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51 色々ありすぎる1日

お待たせしました、51話の投稿です。お話の舞台はひとまず済州島に戻ります。そこから様々な出来事が・・・・・・

 舞台は済州島に飛ぶ・・・・・・



「なんだかこの基地もあっさりと終わっちゃったね。もうちょっとまともな抵抗をしてもらわないと私のお腹が減らないよ!」


 さくらちゃん、本当にわかっているのかしら? 陸軍基地に残っていた敵兵1500人が完膚なきまでに殲滅されて、建物はほぼ倒壊しているわよ。これだけ派手にやっておいてまだ暴れ足りないのかしら、さすがの大魔王も呆れているわ。見てご覧なさいな、周囲には濛々とした黒煙とバラバラになった死体がこれでもかというくらいに転がっているじゃないの。



「よし、これで島内の守備体制はガタガタになっているはずだ。残りの航空基地と軍港も今日中に片付けるぞ。西川訓練生、この場の片づけを頼む」


「了解しました。ヘルファイアー!」


 死体はさっさと燃やして建物の残骸は土魔法で砂とセメントの山に戻しておきましょうか。その他の物品も面倒だからまとめて焼却よ。ああ、ミサイルとか砲弾がまだ残っているけど使いようがないからシールドを張って全部爆発させてしまいましょうか。


 こうして2つ目の基地の攻略が2時間半くらいで終了したわね。むしろ片付けのほうが時間を食ったくらいよ。その間することがなかったさくらちゃんはテーブルを出してずっとお菓子を食べていたわ。ついさっき早めの昼食を取ったばっかりなのに・・・・・・



 結果的にこの基地が陥落した時点で私たちの任務は終了していたわ。私たちが到着した時には空軍基地と軍港はもぬけの殻で、戦闘機や軍艦は施設を残したまま逃げ出した後だったのよ。陸軍基地に比べて大した防御機能がないから、虎の子の戦闘機や船を基地の要員共々逃がしたんでしょうね。それが正解でしょうね。私たちの攻撃を受けたら何もできないまま全滅だったから。


 でも逃げ出す戦闘機や軍艦を易々と見逃すような作戦を司令官が立てるわけないでしょう。戦闘機は大半が国防軍都築基地から発進したF3と対馬海峡に遊弋していた『いせ』から発進したF35のミサイルの餌食になったそうよ。船も当然潜水艦が先回りして魚雷で撃沈している頃ね。


 


 夜になったので私たち3人は航空基地に戻っているわ。ここは民間の飛行場を改装した施設だから、元々あった旅客用のターミナルが残っているのよ。そこには乗り換えの利用客が使用する仮眠室があったから、一晩ゆっくりと寝られたわ。



 司令官が昨夜のうちに掃討作戦の完了を伝えていたから、次の日の夜明けとともに国防海軍による揚陸が開始されたわ。輸送艦が何艘も軍港に接岸して、内部から車両を吐き出していくの。岸壁に整然と並んだ戦闘車両の隊列は中々壮観な眺めよ。


 空港の管制要員も同時に到着して早速空港機能を国防軍仕様に変更しているわ。レーダーの周波数を調整する必要があると言っていたけど、詳しい事は私には全然わからないわ。こういうのは専門家に任せるのが一番ね。


 午後になると滑走路に国防空軍の輸送機が戦闘機に護衛されて着陸するわ。中からは大勢の空軍の将兵が降りてきて早速基地の設営を開始しているわね。


 私たちのこの島での任務はこれでおしまいね。後はそれぞれの部隊に任せてとんぼ返りで飛び立っていく輸送機に乗り込むわ。さあ、これで5日ぶりに日本に戻れるわね。聡史君と約束したご褒美が今から楽しみよ。







 その頃富士駐屯地では・・・・・・


 俺は今魔力砲の最終実験で待機中だ。この実験が上手くいけば内部をシールドで包んだ新たな砲身とバージョンアップした照準システムを搭載した『魔力エネルギー迎撃システム・改』が完成に漕ぎ着ける。


 技術者たちが忙しそうに砲の各部分を点検しているが、俺は実際に試射が行われるまで待機しているだけだ。そこに東中尉が姿を見せる。



「楢崎訓練生、毎日ご苦労さんだね」


「中尉、こんな場所にどうしたんですか?」


 俺たち帰還者のマネージャーのような存在とはいっても中尉は特に何の能力も持っていない一般隊員だ。魔力砲の実験に関しては原則部外者立ち入り禁止なので、この場に姿を見せるのは初めてだった。



「良い報告があったから君たちに伝えようと思ってね。済州島の敵兵力が駆逐されて国防軍の揚陸が開始された。司令官と君の仲間は今夕こちらに戻ってくるぞ」


「そうですか、それは良かった! あの3人なら心配はないと思っていましたが予定よりもだいぶ早かったですね」 


「司令官の武勇伝は私も知っているが、今回は殊に君の妹さんの活躍ぶりは凄まじかったという話だ。まだ入隊して日が浅いから訓練生扱いだけど、この調子なら早いうちに正規兵に任じられてもおかしくないよ」


