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169 富士山危機一髪

いつもよりも長めになりました。聡史たちが帰国する前に……

 ドイツの帰還者を受け入れた日本政府の対応は、いつになく迅速だった。



「ドイツの帰還者4名の亡命を受け入れた。これは人権に配慮した措置であり、帰還者といえどもその人権は最大限に保障されるべきである」


 この声明は、ドイツの帰還者引渡しを求めていた欧州各国の強引なやり方に対する、痛烈な皮肉が篭った内容であった。当然ながらヨーロッパを中心に、日本に対して様々な反応が返ってくるのは言うまでもない。



 世界各国の反応は……



「ヨーロッパ域内に紛争の危険を撒き散らすドイツの帰還者を、日本が無条件で受け入れたことは遺憾である」(フランス)


「我が国と日本の共通の敵である中華大陸連合を支援するドイツに対して、これを庇い立てするような行為は、国際的な信義に反する」(ロシア)


 この2国は、日本の声明に対して強い反発を示した。だが両国とも、ドイツの帰還者を襲撃して返り討ちにあった経緯を公表されると立場が悪くなるので、今のところはこれ以上日本に対して強硬な態度を示してはいない。他の欧州各国はといえば……



「ヨーロッパの不安が、日本の措置によって一旦後退した事態を歓迎するが、引き続き注意深く推移を見守る」(ベルギー)


「日本の真意は測りかねるが、地域の安定に対して一定の評価をする」(スウェーデン)


 このような概ね中立的な見方をしている意見が公表された。各国ともに、日本が一体どのような目的で今回の思い切った行動に出たのか、成り行きを見守ろうという態度だ。だがどの国でも、ドイツの蛮行に対する脅威が取り除かれた点に関しては、胸を撫で下ろしている様子が伺える。さらに肯定的な意見としては……



「日本政府を支持する。ヨーロッパ全体に安定をもたらす勇気ある行動だ」(アメリカ)


「今回の日本の決定は、ヨーロッパ全体の危機を回避することに、大きな貢献を果たした」(イギリス)


 日本と同盟関係にあるこの2国は、肯定的な意見を公表している。さらにアメリカは、NATO加盟各国に対して、次のような声明を追加した。



「NATOは、外部からの脅威に対抗する組織であり、各国は一致して行動する必要がある。国家間の思惑で左右される事態を、アメリカは看過しない」


 この声明を要約すると、『こっちは中華大陸連合を相手にして忙しいんだから、お前らは勝手に動くんじゃない! わかったか! ああ!』という意味となる。アメリカのジャイアン気質が端的に現れた声明だといえよう。




 ダメ押しにアメリカ大統領は、SNSを利用してこそっと呟いた。



「事態を甘く見るな。日本はまだ〔神殺し〕を温存しているぞ」


 この呟きに、ヨーロッパ各国の諜報機関並びに政府の中枢は震え上がった。今から10年前、ヨーロッパに乗り込んだ神殺しと伝説の魔女との間に引き起こされた抗争によって、巻き込まれた各国の諜報機関は、要員の半数を失うという大被害を蒙っていた。再びあの悪夢が蘇ると考えただけで、どの国も以降口をつぐまざるを得なくなる。


 カイザーは住民の虐殺という目に見える形で恐怖を引き起こしたが、神殺しは一般市民の目に映らない部分で、欧州の主要国に甚大な被害をもたらしていたのだった。それが現在も彼女が伝説として語り継がれている大きな理由だ。


 それだけでもお腹いっぱいの所にもってきて、今回新たな日本の帰還者が、ヨーロッパでベールを脱いでしまった。すでに各国の間で本名が知れ渡っている、楢崎聡史、さくら、西川美鈴の3人に加えて、もう一人日本には隠し玉が残っていた。それが、大賢者フィオの存在だ。


 自信持って送り出した自国の帰還者が、フィオ一人に手も足も出なかったフランス政府は、埋めがたい戦力差を心の底から実感するしかなかった。こうして、一旦、ヨーロッパの一触即発の危機は、大幅に後退するのだった。








