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123 動き出したドイツ

いよいよドイツの帰還者が行動を・・・・・・ お話があちらこちらに飛びますのでご注意を!

 ウクライナでは・・・・・・



「あの兵舎が最後だな。跡形もなく吹き飛ばしてやれ」


「了解しました」


 私は〔カイザー〕ことクリストファァー・ウイリアムズ、おっと今はドイツ国籍になったからクリストフ・ウイルヘルムだな。現在クリミア半島に侵攻してきたロシア軍の基地を叩き潰しているところだ。


 我々は半島のウクライナ側から侵入してロシアが拠点としていた5箇所の大規模な基地をすでに破壊している。生意気なロシア人が血反吐を吐いて大地に倒れ伏す光景は実に清々しいものだ。やつらにはシベリアの奥地で蛮族として生活する未来が実によく似合っている。我々のような栄誉あるゲルマン民族とは根本的に異なっていると理解させねばならないだろう。



 ズドーン! ガラガラガラガラ!


 私の親衛隊の1人が放った魔力銃が一撃で兵舎を崩壊させている。もう内部にいたロシア人は大方脳漿を撒き散らしたり手足がもげて周辺に転がっているから建物の中はほぼ無人になっているようだ。この基地だけでもすでに5千人近くが汚らわしい血を流して死んでいる。善良なロシア人とは死体となった連中だけだ。こうして蛮族が流した血こそが新たな世界秩序のいしずえとなるのだ。



「この辺でいいだろう。いくら脆弱なウクライナ軍でもここまでお膳立てをしてやれば半島のひとつくらい守れる筈だ。我々はここから対岸のロシア領に侵入して後方基地を叩くぞ」


「了解しました」


 僅か6人の帰還者だけですでにロシア兵を2,3万人は殺していると推定するが、正確な数字などどうでもよい。この地上から愚鈍で役立たずなスラブ民族を根絶するのが私のヨーロッパにおける最終目標だ。更に私に傷を負わせた忌々しい有色人種の日本人ともいずれはこの手で決着をつけてやる。世界は私に跪く日を待っているのだ。日本の帰還者よ、その日が来るまで貴様にその命を預けておく。このカイザーに2度の敗北など有り得ないのだ。



「カイザー、車の用意が整いました」


「いいだろう、出発する!」


 まだまだ流れる血が足りない。かつてのプロイセン宰相ビスマルクが演説で言い放ったように、新たな秩序は血と鉄によって創造されるのだ。こうして我々は新たな流血を求めてクリミア半島を後にしていくのだった。








 その頃、ロンドンにあるMI6の東欧担当部署では・・・・・・ 



「クリミア半島で異変が起きているだと!」


 私はイギリス秘密諜報部で東欧に関する情報を統括するリンフィールド・エバンス。その私の元にたった今し方ウクライナに潜伏している複数のエージェントから全く同様の情報を受け取って、彼の地で何が起こっているのか確認の最中だ。


 彼らが報告してきた情報を要約するとおおよそ以下の通りとなる。


・ロシアが5個師団の軍隊を送り込んで実効支配していたクリミア半島で大規模駐屯地が何者かに次々に襲撃を受けて壊滅している。


・ロシア軍がいなくなった事態に合わせて、ウクライナ軍がロシア系住民に対する虐殺を開始している。


・ロシア軍を襲撃した集団の所属は不明だが、少数で数千人を相手に圧倒している点を鑑みると恐らくは帰還者だと思われる。 


 その他細々とした情報も齎されているが、重要な点はこの3点だと私は見ている。


 一体どこの国が帰還者を派遣したのか? ヨーロッパの各国はロシアに対して様々な思惑はあるものの、表面上は友好的な関係を保っている筈だ。中でもフランスなどは弾薬やロケット砲などを提供して大儲けをしているという噂まで聞こえてくる。このように利害関係が複雑に絡み合うヨーロッパに於いて歴史的に最もロシアを脅威と感じていたのはドイツに他ならない。


