148 それぞれの出発
先週末の投稿をすっ飛ばして申し訳ありませんでした。急いで執筆したので誤字が多いかもしれません。ご容赦くださいませ。
ガラガラと建物が崩れる轟音が響き、階段をダッシュで降りていく私たちに向かって壁や天井が崩れ落ちてくるよ! 建物の崩壊と競争のようにして地下に逃げ込むけど、足が遅いタマが遅れそうになっているね。
仕方がないから体をひょいと抱えて更に地下に向かって階段を降りていくよ。さくらちゃんのスピードはタマを抱えたくらいでは全然落ちないからね!
「主殿、申し訳ないのじゃ!」
「気にしなくていいよ! それよりも今は逃げるのが先だよ!」
階段を駆け降り続けると、どうやら地下3階まで来たようだね。ようやく危険な音が止んで周囲を見渡そうとするけど、殆ど真っ暗で特殊部隊の皆さんが照らす懐中電灯の明かりが頼りだよ。それでもひとまず全員無事に避難出来て本当に良かったよ!
「ボス、物凄い爆発でした。階段が崩れて閉じ込められたようですが、どうしますか?」
「心配しなくていいよ! どこかに出口があるはずだからね」
「さすがはボスだぜ! すべてお見通しなんだな!」
さくらちゃんはわかっているよ! こういう時はわざと楽観的なことを言って、周囲を安心させるのが第一だからね。私も階段が崩れてしまった地下からどうやって外に出ようかと頭をフル回転させながら考えている最中だよ。
「ポチ、辺りを照らす明かりを出してもらえるかな?」
「主殿、お安い御用でございまする」
ポチが狐火を4つ宙に浮かべると、辺り一帯がぼんやりと照らされてくるね。どうやらこの建物は郊外に建てられたショッピングセンターのようだよ。開業する前にテナントが集まらなくてそのまま閉鎖されたんだろうね。この辺には人が住んでいないマンションとかビルが無駄にいっぱい造られているからね。気持ちを静めて周囲の様子を観察すると、とある気配が伝わってくるね。
「どうやら向こうの方から風が流れてくるようだね。きっと外に通じる出口がある筈だよ!」
「さすがです! ボス、早速向かいましょう!」
さくらちゃんにはわかるんだよね! 地下なのにゆっくりと空気が動いているんだよ。おそらく何らかの形で外と繋がっているんじゃないかな。そのまま空気の流れを辿っていくと、こちら側にも同じような階段があったよ! でも上から崩れてきた瓦礫で塞がっているね。瓦礫の間に出来た僅かな隙間から空気が流れ込んできたんだね。
「ボス、どうやらこの階段も使えないようですね」
「諦めるんじゃないよ! この瓦礫を退かせば外に出られるからね」
「一体どうやって退かしていくんですか?」
「こうするんだよ!」
さくらちゃんは階段を塞いでいる瓦礫を慎重にマジックバッグに収納していくよ。これはニーシの街の住民救助で散々やったからね。すっかり慣れたもんだよ。上から瓦礫が崩れてこないように少しずつ順番に瓦礫を取り除いていくんだよ。
「さすがはボスだぜ! まさかマジックバッグを使うとは思わなかったな」
「天才の発想ですね。ボス、自分たちもお手伝いします!」
「危ないからそこで見ていていいよ。どこから崩れてくるかわからないからね」
親衛隊は私の手際を見て感心した声を上げているね。君たちとは経験が違うのだよ! 経験がね! ただねぇ、こうして慎重にやっているのがだんだん面倒になってきたよ。手早く片付けちゃおうかな。
「全員もっと後ろに下がるんだよ! ささっと片付けるからね」
「ボス、大丈夫なんですか?」
「いいから下がっているんだよ!」
「イエッサー!」
心配顔の親衛隊が下がったから、これで思いっきりやれるね! さくらちゃんは自分よりも遥かに大きな瓦礫に手を添えると、そのままマジックバッグに収納しちゃうよ! その横と上にあった瓦礫が崩れてくるけど、それも一気に収納するんだよ。こうして崩れる前に百烈拳のようにして手当たり次第瓦礫を収納していけば、ほら、あっという間に踊り場まで瓦礫が取り除かれているじゃないかね!