 4日後、舞台は富士駐屯地へと移る……


 俺たちは、久しぶりに富士に戻ってきた。もちろんドイツの帰還者たちも同道して、こうして無事に到着した。彼らは初めて見る日本の景色に見入っている。ことに雄大な富士山が間近にある絶好のロケーションに、まるで観光客のように心を奪われているようだ…… 


 違った! どうやらこの二人は、景色など目に入っていない。



「早くカレンさんに会わせてよ!」


「日本の術式に関するデータベースは、どこに保管されているんだ?」


 ハインツと博士には、世界遺産に登録されている富士山の眺望など、最早どうでもいいようだ。自らの目的以外は眼中にない。そこの二人は、もうちょっと心に余裕を持ってくれ!




「ドイツからやってきた皆さん、富士駐屯地一同、皆さんを歓迎します」


「わざわざお出迎えいただいてありがとうございます。お世話になります」


 出迎えの副官さんに、ベルガーが挨拶をしている。




「兄ちゃん! おかえり! 今回は早かったね!」


 妹がいつもの調子で出迎えてくれるな。その後ろには、軍団員がズラリと勢揃いしている。天孤と玉藻の前はピカピカの袴姿だし、親衛隊と滝川訓練生は気合が入った表情で整列している。


 さらにその後方では……


 中華大陸連合から捕虜として連行されてきたニューモデルの兵士が、10人整列しているんだが、どうも様子がおかしい。元々感情が宿らない目をしていたけど、今は輪を掛けて死んだ魚のような目になっている。一体何があった?


 おや、その横にはアイシャが立っているな。でも捕虜たち同様に、その瞳からハイライトが消え失せているぞ。どうしたアイシャ! しっかりするんだ!



「アイシャ! 様子が変だぞ!」


 俺が彼女の肩に手を掛けて体を軽く揺すると、徐々に目に感情が戻ってくる。



「聡史、どうか助けてください! 誰も止める人がいなくなって、さくらちゃんが……」


 そのままアイシャは地面に崩れ去るようにして、泣き出している。両手で顔を覆って、声を上げながらついには大泣きしてしまった。



「さくらちゃん、ちょっと聞いていいかしら? 私たちがいない間にどんな訓練をしたのか教えてもらえる?」


「美鈴ちゃん、アイシャちゃんは大袈裟なんだよ! 2時間に一度、三途の川見学ツアーに出掛ける程度だから、全然大したことないよ! 同じ訓練を経験した親衛隊は、この通りピンピンしているからね! 要は気合の問題だよ!」


 …… 妹よ、よくわかった! 今まで以上の過酷な訓練があったんだな。いい気になって、俺たちがいない間に好き勝手やってのか。アイシャが泣き崩れる訓練とは、どんなレベルなんだ? 一応は帰還者なんだぞ。



「ボスのお兄さん、失礼します。あの程度の訓練は、強くなる上で必要不可欠です! それよりも、早く私たちに魔力を分けてください!」


「そうです! ボスのお兄さんがいなかったから、魔力が増えなくて不満だったんです!」


 妹よ、ついにお前は親衛隊を、後戻り不可能な地点まで連れ込んでしまったな。修羅の道に全身スッポリと漬かり込んでいるじゃないか! こいつらは違う意味で目が危なくなっているぞ! そんなところに、マリアが口を挟む。



「魔力は簡単に上がるですぅ!」


「マリア、それ以上は何も言うんじゃない! 今の彼女たちには色々な意味で危険すぎる」


 どうやら魔力が急激に増えた件を口にしようとしたようだ。マリアはまだいいだろう。一応は帰還者だから、俺の魔力を取り込む下地があったんだと考えるとしよう。だが親衛隊は、ごく普通に生活していた女の子だ。大量の魔力を取り入れて、万一体に障るようなことになったら取り返しがつかない。



「ボスのお兄さん! 何の話ですか? 魔力がどうなんですか?」


 不味いぞ! 親衛隊の瞳が、キラッキラに輝いているじゃないか! こいつらは強くなるためだったら、多少のリスクなど厭わない。脳筋には、まともな理論など通用の余地はないのだ。そこにあるのは、唯一精神論のみと言えよう!