 しかもドイツは表面上は中立を宣言してはいるが、中華大陸連合を長年支援してきた過去がある。そこにアメリカから亡命してきた帰還者を受け入れたとなると、ドイツが裏で彼らを送り込んでいるのは火を見るよりも明らかであろう。ドイツが中華大陸連合の側面支援を目的とした軍事行動に出たということだ。しかしこの世界中が不安定な状況となっているこの時期に、なぜ火中の栗を拾うような危険な行動に出てしまったのか? ドイツ首脳部の考え方が全く読めない。より多くの情報が集まれば何がしかの結論が導き出されるかもしれないが、今は判断材料が少なすぎる。


 一歩間違うとヨーロッパ全体に戦火が飛び火しそうなこの一大事件を私はすぐさま首相官邸へ連絡するのだった。








 


 ドイツ南部の街ニュルンベルク、この街の郊外にある特殊作戦訓練センターでは・・・・・・



 俺はクラウディオ・ベルガー、連邦軍所属のドイツの帰還者だ。現在俺を含めた帰還者3名が新たな任務に関して上官からレクチャー受けている。



「イギリス軍の香港攻略を遅らせろという政府からの指令だ。あまりに難易度が高過ぎると私は反対をしたんだが、首相官邸から直接下命されたという連邦軍上層部の一言で反論の余地が塞がれてしまった。さて、この困難なミッションに対して君たち帰還者の意見を聞きたい」


「首相官邸は正常に機能しているんですか? 頭が狂っていないか一度専門の医師に診てもらうべきでしょう!」


 同僚のハインツ・レーゲンスが呆れた表情をしている。前任の首相が日本に対するテロ行為を指示したスキャンダルで辞任してから半年も経たないうちに今度はイギリスに対して攻撃を仕掛けろというのは、危ない橋を渡るどころの騒ぎではないぞ! 一歩間違うとイギリスとの全面戦争に発展するかもしれない危険極まりない賭けだという自覚が政府にはあるのか?



「危険過ぎます! 半年前俺がイギリスの帰還者の命を狙ったのとは危険の度合いが段違いです! ヨーロッパ全体を敵に回したいんですか?」


「クラウディオに同意します。我々の手で戦争の引き金を引きたくありません!」


 俺に同意したのはイエーナ・ミュンスター、我がドイツにあって唯一の女性帰還者だ。彼女も温厚な性格なので当然だろうな。現在この基地に残っている帰還者の意見が3人とも一致した。もちろん俺たちはヨーロッパ統一というドイツにとっての宿願を否定する訳ではない。その為ならば戦闘も厭わないが、現状でイギリスに対する攻撃を仕掛けるにはあまりに大義名分がなさ過ぎる。その結果としてヨーロッパ全体や果ては日米まで敵に回す懸念が払拭出来ないのだ。ここで3人の意見を聞いた上官が口を開く。



「私も全く君たちと同意見だよ。あの日和見しかできない首相が急にこのような決断をした背景には、恐らくアメリカから亡命してきた帰還者の存在があるだろう。君たちはまだ彼らとは対面していなかったな」


「一応話は聞いていますが、アメリカで問題を起こして亡命してきたと聞き及びました」


「ハインツ、その通りだ。やつらは私の目から見ても危険だ。アメリカはあんな爆発物を我が国に押し付けたんだよ。ただし彼らが持っている能力は君たちよりも1ランク上だ。彼らがいる限り我が国は現状を打破するために戦争を引き起こすという誘惑に駆られ続けるだろう」


 この上官が言わんとしている帰還者は何だったかな・・・・・・ そうだ! カイザーだった。上官は彼とは何らかの形で面識があるのだろう。帰還者を統括する立場にあるのだから当然の話だが。



「そこで君たちにはこれからイギリスに行ってもらう!」


「話が全く見えません! 私たちをイギリスに派遣して何をさせるつもりですか?」


 イエーナが上官に食って掛かっているな。温厚な彼女がここまでエキサイトするのは珍しい。もちろん俺の頭の中には大量のクエスチョンマークが並んでいるのは言うまでもないが・・・・・・



「話しは最後まで聞きたまえ! いいかい、我々がイギリスの香港攻略を遅らせても中華大陸連合の先々は誰の目にも明らかだ。もう趨勢は決していると判断してよいだろう。だから今回政府が我々に与えた任務はどう転んでも無駄なのだよ。だからね・・・・・・」


 ここから先の話を上官は声を潜めて俺たちに告げる。この人はなんて大胆なことを考えているんだ! 下手をすると自分の首が飛ぶかもしれないぞ!




