224 日本人の魂が燃え上がる時
新しい国に向かって……
ジェマル王国西部の集落を占拠していた集団の盗伐は、俺が便所スリッパと命名した神の慣れの果てが滅びたことによって、最終的な解決を迎えた。
無事に依頼が果たされたので、訓練のために俺たちに同行した冒険者見習いとは、この場でお別れだ。
「ボス! お世話になりました!」
「厳しい訓練で身に着けた技術は、絶対に忘れません!」
「もっと色々教えてもらいたかったです!」
獣人たちが、涙を流して妹の周囲に集まっている。彼らは血反吐を吐きながら、魔物を倒すための技術に磨きを掛けてきた。ひと月少々の短期間で、それぞれがB~Cランクのベテラン冒険者に匹敵する戦闘術を手にしていたのだ。
しかも、単身で突出しがちな獣人たちに集団戦闘やパーティー間の連携を叩き込んであるから、個々の戦闘力を上回る相手に対しても、力を合わせて対抗する術まで身に着けている。このまま経験を重ねていけば、立派な冒険者として活躍するだろう。
「うんうん! これからもしっかりと技術を高めて、強い冒険者になるんだよ!」
ドヤ顔で訓辞を垂れている妹…… 確かに、対魔物戦では並ぶ者がない第一人者だから、この場のエラそうな態度は見逃してやろう。
その横では……
「教官殿! 教えていただいた魔法の数々、我らにとっては生涯の宝です!」
「これほどまでに高度な魔法を操れるとは、この世界の魔法理論が大きく書き換えられてしまいます!」
ハーフエルフたちが首を垂れて、美鈴を取り囲んでいる。呪文の詠唱が必要とされていたこの世界の魔法界に、無詠唱で魔法を発動する方法を持ち込んだだけでも、革命的な出来事だった。
その上で、科学的な理論を巧みに用いた効率的な術式を教えたものだから、この世界では大魔法師と認定される魔法使いが、彼らの間からゴロゴロ排出されていった。しかもハーフエルフたちは、強制的に俺の魔力を吸収させられて魔力量が何倍にも増えているから、その魔法戦力だけでも軍事的な均衡を崩してしまうには充分であった。
「新たに魔法学院が建設されれば、あなた方に匹敵する魔法使いが大勢養成されるでしょう。後輩に追いつかれないように、あなた方も自らの魔法をより高めるのです」
「精進いたします!」
美鈴が教え子のハーフエルフに叩き込んだのは、何も魔法技術だけではない。錬金術の初歩や道具に対する魔法の付与術など多岐にわたる。
どれもがうまく活用すれば、戦闘だけではなくて一般の人々の生活様式まで一変する、素晴らしい魔法技術の数々だ。
めぼしい産業がなかったジェマル王国が、将来魔法技術大国に成長する可能性をも秘めているのだった。
別れを惜しむ見習いたちに手を振られて、俺たちの馬車は西を目指して出発する。見送る彼らは、サンシーロに戻って、今回の顛末を報告する役目を申し付けてある。
今回の依頼は、国王から直接冒険者ギルドに持ち込まれた案件なので、便所スリッパを含むナウル王国から流れてきた騎士崩れたちを完全に排除したのは、政府とギルド双方から高く評価されるだろう。
依頼に伴う契約金は金貨500枚。俺たちは受け取らずに、全額見習いたちに授受する権利を進呈した。
これから冒険者として活動していく上で、整えなければならない装備はたくさんある。餞別代りに受け取ってもらいたい。
さて情報によると、ジェマル王国の西側には西海国という国があるらしい。キアーズ大陸の西側の海岸沿いにあるから、西海国と名付けられているそうだ。
限りなく安直なネーミングだと思うが、俺たちが命名したわけではないから仕方がない。聞くところによると、この国は黄人族の国家で、風習や文化が他の国とは大きく異なっているそうだ。
どんな国なのか、楽しみになってくるな。出来れば平和な国だったら助かるんだが……
フランツ王国を発ってから、常に大人数で移動を繰り返してきたから、こうして俺たちだけになってみると、なんだかこじんまりとした集団に感じてくる。元々はこの人数だったのだが、一時は旅団規模まで人数が膨らんだからな。大勢の人間に囲まれた喧騒とは打って変わって、ひっそりとした静かな旅路が始まる。
土が剥き出しの地面に細々と轍の跡が残る街道を、馬車は進んでいく。時折森の陰から顔を覗かせるゴブリンなどは、御者台の妹が衝撃波で吹っ飛ばしていく。この辺では、森の奥深くに入らないと大型の魔物は出てこないようだ。
さして風景に変化がない街道を延々と進むこと約10日、ようやく西海国の最初の街の門が見えてきた。だがそこは、なんとなく見覚えがあるような……
石造りの建築物が大半を占めているこの世界で、俺たちの正面にある門は木造だった。
