140 出撃前
急いだので誤字が多いかもしれません。
富士駐屯地は年末年始も騒がしい。
12月24日・・・・・・
「うほほー! 今日はクリスマスだからね! 盛大なクリスマスパーティーをするよー!」
「日本のクリスマスはとっても賑やかですぅ!」
「今日はクリスマスだから〔せくはら〕男の串刺しはしないの!」
「主殿! 肝心のキツネうどんがありませんぞ! これは一大事でございまする!」
「妾はクリスマスケーキが気に入ったのじゃ! これほどの美味ならば毎日でも食べたいのじゃ!」
「もうすぐローストチキンが焼けるわよ」
「美鈴は料理が上手で羨ましいわ」
「司令、いくらなんでもこの時間から酔い潰れるのは早過ぎです!」
「楢崎訓練生、この場は貴官に任せる。後で私を司令室まで運んでくれ!」
12月30日・・・・・・
「お正月が近いからね! 今日は餅つきをするよー!」
「さくらちゃんは手を出さないでいいから、お願いだから横で見ていて!」
「誰だ?! もち米を3表も準備したやつは!」
「さくらちゃんに決まっているでしょう! それよりもこっちはてんてこ舞いなんだから聡史君も手伝ってよ!」
「これが日本の伝統的なモチツキね! とってもアメージングだわ!」
「リディアお姉ちゃん! ペッタンペッタン楽しいね!」
「ナディア、それは私の胸に対する・・・・・・ いえ、なんでもないから気にしないで」
そして、1月1日・・・・・・
「お正月はなんと言ってもおせち料理だからね! ガンガン食べ捲くるよー!」
「主殿、お年玉としていただいた稲荷寿司はまことに美味でありますな!」
「妾は雑煮なる物が殊の外気に入ったのじゃ!」
「日本のニューイヤーの過ごし方はとってもトラディショナルね! 本当に興味深いわ」
「さくらお姉ちゃんからお年玉をもらったの!」
「ナディア、しっかりとお礼を言いなさいね」
「美鈴さんの着物はとってもよく似合っているですぅ! 私も着てみたいですぅ!」
「聡史様、今年こそは私の天界の術法をぜひとも披露したく存じます」
「カレン、その件は機会があるまで待ってくれ」
「次はお雑煮の番だよー! 取り敢えずドンブリに5杯持ってきて!」
カオスだった。
元旦の昼礼後・・・・・・
「霊峰富士に向かって礼!」
副官さんの号令に合わせて富士山が目前に広がる食堂前の広場に集合した隊員一同は、今年1年の安全と健康を祈りながら頭を垂れている。特殊能力者部隊は富士山から多大な恩恵を受けているので、毎年の元旦にこうして礼拝するのが恒例となっている。
雪を抱いた富士の峰は吹き付ける風が冷たく、それが一層心身を洗い流すように感じられる。どうか駐屯地の皆さんが今年も無事で過ごせますように!
