139 ブートキャンプ
時間に追われていたので、誤字が多いかもしれません。
防衛省統合作戦本部・・・・・・
「ここまでが今回の香港攻略戦の作戦概要だが何か意見はあるか?」
一通り作戦を説明した参謀総長が一同を見渡して意見を募る。ここまでの話の内容はこの場に集っている全員には想定内であって、特に目新しい事項はなかった。作戦自体は至極オーソドックスな内容となっており、英国の海兵団の上陸を日米が支援する形となっている。するとそこにこれまで沈黙を守っていた神埼大佐が挙手して意見陳術を求める。
「香港への上陸自体はそれほど困難はないと考えられるが、問題はその後英軍が長期に渡って駐留することだ。中華大陸連合も黙っている訳には行かないだろうから反撃が予想される。広州や深センの敵基地に関しては上陸時に破壊するからよいとして、更にその外縁部に存在する基地をどうするかという疑問が生じる」
「神埼大佐、具体的にはどこの基地を指しているのかね?」
広大な国土に無数の基地が存在している中華大陸連合であるため、彼女がどこの基地の危険性を懸念しているのか参謀総長は更に具体的に説明を求める。
「福建省の泉州基地だ。ここは台湾を狙った戦闘機やミサイルが集中配備されている。香港までは直線で700キロで十分に届く範囲だ。台湾に向けていたミサイルを香港へと振り替えるのには大した時間は掛からないだろう」
泉州基地は中華大陸連合が沿岸部に保有する基地の中では、配備されているミサイルや戦闘機の総数が最大規模を誇る。ここを放置すると香港占領の維持に支障が生じると神埼大佐は主張しているのだった。
「もちろんその点は米英とも承知しているのだが、両国ともに香港の占領を急ぎたいという事情が絡んでいる。泉州基地に関しては香港占領後に何らかの攻撃を加えようと考えている模様だ」
「手緩いな。無事に占領したはいいが、対空兵器の配備が完了しないうちに急襲を受けたら一気に形勢が逆転しかねない」
日本としては戦略上の観点から泉州基地の危険は十分に訴えてきた経緯があるのだが、今回の作戦はイギリスが中心となって進められているため、その意見は省みられることはなかった。イギリス軍中枢には日米が簡単に海南島を攻略したのを見て、中華大陸連合を侮る空気に包まれている傾向にあるといえよう。歴史に例えるならばアヘン戦争当時の感覚で香港を攻略しようというくらいの危うさがあるのだった。
「神埼大佐、このような事情を納得してもらえるかな?」
「無理だな。多くの将兵を危険晒す作戦をみすみす承知はできない」
「だが日米英とも本作戦に於いてこれ以上は動かせる兵力が存在しないのも事実だ」
「それならば特殊能力者部隊で請け負えば問題は解決する。泉州基地を壊滅に追い込むくらいは我々の手に掛かれば容易いだろう」
自信満々の神埼大佐の態度に参謀総長は若干表情を顰めている。この期に及んで作戦を変更する手間を嫌っているかのような態度だ。
「神埼大佐の部隊は香港攻略戦に投入が決定されていると思うが」
「有望な若手が増えたから部隊を二手に分けるのが可能だ。本隊を香港へと向けて、分隊を泉州基地へ向かわせれば問題はない。支援に必要な人員は最小限で抑える」
「帰還者を二分すると戦力の低下に繋がらないか?」
「安心していい、十分な戦力が確保可能だ。たとえ二手に分けたとしてもオーバーキルだと考えてもらえばいいだろう。海南島攻略の時点でも他の任務についていた帰還者がいたからな。帰還者の現状は控え目に言っても最大4箇所の攻略が一度に可能だ」
「それ程に帰還者が揃っているというのかね?」
「現在は質、量ともに充実している。私が孤軍奮闘していた頃と比べると隔世の感があるな」
どうやら話の流れは決定した模様だ。神埼大佐と参謀総長のやり取りの聞き役に徹していた統合作戦本部長が意見をまとめに掛かる。
「神埼大佐の提案を採用する。泉州基地の潜在的な危険性を取り除くのは本作戦にプラスに働くだろう。タイミングを十分に考慮すれば、香港攻略戦の目暗ましも可能かもしれない。この辺の詳しい内容に関しては更に煮詰めてほしい」