「ボス、物凄く強引なやり方ですね!」
「さすがだぜ! 崩れる前に全部収納すれば問題はないんだな」
「水面に足を付けて、その足が沈む前にもう一方の足を前に出せば、水上歩行が可能となるというのと同様の強引な理論だ!」
なんだか親衛隊が変な感心の仕方をしているようだけど、私はそんなことに構っている場合じゃないんだよ。手早く瓦礫を片付けないと、ここから出られないんだからね。
こうして全ての瓦礫を取り除くと、どうやら地上に辿り着いた模様だよ。でもここも天井崩れてすっかり瓦礫で埋まっているから、手当たり次第に全部収納するよ! こうして瓦礫と格闘すること1時間余り・・・・・・ ついに外に出られたんだよ!
「ボス、お見事です!」
「まさかこの建物の半分もの瓦礫をマジックバッグに収納するとは思わなかったぜ!」
「一生ボスについていきます!」
そんなに褒められても困るよ。この程度は私からすれば簡単な仕事だからね。おや、特殊部隊の長野中尉が何かやっているね。
「ガイガーカウンターの数値は放射線がやや高いレベルだな。なるべく早いうちにここを離れた方がいいだろう」
「そうだったね。まだこの辺は通りに瓦礫が散乱しているから、しばらくは歩いて進もうかな」
ショッピングセンターは周囲に何もない土地に忽然と現れたような感じで建設されていたから、敷地の外に出れば幹線道路は使用できそうだね。しばらく全員が徒歩で瓦礫の上を歩いて大きな通りに出るよ。
「ありゃりゃ、道路を走っていた車はどうやら全滅したようだね」
「車の残骸が道路を塞いでいますね」
ここは爆心地から7,8キロは離れている筈なんだけど、道路を走っていた車は高熱と爆風に晒されて吹き飛ばされているよ。横転したり大型トラックを中心にして寄り集まったりと散々な光景だね。どの車も真っ黒に焦げてガラスはすっかり解けているよ。これは爆発で生じた高熱が原因なのか、それともその後車両が燃えたのが理由なのかはわからないね。いずれにしても相当強力な爆発だったことが窺い知れるね。何とか乗り切れて良かったよ!
「仕方がないからこのまま市街地に向かって歩こうかな。放射能は大丈夫なのかな?」
「2時間でレントゲン検査1回分といったところですね。あまり長時間この付近の空気に晒されるのはお勧めできません」
「それじゃあ急ぎ足でここを離れるよ!」
「「「「了解しました!」」」」
全員揃って行軍開始だね。特殊部隊の皆さんを含めて少々歩いたくらいではへこたれないメンバーだから助かるよ! やっぱりいざとなると物を言うのは体力だね。しっかりと鍛えていれば少々の困難は乗り越えられるんだよ。私の持論がこのような形で証明されているね。体力は絶対に裏切らないからね!
