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114 海南島攻略後

海南島から帰路に着いた聡史たちは・・・・・・

 海南島を飛び立った輸送機の中では・・・・・・


 なんやかんやと駐屯地を出撃してから3週間が過ぎていた。俺たち特殊能力者部隊は海南島での任務を完了して現在日本への岐路に着いている。海南島は常夏の楽園だったから季節感がなかったけど、すでに11月も終わりが近づいて日本では冬が目の前まで迫っている時期だよな。


 しばらく離れていたから日本に一刻も早く帰りたいという気分になっている。緊張を強いられる戦場の重圧から解放された安堵感に包まれると、しばらく会っていない仲間たちとの再会が楽しみになってくる。いくら俺が破壊神だとはいっても、戦場というのは中々大変な所だ。自分の命だけではなくて一緒に行動するチームの命も懸かっているから気を抜けないんだ。これで日常に戻れるかと思うと心の底からほっとするよ。



「聡史君、なんでカイザーを一撃で殺さなかったのかしら?」


「美鈴、常に殺すことを前提に考えるな」


「だってそれが私たちのやり方でしょう」


 敵には情けを掛けずに容赦なく殺す・・・・・・ これは俺たちが異世界で学んだ鉄則だ。さもないと逆襲されて自分が命を落とさないとも限らない。ただし時には敵を取り逃がすことが何度かあった。それは思わぬ横槍が入ったり、相手が転移魔法で消えてしまったりしたからな。大抵そういうやつに限って復讐に燃えて俺たちの目の前に現れるんだ。異世界で何度も経験したパターンだ。



「美鈴を人質に取った分も含めて20発ぐらい殴って倒すつもりだった」


「あら、嬉しいわね。私の分まで聡史君が頑張ってくれる予定だったのね。それに私が人質になっているのを到着早々目撃してずいぶん怒ってくれたし」


「あの時は頭に血が上ったな」


「私は目を閉じて術式の解析に専念していたけど、聡史君の声が聞こえて正直安心したわ。それまでは聡史君に力を使わせないように早くしないとと思っていたのよ」


「美鈴があんな姿で拘束されていたから本当に焦ったよ。でも結果的には全員無事だったから良かったんじゃないか」


「それだけなの?」


「そうだな」


「まあいいわ。これ以上話しても聡史君相手では仕方ないし。南大東島で私たちの関係がランクアップしたと思ったけど、どうやら錯覚だったようね」


 何か気になる言い方だな。でもこれは美鈴の口癖のようなものだ。子供の頃からしょっちゅう耳にしている。でも口では『仕方がない』と言っているが、表情は残念さを隠せないようだ。一体何が残念なんだろう? あの時に『美鈴は家族みたいなものだ』と言った俺の言葉を信用していないのかな?



「ところでカイザーは将来私たちの前に現れるかしら?」


「そう遠くないうちに現れるような気がするな。今度はきっちりと決着をつける!」


「期待しているわ。あの男は私たちとは絶対に相容れない。次に出会った時には殺すか殺されるかの二者択一になるでしょうね」


「そうだろうな。あれがやつの本来の性格なのかそれとも異世界で人格が歪んだのかはわからないが、俺たちにとっては明確な敵として認識するしかないな」


 こうして俺たちはフライト中すっと海南島の出来事について語り合いながら過ごした。もちろんひゅうがの甲板で魔力の補給をした件なども含めて・・・・・・ 美鈴は機会があったらまた同じように補給してほしいと言っってくれた。もちろん俺的には大歓迎だ。心を込めて口移しで魔力を補給するぞ!


 こうして約6時間のフライトで輸送機は厚木飛行場に着陸する。滑走路に降り立つとすでに木枯らしが吹いて、半袖だった俺たちは思わず身を竦めてしまった。まさか日本がここまで寒いとは・・・・・


 ヘリに乗り換えて富士駐屯地に向かう。ありゃー! 富士山の頂上付近はすでに真っ白な雪が積もっているじゃないか! 季節の移り変わりを感じるなぁ。



「兄ちゃんお帰り!」


「大魔王様、このレイフェン心からお帰りを待ち侘びておりました」


 ヘリポートには俺の妹と魔公爵が出迎えに来ていた。妹の後ろには天孤ともう1人緋袴と白衣はくえに身を包んだ怪しげな女性が立っているな。おそらくこれが玉藻の前なんだろう。何はともあれこうして無事に戻ってこれて良かった。再び忙しくて騒がしい毎日が始まるんだな。何も起こらない日常に感謝しながらしばらくは過ごすとしよう。