そうだなぁ…… 日本のお寺の山門に、ほんのちょっと中華風のアレンジを加えた造りとでもいうか。もっと具体的に説明すれば、日光東照宮の陽明門を地味にした感じと言えば伝わるだろうか。
門の造りに意匠を加えた様式であると同時に、材木を高い技術で組み合わせて構造物の剛性も保つという、中々高度な建築術なのだ。
それだけに、日本人の俺としては、懐かしい思いが込み上げてくる。日本の古式ゆかしい建物だと言われても、疑いなく信じてしまう。
この感慨は、美鈴やカレンも同様だった。ちなみに妹も『なんだか日本とよく似ているよ!』と言っていたし、父親もちょっと信じられないという表情だった。アリシアは日本をほとんど知らないから、特にこれといった感想は浮かばないようだな。そして、明日香ちゃんは……
グッスリ寝ている。ついさっきまで街道を走らされた疲労で、揺すっても全然起きる気配がない。レベルが上昇して、体力もアップしているはずなのに……
門前には、二人の門番が長槍を手にして立っているが、その顔立ちはどう見ても日本人と変わりがなかった。両者とも、袴に道着を着込んで、頭には簡素な兜を被り、体には剣道で用いるような胴と垂を着けており、腰には大小二振りの刀を差しているな。
「兄ちゃん! これはビックリだね! サムライが現れたよ!」
確かにその通りだ。文化や風習が違うとは聞いていたが、ここまで昔の日本と似通っているとは、意外を通り越して驚きしかない。
「おーい、止まってくれ! どこの者だ?」
門番のサムライが俺たちを呼び止める声が聞こえるが、まったく警戒する様子を感じられない。おそらく御者台で手綱を握る妹を見て、この街の住人だと思っているのだろう。
馬車のドアを開けて降りようとするが、一番ドアに近い部分に障害物があった。グッスリと寝込んでいる明日香ちゃんだ! 美鈴! 任せるぞ!
「明日香ちゃん! クッキーを食べるかしら?」
美鈴が耳元で囁くと、明日香ちゃんは目を閉じたまま口を開ける。どうやら放り込んでくれというサインらしい。食べ物の名称を聞くだけで妹ですら目を覚ますというのに、この明日香ちゃんの態度は実に怠惰極まりない!
疲れて寝ていたいのはわかるが、このままドアの前に座っている明日香ちゃんを何とかしないと、俺たちが外に出られない。
「おーい、さくら! 明日香ちゃんを何とかしてくれ!」
御者台の妹に頼んで外からドアを開いてもらって、無理やり明日香ちゃんを外に引き出す。これだけされても目を覚まさない明日香ちゃんは、妹の手によって草むらに上に放り出されている。気の毒とは誰も思っていないのは、本人には内緒にしておこう。
「俺たちは、ジェマル王国からやってきた冒険者です」
「そうだったのか! てっきり街の住人だと思っていたよ! ということは、東側の街道は通行可能になったのか? 賊共がのさばって、封鎖されていると聞いていたが」
「俺たちが討伐してきました。もう安全ですよ」
「それは朗報だ! さっそく城に報告しなければならないな!」
俺の話に、門番は驚きとともに喜びを隠せない様子だ。街道の安全は、こうして門を守る役目の人間にとっては、重要事項なのだろう。
一人一人の冒険者カードを確認する門番だが、カレンとアリシアの二人を見て、物珍しそうな表情を浮かべている。
「この国にわざわざ白人種がやってくるとは! 滅多にない機会だからこの国のいい所を見聞して、方々に広めてもらいたい。どうかゆっくりしていってくれ」
「ありがとうございます」
どうやら二人を、北方の国からやってきた白人種だと勘違いしているようだ。確かに外見だけ見れば、区別がつかない。
だが人種が違うからといって、門番の態度からすると警戒はしていない。どちらかというと、来訪を歓迎している雰囲気が伝わってくる。すると、その横から……
「門番の二人は、お侍さんなのかな? 刀を腰に差しているけど、実はさくらちゃんも持っているんだよ! 見せてあげようか?」
「ほほう! どのような刀か、見せてもらいたいな」
二人の門番は、妹の発言に興味をそそられたような表情で喰い付いてくる。その態度に応えて、妹がアイテムボックスから取り出したのは……
「この刀の銘は〔鬼斬り〕だよ! 皇帝オーガの角を研いで作ったんだ!」
「なんという業物! 恐ろしげな切れ味を秘めていそうだ!」
「このような見事な刀は、さすがにわが国にもそうそうないぞ!」
スラリと鞘から抜かれた鬼斬りの刀身に、門番たちは目を丸くして一心不乱に見つめている。優れた刀の造形美をその目に焼き付けようかという、武人としての本能のようなものかな?