「ということで1週間程イギリスに行ってきてくれたまえ。全責任は私が取る!」


「上官、本当にそれでよろしいのでしょうか?」


「私はこの国を愛しているからね。過去2回の大戦から私なりに学んだんだよ」


「上官、大変失礼しました。やっとあなたの真意を理解しました。必ずやあなたの命令を果たします!」


「俺たちはこれ程の素晴らしい上官の下で働いていたんだと思い知らされております。今までの数々の失言をお許しください」


 イエーナとハインツが頭を下げている。俺もこれだけ思慮深い上官に恵まれて幸せだと思う。半年前に日本に送り出したミハイルが殺されて、この人なりに思うところがあったのだろう。



「それでは我ら3名は只今からイギリスへ出発いたします。全員我らが誇るべき上官殿に敬礼!」


 こうして俺たちは準備を整えてからイギリスへと向かうのだった。







 数日後のロンドン、MI5とMI6の合同情報交換会議では・・・・・・



「先日スウェーデン経由で我が国に入国してきたドイツの帰還者の動きはどうなっている?」


「それがここ数日3人揃って著名な観光地を巡っているだけで全くテロを起こそうという気配すら見せません」


「我々を油断させる欺瞞の可能性がある。引き続き監視を緩めるな」


「更に人員を増強して監視に当てましょう」


「いっそのこと我が国の帰還者を動員して身柄を取り押さえましょうか?」


「バカを言うな! 相手は帰還者だぞ! 抵抗されたら周辺に甚大な被害を出しかねない。それにまだ彼らがテロリストだと断定する証拠が全くないんだぞ。下手に身柄を押さえようものならドイツが我が国を攻撃する口実を与えるようなものだ」


「もしかしたらそれこそがドイツの狙いではないだろうか? 彼らは囮で我々に手を出させておいてから本命のカイザーを送り込んでくるという可能性も考えられる」


 人は疑心暗鬼になるとあらゆる可能性を疑ってかかる。ましてこの場に集まっているのは盗聴や破壊工作のプロたちだ。彼らの頭の中には最初からドーバー海峡を渡ってきたドイツの帰還者が何か仕出かすに違いないという思い込みがあった。ドイツの帰還者の真の目的を知らぬままに情報当局者たちには極度の緊張を強いられ続けるのだった。







 ポーツマスの海軍基地では・・・・・・



「兄ちゃん、せっかく意気込んで来たのに暇だねぇ」


「さくら、そう言いながら昼飯のステーキを10人前平らげるんじゃない!」


「兄ちゃんがイギリスの料理は美味しくないって脅かすから不安だったけど、お肉を使った料理はそこそこいけるよ! でも2度とフィッシュシチューは食べないからね! ピーマンが嫌いだと思っていたけど、それ以上に私が食べられない物があるとは思わなかったよ! サバだよ! クリームシチューにサバが入っているんだよ! あれは絶対にムリだよ!」


 さすがの妹でもフィッシュシチューには屈したようだ。やっぱりサバは塩焼きか味噌煮が一番だな。シチューに入れるのは間違っていると1人の日本人として声を大にして言っておこう。それよりも現在問題となっているのは俺たちが何もしないまま無為の日々を送っている点だ。イギリスに渡ってきたドイツの帰還者は各地の観光地を巡っているだけで一向に何もしないのだ。俺たちと行動を共にしているマギーはどう思っているんだろうな?



