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228 伝説の始まり

ついに最後の国へ……

 3日後……


 陸地伝いに沖を航行していると、白い砂浜が広がる場所が見えてくる。



「どうやら、到着したようだな」


「浜があるから、このまま乗り上げるわ」


 俺たちは、20ノットを保って沿岸からやや離れた海域を航海してきた。もちろん海の専門家などいないので、昼間は美鈴が作り出した水流に乗って船を動かして、夜は安全第一で錨を下ろして沖合に停泊する日々を送った。


 航海の途中で、お約束のクラーケンやシーサーペントに襲われることもあったが、妹の魔力擲弾筒とアリシアとカレンの空からの攻撃によって、あっという間に退治したぞ。大したもんだな。俺の出る幕など、どこにもなかった。



 船は美鈴が重力を操って海面を滑るように進みながら、砂浜に無事に乗り上げた。大した衝撃もないままに、いつの間にか上陸していたから、手摺りに掴まっていた俺たちは、逆に拍子抜けしたくらいだ。


 梯子を下ろして砂浜に降りていく。3日ぶりに陸地に足をつけた安心感で、思わず顔がほころぶな。


 美鈴が船をアイテムボックスにしまうと、俺たちは松に似た木が茂っている林に向かって歩き出す。潮風が体を包むが、空気自体は乾燥しており、ベタついた感触は伝わってこない。



 人気のない林を歩くこと数分、妹の耳がピクリと動く。何らかの異変を察知したようだ。



「兄ちゃん! どうやら待ち伏せされているみたいだよ!」


 俺の探知には何も察知されない距離だが、妹が言うからには、何らかの罠が用意されているんだろう。



「警戒してくれ!」


 注意を促すと、俺たちは親父と明日香ちゃんを真ん中にして林をゆっくりと進んでいく。



 シュッ!


 空気を切り裂いて俺たちに向かって飛んできたのは、一筋の矢だった。先頭を進む妹目掛けて、額を射抜こうと急速度で接近する。


 パシッ!



「こんなヘロヘロの矢なんて、さくらちゃんには当たらないんだよ!」


 飛んできた矢を額の直前でキャッチした妹は、そのまま矢を投げ返す。無造作に投げたように見えて、その実は矢が放たれた場所に正確無比に飛んでいく。



 ターン!


 明らかに音速に近い速度で突き進んだ矢は、高音のエコーを響かせて木の幹に深々と突き刺さっている。相変わらず、恐ろしい子だ!


 

「余所者が! すぐに立ち去れ!」


 木の陰から姿を現したのは、まだあどけなさを残しながらも両手で弓を構えて、こちらに向けて今にも2射目を放とうとしている少年だった。


 これだけならば、村を守ろうとする子供の正義感から生まれた仕出かし程度で済むのだが、その少年はエルフのような長い耳と、青みがかった皮膚をしており、頭の両側には短いながら角を生やしている。


 この展開を目の当たりにして、黙っていられない人物が動きを開始する。いわゆる一つのお約束だから、俺は成り行きを任せることにする。



「ほほう、そなたは魔族だな。年頃には不釣り合いな良い目をしておる!」


 美鈴が面白そうなものを発見したかの表情で、ツイっと前に出る。


 すでに久しぶりの大魔王モードを発動済みのようでいらっしゃる。ルシファー様では、弓を構える少年にとって刺激が強すぎると判断されたようだ。



「おやおや? 美鈴ちゃんがヤル気になっているんだよ! この場は譲ったほうがいいのかな?」


「さくらよ! 獣人奴隷解放の際には、我は一歩引いた。ことが魔族の及ぶ話とならば、この場は我に任せてもらいたい」


「そうだね! 魔族の問題は、美鈴ちゃんお任せするんだよ!」


 さすがの妹も、美鈴に譲らざるを得ないと判断して、俺たちの立っている場所まで退いてきた。一方の美鈴…… いや、大魔王様は、威厳全開にして少年に語り掛ける。



「そこなる少年よ! 名はなんと申す?」


「アデン」


 距離が離れているとはいえ、少年は美鈴から発せられる只ならぬ雰囲気を感じ取ったようだ。その証拠に、返事をする声に若干怯えた様子を伴っている。普通の人間ならばひれ伏してもおかしくないのに、懸命に堪えて踏みとどまっている点は、称賛に値するかもしれない。



