もちろん彼らが秘匿して表に出さない教義の中には魔法や魔術の内容が含まれておりますよ。ですが私たちが手にしようとしている魔法はそれよりももっと古いソロモンの英知やカバラの秘術に源を発するものです」
ダメだ! また全然知らないワードがいっぱい出てきたよ! さくらちゃんはもうギブアップしたいですよ! 急激に睡魔が襲ってくるからもう身を委ねちゃおうかな。
「魔法とは一部の人間が独占するものではなくて、多くの人々が学んで生活を豊かにするものです。あなたも魔法の神秘に触れて自らの生き方をより豊かにしてください。それでは私の話はこれでお仕舞いです。ご案内しますから初心者が基礎を学ぶ課程で訓練を開始してください」
良かったよ! もう寝てしまう直前で話が終わったよ! これは助かったね! アランさんが案内してくれて明日香ちゃんたちが居る所にやって来たよ。ふむふむ、どうやら魔力を得るために精神を集中する訓練をしているようだね。
「あっ、さくらちゃん! お話が終わったのね。とってもわかりやすい話だったでしょう?」
「なんだかサッパリわからなかったよ。知らないワードばっかりで意識が飛ぶ寸前まで追い込まれたね。本当に危ないところだったよ」
明日香ちゃんが私の顔を見てなんだか呆れているみたいだね。仕方がないよ、ソロモンだのカバラだのって一体何なの? いきなり心の準備がないままそんな難しい話をされても理解不能だよ!
「まあさくらちゃんだから仕方がないわよね。さて気を取り直して今から魔力を得るための呼吸法の練習をするわよ。おヘソの辺りに気持ちを集中してゆっくり息を吸ったり吐いたりするのよ」
「なんだか面倒だな。仕方がないからやってみるよ」
言われたとおりにゆっくりと息を吸ったり吐いたりしていると、なんだか周囲がざわついている気がするよ。目を閉じているから様子がわからないけどどうなっているのかな?
「さくらちゃん、さくらちゃん、あなたの体全体が青い光に包まれているけど、それは何なの? もしかして魔力?」
「うん? ああ、これは魔力じゃなくて私の『気』だね。私くらいの達人になるとこの『気』を飛ばして敵にダメージを与えられるんだよ。この前も勇者を吹っ飛ばしたしね」
「勇者? 何の話? さくらちゃんってもしかして厨2病?」
「失礼だな! おっとこれ以上はこの話は触れない方がいいよね。そうそう、私は実は厨2病なんだよ!」
「もう、さくらちゃんは早くそんな夢から抜け出して現実世界に戻ってきてよ」
お言葉を返すようですが、明日香ちゃん! 魔法の力を手に入れたいと言ってわざわざこんな魔法アカデミーなる場所に通っている明日香ちゃんの方が立派な厨2病患者ではないのかな? この子とは中学以来の付き合いだけど、自分が見えなくなる点に関しては私以上の存在だからね。私が真面目な顔でお説教するのはボコボコにした後のヤンキーと明日香ちゃんだけだよ! それから勇者は実在の人物だからね。駐屯地に行けばいつでも会えるよ!
「それよりもさくらちゃん! その『気』というのは魔力とは違うの?」
「違うよ! これは厳しい体術の訓練で身に着けたものだからね。出したり引っ込めたりちゃんとコントロールできるんだよ」
「へえ、さくらちゃんって実は凄いんだね」
「そうそう、もっと尊敬していいんだよ。それよりもこんな方法で本当に魔力が身につくのかなぁ?」
「講師の人が教えてくれたからきっと大丈夫よ!」
私たちが訓練を放り出して話しをしていると、そこにツカツカと1人の女の子がやって来る。私たちをキッとした目で睨み付けると腰に手を当ててビシッと人差し指を突き付けた。
「あなたたち、ここは真面目に魔法の習得に取り組むメンバーの集まりなのよ! そんな不真面目な態度だったらここから出て行ってちょうだい!」
なんだか偉そうな態度で注意をしてきたよ。普段なら1発かましてやるところだけど今日は休暇中だからね、グッと我慢して穏便に済ませてあげようかな。明日香ちゃんの顔を立ててあげているんだよ、今日のさくらちゃんはとっても心が広いのだ!
「真美さん、どうもすみませんでした。さくらちゃんの意外な特技が判明して2人で盛り上がってしまいました」
明日香ちゃんが頭を下げているね。きっとこの人は明日香ちゃんから見るとこのアカデミーの先輩なんだろうね。その証拠にほら、体内に魔力を宿しているよ。数値にすると100に満たない僅かなもので、実戦には全然役に立たないけどね。
「特技? この人は今日来たばかりよね。どんな特技があるのかしら?」
「魔力ではなくて体から『気』を発するんです」
どうやらこの人は真美さんというらしいね。魔法使いのの先輩にありがちな名前だよ。その真美さんがどうやら私の『気』に興味を持ったみたいだけどどうしようかな。
「明日香さん、『気』というのはよほどの武術の達人しか身に着けられないものよ。それを私たちと同年代の子がそんな真似が出来るなんてどうにも信じられないわ」
「さくらちゃん、せっかくだからちょっとやってみてよ!」
明日香ちゃんは予想通りに私に振ってきたよ。あんまり人に見せびらかすのは好きじゃないんだよね。何とか断りたいんだけどどうしようかな・・・・・・ ピコーン! いいアイデアが浮かんだよ!
「見せてもいいけどここは狭いしちょっと危険だから無理だね」
「いいわ、裏庭に魔法の試し撃ちが出来る場所があるからそこでやってみてちょうだい。今から案内するからついてきて」
しまった! 完全に薮蛇だったよ! そんな場所があるんなら先に教えてよ!