妹が刀を鞘に納めると、彼らはハアァァ! と深いため息をつく。それほど鬼斬りの造形は、彼らの心を捉えて離さなかったようだ。やがて門番たちは、気を取り直したかのように真顔で妹に話をし出す。
「かような天下の名刀を所持するところを見ると、さぞや名のある冒険者なのだろう! 冒険者ギルドにとある重大な依頼があるから、どうか話だけでも聞いてもらえぬだろうか?」
「さくらちゃんに、お任せなんだよ! どんな魔物でも、簡単に片づけちゃうからねぇ!」
「これは何とも心強い! この街の者にとっても非常に困った事態なのだ。どうか、解決してもらいたい」
「いいよ! 大船に乗った気持ちで待っているんだよ!」
こうして俺たちは、話の流れで冒険者ギルドへと向かう。木造建築の家屋が並ぶ江戸時代のセットのようなこの街にあって、ギルドのこの建物だけは頑として石造りの建築で、周囲の風景に溶け込むことなく異彩を放っている。
「門番から聞いたのだが、この街で重要な依頼があるそうだな?」
「はい、街の者全員が大変困っております」
登録カードをカウンターに置いて、対応する受付嬢から話を聞き出す。妹は、ようやく目を覚ました明日香ちゃんや他の女性陣を引き連れて、飲食コーナーに直行した。親父までが、酒の匂いに招かれるようにして付いていきやがったぞ! かくして、俺一人がカウンターで話を聞く羽目に……
「具体的に、どのような依頼か教えてくれ」
「この街から歩いて半日の場所に、オーガの集落ができたんです」
「かなり近いな。街に危険が及ぶのか?」
「今のところは、オーガがこちらに来そうな気配はないのですが……」
カウンター嬢は、言葉を濁す。街にはさしたる影響がないにも拘らず、なぜ街の住民が困っているのだろう?
「この街に対して、オーガたちはどのような影響を及ぼしているんだ?」
「はい、なんと申しましょうか…… オーガが集落を作った場所は、有名な保養地でして……」
「保養地? それがどうした?」
「そこには温泉があるんです。娯楽が少ない住民にとっては、温泉に浸たるのが唯一の楽しみなんです」
「その依頼、俺たちが受けたぁぁぁ!」
温泉だぞ! この漢字でたった二文字のフレーズを聞いて、心が躍らない者は日本人ではないといっても過言ではない! 断じてそうだ! 俺の中で、他に選択肢など存在しない!
オーガを掃討して、その後温泉を楽しむ! これほど重要なミッションが存在するだろうか! 否! 断じて否!
温泉ミッション発動だ!
これは決定事項だ! 誰であろうと、異存は認めない!
だが、カウンター嬢の話には、続きがある。
「その…… 登録カードによりますと、皆さんの冒険者としてのランクは、Eですよね。この依頼は、Bランクから上の冒険者限定となっております」
ああ、そうだった! 俺たちは盗伐した魔物の大半を、まだギルドに持ち込んでいなかった。これまで回った各国では、常にゴタゴタに巻き込まれたり、国自体に金がなかったりして、引き取ってもらえなかった。
今こそ、妹のアイテムボックスに死蔵されている数々の魔物を、引き取ってもらう絶好の機会が到来したぞ!