「直れ! 一同はそのまま通常業務に戻るように」
こうして元旦にも拘らず普段と変わらぬ業務が開始される。俺、美鈴、フィオの3人は完成間近の魔力砲2号機の作製現場へと向かう。2門ある砲の右側はすでに試験的な運用を何度も繰り返しており、その威力は2門同時発射した初号機を上回るという成果を挙げているのだった。ちなみに美鈴は振袖姿のままだ。
「聡史君、作業に入る前にレイフェンの様子を見に行ってもいいかしら?」
「もちろんだ。変化があるといいな」
俺たち3人は北側の結界で仕切られた場所へと向かう。かれこれ10日以上結界内に魔力を充填しているから、すでにこの場に放出された魔力量は10億を超えている筈だ。当然地面に吸収される分もあるだろうが、それでも大量の魔力をあの剣は吸い込んでいる。黄泉の国から復活を遂げるというのはそれ程大量の魔力が必要となってくるんだな。
「2人ともあれを見て! 結界の内部が光っているわよ!」
「なんだって!」
「急ぎましょう!」
フィオの声に俺たちは慌てて結界の場所に向かって走り出すと、確かに結界の内部は真っ白な光に満ち溢れていた。そしてその光は目も眩むばかりに大きく広がると、急速に1点に向かって収束していく。完全に光が消え去ると、そこには人の姿をした何かが立っていた。全身が黒尽くめの鎧姿で、地面に刺してある剣を引き抜いて腰の左右と背中に収めている。それこそ紛れもない大嶽丸であった。
「レイフェン! 私がわかる?!」
「これは大魔王様、お久しゅうございます。只今姿を改めます故、今しばらくお待ちくださいませ」
再び結界内に光が溢れると、執事服姿のレイフェンが実にダンディーな姿で登場した。その間にフィオは結界をキャンセルしている。手回しが良くて助かるな。
「大魔王様、レイフェンめは黄泉から只今戻りました」
「レイフェンよ、そなたが現世に戻ってまいるのを今か今かと待っておったぞ。良くぞ我の元へと戻ってまいった」
「ありがたきお言葉でございます。大魔王様がお待ちならば、このレイフェンめは黄泉であろうが世の果てであろうが、何処からでも駆け付けまする」
「頼もしき言葉である。それでこそ我が信頼を寄せる魔公爵である。今後も我に仕えて欲しい」
「大魔王様、一言『仕えよ!』と申していただければ、レイフェンめは命懸けでお側に仕えまする」
黄泉に行く前と全く変わらない主従の遣り取りだな。レイフェンは忠実な執事役を務める覚悟でこうして戻ってきたんだな。本当に天晴れな見上げた根性だ。
「レイフェンよ、そなたは末永く我の股肱として仕えるがよいぞ。それからそなたの復活に力を貸した聡史には礼を申しておくがよい」
「大魔王様、まことにありがたきお言葉でございます。レイフェンは常に大魔王様のお側にありまする。それから聡史殿、こうして私めが現世に戻るための力を貸していただいたこと、深く感謝いたしまする」
「気にするなよ。美鈴を助けてくれたお礼だ。これからも美鈴に力を貸してくれ」
「当然でございます。大魔王様あってこそのレイフェンゆえに」
これだけ尽くされるとは美鈴は幸せ者だな。おっと、ここで羨ましがるとまたカレンから睨まれるんだった。ここでフィオが横から口を挟んでくる。
「さあ、感動の対面はおしまいよ! 新年におめでたい事があったんだからみんなに知らせないとね」
「そうだったな。美鈴とレイフェンは一度演習場に顔を出してこいよ」
「そうね、そうするわ。最近明日香ちゃんやリディア姉妹の訓練を見る暇がなかったから、その分レイフェンにお願いしようかしら」
おや? 美鈴はいつの間にか大魔王モードから元に戻っているな。フィオが言う通りに新年からめでたいことがあってなかなか幸先がいいじゃないか。今年も良い年になるといいな。
その翌日・・・・・・
俺たちは図面演習室に集まっている。ここに集められるということは出撃が近いんだと全員理解している。そして部屋の一番奥に座っている司令が厳かな口調で話を切り出す。
「喜べ! 香港攻略船の具体的な日時が決定したぞ」