「爆心地から10キロ圏内を越えました」
「路上で大破した車ももう殆ど見当たらないね。それじゃあ装甲車に乗り込もうか」
「それがいいでしょう。幸いにこの装甲車は放射能汚染地帯でも活動可能な仕様ですから」
「それじゃあこの場に取り出すよ!」
アイテムボックスから装甲車を取り出すと、素早く全員が乗り込むよ。すぐに取り出す必要がある物はアイテムボックスに、どうでもいい物はマジックバッグにと、さくらちゃんはちゃんと区別して収納しているのだ! どうかな、この用意周到さは? ちなみに私はゴミもちゃんと分別して外に出すタイプなんだよ。
「ボス、これで一安心ですね」
「あとはまた港から船で脱出すればミッション完了です!」
「教官殿、またあの船に乗るんでしょうか?」
新入りが泣き言を言っているよ。核爆発に比べれば船酔いなんてどうでもいいと思うんだけど。おや、車内に入っていくる無線に耳を凝らしていた野上少尉が表情を曇らせているよ。
「さくら訓練生、無線の内容に集中してほしい」
「なになに」
野上少尉は中国語がわかるんだね。さくらちゃんも異世界で得たスキルでどんな言葉でも理解できるんだよ。でもどういう訳だか英語だけはチンプンカンプンなんだよね。きっと学校に通っている頃に散々植え付けられた苦手意識が働いていると思うんだよ。マギーちゃんは私としゃべる時には気を使って日本語で話してくれるんだよね。
さてさて、無線の内容はと・・・・・・
「泉州ミサイル基地で自爆用の核爆弾が起動した。何者かの破壊工作と思われる。国家の威信に懸けて侵入者を捕らえよ!」
「了解しました! 現在泉州の陸上部隊はほぼ壊滅状態です。隣接する県から応援部隊を掻き集めております」
「集結を急げ! それから海上は完全に封鎖しろ。領海の外に出ようとする船舶は絶対に逃がすな!」
「了解いたしました」
大体こんな感じの通信内容だったね。これだけの騒ぎを起こせば、中華大陸連合の軍幹部が激おこになるのも無理はないだろうね。
「さくら訓練生、どうやら海に出て離脱するのが困難な状況となっているようだ」
「それは困ったね。すぐには日本に戻れそうもないということだね」
「現状はその通りだ」
どうしようかな・・・・・・ 強行突破という手もあるんだけど、海の上というのは陸上よりも力を発揮し難いのは事実なんだよね。上陸する時はヘリや戦闘機も撃ち落したんだけど、大量に動員されるとちょっと手を焼きそうだよね。その時、さくらちゃんの天才的な頭脳に閃きが!
「ここから香港までは距離はどのくらいあるのかな?」
「直線で7,800キロ程度ですね」
「意外と近いんだね! それじゃあこのまま陸上を進んで香港を目指すよ!」
「無謀過ぎます! 途中には多数の基地が存在します!」
「海で戦うよりは陸上の方が分がいいからね! 食料はあと5日分はあるから、なくなる前に何が何でも香港に到着するよ!」
そうなんだよ! 香港まで行けば兄ちゃんたちが攻略戦に参加しているから、合流して安全に日本に戻れるんだよ。こんな素晴らしいプランを思い付くなんて、本当にさくらちゃんは天才だね!
「野上少尉、懸念はもっともだと思うが、さくら訓練生の案が上策だと思うぞ。中華大陸連合は泉州の市街地と港を押さえようとするだろうが、我々はその裏をかいて内陸部に侵入していくんだ。敵が手薄な場所を常に突いていくという点では、この案は合理的に思えるぞ」
「長野中尉、それはその通りですが、補給に難があります」
「常識的にはその通りだろう。だが今回の作戦は魔力を用いた非常識な作戦だ。我らの常識で測ってもしょうがないだろう。補給は食料さえあれば問題ない。魔力カートリッジにもまだ余裕がある。あと5回は同様に敵基地を襲撃可能だ」
「承諾いたします。長野中尉の仰るとおりです」
うんうん、これで話がまとまったようだね。あとは私たちが通っていくルートの選定だよ。なるべくなら戦闘は最小限で済ませたいからね。さくらちゃん個人的にはあと10回でも20回でも基地を襲撃して構わないんだけど、あまり派手にやり過ぎると敵の目を引いちゃうからね。今回はなるべくこっそりと香港に向かう点がポイントだよ! ルートの選択を考えていた長野中尉が顔を上げるね。
「よし、ここから内陸部に入って泉州市街地は迂回しよう。かなり遠回りにはなるが成岩市、梅州市を抜けて河源市から香港を目指そう」
ふむふむ、地図を見せてもらったけど、かなり海岸から奥に入り込むルートだね。でもその分警戒は緩やかになっていそうだよ。順調に行けば3日くらいあれば走破可能だけど、途中で戦闘が始まったらもっと時間がかかるかもしれないね。