「さて、そなたは何故をもって、我らに矢を向ける?」


「余所者は、村を荒らす! 追い返さないと、家族や村の人たちが酷い目に遭う!」


 こちらに向けている矢の先端が、手の震えのせいで一向に定まらないようだ。それにしても、家族のため村のために、こうして俺たちに立ち向かうなんて実に健気なもんだな。


 美鈴から発せられる威圧感だけでも震えているんだから、会話を交わしているのが大魔王様だと知ったら気を失うかもしれない。



「アデンよ! まずはその矢を下げよ!」


 美鈴の言霊に抵抗する意思を奪われたアデンは、弓を下ろしていく。本人も気付かないうちに、思い通りに美鈴に操られているのだった。



「さて、アデンよ! そなたには特別に我の正体を明かそう! 我は暗黒と闇の支配者にして、全ての魔族を従える存在! そなたも聞き及んだことであろう、伝説の大魔王である!」


「だ、大魔王様…… ははー! 大変失礼しました!」


 美鈴が思いっきりぶっちゃけたよ。アデンは地面に頭を擦り付けるようにして、ひれ伏している。


 他の種族には理解不能だが、魔族には魔王の存在を敏感に感じ取る能力がある。まして美鈴は、魔王すら歯牙にもかけない大魔王様だ。名もなき少年がこうしてひれ伏すのは、当然の成り行きであった。



「アデンよ! 顔を上げよ! 今からそなたの村に案内せよ!」


「だ、大魔王様! ご案内いたします」


 さすがは美鈴だな。力による支配ではなくて、大魔王の権威によってアデンを簡単に従わせている。


 こうして俺たちは、林を抜けて村に向かうのだった。





 15分後……



「アデン! その人間たちは何者だ!」


「カリムおじさん、逆らっちゃダメだよ! 俺の口からは言えないけど、凄い人なんだ!」


「確かに只事ではない気配を感じるが、それよりも、他の種族など村に入れるのは、問題になるぞ」


「でも……」


 村に到着すると、少年アデンと門番の間でこのようなやり取りが行われる。余所者に対して警戒しているんだから、すんなりと俺たちを通すほうが、手続きとして間違っているよな。そうこうするうちに、門の前に数人の屈強な大人たちが、木の棒とか農具を手にして集まってくる。


 彼らが警戒する目を向けるが、美鈴が何ら構う様子もなく、その前に立つ。



「皆の者よ! 村を挙げての出迎え大儀である! 我は大魔王である!」


 たったこれだけで、居並ぶ村人たち全員がアデンがそうだったように、木の棒や農具を放り出してその場にひれ伏す。この世界の獣人たちが妹に好意を向けたように、魔族たちは大魔王の絶対的な権威に無意識に刷り込まれたレベルで従ってしまうのだった。



 村に入った俺たちは、コテージ型の宿泊施設を取り出して、一旦体を休めると同時に、簡単な食事をとる。宿舎の外では村人全員が集まって、大魔王様のご尊顔を一目見ようと、祭りが始まったかのような大騒ぎであった。



「ごちそうさまでした! お腹がいっぱいになったんだよ!」


 最後まで皿を積み重ねていた妹が箸を置くと、昼食が終わる合図だ。テーブルの上を片付けてから、ようやく美鈴は外へ出て、待ちかねていた村の者全員に挨拶と顔見せを行う。



「村の者たちよ、出迎えを感謝する。村の代表者は中に入れ!」


 たったこれだけの一言でも、言葉を掛けてもらった村人は感謝感激の模様だ。中にはさめざめと涙を流して感極まっている者まで現れる始末であった。


 その中で、村長は緊張でコチコチになりながら、宿泊施設に入ってくる。彼にしてみれば、王宮に通されたかのような、人生の宝になるような一大事であったのかもしれない。



「そなたが村長であるか?」


「大魔王様! 初めてお目通りいたします。この村で村長を務めます、ガウテと申します」


 ソファーに座った美鈴とは対照的に、床に敷いてあるジュウタンにひれ伏して村長は顔も上げられない様子。



「かような態度では、話がしにくい! 顔を上げよ!」


「大魔王様! し、失礼いたします!」


 ソファーから見下ろす大魔王とは視線も合わせられない様子の村長、緊張で顔色が真っ青になっている様子に、奥で見ている俺たちが気の毒な心地を感じる。だが魔王に従うのは、魔族にとっては持って生まれたさがなので、村長にとっては当然の態度なのだろう。



