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36 初の遠征 後編

夜の埠頭で異質な帰還者との決着がつくのでしょうか・・・・・・

「中華大陸連合の帰還者か?」


「そのとおりだ。上手く隠れていたと思っていたが、どうやらバレバレだったようだな」


「魔力の気配は隠そうとしても隠し切れないからな。それにお前の魔力は異質過ぎる」


「あんな大量の魔力の気配を振り撒いていた貴様が何を言っているんだ? お前の魔力こそ隠そうとしても隠し切れないだろう?」


 どうやら俺の魔力も相手に感知されていたらしい。昼間港を見に来た時にはもうわかっていたんだろう。だから俺が再び姿を現すと予想して、こうして待ち伏せの準備を整えていたんだな。それにしても隠し切れないのは俺の魔力も一緒か。外部には漏れないようにしていたんだけど、いかんせん量が多過ぎるからな。さて、一応こちらから名乗ってやろうか。



「俺は日本国防軍所属のスサノウだ」


「そんなに簡単に正体を明かしていいのか?」


「構わないぞ。この場でお前を殺してしまえば誰も聞いていなかったのと一緒だからな」


「なるほどな、その発想は気に入った。僕は主席直轄帰還者部隊所属の一竜ファーストだ」


 俺と対話をしている『ファースト』と名乗った男は年齢は俺と同じくらいで、真っ白な髪の毛と小柄で華奢な体格の持ち主だ。その外見は厨2病に感染している方々の多くが憧れるダークヒーローそのものといった風貌をしている。某『アク○ラレーター』さんと雰囲気がよく似ているかな。そういえばアクセラさんは反射系の特殊能力を持っていたな。ファーストは俺の魔力の壁を弾丸が厚き抜けたように、その正反対の貫通系の能力者か?



「そうか、この前セカンドと名乗った男は俺が地獄に送っておいた。お前ももうすぐ同じ場所に行くだろうが、知り合いがいるから寂しくないだろう」


「あんなバカと一緒にするなよ! あいつはプライドだけが高い能無しだからな。どうせ長くは生きられないと思っていたよ」


 うん、確かにプライドだけは高そうなやつだったな。何体か妖怪を呼び出した後で、あっという間にやられちゃったけど。あいつに比べたら現実が見えているだけファーストの方がマシなのかな? まあいいか、そろそろ開始しよう。



「自信のある武器を手に取っていいぞ。後から『~を使っていなかったから』なんていう言い訳は聞きたくない」


「ずいぶん余裕のある態度だな。後悔するなよ」


 ファーストはアイテムボックスから青竜刀を取り出す。うわーー! 香港映画に出てきたのを見た記憶はあるけど、本物は初めてだよ! それも2本を両手に構えている。2本ともやつの黒い魔力に包まれているからきっと俺の魔力の渦を突き抜けてくるんだろうな。これは真剣に挑まないとかなり不味い展開かもしれないな。



「切り裂かれて死ね!」


 ファーストは青竜刀を手にして俺に向かって踏み込んでくる。なかなか鋭いぞ、妹の半分くらいの早さだ。あいつの動きに目が慣れているから大した早さに感じないだけで、普通の人間なら反応する前に斬られているな。


 右手の刀を斜めに振り下ろして、時間差をつけて左手の刀を真横に薙ぎ払う。予想通りに2本の刃が魔力の渦を突き抜けて俺の体に迫ってくるよ。どうやらこっちもあまりノンビリとはしていられないようだ。さっとバックステップで両方の攻撃をかわすと、俺は拳に魔力をまとわせて撃ち出そうとする・・・・・・ まて! あいつの背後には倉庫が建ち並んでその後方には新潟の街が広がっているじゃないか!


 慌てて俺は始動を開始していた右の拳を止める。ふー、危なかったよ! 一歩間違うと新潟が消えて無くなる所だった。その間にもファーストは青竜刀を振り回しながら俺に迫ってくる。参ったなー、素手で対応するのはちょっと危険だ。かと言って俺のアイテムボックスに眠っているのは、巨大台風並みの嵐を引き起こす剣『ストームブリンガー』とか、異世界の邪神を葬り去った『ブラックホールを作り出しちゃう剣(命名、俺)』なんていうシャレにならない代物ばかりだ。


 その間にもファーストの剣が右から左から次々に繰り出される。うーん、このままでは八方塞だ。どうしようかな?



「どうした! さっきまでの威勢のよさすっかり影を潜めているぞ! 避けてばかりでは俺は倒せないからな!」


 俺がなかなか手を出してこないのをいいことにファーストは調子に乗って攻め立ててくる。俺は下がる一方であと100メートルで桟橋の端っこに到達しちゃうよ。そうなったら海に飛び込むしかないのか?