「その件は、もっと落ち着いてから話しましょう。この場は解散よ」


「美鈴ちゃんの言うとおりだね! それじゃあ、訓練に戻るよ!」


 よかった、美鈴が何とかこの場を有耶無耶にしてくれた。妹の号令に従って、親衛隊は移動を開始している。命令は絶対なんだな。気の毒に…… 泣き崩れていたアイシャも、天孤と玉藻の前に抱えられて、連れ去られていったぞ。どうか頑張って生き残ってくれ!


 

 駐屯地の騒がしさは、俺たちがヨーロッパに出掛ける以前と、まったく変わりはないようだ。その後、ドイツの帰還者は、東中尉が引率して、諸手続きを済ませるために別行動となる。中尉も面倒を見る対象が増えていくから、かなりご多忙な模様だ。どうか、よろしくお願いします。







 翌日……


 朝食を済ませると、俺はフィオとともに第2演習場に顔を出している。昨日帰ってきた俺を発見したナディアが、俺に抱き付きながら『お兄ちゃんと一緒に魔法の練習をする!』と、指切りを迫ったのだ。もちろん、俺にはナディアのお願いを拒む理由など、どこにもない! ということで、朝から俺はナディアの魔法練習に付き合っている。



「聡史お兄ちゃん! 今からバチカンの悪いやつを串刺しにする必殺魔法を見せるから!」


 ナディアはずいぶん快調に飛ばしているな。でも『串刺し』は、早く忘れてもらいたいものだ。俺の横に立っているフィオが、スッと顔を背けているじゃないか。これでも一応は、ナディアの情操教育に悪影響を与えた自覚があるらしい。



「飛んでけ! アイスニードル!」


 ほう、ツララ程度のサイズの氷の塊が、結構な勢いで飛び出していくな。串刺しに相応しく、先端が凶暴に尖っているぞ。しかも回転を加えているから、飛翔速度が落ちないな。



 ズン!


 アイスニードルは、見事に的の中心に突き刺さっている。これは、ナディアが串刺しを実行する日は、そう遠くない将来に実現しそうな勢いだ。一刻も早く止めたいが、かと言ってナディアの自衛手段を奪うわけにもいかない。これは結構なジレンマだな。



「ナディア、魔法が上手になったな」


「エヘヘ! お兄ちゃんに褒められて嬉しい! そういえば、聡史お兄ちゃんは、魔法が使えるの?」


 おや、ナディアから予想外の角度からのご質問だな。お兄ちゃんは正直に答えちゃうぞ!



「苦手だけど、使えないわけじゃないぞ」


「聡史お兄ちゃんの魔法が見たいの! ここでやって!」


 いいでしょう! ナディアのお願いだったら、何でも聞いちゃうぞ! 日本に戻ってからは、妹にせがまれてカキ氷用の氷を作ったくらいだったから、俺の魔法を公開する機会はなかったな。ナディアよ、その目に焼き付けるがいい! これがお兄ちゃんの魔法だ!



「ファイアーボール!」


 手に魔力を少しだけ溜めると、俺は精神を集中して『燃えろ!』と念じる。ジリジリした時間が経過して、きっかり30秒後……


 ポン!


 軽い音を発して、俺の手の平にソフトボール程度の大きさの炎が灯った。そして、俺の魔法はここで終了だ。撃ち出して的を狙うなんて、器用な真似はできない。



「聡史お兄ちゃん、それでおしまいなの?」


 ナディアの目が怪訝な光を湛えている。どうやら魔法は、的に向かって飛ばすものと思い込んでいるようだ。お兄ちゃんとしては、ここでナディアの期待を裏切るなんて不可能だ! いいだろう! 的に向かって飛ばしてやるぞ!