「本官の具申を聞き届けていただき恐縮であります」
こうしてその後いくつかの議題の協議を経て、日本側の香港攻略戦の概要が決定するのであった。
翌日の富士駐屯地では・・・・・・
「まだ何も変化はないようね」
「結界内の魔力は全て剣に吸収されているようだな」
俺と美鈴とフィオの3人はレイフェンが残した剣を地面に刺してある場所に来ている。3本の剣は何も変化がないように思えるが、周囲の空間に満ちていた魔力は確実に吸収しているようだ。この分ならばレイフェンの復活が思いの他近いかもしれない。
「今日も同じくらいの魔力を放出しておこうか」
「聡史君、お願いするわ」
「美鈴、早く復活するといいわね。レイフェンは紳士的な態度で接してくれるから、私的にも高感度が高いのよ!」
どうやらレイフェンの評判は中々高いようだ。唯一アイシャだけは奈良でボコられた記憶が残っていて若干引き気味だが、幼いナディアの魔法練習に付き合ったりして結構懐かれている。明日香ちゃんや妹の親衛隊にもかなりの好評を得ているのだった。
結局この日も結界の内部を魔力で満たして様子を見るだけで終わった。どのくらい魔力が必要なのか手探り状態だから、こうして毎日様子を見に来るしかないよな。俺たちは結界を出て、いつものように魔力砲の作製現場へと向かうのだった。
同じ頃帰還者たちの宿舎では、さくらがとある1室の前に立っている・・・・・・
そういえばすっかり忘れていたよ! 新入りが全然訓練に出てこないで部屋に引き篭もっているらしいんだよ。これはさくらちゃんの出番だね! 引き篭もっている人間を外に出すなんて、私からすればお手軽な仕事なんだよ!
ドアノブをゆっくり回すとどうやら内側から鍵が掛かっているね。普通は誰の部屋でも鍵くらいは掛けているから当たり前だよね。でもこのさくらちゃんは針金1本あれば鍵なんか簡単に開けちゃうんだよ! アイテムボックスに入っている針金をチョコチョコッと曲げてと・・・・・・
ガチャリ!
ほら簡単に開いたよ! 天才さくらちゃんに掛かればどんな鍵だってあっという間に開いちゃうんだよ! 気配を消してそーっとドアを開いていくと、部屋の内部が目に入ってくるよ。あっ、いたいた! 新入りは部屋の壁際に体育座りして、顔を膝に伏せて蹲っているね。私がドアを開いたのにも気付く様子がないね。これは色々な面で失格だね! 仮に私が暗殺者だったらどうするんだろうね?
でも優しいさくらちゃんは暗殺者ではないからね! そっと後ろを振り返ると、引き連れているポチとタマに小声で指示を出すんだよ。
「あそこに座っている新入りを外に連れ出すんだよ」
「主殿、承知いたしました」
「妾もじゃ! 抵抗する時には少々手荒となるが良いであろうか?」
「生きていたら方法は何でもいいよ。とにかく外まで連れてくるんだよ」
「「御意」」
私が一歩後ろに下がるとポチとタマは室内に足音を忍ばせて入っていくよ。新入りは全然気が付いていないようだね。まったく、これじゃあ益々失格だよ!
「主殿の命により連行する! 素直に付いて参れ!」
「抵抗など無駄なのじゃ!」
「わわわっ! 急に何をするんだ!」
両腕を掴まれて無理やり立ち上がらされた新入りは突然の出来事に驚いて抵抗する様子も見せないね。ポチとタマに両脇を抱えられるようにしてドアの外まで出てきた新入りは、私の姿を見てなんだか急に諦めた表情になっているよ。おかしいね? そんなに酷いことをした覚えはないのに、この新入りは何でこんな顔をしているのかな?
「お、俺をどうするつもりなんだ?」
声がかすかに震えているね。そんなに怖がる必要はないのにね! さくらちゃんが優しく社会復帰に協力してあげるんだからね!
「部屋に篭って出てこないなんて、甘ったれるんじゃないよ! 今からさくらちゃんがビシッと鍛え直してあげるから覚悟するんだよ!」
なんだろうね? 心を込めて優しい声を掛けたつもりだったのに、新入りの目が死んだ魚のようになっているよ。きっとさくらちゃんの真心がまだ伝わっていないんだね。今から心を込めて鍛えてあげればきっと感謝の気持ちでいっぱいになる筈だよ!