 ファーストの攻勢をかわしながら俺はやつの隙を探す。妹のラッシュと違って多少は息をつく暇があるからまだマシだな。ただ『ブーン』と音を立てて振るわれる刀に直に手を出すのは冒険過ぎるな。何か手はないだろうか・・・・・・ ピコーン! あるじゃないですか!


 俺はアイテムボックスに手を突っ込んで『行軍用スコップ・改』を取り出す。俺の雑な硬化魔法ではなくて美鈴に分子レベルまで結合を強化してもらった業界最強の強度を誇る一品だ。



 カキン!


 右手で真横に振るわれた青竜刀をスコップで受け止める。次いで左から足元を狙ってきた一撃に対しては右足で刀の柄の部分を蹴り上げてやる。



 ゴキッ!


 カラン!


 あーあ、急激な力が掛かったファーストの左手が折れちゃったよ。握っていた青竜刀を取り落としている。やつの表情は俺の反撃1発で腕を折られた事態に驚愕に染まっているな。だが、こいつはセカンドと違ってなかなかシブトイぞ。俺の左側に回りこみながら右手一本で刀を振るってくる。



 カキン、カン、カン!


 火花を散らしながら青竜刀とスコップがぶつかり合う音が桟橋に響き渡る。ファーストは俺の左側に回り込んで、さっきまでとは完全に位置が入れ替わって桟橋の海を背にする場所に立っている。そのままやつはアイテムボックスから小銃を取り出すと俺に向かってぶっ放し始める。



 タタタ、タタタ、タタタ!


 どうやら3連式の小銃のようだな。銃自体に魔力をまとわせているよ。これが俺の魔力の壁を銃弾が突き抜けてきた理由だ。イテテテ、至近距離から食らうとさっきよりも痛いぞ。俺は後ろに下がって相手の出方を伺う。ファーストは小銃を連射しながら少しずつ俺との距離を取っていく。


 さっきと同じように右腕から魔力砲を放とうと思ったが、沖には漁をしている漁船の明かりが多数浮かんでいる。こんな夜更けにも拘らず額に汗を流しながら漁をしている漁師さんたちを巻き込む訳にはいかないよな。俺は銃をぶっ放しながら下がっていくファーストをそのまま見送るしかなかった。


 そしてやつは桟橋の先端まで到達するとそこから海に向かって飛び込む。俺が走って桟橋の先端に辿り着いた時にはファーストが乗ったモーターボートが沖を目指して発進していた。用意のいいやつめ! 万一に備えて逃げる手段まで確保していたんだな。沖合いのどこかに迎えの船が来ているんだろう。



 こうして俺は手傷こそ負わせたもののファーストを取り逃がすこととなった。俺にとってやつは相性としては最悪の相手には違いなかったが、これは自分の失態として受け止めるしかないな。悪条件が重なったとはいえ、仕留め切れなかったのは事実だ。たぶん妹が居れば簡単に終わっていただろうが、あやつは昼間のグルメ三昧でぐっすり眠っている最中だ。



 仕方がない、この結果を指令に報告するか。俺はスマホを手に取って通話ボタンを押す。



「楢崎訓練生、調査の結果何かわかったのか?」


「指令、それが帰還者との戦闘になって相手を取り逃がしました。それからやつが拠点としていた貨物船が横転して港で横腹を晒しています」


「そうか、お前が仕留め切れない相手が居るのか。これは新たな発見だな。貨物船は我々が到着してから対処するから放置して構わない」


 怒られるかと思ったけど司令官さんは事態を冷静に受け止めてくれたよ。こういう所は器がデカイんだよな。通話を終えてから俺は桟橋に泳ぎ着いて階段を登ってこようとする工作員たちを洩れなくとっ捕まえて腹に一撃食らわせてその場に転がしておく。たぶん殆どが一生起き上がらないだろう。運良く生き残っている連中は司令官さんに任せるとしようか。あーあ、宿を出てずいぶん時間が経っているよ。夜勤手当は出るんだろうか?