 







 同じ頃、米軍が占領を進める海南島では・・・・・・


 聡史たちはこの島での任務を終えて日本に戻っていったわね。ああ、紹介が遅れたわ。私は合衆国の帰還者、マギーよ。


 彼らの手を借りて海口市の占領が無事に終わったわ。市内では散発的な抵抗や小規模なデモが発生しているけど、市民は概ね平穏にアメリカ軍を受け入れているわね。中華大陸連合の圧政からの解放と島民による自由な独立政府を立ち上げるという発表が好意的に受け入れられているおかげね。


 聡史に殴られたカイザーは両手足5箇所の骨折と全身打撲で今のところ意識不明の重体よ。でも帰還者の回復力は並大抵ではないから10日もあれば元通りになるでしょう。彼と彼の親衛隊を気取っていた連中は全員拘束されて厳重な監視下に置かれているわ。すでに私から詳細な報告がペンタゴンに齎されているから、怪我が治り次第軍法会議に掛けられるはずよ。意識を取り戻した親衛隊は営倉に放り込まれて大人しくしているわ。これ以上心象が悪くなるといくら貴重な帰還者でも厳罰を免れないのよ。


 それにしても聡史の力には驚かされたわ。あのカイザーの攻撃を受けてもビクともしないばかりか、たった一撃で戦闘不能に陥れるんだから呆れたものね。恐ろしい魔人のような先入観があったんだけど、話をしてみると理性的で物分りがいい人物だったわ。敢えて言うなら普通の人という感じかしら・・・・・・ いいえ、彼は違うわ。内に秘めている強大な力を抑えるために普通の人として振舞うように努力しているという表現が適切よ。


 それにしてもあの短い時間の出会いで私の心に強烈なインパクトを残してくれたわ。なんだか聡史の存在が気になって仕方がないのよ。一緒にいた美鈴とはどういう関係なんでしょう? これも物凄く気になるわね。



「マギー、どうしたんだ? 恋でもしているかのような表情だぞ!」


「リック、からかわないでちょうだい! 色々と考えることが多くて頭をフル回転しているんだから」


「それはすまなかったな。邪魔はしないから考え事に没頭してくれ」


 なぜかしら? リックの『恋』というフレーズに過敏に反応してしまったわ。まさか私が・・・・・・・ そんな筈はないでしょう! きっとこれは私の日本への憧れよ! 元々大好きだった日本への気持ちが、実際に日本人に出会って針が振り切られているのよ。そうに違いないわ!


 ああ、でももう1度聡史に会ってゆっくりと話をしてみたいわ。近いうちに日本に行く用事でもないかしら。いいえ、もしなかったら強引にでも作ってみせるわ! きっともう1度聡史に会えば私の気持ちがはっきりとわかる筈よ。こうして私は何とか日本へ行く理由がないかと再び頭をフル回転させるのでした。









 しばらく時間が過ぎ去って、12月中旬の日本の国会では共産党の党首が首相に質問をしている・・・・・・



「山本首相、日本政府は第2次大戦後長らく守っていた平和を破って戦争に踏み切るという人道に背く決断をしました。この件に関して戦争を開始した責任者としての責任ある見解を求めます」


「日本国が積極的に戦争を仕掛けたわけではなく、これは中華大陸連合から攻撃を受けた結果として止むを得ず戦争という苦渋の決断を下したものであります。私には日本国民の生命と財産を守るという最優先すべき使命があります」


「ただいまの発言こそ第2次大戦の反省を全く生かしていないものあります! 戦争ではなく講和を以って成す平和的な解決方法を放棄したと見做せるのではないでしょうか! 我が国は再び戦争を放棄した平和憲法を復活させて、ドイツに習い第2次大戦の反省をするべきです」