「ポチとタマ! そのまま演習場に運ぶんだよ!」
「承知いたしました」
「主殿のお役に立てて嬉しいのじゃ!」
ポチとタマは私が命じるままに新入りを演習場に連れて行くよ。なんだろうね? 嬉しそうなポチたちに比べて新入りの表情が冴えないねぇ。異世界でこれから処刑される囚人がよくあんな目をしていたのを思い出したよ。
演習場に到着すると、新入りはその場に棒立ちのままだね。準備体操とかしなくてもいいのかな? ずっと部屋に篭っていて体が鈍っているんだから、急激な運動をする前に体を解さないといけないよね。さくらちゃんはまたまた優しく声を掛けちゃおうかな。
「これから何度も死に掛けるけど、準備体操をしなくていいのかな?」
「さあ、準備体操をするぞ! 入念に体を解さないと!」
新入りは何かに気が付いたかのように体を動かし始めるよ。まあ必要だからしょうがないね。しばらく待ってあげようかな・・・・・・
長い! かれこれ10分以上準備体操をしているよ! これはいくら優しいさくらちゃんでも待っている限界があるよね。優しい言葉で中断させてあげようかな。
「準備体操止め! これから本格的な訓練を開始する! 生きるか死ぬかの限界を超えるから覚悟するんだよ! 最初から自分は死んだものと思っておく必要があるね!」
「駄目だ・・・・・・ 俺はもう死んだ・・・・・・ こんな部隊に入らなければよかった・・・・・・」
新入りはなんだか小声でブツブツ呟いているね。たぶん私の訓練に対する気構えを終えたんだろうね。これはいい傾向だよ! 社会復帰の第1弾だからね。今までの自分は死んだつもりになってもらわないとね!
「それじゃあ演習場の外周100周を全力で開始!」
「全力で100周ですか? 俺には無理・・・・・・」
「ほう、口答えをするつもりなのかな?」
「すぐに開始します!」
新入りは演習場の壁の沿って走り出すよ。それにしてもなんだかペースが遅いね。これは励ましの意味で発破を掛けないといけないよね!
「ポチは壁に沿って結界を張ってくれるかな」
「主殿、お任せください」
「妾も力を合わせるのじゃ!」
ふむふむ、タマも一緒になってかなり強力な結界が演習場をいい感じに取り囲んだね。私は結界を張れないから、ペットがこうして役に立ってくれると便利だよね。さて、準備ができたから新入りへの激励を開始しようかな。
「ペースが遅いから擲弾筒を撃つよ! 当たらないようにしっかりと逃げるんだよ!」
「止めてくれぇぇぇぇl! 本当に死ぬぅぅぅぅ!」
またまた、新入りは冗談が上手いね! 擲弾筒くらい直撃したってどうってことないよ! むしろ平然と撥ね返すくらいじゃないと使い物にならないからね。
「ほらほら、ペースが遅いと本当に撃っちゃうよ!」
バシュッ!
ドカーーン!
ふむふむ、新入りは擲弾筒が当たらないように必死でペースを上げて避けているね。いい感じの全力疾走だよ! しばらく運動をしていなかったせいかずいぶん息が乱れているようだけど、まだまだこの程度は序の口だからね!
「死ぬ! 本当に死んでしまう!」
「それでいいんだよ! 死んだつもりになって走るんだよ!」
バシュッ!
ドカーーン!
またまた新入りの背後で私が撃ち出した擲弾筒が爆発しているね。ほら、落ち掛けたペースが元に戻っているよ! このまま残り95周頑張ってもらおうかな。
おや? 演習場の入り口に人の気配があるね。結界が張ってあるせいで中に入れないのかな? ポチとタマに一旦結界を解除してもらったら、明日香ちゃんが演習場に入ってきたよ。
「さくらちゃん、ここで何をしているんですか?」
「明日香ちゃん、実にいい質問だね! 根性がない新入りを鍛え直しているんだよ!」
「なるほど、それで外周を走っているんですね」
「明日香ちゃんは訓練をしないのかな?」
「美鈴さんもフィオさんも魔力砲の製作に手一杯で私の訓練に関わる余裕がないんです」
「ということは暇なんだね。明日香ちゃんも新入りと一緒に訓練する?」
「私を殺す気ですか? 自慢じゃないですけど運動全般ダメなんですからね!」
「そうだったね・・・・・・ 明日香ちゃんはマラソンもクラスでダントツのビリだったよね」
「ということで暇なのでしばらくはここで見学しています」
そうだよね。明日香ちゃんが仮に新入りの訓練に加わっても足を引っ張るだけだからね。このまま見学しているのが無難だよね。
「さくらちゃん、確かあの新人さんは美鈴先輩にボコボコにされてから引き篭もっていたんじゃないですか?」
