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115 新たな帰還者

新たな仲間を得た富士駐屯地では・・・・・・

 朝礼を終えて・・・・・・


 朝礼で紹介された新しく加わった帰還者が東中尉に伴われて俺たちが固まっている場所に案内されてくる。ちなみに能力者が固まっているのは食堂内で一番厨房に近い左端だ。これは俺の妹がお代わりのために高速で何往復もすると一般隊員が危険という理由でこの場所があてがわれているのだった。


 それにしても東中尉がなんだか微妙な表情をしているな。新入りは自己紹介であんな活きのいい挨拶をしたんだから多少性格的に跳ね返った所があるんだろうか?



「今日から訓練生として入隊する〔冒険者〕だ。みんなよろしく頼むよ」


「俺が入隊したんだから何でも任せてくれ! それにしてもこうして見渡すと子供と女の子の集まりだな。どうせ大した力も持っていないんだろうから、女の子は大人しく俺の言うことを聞いていればいいぜ」


 なんだなんだ、いきなりこの場に俺様キャラが現れたぞ! いいのかなぁ? この部隊でそんな口の利き方をすると命が危険に晒されるという事実に気が付いていないのかな?



「主殿、どうやら身の程を弁えぬ愚か者のようでございます。我が主殿に代わって真の強者とは誰なのかをわからせましょうか?」


「ポチは大人しくしていていいよ。そのうちに嫌でもわかってくるからね」


 真っ先に不穏な話を持ち掛けた天孤を差し置いて妹の目が光っているな。こやつは入隊初日に勇者に喧嘩を吹っ掛けた前科があるから要注意だ。



「我が敬愛いたします大魔王様、このレイフェンめが無駄口を叩くあの口を塞いで参りましょうか?」


「レイフェンよ、今はまだ控えておるのだ。この大魔王が直々に恐怖の定義をその魂に刻みつけようぞ」


「御意」


 おうおう、こちらはこちらで大魔王主従が物騒な会話をしているな。『恐怖の定義』とは一体どのような物か興味が湧いて来るぞ。それにしても魔公爵は天孤に負けてなるかと大魔王様に対する忠誠心を示している。何もそこまで張り合う理由はないだろうに。



「我が神よ、ただいまの言葉は尊き我が神への冒涜にございます。このミカエルが裁きの鉄槌を下したく存じます」


 俺の隣にもう1人物騒な発言をする人物がいた! カレンは俺が馬鹿にされたと感じると途端に豹変してミカエルの本性が出てくるんだった。なんでこの部隊はこれだけヤバい発言が大手を振ってまかり通るんだ?



「カレン、頼むから騒ぎを起こさないでくれ」


「我が神の尊きお言葉に従うのがしもべの務め。我が神にはミカエルすらも及ばぬ深き思慮がお有りなのですね」


 無いから! そんな思慮なんて持っていないから! いいから全員シャラップ! なんで最初からケンカ腰なんだよ!



「ああ、よく見たら男もいるのか。どう見ても凡人だな。俺の相手は務まりそうもないか」


 今度は俺に指を突きつけて見下した発言をしているな。カチンと来るが、まあ先輩として広い心で今の失言はなかったことにしてやろうか。俺が寛大な心持ちになっているのをいいことに冒険者の行動はエスカレートして今度はリディアとナディア姉妹の元に近づいていく。



「へえ、ずいぶんきれいな女の子がいるんだな。おい、俺の女にならないか?」


「冗談はやめて下さい」


「照れる所が中々いいじゃないか。よし決めた! お前が俺の女第1号な!」


 リディアが空気を読んで食堂では手向かわないのをいいことにして、冒険者は彼女の肩に腕を回そうとする。それを何とかかわそうと身を捩るリディア。その時・・・・・・



 トテトテトテトテ!