どうもこの人は自分の基準が俺たちにも当て嵌まると思い込んでいるようだな。この場に居る殆どの人間は平和が愛していて、戦争などない方がいいと考えているんだぞ。
「司令官ちゃん! 今度は私も出撃させてよ! この前は基地で留守番だったから私の順番だよ! ヨーロッパは大して戦わなかったしね! しかもご飯が不味いというおまけまで付いたんだよ!」
はぁ・・・・・・ 数少ない例外である俺の妹が身を乗り出している。こいつだけは戦争を歓迎するという、危険な場所に自分から飛び込んでいく思考の持ち主なんだ。
「さくら訓練生、順に説明するから待っていろ。イギリスの機動艦隊は年末に母港を発って、各地で補給を受けながらあと1週間で南シナ海に到着する。わざと時間を掛けて各地に寄港しているのは、親善航海を装っているからだ」
大西洋から喜望峰を回ってインド洋を抜けて、クリスマス返上で都合3週間の航海をしているそうだ。現在はインドのムンバイ港に寄港しているらしい。この後はマレーシアに立ち寄ってからフィリピンの米海軍基地に入港する予定だ。
監視衛星や情報収集衛星を破壊された中華大陸連合だが、各国に散らばる諜報員や協力者、工作員のネットワークは未だに健在だ。昔ながらの方法で他国の政府や軍の動向を把握しているであろう。高官への賄賂なんてお手の物だろうからな。
したがってイギリス艦隊は目的地と南シナ海に到着する時期を欺瞞するために各地で派手な親善儀礼を行っているのだった。
「今回攻略の主目的は香港にあるが、同地域の占領維持のためには泉州基地が目障りになる。よって泉州基地を我々単独で殲滅するように私が具申した。今回は香港攻略に当たる本隊と、泉州基地に向かう分隊を設けるぞ」
「司令、質問があります」
「楢崎訓練生、聞かせろ」
「香港は米英軍の支援が受けられると思いますが、泉州基地への支援攻撃はあるのでしょうか?」
司令の話し振りだと、恐らく強引に泉州基地への攻撃を捻じ込んだのだろうと予想される。急にそんな作戦を組み込んだら、支援が間に合うのだろうかという懸念が生じるのは止むを得ないだろう。
「いい質問だな。泉州基地周辺のレーダー網は破壊するが、それ以外の支援は一切受けられないと思ってくれ。これは国防軍特殊能力者部隊が単独で実行する作戦となる」
また派手な無茶振りをしてくれたもんだな! これだから我が司令は油断も隙もあったものではないんだよ! 単独で乗り込んで基地をひとつ破壊するなんて、相当ハードルが高いだろう。しかもかなり人口が密集している地域なので、こっそり忍び込もうとしても人目につき易いというデメリットがある。この辺の課題をどのようにクリアするか、果たして司令の心の内には何らかの勝算があるのだろうか?
「今回は一般市民の犠牲は問わない! 大都市の1つや2つ廃墟にしても構わないから思いっきり暴れて来い!」
「力押しじゃないですか!」
「兄ちゃん、これは私が大暴れする期待が高いよ!」
勝算がどうこうと言う問題ではなかった。力押しで叩き潰せという方針らしい。ほら見ろ! 喜んでいるのは妹だけじゃないか! 他のメンバーはドン引きしている・・・・・・ いや、そうでもないらしい。
「久しぶりに極大魔法を放ってみましょうか」
「我が大魔王様のお力を拝見するなど滅多になき機会でございますな。レイフェンめも楽しみにしておりまする」
復活したばかりだというのに執事姿のレイフェンが美鈴を煽っている。かと思ったら俺の横からは━━
「我が神よ、ついに愚かな人間に天罰を下す時がやって参りました。いつ何時でもこのミカエルにお命じください」
「カレン、もうちょっと冷静になろうな。まだ出番が早過ぎるぞ」
「失礼いたしました。それではお声が掛かるのをお待ちしております」
カレンの瞳が銀眼から元のグリーンへと戻っている。彼女の中に存在する天使はこうして事あるごとに勝手に出てくるから、俺がしっかりと手綱を抑えていないとな。ただ今回は場合によってはカレンの力を解放する必要があるかもしれないな。万一の際には頼んだぞ!
