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27 ドイツの暗躍

さて、タイトルは『ドイツの暗躍』となっています。21話にドイツの帰還者の話がちょっとだけ出てきましたが、果たしてどうなることやら・・・・・・


今回のお話は3部構成になっていますのであらかじめご承知おきください。

 夜明け前のイギリスのロンドン、政府機関やウエストミンスター寺院がある一角とはテムズ川を挟んだ反対の地区、ウオータールー駅の近くにある車両基地・・・・・・



 俺はスティーブ=オルコット、イギリス国防省(MOD)所属の帰還者だ。今鉄道の車両基地で正体不明の攻撃を受けて車両の陰から陰へと必死で逃げ回っている最中だ。


 上官から『車両基地でテロリストが爆弾を仕掛ける動きがあるからパトロールをしてこい』という命令を受けて、手軽な任務だと考えて出向いてみたらこの有様。神様に恨み言のひとつも言ってやりたい気分だ。


 遠くから狙撃されているのは間違いないが、飛んでくるのはどうやら弾丸じゃなくて魔力のようだ。一体どうなっているのか俺自身訳がわからなくて対応に苦慮している。


 もちろん異世界で魔法の存在をこの目で見てきたし俺自身も当然魔法が使える。だが今俺を目掛けて飛んでくるのは魔法じゃないんだ。魔力自体がエネルギーを持った砲弾のように信じられない速度で飛んできて、身を隠す貨物列車がいとも簡単に爆発していく。かろうじて魔力が飛んでくる気配を察知して違う車両の陰にダイブして身を守っているが、こんな不利な状況をいつまで続けられるか自信はないぞ。現に爆発の衝撃で飛び散った破片が右肩に突き刺さってダラダラと血を流している。



「また来るぞ!」


 肩の痛みは無視して隣の車両の陰に再び逃げ込むと、今まで俺が隠れていた車両に測ったように魔力が着弾する。

 


 ドーーン! 


 まるで戦車の砲弾が着弾したかのようにコンテナ車両がバラバラになって付近に盛大に飛び散っていく。魔力による爆発なので派手な火柱が上がらないのが砲弾との違いだ。今はそんな違いはどうでもいいけど。



「おっと、また飛んできそうな気配だ!」


 素早く次の車両の陰に移動する。もう何回こうして避けているかわからなくなってきた。神経を張り詰めていないと飛んでくる魔力弾の気配を見逃しそうだからな。本当に小さな気配だからちょっとした判断ミスが命取りになる。限界まで精神を研ぎ澄ませていないとかなりヤバい状況だ。


 しかし今度はちょっと余裕があったから魔力弾が飛んでくる方向を何とか確認できたぞ。だが如何せん遠すぎる。距離にして600メートル以上先から撃ち出しているようだ。残念ながら俺の魔法じゃそこまで届かない。こちらからは手の出しようがないアウトレンジから好き放題に狙い撃ちされているわけか。これは素直に命があるうちに撤退を考えないと状況としては不味過ぎる。



 ドーーン!


 再び貨物車両がバラバラになって飛び散っていく。だがこの音がどうやら俺には幸運をもたらす使者になったようだ。騒ぎが起こっているという通報があったのだろう。警察車両のけたたましいサイレンが遠くから聞こえてくる。







 車両基地に隣接しているビルの屋上・・・・・・



「仕留め損なったか、運のいいやつめ」


 俺はクラウディオ=ベルガー、ドイツ連邦国防軍所属の帰還者だ。ヨーロッパ統合という我が国の悲願を邪魔する生意気な糞ブリテンの帰還者を始末する命令を受けて5日前からロンドンに潜入していた。せっかくテロリストが動いているという偽情報を信じ込ませて敵の帰還者をここにおびき寄せたが、どうやら襲撃場所の設定に失敗したようだ。


 これだけ身を隠す貨物車両があると中々狙い撃ちというのも困難になってくる。面倒だから車両ごと爆発させていたが、その爆発音を聞きつけて警察が集まってきたようだ。今日のところはこの辺が潮時だろう。この新兵器の実戦データも取れたから上層部も満足するはずだ。次の機会には必ず仕留めてやるから、それまで命は預けといてやるとするか。


 そういえば日本に潜入している『鉄オタ』のミハイルからは何の連絡もないがどうしているんだ? あんまりやつを放置しておくと、鉄道に乗ってどこまでも出掛けて行ってしまうぞ。まあいいか、今は安全にロンドンを撤退するのが優先だ。