「聡史お兄ちゃん! お姉ちゃんを助けて!」


 ナディアが俺の所に助けを求めてやって来た。オッケー! 助けましょう! ナディアから『聡史お兄ちゃん助けて!』と言われては、もう俺は何でも言うことを聞いちゃうからな! 可愛いナディアのお願いを却下するなんて神を冒涜する背信行為だろう! 相手が邪神だろうが冥界の主だろうが束になって掛かって来い! 俺はつかつかと冒険者の背後に歩み寄る。



「おい、つまらないおふざけの時間はこれでお終いだ」


 俺は冒険者の後頭部を右手で掴んで強引にリディアから引き剥がすと、そのまま食堂の外に連れ出していく。



「こ、このヤロー! いきなり何をしやがる!」


 両腕をバタ付かせながら必死で俺の力に抗おうとする冒険者だが、後頭部を掴む右手にちょっとだけ力を込めると抵抗しなくなった。



「止めてくれぇえええ! 頭が割れるぅぅぅl!」


「あまりイタズラが過ぎるのも考え物だからな。この部隊がどんな場所か教えてやる。大人しく付いてくるなら手を離してやるぞ」


「わかったから手を離してくれぇぇぇ!」


 俺が手を離すと冒険者は涙目になって自分の後頭部を押さえて蹲っている。だらしないやつだな、このくらいの軽い挨拶で涙目になってどうする! もっと気構えをしっかり持たないと、この部隊では訓練で命を落としかねないぞ。



「早く立ち上がれ! 立ったら歩け!」


 蹲っている冒険者から視線を上げると、俺たち2人の後ろにギャラリーが続々と歩いて付いてくる。当然妹や美鈴、リディア姉妹も一緒だ。勇者やタンクまでこの成り行きがどうなるのか期待した表情で歩いているのだった。あれれ! 東中尉までいるぞ。



「主殿、この場は兄殿に任せるということですかな?」


「妾はまだ兄殿の力をこの眼にしてない故、どのような力を秘めているのか楽しみなのじゃ!」


「ポチは知っているからいいとして、タマは兄ちゃんの力を初めて見るんだよね。ビックリしないようにするんだよ」


「わかったのじゃ!」


 なんだかスポーツ観戦でもするようなノリで妹たちはずいぶん楽しそうにしているな。おや、その後ろにはいつの間にか親衛隊までいるじゃないか!



「ボスのお兄さんの魔力を久しぶりにいっぱい吸えそうだぜ!」


「体にいい具合に馴染むから、魔力をすぐに取り込めるんだよな」


「魔力量アップのチャンスを逃せないわ!」


 はいはい、知っていましたとも。親衛隊の5人はいまだに俺を魔力補給タンクだと思っているんだよ。こいつらの頭には自分を鍛え上げることしかないから、何かある度に俺から魔力を吸収しようとするんだ。海南島から戻ってきたと思ったら、暇さえあれば彼女たちは用もなく俺の近くに纏わり付いて深呼吸を繰り返しているのだった。



「聡史お兄ちゃん!」


 ナディアは俺に向かってグッと力を込めたサムアップをしている。おいおい、誰が教えたんだよ? 小さな体で妙に堂に入ったサムアップだな。



 


 こうして俺と冒険者はギャラリーを引き連れて演習場へと到着する。2人だけがフィールドに立って、ギャラリーは周囲を取り囲む小さなスタンドで観戦モードに入っているのだった。



「おーい、美鈴とフィオでフィールドに重層結界を張ってくれ!」


「はーい、準備完了よ!」


 あっという間にフィールドを取り囲むドーム状の結界が10枚以上重ねて展開されている。魔法というのは本当に便利だよな。俺も自在に使ってみたいよ。5万くらいの魔力を込めてやっとファイアーボールが撃ち出せるんだから効率が悪過ぎだ。しかも込めた魔力に関係なく威力は初級魔法のファイアーボールそのものだし。本当にどうにかしたいんだけど、今の所はどうにもならないな。



「さて、新入り! 相当に自信があるようだから軽く手合わせしようじゃないか。剣でも魔法でも好きなだけ使っていいぞ。俺はここから一歩も動かないから思う存分掛かって来い!」