「それじゃあ出発するよ!」
こうして装甲車は西を目指して出発して、さくらちゃん軍団は香港を目指して転戦して行くのでした。
その頃、海南島では・・・・・・
「中華大陸連合の福建省泉州で大規模な核爆発を観測しました! 爆発規模はヒロシマ型原爆のおよそ10倍と推定されます」
その一報に三亜市の軍港に待機している特殊能力者部隊全員が凍り付いた。泉州・・・・・・ そこは俺の妹たちが戦略ミサイル基地破壊のために出撃している場所に他ならないからだ。
「さくらたちとは連絡はつかないのか?!」
「依然として連絡を封鎖しているようです」
居場所を突き止めようと通信衛星のデータを解析しても、妹たちが通信機のスイッチを切っていたら何の結果も得られないのは当然だ。最後に所在が確認できたのは台北沖の駆逐艦の艦内だった。あやつに限ってはたとえ核爆発に巻き込まれようが無事でいると信じてはいるものの、一抹の不安が俺の胸中を過ぎっていく。
「楢崎訓練生、そんなに慌てるな。おそらく今回の核爆発はさくら訓練生たちが引き起こした可能性が高い。基地に設置してあった自爆装置を起動させたのだろう。それならば安全な逃げ道を確保している筈だ」
「確かに司令のお言葉通りです」
この人だけはこの目玉が飛び出るようなニュースに接しても全くの平常運転だよな。司令官さんの言葉に焦燥に駆られた俺の脳内に急速に冷静な判断力が戻ってくる。少々無茶をやらかすものの、妹には言葉では説明不能な危機管理能力がある。言い方を変えるとそれは野生の勘とも言う。異世界にいた頃にも妹の野生の勘で俺たちは何度も助けられたんだったな。
「ミサイル基地が敵の手に渡らないように、付近の住民もろとも核の炎で焼き殺す卑劣なやり方だな。国民の命などなんとも思っていないあの国がいかにもやりそうな手段だ」
司令官さんは苦々しい表情になっている。戦術的にある意味手段を選ばないこの人でも、国民の命を犠牲にする手法など絶対に取らないからな。それが長年日本の平和を影から支えてきた司令のプライドでもある。
「聡史君、さくらちゃんたちは必ず無事で元気な姿を見せてくれるわ。きっと今頃はどこかでご飯を食べながら襲撃が成功したと高笑いしている筈よ」
「確かに美鈴が言うとおりだな。あいつの性格からして、いつも心配するだけこっちが損をするんだ」
さすがに今回ばかりはさくらにもそこまでの余裕はなかったという事実を、ここにいる全員はこの時点では知る由もなかったから、こんな余裕を美鈴がかましてくるのも大目に見てもらいたい。これはあとから知ったことで、実際はかなり危ない場面があったらしいからな。
「さて、我々は予定通りに潜入を開始するぞ。すでに香港の反政府組織と話はついている。今夕1800に出港する国防海軍艦船に乗船して、香港の20キロ沖合いで迎えのフェリーに乗り換える。装備の確認が完了したら、全員桟橋に向かうぞ」
「「「了解しました」」」
俺たちは出撃前の最終確認の場でこのニュースを耳にしていた。ここで動揺している場合じゃないんだよな。一足先に襲撃を敢行した妹たちに続いて、今度は俺たちの出番なんだから。
「聡史、気持ちはわかるけど、動揺する気持ちは全体の士気に影響するわ。このまま出撃しても大丈夫かしら?」
「マギー、心配しないでいいぞ。俺は妹を信じているからな」
「確かにあのさくらが核爆弾くらいでどうにかなるとは思えないわよ! きっと無事だと私も信じているわ!」
マギー、気を使わせて済まないな。でも大丈夫だから心配無用だ。俺は破壊神で妹は獣神、殆ど人間であることを辞めている俺たちは、この程度のトラブルなど幾度となく経験してきた。不安など頭の片隅に追いやって、これから予定される自らの任務に集中するぞ。
「それでは全員出発だ!」
こうして司令官さんの号令に合わせて、椅子から立ち上がって一斉に移動を開始する特殊能力者部隊だった。
内陸部を香港に向かって進むさくらたちと、これから本格的な潜入を開始する聡史を含む本隊、果たして無事に合流できるのか・・・・・・ この続きは明日投稿いたします。どうぞお楽しみに!
仕事が忙しくて時間が取れずに週末に投稿できなかった件、改めてお詫びいたします。その分は明日も投稿するということでご容赦ください。
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