「マギーはドイツの連中をどう考えているんだ?」


「まだ結論を出すのは早いかもしれないわね。情報部の報告を見る限りは彼らの意図を測りかねるわね」


「意外と本当に観光を楽しんでいるのかもしれないですぅ! 帰還者だって息抜きがしたくなりますぅ!」


「マリア、お前は息を抜きすぎているだろうが! 国防軍に所属してからまともに訓練もしないでグータラしているだけだろうが!」


「せっかく得た安定、安全な地位ですから私は思いっきりしがみ付くですぅ!」


 マリアとしゃべっているとこちらまで気が抜けていくような気がする。こいつは国防軍という組織をナメているんじゃなかろうか? そのうち危険を目の当たりにすれば訓練の大切さに気がつくかもしれない。それまでは口で言っても理解しないだろう。



「息抜きねぇ・・・・・・ わざわざドイツから潜入しておいて休暇を楽しんでいるとは思えないわね。こうなったら手っ取り早く彼らに聞きにいきましょうか。私たちが動く分にはそれほど角が立たないだろうし」


「ドイツの帰還者に俺たちが直接対峙するのか?」


「他に何があるのよ。わからなかったら聞きなさいと学校で習わなかった?」


 マギーは意外と短気なのかな? どうやら性格的に待っているだけというのは苦手なようだ。そしてもう1人この退屈な状況に飽き飽きしている人物がマギーの意見に賛成する。



「兄ちゃん! マギーちゃんはいいことを言うね! 向こうが何もしないならこっちから出向けばいいんだよ! いざとなったらこのさくらちゃんがやつら3人まとめて捕まえてあげるからね!」


 そうだった! マギー以上の行動派が俺の身内にいたんだ。妹はじっとしているのが大の苦手で、常に行動あるのみを信条としている。でもよくよく考えてみればこの案は悪くはないな。なるべくならば人気のない場所で彼らと面と向き合えば、現状の行き詰った事態を打開する可能性が高い。





 こうして俺とマギーが代表してこの案をクロップ中佐に提示する。



「人気のない場所を選んでドイツの帰還者と君たちが対面するというのかね?」


「はい、イギリスが矢面に立たずに私たちが前面に出ることで英独が直接対峙するリスクを避けられると具申いたします」


「それは我々にとっては願ってもない話だが・・・・・・」


「もし敵対して戦闘に及んだとしても、我々が責任を持って対応いたします」


 マギーの理詰めの説明と俺の戦闘に関して責任を持つという言葉が中佐から上手い具合に決断を引き出した。こうして俺たちは翌日の早朝にロンドンの北400キロにあるノースヨークアームズ国立公園へとヘリで向かう。ドイツの帰還者3人はこの公園近くの街にあるホテルに2泊の予約を入れたという情報が保安部から齎された結果だ。


 最寄の大きな街であるヨークでヘリを降りると、俺たちは車に乗り換えて帰還者の元へと向かう。ヨークから北東に50キロの場所にあるスカボローという港町のホテルに3人は宿泊しているそうだ。車はのどかな丘陵地帯を進んで次第に車窓から吹き込んでくる風に潮の香りが混ざってくると、そこはもうスカボローだった。


 俺たちは車に乗ったままで彼ら3人が宿泊しているこじんまりとしたホテルを遠巻きに監視している。



「さくら、魔力の気配を感じるか?」


「兄ちゃん、どうやらまだホテルから出ていないようだね。そこそこ強い魔力の気配があるよ」


 さすがは妹の野生の勘だ。俺の探査スキルが約200メートルに対してその3倍の距離でも魔力の気配を掴んでいる。一方のマギーは双眼鏡を手にしてホテルの出入り口を監視している。そしてカレンは寝不足でウトウトして、マリアは大口を開いて熟睡している。本当に危機感が欠如したやつだ!



「3人連れが出てきたわね。もしかしてあれが帰還者かしら?」


「マギーちゃん、ビンゴだね! 3人から魔力を感じるよ!」


「よし、このまま後を付けるぞ」


 こうして寝ている2人を叩き起こしてから、俺たち5人による帰還者の尾行が開始されるのだった。




ドイツと日米の帰還者は果たしてどのような遭遇をするのか・・・・・・ 続きは木曜日に投稿します。


たくさんのブックマークと評価をいただいてありがとうございました。それから感想をお寄せいただいて感謝いたします。なかなか返信ができませんが折を見てお返しいたします。

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