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113 新たな邂逅

カイザーとの決着は・・・・・・

 いつの間にか魔法陣による拘束から抜け出した美鈴が俺の横に並んでいる。その姿を見たカイザーは目を見開いて驚いた表情に変わっている。ザマーみやがれだな。



「美鈴、無事なのか?」


「ええ、魔力を少しだけ失ったけどどこにも異常はないわ」


 美鈴は殊更『少しだけ』という部分を強調している。カイザーに対する強烈な嫌味を含んでいるのは明白だ。



「心配したけどさすがは美鈴だな」


「とっくに魔法陣の拘束術式は破壊していたんだけど、両腕に巻かれていた鎖を解くのに時間が掛かったわ。さて、カイザー! 私からどのようなプレゼントをお望みかしら?」


「私に手を出すな! あそこに倒れているお前たちの仲間がどうなってもいいのか?」


 カイザーが振り返る先には相変わらず勇者が魔法銃を突き付けられたままで地面に横たわっている。そろそろあいつも助けてやろうかな。



「銃を降ろしなさい! あなたたちも軍規違反で処罰の対象となるわよ!」


 その時マギーの声が響く。軍規違反と警告された男たちの瞳には一瞬の躊躇が浮かぶ。そのタイミングを美鈴は逃さなかった。



「ソニックインパクト!」


 美鈴の手から指向性の音響魔法が放たれる。それは音波を増幅して相手の耳に届けることで、鼓膜や三半規管にダメージを与える魔法だ。致死性は低いが確実に相手を無力化する効果がある。鼓膜や耳の内部なんてどう足掻いても鍛えようがないからな。勇者を取り囲んでいた男たちは耳を押さえながら次々に地面に倒れていく。



「リック、ダン! 倒れている帰還者を保護して!」


 ほうほう、このマギーさんは中々優秀な指揮官だな。年齢は俺たちと然程変わらないようだが、配下の男性に間髪いれずに命令をしているぞ。彼らはマギーの後ろから飛び出して、勇者の体を2人掛りで担ぎ上げると、俺たちがいる場所に運んでくる。



「協力を感謝します」


「いいえ、これはアメリカ軍の不穏分子が仕出かした不始末ですから、私たちにも大きな責任があります」


 これは驚いたな! 美鈴ならばともかくとして、逆の立場で俺がこんな返答をする自信がないぞ。このマギーさんは相当に優秀なんだろうな。それはともかくとして、まずは勇者の手当てが先だ。



「おい、勇者! 目と口を空けるんだ!」


 俺の呼び掛けに意識が朦朧としたままではあっても、勇者が辛うじて目を開く。



「俺がわかるか? この水を飲め!」


 ペットボトルを口に捻じ込むと少量の水を流し込んでいく。駐屯地でしょっちゅう妹からぶっ飛ばされて意識を失っているから、この程度の怪我は慣れているだろう。あれ、よく見たら右足が変な方向に曲がっているな。このまま放置しておいても回復水の効果で自然に治癒するんだけど、繋いでおいた方が治りが早いんだよな。どれ、骨折箇所を引っ張って真っ直ぐにしてやろう。



「ギャ&#~!?フ#ギ’ァァァァァァ!」


 あれ? 痛みに耐えられなくなった勇者は白目を剥いて意識を失ったぞ。まあ水も飲んだことだしこのまま放置しておいても大丈夫だろう。さて、残るはカイザーの処分だな。



「待たせたな。散々人に剣で斬り掛かってくれたお礼の時間だぜ」


「この化け物が!」


 カイザーの目には明らかに俺に対する恐怖が宿っている。やつの攻撃が全く通用しなかったんだから当然だな。そしてもう人質はいなくなっている。俺が手出しを控える理由はどこにもないのだ。



「ハンデなしの1回勝負だ、全力で掛かって来い!」


「貴様を殺してやる!」


 俺は右の拳を握り締めて、カイザーは手にする剣になにやら魔法を掛けて構えている。踏み込んだのは双方同時だった。風を切り裂きながら俺の拳がカイザーに迫る。カイザーの剣は正確に俺の心臓を狙っている。



 ガキン!


 だがカイザーが魔法をまとわせて全力で放った剣は俺の左手が全くの無傷で食い止めている。そして右の拳がカイザーの顔面へと吸い込まれる。



 ドゴッ! ガラガラガシャーーン!