「トリャァァア!」


 俺は、的に向かってファイアーボールを投げ付けた。亜音速にまで加速したファイアーボールは、的に一瞬で到達する。



 ボボーン!


 うん、威力は初級魔法のファイアーボールそのものだな。小さな炎が的に当たって、拡散して消えたら、それでお仕舞いだった。普通に魔力のまま投げ付けたほうが、よっぽど破壊力がある。



「聡史お兄ちゃん、なんだか微妙」


 グッ! ナディアにダメ出しされてしまった! これは精神的なショックが甚大な質量で圧し掛かってくる。肩が重たい!



「聡史は炎を出しただけで、あとは力技で投げているじゃないの! 全然魔法になっていないわ!」


 いかん! フィオにまでダメ出しされてしまった! リディアは俺が魔法が苦手だと知っているから、このやり取りを微笑んで見ている。仕方ない、ここを名誉を挽回せねばなるまい。



「それじゃあ、これならどうだ!」


 俺はすっかりモノにしたデコピン弾を放つ。



 ドカドカドカドカーーン!


 ほら見ろ! 的は跡形もなく吹き飛んでいるぞ! ナディア、これがお兄ちゃんの実力だ!



「やっぱり聡史お兄ちゃんは凄いんだ!」


 よかったよ! ナディアが尊敬した目で俺を見てくれている。これこそが俺が求めているものだ!



「魔法に変換すると威力がなくなるって、魔法自体の定義に反旗を翻しているかのようね。通常は魔力を事象変換して、威力を増すんだけど」


「ご覧のとおりに、変換効率が話しにならないレベルなんだ。やはり、魔法は性に合わないようだ」


 フィオの指摘が正論だよな。こんな魔力の使い方をしているのは、広い世の中でも俺一人だろう。でも、ナディアが尊敬してくれるなら、細かい話はどうでもいい! 俺が求めているのは、ナディアの立派な保護者役であることだ。


 こうして午前中は、魔法の練習を見学しながら過ごすのであった。


 



「帰還者、特殊能力者は、全員図面演習室に集まってくれ」


 昼礼で副官さんから連絡が入る。戻ってきて早々なのに、また出撃があるのか? 嫌な予感を胸にしながら、図面演習室に向かう。



「兄ちゃん! 私の軍団もいい感じに仕上がっているから、出撃の話だといいね!」


「さくら、お前というやつは……」


 訓練生の身で個人的な軍団を作り上げるとは、本当に呆れたヤツだ! しかもその戦闘力は、ある程度実証済みだから余計にタチが悪い。そのうち、妹の個人的な軍団員が駐屯地の過半数を占めるのではないかと、秘かに危惧するのは俺だけだろうか?


 図面演習室には、普段よりも大勢の人数が勢揃いしている。マギーやドイツの帰還者も含んだ帰還者一同に、カレンや明日香ちゃんのような能力者と、妹の親衛隊、あとは陰陽師部隊とリディアとナディアの姉妹まで集合している。


 この場にいないのは、例の捕虜たちと、天孤と玉藻の前とレイフェンくらいだな。彼らは大妖怪3体を相手にして、過酷な訓練に放り込まれている。話によると、脱走したり逆らう意思を根こそぎ奪われて、今や正真正銘の戦闘マシーンに魔改造されているらしい。気の毒に、妹に手を出したせいで…… たぶん死んだほうがマシだと、今になって身につまされているんじゃないだろうか?


 おや、技術課の人が正面に立っているぞ。小さな箱から何かを取り出している。これからあの物体について、何らかの説明が行われるようだ。



「こちらのカードは、西川訓練生とフィオ特士の協力を得て、各属性の初級魔法と中級魔法を書き込んだICチップを内臓している物です。魔力を流すと、自動的に魔法が発動可能です。音声認識機能を搭載しておりますので、声で魔法の種別を選択します」


 ほえー! 技術科の皆さんは、またエラい物を作り出したな。クレジットカード程度のサイズしかないのに、これを持っていれば簡単に魔法が発動するのか!