 俺はこうして対物ライフル『PGMヘカートⅡ』をアイテムボックスにしまって、ロンドンの夜の闇に姿を消していくのだった。


 






一方その頃、楢崎家では・・・・・・



「こんなにきれいな女の子に囲まれて聡史は幸せね。母としてはとっても鼻が高いわ」


 昼食を終えてお茶を口にしながら俺の母親がほのぼのとした表情で口を開く。母よ、そんなに褒めないでくれ、絶対に勘違いする人物が出てくるから! ほら言わんこっちゃない、妹の目がキラキラに輝いているよ。



「だって美鈴ちゃんは日本的な美人で、最近はなんだか大人っぽくなったというか、とってもキリッとした印象よね。なんだか小さい頃とは別人みたいよ。あと2,3年したらミス日本代表になれるんじゃないかしら」


「そんな、小母様ったら・・・・・・」


 面と向かって容姿を褒められて美鈴が珍しく照れているよ。今や中身が大魔王だから小さな頃と印象が違うのは当然といえば当然だろうな。



「フィオちゃんはまるで『フランス人形がそのまま人間になりました』的な美しさよね。初めてこの家に来た時から本当にきれいな人だと思っていたのよ」


「そんな、お母様たら・・・・・」


 フィオも美鈴同様に照れた表情をしている。彼女の容姿はあっちの世界の標準的な人種だから、地球で言えばヨーロッパ系だよな。だから俺の母親からするとフランス人形みたいに感じるのだろう。それにしてもこの家に住み込んでいるとはいえ、俺の母親を『お母様』と呼んでいたのか。なんか引っかかるけどまあいいや。



「アイシャちゃんは本当にエキゾチックな美人よね。私が若い頃はちょうどシルクロードがブームで、あなたみたいな顔立ちにとっても憧れていたのよ」


「顔立ちを褒められたのは生まれて初めてです。なんか嬉しいけど、ちょっと恥ずかしいです」


 アイシャは地元では平凡な顔立ちだと言っていたな。うん、さすがは美人の産地ウイグルの出身だけあるぞ! これは一刻も早くその地域にいるベッピンさんたちを中華大陸連合から解放すべきだな。世界中の男性が歓喜の声を上げるに決まっている。


 うん? 妹がしきりに自分を指差してアピールしているぞ。きっと母親から褒めてもらいたいんだな。流れからすると自分の番が来ると期待している目をしているぞ。



「ああ、さくらちゃんはケンカが強くてご飯をいっぱい食べるわね」


「お母さん、褒めてないよね! 絶対に私の外見に触れるつもりがないよね!」


 母よ、さすがです! 自分の娘をよくわかっていらっしゃる。兄の俺から言うのもなんだけど、妹は美人系ではないが外見はマスコット的な可愛さの見た目をしている。ちょっと癖っ毛の栗色の髪とクリクリした愛くるしい目が特徴だ。だがしかし!! せっかくのその愛くるしさを性格が台無しにしているのは云うまでもない!



「お母さんはひどいよ! 自分の娘なんだから責任もってちゃんと褒めてよ!」


 妹はどうやらご立腹のようだ。女子3人をあれだけ褒めておいて自分は放置されているのがよほど心外らしい。



「あっ、そうだわ。大福を買っておいたんだけどさくらちゃんは食べるかしら?」


「3個お願いします!」


 あっさりと折れたよ、このアホの子は! 今までの会話の流れを一切無視して急に機嫌が良くなっている。さすが長年この妹を育てて来ただけあって、母は対応の方法を熟知しているのだった。



「はー、私もあと20年若かったらみんなの中には入れるんだけどねぇ」


 母よ、無理をするんじゃありません! あなたはどこから見ても平凡な十人並みの顔だろうが! おかげで母親そっくりな俺もキッチリと平凡なつくりの顔になっている。もうちょっとイケメンだったら俺の人生ももっと変わっていたのかもしれないぞ!



「よーし、お腹がいっぱいになったから昼寝してくるよ!」


「さくらちゃん、私も久しぶりにくつろぎたいから一緒に2階に行きましょう」


 妹は自分の部屋に、美鈴は俺の部屋に階段を上がって向かう。美鈴曰く『聡史君の部屋が一番落ち着けるの』ということらしい。あんな軍オタ丸出しのグッズが大半を占拠している俺の部屋のどこがいいんだろう? 