「どれだけ余裕をかましているんだ! 今から泣きっ面をかくなよ! 俺の攻撃は異世界の邪神すら滅ぼしたんだからな」


 ほうほう、俺たちと同じように邪神を倒したのか。これは少々骨がありそうなやつだ。冒険者はアイテムボックスから剣を取り出して正眼に構えているぞ。構え自体はこの前対戦したカイザーよりもどっしりした印象だな。



「我が神よ、そこなる不埒者が死なない限りはミカエルの魔法によりて何度も回復いたしますから、どうぞ心置きなく戦い遊ばされますよう」


「兄ちゃん、よかったら今から私と代わってもいいよ!」


 カレンと妹の声がスタンドから聞こえてくるな。妹が相手をしたら気配も感じないうちにやつが倒れるだろう。この場は秒殺して終えるのが目的ではない。この新入りに能力者部隊の厳しさを叩き込まないとならないのだ。



「用意ができたら自分のタイミングで掛かって来い!」


「今から死ぬのに随分余裕だな。それじゃあ、行くぜぇぇぇぇ!」


 新入りは大上段に剣を振り上げて俺に迫ってくる。踏み込んでくるスピードはまあまあだけど俺の妹にははるかに及ばないか。


 どれ、かなり接近してきたな。手出しはしないで最初の一撃は譲ってやるから安心してそのまま振り下ろせ。



 ガキッ!


 うん、まったくカイザーの時と同じ展開だな。違いがあるとしたらこの新入りの一撃の方が若干威力があるかな。



「さくらちゃん、参考までに今の冒険者の一振りは攻撃力にするとどのくらいかしら?」


「美鈴ちゃんは興味があるのかな? そうだねぇ・・・・・・ まあそれ程大したことはないけど、1千万くらいじゃないの」


「い、1千万ですかぁぁぁぁ!」


 なんだ? 妹の横で聞いていたアイシャが急に驚いたような声を上げているぞ。たかが1千万で何を驚いているんだ?



「アイシャちゃんは何をそんなに驚いているのかな?」


「さくらちゃん、私はここに来てだいぶ攻撃力が上昇したんですけど、それでもまだ30万に届かないんですよ!」


「そうなの? それじゃあもっと厳しく鍛錬しないとダメだね!」


「これ以上は本当に死んじゃうから止めてください!」


 そうか、アイシャはまだ30万程度のレベルだったのか。それなら俺も納得できるな。いきなり攻撃力1千万なんて見せられたら驚きだろう。待てよ、ということはこの新入りは先程の口振りと同様にそこそこ高い能力を持っているということか。これはもしかして拾い物かもしれないな。



「なんで俺の剣で斬れないんだ?」


「さてな、腕が未熟か剣が鈍らなんじゃないか」


「言っておくがな、俺の剣は女神アフロデアから祝福されているんだぞ! 万物を斬り裂く剣なんだからな!」


「でも俺は斬れない」


「クソォォォォ! もう1回だ!」


 先程と同様に大上段から剣を振り下ろしてくる。どうやら気合と身体強化をマックスにしてもう一段階攻撃力をアップしているようだな。数値にして1500万から2千万程度だろう。これは天孤やレイフェンを大幅に上回っているな。



「何故だ! 何故俺の剣で斬れないんだ!」


「簡単な話だ。それはお前が弱いからだ」


 自らの剣をじっと見つめてブツブツ呟いている新入りに俺は真実を突きつけてやる。これが帰還者とひと括りにされていても、その能力は千差万別という揺ぎ無い事実だ。もしそこに理由があるとすれば、俺が召喚された世界がより上位にある場所だったに過ぎない。もしも俺よりも更に上位の世界から戻ってきた帰還者がいたら、その時は俺が負けに回る番だろう。


 さて、今度はこちらの攻撃も見せてやろうか。でも拳で魔力を飛ばすと結界をぶち抜いて駐屯地に被害が出るからなぁ。どうしようかな・・・・・・ そうだ、この手は使えるんじゃないな。



 俺はデコピンの要領で右手の人差し指を親指に当てて曲げると勢いよくピンと弾く。指の先の乗っていた少量の魔力がその動きに合わせて呻りを上げながら新入りに襲い掛かっていく。



「わわっ! なんだこりゃあぁぁぁぁ!」


 避ける暇もなく魔力が新入りの体に着弾すると大爆発を引き起こす。威力で言えば戦車砲の10倍くらいかな。でもこれはいい方法を発見したぞ! なんで今まで気が付かなかったのか不思議なくらいだ。



 爆発の威力で宙に放り出されて30メートルくらい吹き飛んだ新入りは、自分を励ますように足に力を込めて立ち上がる。うん、まだ自分の足で立っていられるとは中々見所のあるやつだぞ!