「まずは泉州基地へと向かう別働隊の人選だが、こちらはフィオ特士とさくら訓練生に任せようと思う。両者とも異存はないか?」
「バッチリ任せてよ! さくらちゃんが全部まとめて片付けるからね!」
「私としては返答に困りますが、命令とあらば仕方がないです」
あーあ、フィオが大型爆弾を手渡されたような表情をしているよ。妹がその辺のコンビニへ出掛けるような気楽な表情とは対照的に、フィオの肩にはズッシリと重たい責任が圧し掛かっている。だが妹の暴走はこれだけではなかった。
「司令官ちゃん! 大体1週間で戻ってくるからポチとタマも一緒に連れて行くよ! それから親衛隊もずいぶん形になってきたから初実戦に参加させるからね! それから新入りも私がもらっていいかな?」
「いいだろう、好きなだけ連れて行け」
「よーし、これでさくらちゃん軍団勢揃いで大暴れしてくるよ! フィオちゃん、楽しみだね!」
「さくらちゃん、医務室に行って胃薬をもらってくるわ」
本当にフィオが中座して行ったぞ! 大賢者にもさすがにこの顔触れはきついのかという驚きが図面演習室に広がっている。フィオ、すまないが今回は任せる。できれば胃薬は大量に持参してくれ。
それにししても天孤と玉藻の前がピカピカの笑顔になっているな。今までは留守番ばかりだったが、こうして妹と一緒に出撃するのが何よりも嬉しいらしい。それから親衛隊も全員腕捲りして気合が入っているぞ! 初の実戦に対する恐れとかどこにもない様だな。
最後に妹から指名された滝川訓練生は、この所顔付きがまったく変わってきて別人となっている。チャラチャラした俺様キャラは影を潜めて、まるで戦闘マシーンのような表情をしているのだ。俺はずっと魔力砲に掛かりっきりで、訓練がどうなっているのか見ていなかったけど、一体彼に何があったんだろうな?
「香港攻略には楢崎訓練生、西川訓練生、カレン特士、勇者、最後に私の5名で向かう。異存はあるか?」
「「「「了解しました!」」」」
「それからオースチン准尉は米軍の指揮系統に戻るということでいいのか?」
「大佐、本国からは日本国防軍と行動を共にしろと命令を受けております。一緒に香港へと向かう所存です」
「いいだろう、一時的に私の指揮下に入るのは問題ないか?」
「問題ありません」
そうなのか! マギーは米軍からかなり大きな裁量を与えられているんだな。これで彼女も俺たちと一緒に香港攻略戦に向かうことが決定したな。おや、美鈴が発言を求めているぞ。
「司令、レイフェンの同行も許可していただきたいです」
「ああ、十分な戦力だから問題ない」
「ありがとうございます」
「大魔王様、このレイフェンめに何でもお申し付けください」
「よい働きを期待しているわ」
「御意」
こうして特殊能力者部隊の出撃に関する人員の配置が決定した。もちろん不安は残る。主に泉州基地や泉州基地、それから泉州基地に向かうメンバーの顔触れだ。あの暴走核爆弾が何を仕出かすかと考えると俺も胃が痛くなってくる。フィオ、どうかよろしくお願いします!
それから駐屯地に居残るのはタンク、アイシャ、リディア姉妹、マリア、明日香ちゃんの5人だな。しっかりと留守番を頼んだぞ。特に明日香ちゃんは今回ばかりは勝手に付いてくることがないようにしっかりと監視しておこう。
出撃は5日後と決定したから、それまでに魔力砲の2号機を完成させておかないとな。残っている作業は砲身内にシールドを張り巡らせる最後の工程だけだ。美鈴とフィオならきっと期間内に終わらせてくれるだろう。
俺たちが図面演習室を出ると、部屋の外にはリディアとナディアが待っていた。子供のナディアには出撃の具体的な話が聞かせられないから、姉妹だけは他の場所で待機していたのだ。だが敏感なナディアはまた俺たちが富士を離れることを察しているようだ。
「聡史お兄ちゃん、また行っちゃうの?」
「ナディア、すまないな。2週間くらい留守にするから、いい子にして待っていてくれるか?」
「ちゃんと戻ってきてくれるの?」
「約束だ。俺はナディアが待っているこの場所に必ず戻ってくる」
「わかった! 聡史お兄ちゃんが戻ってくるのを待っている!」
「いい子だな。お姉ちゃんと2人で待っていてくれ」
俺はまだ不安そうなナディアの頭を撫でながら、また必ずこの場所に帰ってくると心に誓うのだった。
ついに出撃準備を整えた特殊能力者部隊、次回新たな戦いが火蓋を切ります! 投稿は週末を予定しています。どうぞお楽しみに!
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