「講和を求めている間に日本に向かって飛んでくるミサイルをどうするおつもりなのかこちらが聞きたいところであります。こうして議論している間にも中華大陸連合は核を搭載したミサイルを発射するかもしれないのであります。この戦いが真に終結した折には憲法をどうするかという議論も可能ですが、現状に於いては不可能と断じます。更にドイツを見習えというご見解ですが、かの国に於きましては共産主義政党は結社と活動が禁じられております。この点を見習ってよろしいのかお聞かせください」


「質問を変えます」


 このような依然として中華大陸連合の肩を持つ勢力との不毛なやり取りが行われている。戦時ということで衆議院の解散も行えないので、こうした日本の国力をどうにかして弱めたい勢力が国会の場にも跋扈しているのであった。



 


 国会終了後の午後8時、首相官邸では・・・・・・


 会議室には山本首相をはじめとして麻倉副総理兼外務大臣、小野田防衛大臣、菅田官房長官が集まっている。4人以外に統合幕僚長と内閣府情報担当長官の両名も参加した秘密会議が行われようとしていた。ちなみに内閣府情報担当長官とは府内に設置された日本における諜報機関のトップである。従来の内閣情報調査室の権限を拡大して人員を大幅に増やした組織である。



「それでは情報担当長官からあらましの説明をお願いします」

 

 官房長官の司会によって会議が幕を開ける。メンバーの手元に配布されている資料には極秘のスタンプが押されており、その表題は〔海南島攻略後における世界情勢〕とある。



「それでは情報担当部による今後予想される世界情勢に関する分析を報告いたします。海南島を日米が手中に収めたことで中華大陸連合から南シナ海を奪還いたしました。この点におきまして南シナ海での海上封鎖が可能となります。さらに海南島を拠点として香港とその北部に広がる広東省や、東南アジアに接する雲南省に侵攻が可能となりました」


「香港はイギリスが中心となる話に変更はないんだね」


「総理、その通りでございます。現在イギリス軍が香港奪還を目指して準備を進めております」


「統合幕僚長、支援要請があったら対応可能だろうか?」


「通常部隊は済州島と海南島の基地整備を進めており、現状は他の地域に手が回りません。後方支援ならばともかくとして、戦地に派遣可能なのは特殊能力者しかおりません」


「こうして戦域が広がると我が国の国防における人員不足が露呈するな。情報担当長官、続きを頼む」


 山本総理の表情には苦悩の色が浮かぶ。国防軍の予算と人員の不足は頭の痛い問題であった。だが本日の国会答弁でもあったように、野党の反対勢力が根強く抵抗するために予算の増額が今国会でもいまだに宙に浮いている状態であった。



「雲南省に対する攻撃は東南アジアに侵攻している中華大陸連合遠征部隊の補給を絶つ目的があります。早い時期にあの地域を解放する必要があると日米間には共通認識があります」


「総理、殊にラオス、カンボジア、ミャンマーの3国は食糧の収奪によって深刻な飢餓が発生しています。更にタイやベトナムが中華大陸連合から深刻な圧力を受けている現状を打破したいですな」


「外務大臣の発言通りだ。東南アジアに関しては可能な限り早くに解放したい。この件に関してはアメリカにすでに要請した。あちらも乗り気になっているから早期に実現するだろう」


 山本首相は首脳レベルでまとまっている話を改めてこの場に提示している。実は米軍には型落ちとなった短距離弾道ミサイルや艦対地ミサイル〔トマホーク〕の在庫がまだ相当数あって、装備更新のためにペンタゴンはより早い時期にこれらを一掃したい意向を抱えているのだった。取り敢えず一通り説明があった東南アジア方面に関しては誰でも予想がつく話だったので、この件に関しては参加メンバー全員が頷いている。



「それでは沿海州方面の情勢に移ります。こちらの中ロの大規模な紛争に関して我が国は極力関わらない方針を堅持しております」


「そうだな、手を伸ばす余力がないのが実情だ。本音を言えば中ロでこのまま争って互いに疲弊してくれた方が我が国としては有り難い」


 国際政治とは表向きの友好だの人道だのでは済まされない非情な側面がある。現状の日本の国力ではこちらの方面で起きている紛争に関与できない。だがこうして日本が関わらないことで互いに決着が長引いて、どちらが勝つにしても回復し難い深刻なダメージを残す結果となるのだ。その過程で甚大な死傷者が出るとしても、それは現状では見て見ぬフリをするしかない。