「ちょっと相談してきますから、この件はしばらく待ってもらえますか?」
「はあ、ランクの制限がある限り無駄だとは思いますが、一応お待ちします」
こうして俺は、一旦カウンターから離れて、建物の奥にある飲食コーナーへと向かう。そこでは……
「お代わりなんだよぉぉ!」
「私も、デザートをお代わりします!」
妹が皿を積み重ねて、その横では明日香ちゃんが幸せそうな表情を浮かべている。まあ、ここまでは日常的なありふれた光景だ。だが、その奥では……
「おお! 聡史も来たか! お前もどうだ? 一杯やるか? 日本酒とそっくりな味で美味いぞ!」
親父が酒の入ったおちょこを手にして、すっかり出来上がっている。おまけに美鈴の魔法で常温の酒を熱燗にしてもらって、実に美味そうにクイッとやっているのだ。
大魔王の魔法を酒の燗に使用するとは、中々いい根性をしているな。それだけならまだしも、美鈴が面白がってお酌までしているし! 『はい、お父さん! どうぞ!』じゃないだろうがぁぁぁぁ!
しかも、カレンからおつまみの皿を差しだされて、鼻の下を伸ばしながら受け取っているぞ! ギルドの飲食コーナーを、ガールズバーだと勘違いしているんじゃないのか?
これは、母親に通報案件だな。近い将来、楢崎家に血の雨が降るかもしれない。
馬車の旅では酒類は準備していなかったから、こうして久しぶりにまともな街に入って、思いっきり羽目を外している。本当にしょうもない親父だ!
一人でオーガの集落に放り込んでやろうか? そうすれば、一気に酔いが醒めるだろう。
俺もこの場で食事を済ませると、ようやく場の雰囲気が落ち着いたようだ。俺はカウンター嬢から聞いた話を皆に告げる。
「「「「「温泉だってぇぇぇぇ!」」」」」
当然のごとく、アリシア以外の全員の声がきれいにハモった。大悪魔や天使であっても、温泉の魅力には勝てない。殊に美鈴の目がキラキラに輝いているぞ。
「さくら、アイテムボックスに入っている魔物を引き取ってもらって、パーティー全体のランクを上げてもらうぞ!」
「さくらちゃんが、いいシゴトをしたからね! ランクが高い魔物が大量に残っているんだよ!」
こうして二人でカウンターに舞い戻っていく。先ほどの受付嬢が、特に仕事もない様子で俺たちを待っていてくれた。
「この街では、どんな種類の魔物の需要があるんだ?」
「一番人気は、トラ系の魔物ですね。街を治める大名は、トラの敷物を競い合うように自慢します」
「さくら、サーベルタイガーは何頭あったっけ?」
「兄ちゃん、ちょっと待つんだよ! えーと、全部で12頭だね」
俺と妹がこっそり内緒話をしている様子を、受付嬢は怪訝な表情で見ている。さて、存分に驚いてもらおうかな。
「ここでは狭いから、解体場に案内してもらえるか?」
「はあ、こちらへどうぞ」
狭い通路を抜けた先にあるドアを開けると、そこは見慣れた場所。魔物を解体して素材を採取する解体場だ。
「さくら、一気に全部出してくれ!」
「それじゃあ、景気よくいくんだよ!」
ドシン、ドシン、ドシン、ドシン、ドシン!
妹のアイテムボックスからは、体長4メートルを超える大型のサーベルタイガーが、合計12頭取り出されて床に並べられている。
「ヒィィィィィィィ!」
この光景に泡を食った受付嬢は、解体場を飛び出していった。しばらくして、やや落ち着きを取り戻して戻ってくると、お約束通りギルドマスターを連れている。
「こ、これは……」
もちろんギルドマスターも、表情をこれでもかと強張らせたままで絶句している。Aランクのサーベルタイガー12頭が並んで寝かされている光景を目の当たりにすれば、まあ当然の成り行きだろう。
こうしてギルドマスターとの交渉の末に、半分の6頭を買い取ってもらった。買い取り金額は金貨5千枚で、どうやらこれ以上の買取りは不可能だった。その理由は、このギルド支部の金庫が空っぽになったことに起因するらしい。
だが毛皮を大名相手に販売すると、さらに倍以上の金額で取引されるそうだから、ギルドマスターはアイテムボックスに収納されていく残りの6頭を、血の涙を流しながら見ていたな。
当然俺たちの冒険者としてのランクは、暫定的にBランク相当と認定された。依頼を達成した件数が規定を満たしていないので、暫定措置となっているのは仕方がない。だがこれで、温泉ミッションに挑む条件はクリアされた!