こうして流されるままに私と明日香ちゃんは魔法の試し撃ちが出来る場所に連れてこられたんだよ。成り行きとはいえトホホな展開だね。誠に不本意だよ!
「さくらちゃん、ここからあの的に向かって『気』を飛ばしてみてよ」
「どのくらい威力があるのか楽しみね」
明日香ちゃんと真美さん、そんなに期待が篭った目で見ないでほしいな。こう見えても実は国防軍の秘匿戦力なんだから、あんまり人前で力をひけらかすのは不味いんだよ。そこの所を理解してほしいよね。本当に、お願いします・・・・・・ でも今更もう断れない雰囲気だよね。
「それじゃあ1発だけだよ」
あんまり派手にやるとそこら中が瓦礫に変わる恐れがあるから、鍛錬でアイシャちゃんに向けて撃ちだすぐらいのレベルにしておこうかな。軽く右手を引いてちょっとだけ気を貯めてと、それでは行くよー!
”ドーン!”
砂で固めてある土台ごと的がきれいに吹っ飛んでいるね。拳を撃ち出す速度を加減して音速よりも遅くしたから衝撃波は生み出していないよ。この辺の加減はアイシャちゃんとの鍛錬でちゃんと身に着けたからね。逆を返せば、それがなかったら付近の住宅街を巻き込んで大変な騒ぎになるところだったね。
「さ、さくらちゃん・・・・・・」
「なんていう威力なのよ・・・・・・ 魔法を抜きにしてもこれはもしかして即戦力じゃないかしら」
なんだか2人が呆然とした表情で固まっているね。この程度は駐屯地では誰も気にしないレベルなんだけどどうしたんだろう? それから気になるフレーズが出てきたよ! 即戦力って何かな? 確かに私は国防軍の特殊能力者部隊の一員で、済州島の攻略とか、つい1週間前は吸血鬼の討伐なんかしているけどね。
おや、真美さんが私の所に歩み寄ってきたよ。
「さくらさん、あなたの力を私たちに貸してほしいの。いえ、あなたのような人が私たちには必要なのよ!」
私の手を取った真美さんが真剣な表情で頼み込むような言葉を投げ掛けているね。とはいっても私にも一応立場というものがあるから簡単には返事が出来ないよ。
「さくらちゃん、それだけの力があればすぐにでも魔法少女デビューが出来ますよ! さくらちゃんは絶対に魔法少女を目指すべきです!」
横から明日香ちゃんまで私の肩にガシッと手を置いて真剣な顔をしているよ。魔法少女? なにそれ? アニメの世界の人たちじゃないのかな?
「ともかく凄い新人が現れたとメンバーたちには伝えてくるわ。明日香さんはさくらさんと一緒に元の場所に戻っていて」
「真美さんわかりました」
こうして私は明日香ちゃんに手を引かれるままに初心者たちが集まるスペースに戻っていくのでした。
その日の夜、自宅に戻ったさくらは・・・・・・
「もしもし、兄ちゃん! 実は今日成り行きでこんな展開になったんだよ!」
「さくら、お前というやつは何でこんな簡単に騒動に巻き込まれるんだ?」
「友達の明日香ちゃんの頼みだから断りにくかったんだよ!」
「しょうがないから司令官に確認する。その施設は魔法アカデミーだったな、あとで連絡をするから待っていろ」
今日の流れをざっと兄ちゃんに説明して、魔法アカデミーの子たちに協力していいのか確認してもらっているところだよ。休暇で家に戻っただけなのになんでこんなに話が脱線するのか私も不思議でしょうがないよ。のんびりしてお母さんのご飯を心行くまで味わおうと思っていたのに・・・・・・
おや、着信が入ったね。たぶん兄ちゃんからだよ!
「もしもし、兄ちゃん、どうだった?」
「さくら、その魔法アカデミーというのはカレンを狙っている魔女との関わりがあって、以前からマークされている教団が運営しているそうだ。お前はそのままその施設に潜入を続けて、教団の目的やメンバーがどのくらい居るのかを探るんだ。ある程度の情報が判明するまでこっちには戻ってこなくていいぞ」
「ええ! しばらくあそこに通うの? なんだか面倒だよ! 私は調査向きじゃなくて実戦担当なんだよ!」
「その点は重々承知している。そちらにはフィオを応援に送るから2人で協力して調査をしてくれ」
「良かったよ! フィオちゃんが来てくれるんだね。それなら大丈夫だよ! 2人でバッチリ調べ上げるからね!」
「次はいつ行くんだ?」
「明日の3時だよ」
「それまでにフィオが到着する手はずを整えておく。さくらの友達だとか何とか言ってフィオも一緒に連れて行くんだぞ。さすがにお前1人だと何をしでかすか不安が尽きないからな」
「そうだね、私もどこまで暴れていいのか不安が尽きなかったんだよ! フィオちゃんが来たら全部丸投げするからね」
「少しは頭を使って働け! それじゃあ頼んだぞ」
「了解!」
うほほー! フィオちゃんが来てくれたらもう頭を使う必要はないね。今日は余計な気を使って疲れたから早く寝ようかな。それじゃあおやすみなさい!
こうしてさくらちゃんの休暇の一日は過ぎていくのでした。
さくらの潜入作戦が決定しました。彼女1人では不安しか浮かばないところですが、次回からは頼もしい応援が来てくれます。果たしてどのような展開になるのか、次の投稿をお持ちください!