「沿海州には本格的な冬が到来して現在は中華大陸連合がウラジオストクを攻略した時点で戦線は膠着しております。晩秋のヨーロッパ方面軍の大攻勢で一部ロシアが押し返した部分もあります。双方の勢力範囲に関しては添付してあります地図をご覧ください」


「かなりの戦死者が出ているのだろうな」


「総理の発言通りです。ロシア軍は初期に帰還者による攻撃を受けて相当数の基地が壊滅しました。情報が少なくて正確な数字は申せませんが、中華大陸連合の占領地域では住民が3分の1以下になっているという話も伝わっております」


 冷酷な話ではあるがこれが戦争の現実でもある。飢餓と燃料不足と虐殺によってロシアの一般市民には深刻な被害が広がっているのだった。だが中華大陸連合もそれなりに被害を出しているらしい。



「侵攻の初期に占領地から徴発されました旧北朝鮮軍と旧韓国軍はほぼ全滅したようです。両軍とも使い捨ての弾除けの扱いでしたから満足な装備や食料が与えられていませんでした。両軍併せて死者は80万とも言われており、その大半は餓死か凍死のようです」


「なんとも痛ましい話だ」


「ロシアが3人しかいない帰還者を全員この地域に振り向けた結果、中華大陸連合統合軍にも相応の被害が出ているようです。おそらくこの地域全体での最終的な死者は中ロともに100万人を上回りそうです」


 かなり酷い状況が沿海州方面で発生している現状だった。情報担当長官は続いて中東やヨーロッパの情勢に関する説明を続ける。そして最後にアメリカの話題となった。



「米軍の帰還者、カイザー他5名がドイツに亡命を求めました。当然アメリカはNATO各国に彼らの亡命を受け入れないように通達しましたが、これに反してドイツは亡命を認可しました。アメリカはこのドイツの措置に相当激怒しています」


「ヨーロッパが荒れそうだな」


 この件に関しては山本首相の呟きだけが残されるのだった。そして会議の最後に統合幕僚長が発言を求める。



「現在日本には7人の帰還者と1人の亡命帰還者がおりますが、ついに待ち侘びた新たな帰還者の出現が確認されました。当人と接触した結果、特殊能力者部隊への入隊の意思を表明しました」


「それは朗報だな。これで我が国独自の帰還者は8人目となるのか」


「近いうちに入隊の手続きが完了したします。詳しい資料は入隊後にお持ちしますが、新たな帰還者のプロフィールは男性で18歳となっております」


「夏に入隊した3人の帰還者は素晴らしい能力を発揮しているようだ。新たな人材にも期待している」


 こうしていくつかの確認事項を話してからこの会議は解散するのであった。


 





 その3日後の富士駐屯地では・・・・・・



 朝礼の時間に副官さんがいつものように前に立っているが、今日に限ってその隣に若い男性が一緒にいる。初めて見る顔だけど一体誰なんだろう?



「伝達事項の前に新たにこの部隊に加わることとなった帰還者の紹介をする。コードネームは〔冒険者〕だ。一言何か述べたまえ」


「今紹介にあった〔冒険者〕だ。この俺が入隊したからにはみんなには心配は掛けない! 大船に乗った気持ちでいてくれ!」


 おいおい、ずいぶん活きがいいやつが入ってきたな。異世界で相当な冒険を経験してきて腕にも覚えがあるんだろう。幸い仕事は山のようにあるからこうして新たな人材が加わるのは大歓迎だ。ただ挨拶の感じからして性格には一抹の不安を覚えるぞ。


 こうして新たな仲間を迎える特殊能力者部隊であった。 




駐屯地に現れた新たな帰還者とは・・・・・・ 続きは明日投稿の予定です。


今週は仕事が大変で満足に執筆する時間が取れませんでした。その分3連休は毎日新たなお話をお届けできるように頑張ります。どうぞお楽しみに!


投稿間隔が開いてしまったためか2ヶ月以上守っていたローファンタジーランキングから陥落しました。とっても残念です。どうかランキング復活のために皆様からの評価とブックマークをお寄せください。心からお願い申し上げます。

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