「どうせ私は魔力を消してしまうから、魔法なんか発動しないですよ…… ええ、いいんです。もう諦めましたから」


 妹の隣にいる明日香ちゃんが、ブツブツ呟いているな。相当に心がヤサグレているようだ。口では『諦めた』と言いながらも、本心では魔法少女の夢を捨てきれないのだろう。そんな明日香ちゃんをまるっと無視して、技術科の説明が継続する。



「これは試作品ですので、皆さんで使ってもらって、結果をフィードバックしたいと考えています。カードは5枚あるので、これを使用して、午後は東富士演習場で魔法を撃ってみてください」


 ということなので、俺たちはマイクロバスに乗って、東富士までやってきている。図面演習室に集まった全員が揃っているので、2つのグループに分かれて50メートル先にある的に魔法を放っていく。


 俺の横には、明日香ちゃんと、彼女同様に不機嫌な表情の妹が並んでいる。



「魔法なんて面倒なだけだよ! 私には全然意味がないよ!」


「さくらちゃんはまだいいじゃないですか! 魔力があるんだから、これを使えば魔法使いになれるんですよ!」


「明日香ちゃんはわかっていないなぁ! どうして意味がないのか、今見せてあげるよ!」


 妹は、カードを手にして的の前に立つ。本当に面倒だという表情で、魔法を撃ち出す。



「はあ、しょうがないなぁ! ファイアーボール!」


 妹の手からバレーボール大の炎が飛び出していく。やったな! 大成功じゃないか! だが気が付くと、魔法を撃ち出した場所から、妹の姿が消えている。どこに行ったんだ?



「みんな、こっちだよ!」


 彼方から声がすると思ったら、妹は、あろうことか的の前に立っている。そして、自らの拳で飛んできたファイアーボールを粉砕している。…… 待てよ、こやつはファイアーボールを撃ち出してから、飛翔する魔法よりも早く的の前まで移動して、自分が放ったファイアーボールを破壊したのか?! そして、再び妹は俺たちの前に、一瞬で戻ってくる。



「ちまちま魔法なんか撃っているよりも、私の場合は、接近して殴ったほうが早いんだよ! どうしても遠くの相手を倒すときは、擲弾筒があるしね!」


 ケロッとした顔で言い放っているな。技術課の人も、お手上げといった表情をしている。飛び出す魔法よりも早く移動できる人間など、想定外にも程があるだろう。お気の毒に、データの取りようがない状況だ。



「聡史お兄ちゃん! 魔法が簡単に撃てるよ! でも串刺しにするには物足りないね!」


 ナディアはアイスニードルの尖り具合に不満といった表情だ。だから串刺しは止めなさいって! 



「私にも簡単に魔法が使えるですぅ!」


 逆に、マリアは大喜びしているな。術式を覚えなくても、お手軽に魔法が使えるんだから、彼女にとってはありがたい品だろう。



「まだ既製品レベルの出来栄えみたいね。魔法は個人によって特徴を出すものだし。それでも基本を覚えるにはちょうどいいかしら」


「そうね、練習用にはいいかもしれないわね」


 大魔王様と大賢者様は、どうやら改良の余地があると考えているようだ。開発は大仕事になりそうだな。



「聡史お兄ちゃんも、これを使って魔法を撃って!」


 ナディアがニッコリした表情で、俺にカードを差し出してくる。よし、いいだろう! ナディアの頼みを俺が断れるはずないだろう!



 俺は発射台に立つと、大きめの声を上げる。



「ファイアーボール!」


 あれ? 何の変化もないぞ! その間にも俺の魔力が、右手に持っているカードにグングン吸い込まれていく。どうしたんだろうか?


