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59 閑話 特殊能力者部隊のクリスマス

この閑話は時系列的には本編と全く関係がありません。クリスマスを記念した本当のおまけのお話なので肩の力を抜いてお読みください。

 12月24日の夕方、クリスマスイブを迎えた特殊能力者部隊は夕食後にクリスマスパーティーを開催しようとその任務に当たっている帰還者たちが必死に食堂の飾り付けなどを担当している。



「ツリーは中央に配置してね。電飾のコードに足が引っかからないようにテープで床に貼り付けてよ!」


「窓の絵はこんな感じでいいかしら?」


「いいんじゃないの」


「料理と飲み物はアイテムボックスにしまってあるから、夕食の時間が終わったらテーブルの上にすぐに出せるわ」


「うほほー! チキンの丸焼きが楽しみだよー!」


 こうしてやけにテンションが高い帰還者たちの手によってパーティーの準備は着々と進んでいくのだった。





 パーティー開始時刻・・・・・・


 食堂には100人を超える隊員が集まっている。家族持ちや恋人がいるリア充は全員帰宅しているので、今ここに居るのはポッチの寂しさを抱えている者ばかりだ。帰還者だけではなくて、陰陽師の部隊や諜報担当の忍者部隊も珍しく姿を見せている。


 それだけではなくて後方勤務の研究開発課の技術者たちや事務官、司令部付きの秘書官たちも参加して賑わいを見せている。特に事務官や秘書官は数人の若い女性が配属されているので、圧倒的に男性の比率が高いこの部隊では心のオアシスのような状態に置かれている。若い男性隊員にとってはこの機会にちょっとでもお近づきになって、あわよくばアドレスの交換などをしておきたいのは山々なところだろう。


 従って女性隊員が固まっている一角の周囲にはその数倍の男性隊員が群がるという光景が出来上がっているのだった。



「長瀬事務官、いつもお世話になっております。自分は森安軍曹であります。どうかお見知りおきを願います」


「そうなんですか、どうぞよろしくお願いします」


 国防軍の過酷な勤務に耐えている男たちは揃ってまともな女性との会話ができない。不器用な男たちが何とか女性隊員の気を惹こうと懸命に頑張っている微笑ましい光景がそこかしこで繰り広げられている。逆に女性隊員は選り取り見取りで余裕を持って選別する側なので、よほどの魅力がないと彼女らの印象には残らないのだった。彼女たちに魅力的に移らない男性隊員は軽くあしらわれてお仕舞いという運命が待ち受けている。世の中は常に残酷なのだ。



「それではただいまからクリスマスパーティーを開催します。まずは司令から挨拶と乾杯の発声をお願いします」


 司会役の副官のアナウンスが響くと壇上のマイクの前に神建司令官が上っていく。こんな和やかなパーティーの席でもいつもの通りに厳しい表情をしているのは言うまでもない。



「今年も恋人の1人も作れなかった悲しい連中が大勢集まったな。私個人としては全員が早く相手を見つけてこんなパーティーが開催されなくなるのを望んでいるぞ。この甲斐性なし共! 乾杯の準備をしやがれ! それじゃあいくぞー! 乾杯!」


「「「「「「「「「「「かんぱーい!!」」」」」」」」」


 年に1回の行事なので今夜だけはアルコールが用意されている。各自が自分のグラスに満たされたビールやらシャンパンやらで乾杯して和やかな雰囲気でパーティーが始まった。これが罠であるとはこの時点では誰も気が付いてはいない。



 30分後・・・・・・



「全員いい感じに楽しんでいるみたいだな! これから余興に移るぞ! 私がいいと言うまで『絶対に笑ってはいけないクリスマスパーティー』を開催する。笑ったやつは当然お仕置が待っているから覚悟しろよ! おーい、お仕置担当! 登場の時間だぞ!」


「うほほー! 待ってました!」


 全員の表情が一気に引き攣るのは言うまでもない。ウサギの着ぐるみに身を包んださくらが手にはソフトビニール製の棒状の物を持って登場したのだ。軽くそれをスイングするとその軌道が全く見えない。楽しいパーティーを地獄に変えるだけの破壊力は十分だった。



「さくら訓練生がケツをぶっ叩くから絶対に笑うなよ。命の保障はできないからな」


 事前にさくらが手にしたソフトビニール製のアレは一撃で人体に見立てたマネキンを粉砕していた。マネキンがパーツごとに飛び散って、アレが当たった部分は粉々になっていたのだ。安全に配慮してあるはずのソフトビニール製のアレが十分な凶器に変貌しているのだった。



「それでは始めるぞ! 特殊能力者部隊の一員ならばどんな場面でも不動の精神力で乗り切れるはずだと信じている。逆にその精神がないやつは楽しいパーティーに参加する資格はないと思え!」