「見るからに貧しい村であるな。原因はあるのか?」


「恐れながら大魔王様に申し上げまする。数年前までは、畑から作物が採れておりまして、海から獲れる魚介類とともに、そこそこの生活をしておりました。しかしながら、我らがどうすることもできない呪いによって、川の水が毒を帯びて畑の作物は収穫ができずに、現在困窮しております」


「呪いか…… なるほど、覚えておく。して、余所者に対してこれほど警戒しているのは、いかような理由であるか?」


「はい、口にする物が減ると、余所から奪おうとする者が出てまいります。無法者に村が荒らされれば、我らは生きてはゆけませぬ。当地の魔王様がご存命の頃は、それでも皆が力を合わせて貧しきを耐えておりましたが、ご崩御されて以来は世が乱れるままでございます」


「そうか。村を取り巻く困難を取り除くは、我の務めでもある! 我の力で、近いうちに呪いを解くゆえに、楽しみにしておるのだ!」


 なるほど、聞こえてきた話では、この国を治めていた魔王が亡くなって、その後釜が決まっていないんだな。統治者不在で、国中が乱れているところに持ってきて、川の水が農業に使用できないのでは、益々混乱に拍車をかけるだろう。


 まあ、大魔王様が乗り出せば、あっという間に解決するだろうから、お任せする限るな。



 


 翌日……



「皆の者! 見送り大儀である!」


 大魔王様が出発するとあって、村人が総出で門に集まって見送りをする。村長に許可をもらって、アデンは案内役として妹の隣の御者台に座っている。



「大魔王様! 何もない村ですが、ぜひまたお越しください!」


「川の呪いが解けるのを、心から待っております!」


「大魔王様、バンザーーイ!」


 こうして俺たちは、アデンの案内に従って、川の上流を目指して出発していくのだった。 

 




 馬車は海岸から離れて、少しずつ陸地の奥へと入っていく。アデンの村ではあまり気づかなかったが、内陸部は雨が少なくて乾燥した気候のようだ。荒れ地に大きな岩が転がり、時折強く吹き付ける風で砂ぼこりが巻き上げられる。


 こんな気候では、川の水を引いてこないとまともに作物を育てられないだろう。その水が毒を含んでいるなんて、付近の農家にとっては由々しき問題だな。


 アデンたちは海から獲れる産物があるから生活を維持できているけど、もっと奥地に行けば困窮している人たちが多いのかもしれない。経済的に苦境に陥ると、人々はその日の生活に追われて国は荒廃する。他人の財産を奪おうとする無法な連中が跋扈する社会で、最も大きな犠牲を払うのは、常に貧しい庶民だ。


 大魔王様は一見恐ろしいが、庶民の生活を一番に考えるからな。必ず多くの人々を救う行動に出るだろう。


 妹が奴隷として扱われていた人たちを救い出したように、大魔王様も困っている人には救いの手を差し伸べるはずだ。だからこそ、以前の世界では滅び掛けていた魔族の国を見事に立て直して、約1年で隣接する帝国と拮抗する国力を誇る近代国家を作り上げてしまったのだ。その手腕に、今回も期待するとしよう。





 馬車に揺られること約2時間、大魔王様は……


 荒野を進む馬車は、小高い丘に差し掛かるわ。岩がゴロゴロ転がっている狭い道を登っていくと、中腹辺りでさくらちゃんが馬車を停るわね。何かあったのかしら?



「美鈴ちゃん! また待ち伏せだよ! 今度は7,8人いるみたいだね。さくらちゃんが華麗にぶっ飛ばしてもいいんだけど、どうしようか?」


「私が行くから、この場で待っていてちょうだい」


 私は、馬車から降りて一人で上り坂を進んでいく。敢えて大魔王モードを発動せずに、素の状態で相手の様子を観察しようと目論んでいるのよ。盗賊とはいえ、それぞれが事情を抱えているかもしれないから、私が救いの手を差し伸べるに相応しい人間か見極めてやるつもりよ。



「コソコソ隠れていないで、この場に出てきなさい!」


 魔法で拡声した大魔王の言葉が一帯に響くと、岩の陰から剣や斧を手にした男たちが、ニヤけた笑みを浮かべながら姿を現すわ。その人数は、さくらちゃんの指摘通り全部で8人ね。