 そしてはるか上空に、新たな太陽が生み出される。真冬の弱々しい太陽とは違って、煌めくオレンジ色に輝くのは、俺が作り出したファイアーボールだ。なおもカードは俺の魔力を吸い取って、ファイアーボールに大量に供給していく。その結果として、第2の太陽は一層輝きを増していく。これって、どうやって止めるんだ?



「聡史君! 早く魔法を止めて!」


「どうやって止めるんだ?」


「魔法をキャンセルするのよ!」


「やり方がわからない!」


 その間に、俺のファイアーボールはグングン成長して、見掛けがの大きさが、太陽の5倍くらいになっている。あっ! 強烈な日差しで、富士山の雪が融け出しているじゃないか!



「カードを貸しなさい!」


 美鈴が俺の手からひったくる様にカードを奪う。どうやら魔力の供給がストップして、ファイアーボールの成長は止まったな。だが、美鈴は焦ったような声を上げている。



「魔力が巨大すぎて、キャンセルができないわ!」


 周囲はすっかり真夏の日差しが降り注ぎ、全員が暑さに堪らず、上着を脱ぎ出している。大魔王様でもキャンセル不可能って、どれだけの俺の魔力が流れ込んだっていうんだ?



「ねえ、なんだかさっきよりも、あのファイアーボールが、地面に向かって降りてきているように感じるんだけど」


「なんですって!」


 フィオの指摘に、美鈴が本格的に焦った表情になる。



「あんなのが地面に落ちてきたら、ハルマゲドンじゃないのよ! 富士を中心に半径500キロが、消えてなくなるわよ!」


 これは本格的に不味いことになった! どうすればいいんだ? 周囲がオロオロし始める中で、この人物だけは、絶対に動じなかった。


 右手にオリハルコンの篭手を嵌めると、アタッチメントで魔力擲弾筒を取り付ける。はるか上空に狙いを付けると、狙い済ました表情で引き金を引いた。



 バシュッ! キーーン!


 地上に迫り来る馬鹿デカいファイアーボールに比べると、取るに足らない小さな光が、音速を超えて飛翔する。そしてその小さな光は、巨大ファイアーボールの中心部を正確に撃ち抜いた。



 ボスッ!


 爆発する様子もなく、突如巨大ファイアーボールは消え去っていく。巨大な魔力が空気に溶け込むように霧散していく。



「どんな魔法にも、術式を書き込んだコアがあるからね。コアを破壊すれば、魔法はただの魔力に戻るんだよ!」


 ドヤ顔で擲弾筒をアイテムボックスに仕舞い込んでいる妹の姿がある。でかしたぞ! 今回ばかりは兄の不始末を妹にカバーしてもらった。心から感謝でいっぱいだ!



「楢崎訓練生は、カードに手を触れるのは禁止ですね」


「兄ちゃん、この貸しは高くつくからね!」


 その後、しばらくの間、俺が妹に頭が上がらなかったのは、言うまでもなかった。



あわやという場面をさくらのおかげでギリギリ回避! これでは兄としての面目が丸潰れ、次回、名誉挽回できるか…… 投稿は週末を予定しています。どうぞ、お楽しみに!




さて前回に続いて、またまた新型肺炎のお話をしたいと思います。


前回の投稿で、今回のコロナウイルスが細菌兵器として培養されたものではないという前提で、話をさせていただきました。なぜ作者がそのように考えるかというと、コロナウイルスではパンチ不足ではないかと考えるためです。


仮にどこかの国が細菌兵器を開発しようとしたら、致死率が高いペスト、炭阻菌、天然痘といった毒性が強力な細菌やウイルスを用いるのが通常です。


これらがポルシェだとすると、コロナウイルスは軽自動車クラスとなります。いくら改造しても元々のスペックが違いすぎて、レースをしても勝ち目はありません。無駄に改造に時間とお金を費すよりも、ペストの研究をしたほうがはるかに効率的です。