 母親は洗い物を片付けにキッチンに向かい、リビングには俺とフィオとアイシャの3人が取り残される。



「今日の午後は何か予定があるの?」


「俺は特にないけどアイシャはどうだ?」


「私は服を買いたいです。いつまでも美鈴さんの私服を借りているわけに行きませんから。それに売店で売っていない日用品もほしいです」


 フィオの問い掛けに俺とアイシャが答える。なるほど、部隊の支給品で大抵の用事が足りてしまう俺とは違って、女の子のアイシャは色々と必要になるわけだな。そうなると・・・・・・



「ここから歩いていける距離にショッピングセンターがあるぞ。服も日用品も大抵は揃うんじゃないかな?」


「ぜひそこに行きたいです。連れて行ってください!」


 アイシャは予想外の食い付きを見せる。やっぱり何かと不便を感じていたんだな。着の身着のままで日本に亡命したから、困った挙句にアイテムボックスに入っていた異世界の服とかも着ていたし。



「面白そうだから私もついていこうかしら。警護は家を2軒丸々結界で覆っておけば問題ないし」


 フィオも身を乗り出している。おそらく美鈴と妹もきっと賛成するだろう。元々美鈴はショッピングが大好きだし、何度か服を一緒に見て回った時には散々引っ張り回された俺が音を上げた程だ。そして妹は絶対に断らない! なぜならショッピングセンターには大きなフードコートがある。そして試食もできる食品売り場・・・・・・ うん、絶対についてくるな。


 こうして俺たちは妹の昼寝が終わってから5人でショッピングセンターに向かうのだった。







 ちょっと時間を遡って、この日の朝の東京の某ホテル・・・・・・



「そうか、ターゲットが基地から外に出たんだな。そのまま監視を続けてくれ。こちらははこれから狙撃地点に向かう」


 モバイルの通話を切ってようやく訪れた日本の帰還者を仕留めるチャンスと、準備を開始している俺はドイツ連邦の帰還者のミハイルだ。


 日本に潜入してから10日近く待ってようやくターゲットに動きがあった。さすがに日本軍の基地内にいる標的に手を出すのはリスクが大きすぎるので、ここまでじっと待機していたわけだ。


 その間は特にすることもなかったので、購入した鉄道のフリーパスを使って東京中の名所を回ったよ。中々興味を惹かれる国だね、日本というのは。


 それからあの迷宮のような地下鉄の路線は全線踏破したよ。よしこれでミッションコンプリートだと思ったら俺は更なる衝撃を受けたね。東京にはメトロの路線だけじゃなくてJRや私鉄の路線があるという重要情報をゲットしたんだ。


 これがまた呆れるぐらいの膨大な路線網を誇っているらしい、地下鉄程度で満足していた自分の愚かさを知ったよ。日本の鉄道はどうやら俺の本国ドイツを上回る世界一だな。目の当たりにしてこれは白旗を掲げざるを得ないというのが率直な感想だ。


 そうそう、今度機会があったら〔シンカンセン〕にも乗りたいと考えているよ。ドイツのICEとどっちが上かを確かめたいな。さて、連邦情報局(BND)のエージェントが迎えに来たようだ。用意された車に乗り込んで目的地に行こうか。それにしても車での移動なんてずいぶん無粋だな。これだけ鉄道が発達しているんだから移動は鉄道に限るだろう。



 2時間くらい走ると車は住宅街にあるマンションに停車して、その建物の最上階の部屋に案内される。ベランダから見渡すと地上10階から住宅街がどこまでも見渡せる。そのうちの1軒の青い屋根がターゲットの家だと聞かされる。


 ベランダに設置された監視カメラの映像で家への出入りは部屋の内部で監視できるから、ソファーに腰を下ろしてアイフォンで撮影したスカイツリーから日光まで出掛けた日の映像を見る。うん、この『スペーシア』という列車は良かったな。俺の体格でもゆったり座れる座席だったし、何よりも名所と名所を直接繋いでいる点はポイントが高い。



「ターゲットが出てくるのを確認!」


 モニターを見ていた諜報員の報告で美しい車窓風景の映像をそっと閉じて、俺はアイテムボックスからHK416アサルトライフルを取り出すのだった。

 



最後までお付き合いいただいてありがとうございました。次回はマンションから狙撃を狙うドイツの帰還者と主人公たちの対決となるのでしょうか。



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