「へへへ、最近カモが少なかったから、俺たちも困っていたんだよ! 身包み剥いでからたっぷりと楽しんでやるぜ!」


「これだけの上玉は、中々お目にかかれないぜ! 俺たちが楽しんでから、女郎屋に売り払おうぜ!」


「馬車にはまだ他に女が乗っているようだから、いい儲けになりそうだ!」


 聞くに堪えない野卑な言葉を口にしながら、武器をひけらかして私にに近づいてくるわね。どれどれ、相手をするのも嫌になってくる連中だけど、これが、大魔王が与える最後の慈悲よ。 



「誇り高い魔族が盗賊に身をやつすとは、誠に情けない限りね! 改心する気があるのなら、この場で私に跪きなさい!」


「こいつは気でも狂っているのか? 俺たちを相手にして、女一人で立ち向かえるとでも思っているのか?!」


「こういう気位が高い女を屈服させるのも、それはそれで面白いからな!」


「いい声で鳴かしてやるぜ!」


 どうやらこの連中は、何を言っても無駄なようね。骨の髄まで盗賊稼業が染みついてしまっているみたいよ。生かしておいても、いずれ罪もない人々に害をもたらすでしょうね。汚物は消毒しましょうか。



「3人で女を押さえ付けろ! 1発殴れば、大人しくなるだろう! 残った5人は、馬車を取り囲め!」


「度し難い馬鹿ね! 魔族の誇りなど微塵も感じないわ! 今、この場で消えなさい! ヘルファイアー!」


 ボッ! ボッ!  ボッ! ボッ! ボッ! ボッ!  ボッ! ボッ!


「「「「「「「ウギャァァァァァ!」」」」」」」


 合計8つの漆黒の火柱が上がると、男たちの体は一斉に燃え上がるわ。あっと今に炎は消えて、白い灰が風に流されて飛んでいく。


 よく覚えておきなさい! 大魔王は無制限に誰にでも救いの手を差し伸べないのよ! 私が助けるに値しない者は、こうして片っ端から灰にしていくわ。




「アワワワワ! ひ、人が燃えちゃった!」


「おやおや? アデン君は、魔法を見たことがないのかな?」


「魔法は使えるけど、あんなに勢いよく人が燃えるなんて……」


「気にしないでいいんだよ! 燃えたのは悪人だからね。美鈴ちゃんは、悪い奴は許さないよ!」


 御者台では、さくらちゃんとアデンが話をしているわね。そういえば、アデンはどの程度魔法が使えるのか、聞いていなかったわね。時間があったら、魔法の訓練でもしてみようかしら。




 盗賊退治が終わると、馬車は何事もなかったかのように動き出すわ。


 でも、想像以上にこの国は荒廃しているのね。その後も3回盗賊が立ちはだかって、悉く灰にされていったわ。本日は、ヘルファイアーの大安売り状態ね。普段よりも5割引きのお値打ち価格で、放ってやるつもりよ!



 夕暮れが近づいてきたから、アデンの案内に従って付近にあるやや大きな村を目指して進むわ。もうすぐその村が見えてくる距離になって、さくらちゃんが異変を発見したのよ。



「美鈴ちゃん! 村の方向から火の手が上がっているよ!」


「さくらちゃん! 馬車を停めて!」


 私は馬車の外に飛び出ると、アリシアとカレンに応援を求めるわ。



「村が襲撃されている可能性が高いわ。二人とも、私と一緒に空を飛んで、村に向かってもらえないかしら?」


「美鈴さん、もちろん同行します!」


「急ごう!」


 私たち3人は、背中から翼を広げて大空へ飛び立つ。煙が立ち上る方向に飛んでいくと、すぐに村の惨状が上空から見渡せるわ。宙を飛びながら、ルシファーと入れ替わっておきましょう。どんな影響が出るか未知数だけど、非常事態だから仕方がないわ。はい、チェンジ!



 あの娘は! 我が書物でも見ようかという時に、急に呼び出しおって! 明日香なる娘が所持しておった、ワンピー〇なる漫画が、現在我のお気に入りなのである! 我の楽しみを邪魔するとは、誠に気が利かぬな!