「そうですか、それは嬉しいんですけど・・・・・・ またあいつが派手にやらかしたんですね」


 妹よ、暴れたい衝動が疼いているのはわかるが、司令官さんを驚かせるとはどれだけの破壊をしでかしたんだ? なんだか胃が痛くなってきたぞ。両親の心労がわかる気がする。



「フィオ特士にも伝えておいてくれないか」


「はい、わかりました。わざわざありがとうございます」


「それじゃあ私は戻るよ。あまりここに長居はできないからね」


 手を振って東中尉は去っていく。この基地にあって珍しい俺をホッとさせてくれる人物だ。本当に穏やかな担任の先生みたいだよな。いつもご迷惑を掛けっ放しですいません。そうだ、フィオにもこの話を教えようか。



「おーい、フィオ! 今大丈夫か?」


「聡史君、どうしたの?」


 フィオはちょっと離れた場所で白衣を着た技術者と真剣な表情で話し込んでいて、中尉が来ていたのには気が付いていなかった。どうやら打ち合わせは一段落したようで、俺がいる場所にスタスタとやって来る。昨日非番で丸一日体を休めたおかげで今日は普段通りの飄々とした表情だ。



「司令官と美鈴たちが任務を完了したそうだ。妹はあの司令官さえドン引きする暴れっぷりだったらしい」


「まあ、それはいかにもさくらちゃんらしいわね。それでいつこちらに戻ってくるの?」


「夜には到着するらしいぞ」


「そうなんだ! ずいぶん早いのね。それだったら昨日は寝ていないでもっと別の使い方をすれば良かったわ」


「別の使い方?」


「なんでもないの。聡史は気にする必要はないわ」


 なんだかイタズラっぽい表情だな。気にしなくていいんだったらまあ良いか。ああ、そういえば夕べの俺はカレンの膝枕でしばらく休んでから、フラフラの体を彼女に支えられて自分の部屋に戻ったんだったな。ベッドにダイブしてそこから先の記憶がないぞ。たぶん俺にしても『天使を覚醒させる』なんて行為は相当の魔力を消費する代物だったんだろうな。でも朝になったらいつも通りに魔力がフル充電になっていたぞ。10億を軽く超える魔力を消費しておいて一夜過ぎれば元通りって、本当に俺の魔力はどうなっているんだろう?



「それじゃあ私はまた作業に取り掛かるわ。細かい部分の詰めをきちんとして置かないとまたこの前のような事故で聡史を危険に晒してしまうから。最終実験はあと2時間くらいで始まると思うわ」


「よろしく頼む」


 改装中の魔力砲の術式の責任者なのでほぼ完成しているとは言ってもまだまだ細かい部分の修正に追われているようだ。俺のためにありがとうございます。その分実験ではベストを尽くします。




 2時間後、魔力砲の最終実験が開始される。砲身には圧力計や振動計などの各種センサーが20箇所くらい取り付けてあるよ。砲身内部のシールドがどの程度有効に働くかを測定するそうだ。



「3分後に発射します」


「わかりました」


 俺はすでに操作シートに座って時間が来るのを待って、モニターのカウントダウンを睨みながら待機している。すでにバッテリーに魔力を流し終えているので、あとはスイッチを押すだけだ。



「5,4,3,2,1、ゼロ」


 スイッチを押すと砲身の先端からズバーンという音を立てて白い光が飛び出す。あっさりとしているがこれで実験は終了だ。



「圧力、振動ともほぼゼロです! 驚くべきシールドの効果です!」


「これなら注入する魔力を2倍に引き上げられるな」


「魔力が倍になれば破壊力は4倍になるとともに直進性が更に向上しますからより正確な照準が可能です」


 技術者たちの性能向上に懸ける意欲は留まる所を知らないようだ。そのうち地球を丸ごと破壊するような兵器を作り上げてしまうんじゃないのか?



「まずはバッテリーの容量を引き上げないとな」


「それから魔力導入部分の通路も口径の大きな物に変更ですね」


 この人たちは進歩を止めると呼吸ができなくなるんだろうな。きっとそうに違いないぞ。こうなったらとことん満足するまで付き合ってやろうじゃないか。



「これ以上の改修は美鈴にやらせてくださいね、私はもうギブアップですから」


「次のステップはお2人が分担して作業を進めるということでお願いします」


 どうやら技術者たちはフィオを手放す考えなど毛頭抱いていないようだ。美鈴と2人掛りでより効率的に開発を進める気でいる。逃げ出すのに失敗したフィオは地面に両手を付いて『終わったばかりなのに・・・・・・』とブツブツつぶやいているのだった。



 結局色々とデータの確認などもあって、いつもの通りに夕暮れが迫る頃に本日の実験が終了した。フィオはガックリと項垂れて俺の左手に体を預けるように掴まって自分の部屋に向かっている。よほど術式開発がまだまだ継続するのがショックな様子だ。