だからといって、このウイルスが自然に発生したものなのかは、今のところ資料が少なすぎて判断できません。ウイルスが分離されたというニュースがありましたから、いずれはどのような経過を経て現在のような形態になったのか、明らかになると思います。


そこでひとつの仮説として、次のように考えてみました。皆さんの考えの一環に役に立てたらと思います。


【仮説】


武漢の細菌研究所では、ウイルスが世代を経てどのように変質していくかという研究が行われていた。これはどの国でも病気の予防や感染の防止のために当然のように行われている、ごく当たり前の研究であった。


「課長、変異したウイルスの分離と培養に成功しました」


「そうか、よくやった! 実験に使用したラットは、責任を持って処分してくれ」


 こうして、多数のラットが窒素を封入した容器の中で、殺処分された。死亡したラットは、専門の処理業者に引き渡される。


「このラットは危険度Bのウイルスに感染しているから、焼却処分してくれ」


「わかりました」


 こうしてラットを引き取った業者は考える。


(待てよ、Bなら大した危険はないだろう。焼却処分すると、時間と手間がかかるから、その辺に捨ててしまえ)


 こうしてラットの死骸は空き地や山林に放置された。当然野良犬や野良猫が、何も知らずにエサとして、ラットの死体をあさる。カラスやハエなどもたかっていく。こうして、野良犬や野良猫、カラス、ハエなどがウイルスの保菌者となった。


 動物は所構わずに糞尿を排泄する。人が活動する付近で排泄された糞が、乾燥して空気中にばら撒かれる。カラスも同様に空から糞を落とす。ハエは鳥などに捕食されて、今度は捕食した鳥が保菌者として、糞をばら撒く。


 こうして武漢近辺の大気中に、ウイルスが大量に撒かれて、吸い込んだ人間が肺炎を発症する。



 と、このようなメカニズムで武漢という地域に限定して、ウイルスが広まったのではないかと考えます。ここで気をつけていたできたいのは、コロナウイルスは飛沫感染するものです。他人のツバや排泄物が体に入り込むと、発症します。空気中を漂う汚染された動物の糞が細かくなったものが原因で、人々が感染したと考えてください。


 決してウイルスが単独で空気中を舞って、人に感染するものではありません。今のところは、空気感染はしませんから、ご安心ください。


 さて、武漢の人々にはあれだけ感染が拡大しているにも拘らず、日本で発症する方は来日した中国人か、武漢に滞在していた日本人がほとんどです。


 その理由として、中国人と日本人の生活習慣の違いが考えられます。中国の食事は、大皿に料理が盛られて、それを全員が箸で取り分けて食べます。取り箸やスプーンなどが添えられてはいますが、大抵の中国人は自分の箸を大皿に突っ込みます。家庭内では、そもそも取り箸など最初から用意していないでしょう。他人の唾液が体内に入り込みやすい生活習慣を、彼らは持っています。


ホテルのバイキングなどでは、この食習慣は当てはまらないように感じますが、ところが中国人というのは一筋縄では終わりません。彼らは料理が並ぶコーナーの前で、大声でツバを飛ばしながらしゃべります。中国語というのは、発音の関係で元々ツバが飛びやすい言語です。それを大声でまくし立てれば、どうなるかお分かりいただけるでしょう。


そのほか、衛生観念などを比較しても、日本と中国の間には天と地の差があります。中国人は飛沫感染しやすい生活習慣を持っている。逆に日本人は、感染しにくい生活習慣を持っていると考えていいと思います。


ただひとつだけ不安に感じる出来事がありました。目立たないニュースでしたが次のようなものです。


・アメリカ海軍、低出力核弾道ミサイル、潜水艦に配備開始。射程1万キロ。トライデントに搭載か。


トランプ「近平君、もしも細菌兵器だったら、遠慮なく都市ごと焼いちゃうよ!」


などというメッセージではないといいですが……



感想をお寄せいただいて、本当にありがとうございました。作者冥利に尽きます。今後もどしどしお寄せいただけると、嬉しいです。評価とブックマークもお待ちしております。

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