 どれ、村がどうだとか騒ぎが起きている気がいたしてくる故、下界を見渡してみるか。


 ほうほう、確かに村の各所が燃えておるようだな。放置しておくのも、どうやら忍びないようである。羽虫のような存在の人が右往左往する様には、哀れをもよおすばかりである。



「凍火!」


 その一声で、燃え盛っている炎が凍り付く。ルシファーの力なれば、このような些末な魔法など、物の数ではない! 火が燃え広がるのを食い止めてから、我は付き従う両者に声を掛ける。



「ミカエルよ! そなたには、村人を救ってもらいたい!」


「謹んで拝命します」


「アリシアは、好きに暴れて構わぬ! 手向かいする者には情けなど無用!」


「任せておけ!」


 天使の姿をしたミカエルは、上空から光を飛ばして倒れている村人を回復して回る。自由に動いてよいと許可を得たアリシアは、手にするロンギヌスを縦横に振り回して、野盗と思しき連中を成敗して回っておる。


 さて、我はこの場の収拾に動くとしようか。



「者共! その場に控えよ!」


 上空から響く我の声は、混乱した村の時間を停止させた。現実に時間を停めたのではなくて、人々が凍り付いたように動きを停止して、我がいる上空を呆けた表情で見上げているのだ。



「我は暗黒と闇の究極の支配者ルシファー! 同時に全ての魔族を統べる大魔王である! 村の者は、そこなる天使の下へ集まるのだ!」


 その声に魂を抜かれたかの表情で、村人たちはゆるゆると動き出す。逃げまどっていた彼らは、ミカエルが宙を舞う下に集まってくる。



「アリシア! 村人以外はその場で命を絶て!」


「いいのか? 20人程度残っているぞ」


「構わぬ! 我が手を下してもよいのだが、我の力では、村ごと破壊してしまいそうだ」


 ルシファーとなった我の力は、迂闊に放てない。剣を振るっただけでも、この程度の村は吹き飛んでしまうであろ。その点でアリシアは、小回りが利く。このような場面で、獣神殿と並んで最も力を発揮してくれるのだ。


 当のアリシアであるが、このところ目に見えて力が上昇しておる。おそらくは、先日神の慣れの果てにとどめを刺した際に、その功績によりて神殺しの称号でも得たのであろう。当人がどのように自覚しておるかは、未だ未知数であるが……



 どれ、村人の治癒は全て完了したようである。さすがはミカエルであるな。良き仕事をする。


 アリシアも、野盗どもをすっかり片付けたようだな。


 それでは、我も一仕事するとしようか。



「再生!」


 我の体から膨大な魔力が発せられるとともに、燃え掛けた家々が映像を逆回転するかのように元の姿を取り戻していく。これこそが、ルシファーの力である。


 どこぞの破壊神は壊す専門であるが、我のように神として覚醒した者は、こうした力を振るえるのである。あの者も、早いうちに覚醒するとよいのであるが…… まあ、それは星々の動きに左右される故、いつになるかは現段階では我にもわからぬ!


 どれ、地に足をつけるとしようか。



 我が地に降りて、背中の翼をたたむと、我を取り囲むようにして村人が跪く。



「も、もしや…… あなた様は?」


「見ての通り、我は大魔王!」


「「「「「「「「「「「ははーーー!」」」」」」」」」」


 村人全員が、一斉にひれ伏した。かように我に従う民ならば、喜んで救いを齎さんという心地がしてまいる。



「我が、この地を再び豊かな大地に蘇らせる! そなたらは、その日を待って正しく暮らすのだ!」


「「「「「「「「「「「大魔王様の仰せのままに!」」」」」」」」」」」


 こうして、この村から『天使とドラゴンを引き連れた偉大な大魔王が降臨した!』という伝説が、ヘブロン王国に広がっていくのだった。


 まことに良きことであるな! 我に従う魔族であらば、我を崇めるのは最も正しき行い! いずれは国を挙げて、我を奉るがよいぞ!


 そうなる日は、近いように気がしてまいる。長きに渡って微睡んでいた我の魂が、汝らの信仰によって正しく輝くのである!

大魔王様の力、おそるべし! 次回はヘブロン王国で大暴れして…… この続きは、水曜日に投稿します。どうぞお楽しみに!


評価とブックマークをいただきまして、ありがとうございました。皆様の応援を心からお待ちしております。


それから、後書きに掲載しておりましたオマケのお話の続報です!


第1話を、あっと驚く内容に書き直しました。あのさくらが、〇〇〇キャラに変身! このお話とは真逆の性格になっています。近いうちにお目見えするかもしれませんので、その際はお知らせいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] さくらは獣人系全般。大魔王様は魔族。破壊神は何だろうか…。まさかの誰もいないパターンなのか。ただでさえ黒一点で肩身が狭いのに。
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