 会場がシーンと静まり返っている。隊員全員がことの重大性に今更ながらに気が付いているのだった。笑ったら命に関わるという事実に・・・・・・ そして彼らにとって不幸なのは多少なりともアルコールを摂取しているという点だった。酒を飲むとどうしても気が緩んでしまうのは過酷な訓練を経験している隊員でも例外ではない。



 そして神建司令官は壇上に持参した紙袋をゴソゴソとしている。そして演題の陰に隠れて再び姿を現した時・・・・・・・ 頭にはトナカイの角を付けていた。普段仏頂面をしている司令官のこの姿は彼女を良く知っている人間にとっては相当な破壊力を齎す。



「ぶっ!」


「無理だーー!」


「止めて、司令! 私が死んじゃう!」


「上山、米田、鈴木、アウトー!」


 審判役の副官の無情な声が響くと、3人の犠牲者は着ぐるみウサギの元に連行されていく。そしてテーブルに手を着いてケツを突き出すような姿を強いられている。



 ”パーン、パーン、パン!”


 フルスイングではないが景気のいい音を立ててアレがさくらの手によって執行される。



「うーん」


「がはっ!」


「痛ーい!」


 男性隊員2人はその場で意識を手放しているが、加減した威力だった女性事務官は涙目で留まっている。いくらなんでもさくらはそこまで鬼ではないようだ。


 失神した2名の隊員はタンクが両肩に載せて医務室に運んでいく。そこでは手厚い手当てを受ける用意が整っているのだった。




 再び司令官が紙袋をゴソゴソしている。隊員たちは次に何が来るのか疑心暗鬼の塊のような表情をして見ている。そして演壇の陰に隠れると・・・・・・ ハナ眼鏡をした司令官が登場した!



「待ってくれー! それは反則だろう!」


「いやだ! 絶対にいやだーー!」


「故郷のお母さん、先立つ不幸をお許しください」


「野村、安田、中村、アウトー!」


 ”パーン、パーン、パーン”


 3人の男性隊員が意識を失って救護係のタンクと勇者が彼らを医務室に運んでいく。どうやら命は取り留めた模様だ。



「それでは楽しい余興はおしまいだ! あとは適当にやってくれ!」


((((((全然楽しくないだろうが! こっちは命懸けだったんだぞ!)))))


 隊員たちの心の声をさらっと無視して司令官は壇上から姿を消していく。会場は一気にほっとした空気に包まれる。



「もう笑っても大丈夫なんだよな」


「うん、試しにお前が笑ってみろよ」


「いや、お前が先に笑えって!」


 いまだ疑心暗鬼の雰囲気が消えない会場にひそひそと声を潜めた会話が始まる。全員が恐怖に彩られた空間から戻ってこれないのだった。


 だがその雰囲気を打ち破るようにして天使の姿になったカレンを先頭にして医務室に担ぎ込まれた隊員が戻ってくる。彼らはカレンの天界の呪法で心身に負った傷をあっという間に癒されたのだった。



「皆さんこうして無事ですからご安心ください。さあここからは楽しくやりましょう!」


 カレンに続いては悪魔の姿になった美鈴と魔法使いの姿のフィオが入場してくる。彼女たちは会場を盛り上げるコンパニオン役でコスプレをしている態で本来の姿を人前に見せているのだった。



「凄いぞ! 本物の天使が現れたようだな!」


「あの羽は直接体から生えているように見えるけど、どういう作りなんだ?」


「悪魔と天使なんてなかなか気が利いた衣装じゃないか!」


「魔法使いも可愛いぞ!」


 会場全体が彼女たちの登場で一気に盛り上がった雰囲気に包まれる。遅れてアイシャも民族衣装に身を包んで登場すると男性隊員から喝采を浴びている。


 こうして盛り上がった雰囲気のクリスマスパーティーは夜が更けるまで続いていくのだった。その頃着ぐるみウサギはテーブルの前に陣取って無心で食べ物を漁っている。



 そしてここに1人、パーティーの喧騒から離れて缶コーヒーを片手に魔力砲の前で待機している聡史が居る。



「みんなクリスマスを楽しんでいるのに俺は1人で当番かよ。本当にツイていないよな」


 1人で愚痴っている彼に夜空からはらはらと雪が舞い散っていくのだった。

最後までお付き合いいただいてありがとうございました。特別編はいかがでしたでしょうか? 普段あまり登場しない特殊能力者部隊の皆さんにスポットを当ててみました。彼らも色々と苦労しながら帰還者たちを支えています。時折こうして裏方の皆さんにも登場してもらうかもしれません。


次回の投稿は水曜日を予定しています。年内はあと2話投稿するつもりです。どうぞお楽しみに!

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