 それにしても今回はファーストにしてやられたな。今度出会ったら絶対に妹をけしかけてやるぞ。俺にとってファーストは相性が悪かったように、やつにとっては妹は最悪の相性だろうな。もっとも妹の能力と相性が良い帰還者なんか滅多に居ないだろうけど。

 




 その翌日・・・・・・



「うほほー! 午後の新幹線だから昼までは目いっぱい食べ歩きを楽しむよー!」


 朝食の時に昨夜の件を報告した俺の話を上の空で聞いていた妹は朝の新潟の街に飛び出していく。街の皆さん、本当にご迷惑をおかけいたします。嵐が過ぎるまであと少しの辛抱ですので、どうか大目に見てやってください。



「聡史君の『魔力が中和される』という話は興味を惹かれるわね」


「そうね、物質と反物質があるように魔力にも『反魔力』と呼べるような物があっても不思議じゃないわね」


 美鈴とフィオはさっきからこの話題でずっと話し込んでいる。2人とも『魔法と魔力を極めた存在』と自負しているだけに、そのプライドに懸けても今回の事態を解明しようとしている。様々な可能性と仮説を立てながら熱心に議論している。



 領事館のガサ入れに関しては司令官さんにお任せとなった。帰還者は昨夜のうちに姿を消してしまったので、俺たちの手を借りるまでもなく支援部隊だけで片付けるらしい。どちらかというとあの司令官さん1人でケリが付いてしまうだろうな。


 

 

 こうして俺たちは新潟への遠征を終えて午後の新幹線で帰途に着くのだった。







 1週間後の北京・・・・・・



「国家主席、周辺情勢の報告に参りました」


「時間が惜しい、すぐに始めてくれ」


 執務室を訪れた国防委員長に対して独裁者・劉健耀はソファーに彼を招いて報告を聞く。



 劉健耀・・・・・・ その経歴は謎に包まれており判然としない部分が多い。ちょうど5年前に中華人民共和国が崩壊した時点での彼の肩書きは『人民解放軍特殊能力部隊長』に過ぎなかった。どんな経歴を経てその地位に着いたのかすらはっきりしない部分が多いが、はっきりしているのは彼はこの時点で帰還者を指揮する立場にあったという点だけだ。


 中華人民共和国の経済破綻によって中国国内が動乱の時期を迎えると、彼はいち早く当時の北京軍管区を掌握する。8つの軍管区がそれぞれに対立と小競り合いを開始していて戦国時代の様相を呈していた当時の中国の第1線にこの時点で初めて躍り出ていた。彼が率いていた帰還者たちがその大きな原動力になったのは云うまでもない。


 そして彼は対立している近辺の軍管区に帰還者を送り込んだ。各軍管区の最高実力者を次々に暗殺していったのだ。帰還者の能力がその頃からようやく知れ渡ってきた時期と重なって、軍管区のトップたちは震え上がって彼に忠誠を誓った。さもないと帰還者が送り込まれて、誰にも気がつかれないうちに暗殺されてしまうのだ。


 こうして再統一された中国は新たな国名として『中華大陸連合』を名乗って、東部アジアの統一を名目にして国内で不足する食料を求めてラオスやカンボジアに侵攻していくのだった。



「国家主席、ロシアへの侵攻は順調に進んでおります。大小20あまりの基地を無傷で手に入れて、航空機80機と巡航ミサイルを500機、中距離弾道ミサイルを200機手に入れました」


「うむ、すぐに使用可能かね?」


「航空機はすぐに稼動できます。ミサイルは燃料の注入を終えれば使用可能です」


「そうか」


「それから旧韓国艦隊と航空部隊の準備が整っておりますが、日本への侵攻のご許可をいただけますでしょうか」


「日本の帰還者の動向はどうなっているのだ?」


「先日、一竜ファーストが例の帰還者と戦闘を行って戻ってまいりました。片付けられない相手ではないそうです」


「そうか、それでは全力で日本に侵攻する準備を整えろ。韓国人の将兵は全員使い潰すつもりで投入せよ。占領地の軍など将来の叛乱予備軍だからな」


「承知いたしました」


 戦争は相手に『勝てる可能性がある』と思われたら発生する。中華大陸連合は送り込んだ二竜セカンド六竜シックスがあっさりとやられた事態を重く見て、日本に対して慎重な姿勢を取ってきた。それが今回新潟でファーストが善戦して戻ってきたことで、『それ程大した相手ではない』という誤解を軍の上層部が抱いてしまったのだ。


 実際には聡史が色々な制約に縛られて自らの力を発揮できなかったというのが正しいのだが、報告が上層部に上がるに従っていつの間にか都合の良い解釈に書き換えられていた。これが権力者の機嫌を伺わないと出世できない独裁国家の弊害の最たるものだろう。




 こうして中華大陸連合の本格的な日本への侵攻が決定されるのだった。

 

 


最後までお付き合いいただいてありがとうございました。


いよいよ日本にも直接戦禍が忍び寄るような気配が漂っています。この続きは週の中頃に投稿する予定です。


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