「そうだよ! だから私が無理やり部屋から引っ張り出したんだよ!」
「それで、どうするつもりなんですか?」
「頭で色々と考えるから引き篭もりになっちゃうんだよ! 戦いに必要な最小限の頭だけ残して、後は筋肉に変えればいいんだよ!」
「確かにさくらちゃんの頭は最小限しか働かないですね!」
「明日香ちゃんは失礼だよ! 私の優れた頭脳はどんな時もで優秀だからね!」
「その自信がどこから湧き上がるのか不思議でしょうがないです!」
「なんだかバカにされている気がしてくるよ!」
「さくらちゃんは最初からバカなんですから、気にしなくても大丈夫です!」
「なんだとぉぉ! 明日香ちゃんは私にケンカを売っているのかな?! いつでも買ってあげるよ! さあ表に出ようか!」
「さくらちゃん、ここはもう外ですよ! それよりもアメ食べますか?」
「明日香ちゃんは実にいい人だね! アメちょうだい!」
なんだか明日香ちゃんにいい具合に転がされたような気分だけど、まあいいかな。アメが美味しいし! おっとそれよりも、新入りの訓練が大切だったよ! 残りはあと10周くらいになっているね。そのまま走り切るのを待っていると・・・・・・
「ハア、ハア、ハア・・・・・・ ひゃ、100周走り切ったぞ!」
「この程度で息が上がっているようじゃ先が思い遣られるよ! まあいいか、ほれ回復水を飲むんだよ」
ポチから水を手渡された新入りはゴクゴクと飲み干しているよ。最初からあんな勢いで飲んでいたらそのうちお腹がチャポンチャポンになっちゃうのにしょうがないなぁ。まあいいか、軽いランニングが終わったから、次は組み手を開始しようかな。
「まずはポチとタマを相手にして軽い組み手だよ! ポチとタマは新入りを殺す気で向かっていいよ!」
「主殿、それでは少々本気で相手をいたしまする」
「妾も本気を出すのじゃ!」
ポチとタマは新入りよりも若干力が落ちるからね。全力で掛かっていってちょうどいいくらいだよ! ポチの手刀とタマの攻撃魔法の組み合わせはかなり強力だからね。新入りにはいい訓練になるよ!
「うわぁぁぁ! いきなり二人掛かりなのかぁぁ!」
ポチの鋭い手刀を受け流しながら、横合いから飛んでくるタマの炎や氷の槍、カマイタチを避けていくのはかなり骨が折れるみたいだね。あのくらい簡単なのにね。
そしてペットを相手にした組み手が終わると、最後は真打ちの私が直々に相手になるよ。もうその頃にはすっかり新入りの表情が消えてなくなって、攻撃と防御をこなすだけの機械のようになっているね。頭であれこれ考えているうちは満足な動きなんかできないんだよ! 少なくとも脊髄反射で攻守を両立させるくらいのレベルに達しないとね。
1時間後・・・・・・
「よーし、今日はこのくらいで終わりにしておくよ!」
「サー・イエッサー!」
「何も考える必要がないとわかったかな?」
「イエッサー! 戦闘中は頭など必要ありません! 本能に従って戦うのみであります!」
「明日からもその調子で頑張るんだよ!」
「教官殿、よろしくお願いいたします!」
「それでは戻ってよし!」
「イエッサー! 本日はありがとうございました!」
こうして新入りは宿舎に戻っていくよ。中々いい訓練ができたようだね。おや、この様子を見ていた明日香ちゃんが私に近付いてくるよ。
「さくらちゃん、また新たな犠牲者を生み出してしまいましたね」
「犠牲者? それはなんだか不本意な言い方だよ!」
「まったく自覚がないんですね! 親衛隊の5人だって元々は魔法少女を目指していたのに・・・・・・」
「そうかな? 今の方がみんな生き生きとしているよ」
「さくらちゃんのせいで、こうして皆さん脳筋という不治の病に陥っていくんですね」
なんだか納得できないなぁ。私は新入りの社会復帰のために良かれと思ってやったんだけどなぁ。明日香ちゃんはなんだか否定的なんだよね。これはどうしたことだろうね? あとで兄ちゃんか美鈴ちゃんに聞いてみようかな。
こうして今日も駐屯地での1日が終わっていくのでした。
次回から香港攻略戦開始の予定です。投稿は週末を予定していますが、もしかしたら臨時でその前に投稿出来るかもしれません。どうぞお楽しみに!
ブックマーク数が1400を超えました! ランキング上位の作品と比べれば小さな数字ですが、読者の皆様が応援してくださった積み重ねだと大変感激しております。本当にありがとうございました。
今後とも皆様から応援していただけるように執筆を頑張ってまいります。感想、評価、ブックマークを引き続きお待ちいたします。