「なんて威力だ! 体に常時展開しているシールドがなかったら絶対に死んでいたぞ」


「これが圧倒的な差というものだ。もう1発食らってみろ!」


 再び避ける暇もなく俺の魔力が新入りに着弾すると同じように吹き飛ばされる。そして今度は起き上がってこなかった。



「カレン、頼んだぞ!」


「我が神よ、どうぞお任せください」


 カレンの右手から白い光が放たれると、新入りの体はピクリと反応して起き上がってくる。だがその表情はこれ以上の抵抗は無駄だと悟った諦めが宿っている。



「俺の負けだ。異世界で無敗だった俺がまさか日本に戻ってきていきなり負けるとは思わなかった。あんたは一体何者だ?」


「俺か? 俺は破壊神、破壊と殲滅の権化だ」


「神なのか・・・・・・ 俺が倒した邪神どころではないな。何百倍もの強さだ。降参したぜ」


 呆れたように新入りは首を左右に振っている。こうしてフィールドでは勝敗が決した。まあある程度相手の魔力量を推し量れる俺からすると最初からわかってはいた結果だけど。


 するとこのタイミングを見計らったかのように演習場に司令が姿を現す。その表情はいつもの通りにいかめしいままだ。



「異世界最強の冒険者も破壊神には手も足も出なかったか。それでも私が予想した以上に健闘はしたようだな」


「司令、どこで見ていたんですか?」


「見てはいないが音は聞こえていたからな。おおよその状況はわかる」


 どこまで色々と見通しているんだよ! この司令だけは本当に理解不能だな。



「それはそうとして滝川敦司たきがわあつし訓練生、特殊能力者部隊の洗礼の感想を聞きたいな」


「予想以上の化け物がいる場所だった」


「その通りだ。お前が飛び込んだ世界は甘くはない。世界はもっと広いんだぞ、己の力に溺れないように更に自らを磨け! 以上だ!」


 その言葉を残して司令はさっさと引っ込んで行ったよ。それはそうとしてこの新入りは滝川敦司という名前だったのか。そしてやつは俺の前にやって来て一礼する。



「先輩、これからどうぞご指導をよろしくお願いします」


 ほうほう、中々素直ないいやつじゃないか。さっきまでのデカい態度が引っ込んで殊勝な様子を見せているぞ。だがお前を直接訓練するのはたぶん俺じゃないんだよな。ちょうどそのタイミングで妹がフィールドに姿を現す。



「よしよし、このさくらちゃんが新人をビシッと鍛えてあげるよ!」


「ええ! 俺はこんなガキと一緒に訓練するんですか!」


「誰がガキだって言うのかな? これはもう1度地獄を見たいようだね!」


 妹が目を細くして滝川訓練生に向かっていく。



「ついに主殿の雄姿を拝見できる時が参ったか」


「妾もこの時を楽しみにしておったのじゃ!」


 ペットたちの歓喜に満ちた声が飛んでいるな。だがそんな声が耳に入る様子もなく妹の目が凶暴に光っている。次の瞬間には滝川訓練生は妹のオモチャになって、地獄と言うのも生温い獣神の真の力を見せ付けられるのであった。


 


ようやく素直になった滝川訓練生、彼が本当に地獄を見るのは実がこれから・・・・・・ 投稿は明日を予定しています。どうぞお楽しみに!


ローファンタジーランキング陥落から1日にして復活! 読者の皆様の応援を心から感謝しています。今週と来週は連休の3日連続投稿を何とか実現したいので、どうか応援してください!

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