「フィオはしばらく休んでいろ。俺はちょっと用事があるからあとで食堂で会おう」


 フィオの部屋のドアを閉じると俺は地下通路に向かっていく。今朝天狐に約束の品を届けるつもりだったのが、時間ギリギリに目が覚めたせいでお預けになっていたのだ。地下通路のカードキーはポケットに入っているからそのまま直行だ。



 結界があった場所を潜り抜けて声を掛けようとしたら、天狐は祠の一段高くなっている土台で不貞寝をしている。この様子だと相当待ちくたびれたんだろうな。



「天狐、遅くなってすまなかったな。約束の品を持ってきたぞ」


「ずいぶん遅かったではないか。我は待ちくたびれたぞ。兄殿がこのような不誠実な人間とは思わなんだ」


 相当拗ねているな。まあ2日近く待たせたんだからその気持ちもわからないではない。ここはひとつ機嫌を取ってやるかな。



「まあそう言うなって、いい知らせがあるぞ。妹が今夜戻ってくるんだ。キツネうどんでも食べながら食堂で待っていようぜ」


「なんと! なぜそれを先に言わぬか! こうしてはおられぬ、身を清めてまいるからしばらく待て。ああ、その前に稲荷ずしは受け取っておこう」


 ガバッと身を起こすとキラキラした目で俺から稲荷ずしを受け取って祠の奥に引っ込んで行ったよ。身を清めるって、大妖怪なのにどれだけ『妹LOVE』なんだ? まさに飼い犬じゃないか。



「兄殿、待たせたな」


 出てきた天狐はさっき不貞寝していた時とは違ってまっさらな衣装に着替えているぞ。ボサボサだった髪の毛もきちんと総髪に纏め上げている。やつが住み着いている祠の内部がどうなっているのか覗いてみたいな。まあいいか、外出する準備が整ったようなので俺は天狐を連れて食堂に向かって歩き出す。



「して、主殿は唐国を攻め滅ぼしたのか?」


「いや、今回は島を1つ攻略しただけだ。いくらなんでも広過ぎて5日間では無理だろう」


「確かにそうであるな。唐国は遠き所故にこちらから向かうだけでも日が掛かる。僅かな間に島を奪って来たとはさすがは我が主殿なり」


 ザ・飼い犬は妹の強さを心の底から信じ込んでいる。勝って当然という表情だよ。まあ俺もそう思うけど。



 俺と天狐が到着すると食堂は夕食時間のピークを過ぎて、食事をする隊員の姿は疎らだった。ここに居る皆さんは天狐の姿を見てももう誰も驚かなくなっている。さてどこに座ろうかと考えていると・・・・・・



「聡史さーん!」


 俺に向かって手を振っている姿が目に飛び込んでくる。プラチナ色の髪が左右に揺れているその人はもちろんカレンだ。俺が天狐を連れてカレンが座っている席に向かうと、彼女はちょうどこれから食事に手をつけようとするところだった。



「昨日は本当にありがとうございました。こうしてまた会えて嬉しいです! ご一緒に食べませんか?」


「ああ構わないぞ。天狐、あっちに並んでいいぞ」


 天狐は尻尾を振りながら配膳の列に加わっている。係りの人は天狐の姿を見ると黙ってキツネうどんを差し出すのだった。



「今まで食堂では全然カレンの姿を見かけなかったな」


「はい、私は近くの自宅から通っていますので昼ご飯はお弁当だったりしますから。でも今日はちょっと用事があって遅くまで残っているんです」


「用事?」


「はい、出撃していた母が今夜戻ってくるんです」


 出撃? 母? 誰のことだ・・・・・・? って、現在この部隊で出撃しているのは3人しか居ないじゃないか! 待て待て、ひとまずは落ち着こうか。いいか俺、冷静に考えるんだぞ! えーと美鈴と妹がカレンの母親ではないな。うん、これは間違いないだろう。そうすると残った可能性は・・・・・・ 嫌な予感しかしない俺は恐る恐る口を開く。



「そ、その、も、もしかしてカレンのお母さんというのは指令官?」


「はい、この部隊の司令官を務めている神建真奈美です。私は神建カレンです」


「なんだってーーーー!」


 体中から一気に冷や汗が流れてくるぞ。そんな大事なことはもっと早く言ってくれ! よりによってカレンの母親が司令官なんて! そして俺は司令官の娘に口移しで魔力を・・・・・・ 修羅場だ! 絶対に修羅場がやって来るぞ! 今から遺書を書いても果たして間に合うだろうか?





 そしてその時・・・・・・



「ジャーン! さくらちゃん登場! お腹が空いたよーー!」


 食堂の入り口に耳慣れた馬鹿デカイ声が響くのだった。


 


最後までお付き合いいただいてありがとうございました。ついに明かされたカレンの正体、次回は修羅場必至の展開が予想されます。投稿は週末を予定していますので、どうぞお楽しみに!

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― 新着の感想 ―
[一言] 「まだ入隊して日が浅いから訓練生扱いだけど、この調子なら早いうちに正規兵に任じられてもおかしくないよ」 えっ、訓練生に国外任務を与えていることになりますよ。おかしくないですか。
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