翌日、さっそく俺たちはオーガの集落がある場所へと向かう。
元々は、この街の人たちが温泉に足しげく通っていた場所なので、道を見失う心配はない。脇街道を馬車で進めば3時間もかからないうちに到着する。
「兄ちゃん! 旅館みたいな建物があるよ!」
馬車の前方に目を向けると、確かにそこには温泉旅館の風情を漂わせる老舗と思しき建物がある。外から見た感じでは、建物自体はオーガの被害を受けてはいない様子だ。万一の危険に備えて街に退避しているんだろう。そもそもオーガが出没する場所に、温泉に浸かりに来る客などいないだろうし……
「さくら、建物に馬を繋ぐ場所はあるか?」
「裏側に行けば、馬小屋がありそうだね」
今は無人となっている旅館の馬小屋に馬車を置くと、俺たちはオーガの気配を辿って裏手にある森に分け入っていく。至極ありふれた森だが、浅い部分にオーガの集落が出来上がるなんて、相当珍しいケースだな。群れで移動していて偶然集落に適している場所を見つけて、住み着いてしまったのだろう。
10分ほど進んでいくと、妹の気配察知が敏感に反応する。
「ここから500メートル先に、大勢の魔物が集まっているから、どうやら集落のようだね!」
「それでは、正面から堂々と乗り込むか。先頭はさくらとアリシアで大丈夫か?」
「任せるんだよ!」
「大丈夫だ!」
さらに森の中を進むと、集落から離れて活動しているオーガの姿を見掛けるが、妹とアリシアが瞬殺していく。おや? アリシアの槍捌きが、さらに鋭くなっている気がするな。元々かなり高い技量を示していたが、数段階一気にレベルアップしている。一体どうしたんだろうな?
ややあって開けた場所に出ると、そこはオーガたちが住み着いている集落の入り口だった。内部には100を超えるオーガがおり、俺たちの姿を見てハッとした様子だ。
でも、何かが違うな。確かにオーガと呼べないこともないのだが、どちらかというと『赤鬼さん』『青鬼さん』という名称のほうがピタリと当て嵌まる風貌をしている。和風に変化したオーガの亜種なのかな?
だが、赤鬼さん青鬼さんであっても、その凶暴性は一般的なオーガと変わりはない。俺たちを偶然集落に迷い込んだ獲物だと勘違いして、牙を剥き出しにして襲い掛かってくる。俺たちの温泉ミッションのために、悪いが全滅してもらうぞ!
「死にたいヤツから掛かってくるんだよぉぉぉ!」
妹を先頭にして、アリシアと鎧仕様のミカエルが、槍と剣を手にしてオーガに襲い掛かる。3人の暴れっぷりは、まさに蹂躙と呼ぶに相応しい。
美鈴は、シールドを展開して、親父と明日香ちゃんを守っている。俺はその前方で、こちらに逃げてくる個体を倒す役目だ。
かくして20分もすると、息が残っているオーガはほんの一握りとなる。最後に出てきたオーガキングだが、妹が手にする鬼斬りで一刀の下に首を刎ねられて、すべてが終わった。
仕上げに美鈴が一切合切を燃やして、一件落着となる。
馬車で街に戻ると、さっそくギルドに報告だ。あまりにあっさりと解決した点にギルドマスターは本当かどうか疑わしい表情だったが、証拠に持ち帰ったオーガキングの死体を見せたら、何も言えなくなってしまった。
こうしてオーガの集落の滅亡がギルドを通して公表されると、さっそく温泉の営業が再開する運びとなる。街の人々も、久しぶりに温泉に入れるとあって、この発表を大歓迎している。
こうして俺たちは、温泉ミッションを解決した。
その結果オーガを片付けた恩人として、一番人気の宿から俺たちの元に招待状が届く。無料で泊まれる温泉宿に、俺たちの日本人としての魂が燃え上がったのは言うまでもなかった。
次回、温泉回開催決定! ポロリもあるよ!
投稿は来週の水曜日までにいたしますので、どうぞお楽しみに! 今度こそは、必ずオマケも掲載いたします!
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