 顔面に俺の拳がめり込んだカイザーはその勢いに押されて華麗な後方6回転半宙返りをしながら建物の瓦礫の中へと突っ込んでいった。今回は拳に魔力をまとわせてはいないので、たぶん死んではいない筈だ。ただし俺の素の攻撃力が99999999あるから本当に生きているかちょっと自信がない。おや、瓦礫に埋まっているカイザーの体がピクピク痙攣しているな。やったね! これで今の時点では確実に息は残っていることが確定した。俺もやろうと思えば手加減が出来るんだぞ!



「申し訳ありませんが、これ以上の攻撃は控えていただけますか」


 その光景を黙って見ていたマギーさんがストップを掛けてくる。これには美鈴が血相を変えて抗議しているな。


「私の出番はどうするのよ! 大魔王に屈辱を味あわせた罪を償わせるのよ」


「申し訳ありません。こちらとしてもカイザーを死なせるわけにはいかない事情があります」


「あんなゴミの1人や2人いいじゃないの」


「さすがにこれ以上は私も立場上看過できません」


 マギーが美鈴にそのように申し出て、美鈴はやり場のない憤りをどう処分してよいのやらという表情になっている。大魔王様、すいませんでした! 軽く殴ったつもりだったんだけどやはり予想以上の威力が出てしまいました。



「カイザーは作戦行動中に私闘を行いました。人質などという卑劣な方法を用いたことも相まって、おそらくは軍法会議の場に立たされると思われます。彼の処遇に関しては米軍の専決事項となります」


「正論ね。それも反論の余地など全くないほど完璧よ」


 あの美鈴がマギーさんに白旗を上げているぞ! これは驚きだな。美鈴を言い負かす程の切れ者がいるとは思わなかったな。こうしてカイザーの件が落着すると、マギーさんは姿勢を正して俺たちに向き直る。



「改めて自己紹介いたします。私は合衆国連邦軍に所属する帰還者、マーガレット・ヒルダ・オースチンです。曽祖父が日系人なので、8分の1は日本の血が流れているんですよ。そのおかげで日本が大好きで、アニメやファッションは全て日本製を愛用しているんです」


「はじめまして、マギーさん。私は日本国防軍所属の西川美鈴よ。これからも会う機会がありそうだからどうぞよろしく」


「同じく楢崎聡史です。今回は色々と助けてもらってありがとうございました」


 そうだったんだ! この人の先祖が日系人だったんだな。顔立ちは完全に陽気なアメリカ娘という感じなんだけど、その考え方や趣味には日本のテーストが残っているのかもしれないぞ。



「実は私は美鈴と聡史のことを以前から知っていたんですよ。ちょうど渋谷でショッピングをしていた時にあなたたちが中華大陸連合の帰還者を倒したのを偶然目撃したんです。今回の遠征にはあの小柄な女の子はいないのですか?」


「まあ、それは本当に偶然ね! 今回あの子は留守番をしているわ。今頃退屈を持て余しているでしょうね」


 美鈴は大袈裟に驚きながら『本当に偶然なの?』という疑惑の瞳をマギーさんに向けている。帰還者がそう簡単に国外に出るとは考え難いな。おそらくは日本の偵察に訪れていたのだろう。それでもこうして素直に打ち明けてくれる点は好感が持てる。ただしマギーさん、どうかお願いだから俺の妹のことは記憶から消去して欲しい。どこに出しても恥ずかしい違う意味で自慢の妹なんだ。


 俺たちが話をしている間に、マギーさんが引き連れている男性帰還者が連絡を取って敷地内部に救急車両が入ってくる。勇者やカイザーだけではなくて美鈴の魔法でダメージを受けた連中もまだ動ける状態ではないので、この場には5台の救急車が出動している。



「それでは皆さんをヘリポートまで送ります。勇者さんは責任もって救急車両で搬送します」


 こうして俺たちは武装警察の基地を後にするのだった。もう完全に破壊されているからこの後ここには工兵部隊が入って片づけをするそうだ。海兵隊の車両は市内の重要拠点の占拠に向かうらしい。




 こうして俺たちは海口市を後にする。ヘリに乗り込む頃には勇者もかなり回復していて、車椅子で搭乗が可能になっていた。足の骨折に関してはもうしばらく時間が掛かりそうだな。幸い俺が骨折箇所を繋いだ記憶が飛んでいるようなので、何も言ってこない。


 そして臨時司令部に戻ると、俺たちを司令が出迎えてくれる。



「いい働きをしてくれたな。予想通りに満点だ」


「司令、その口振りからすると事前に何があるか予測していたような気がしてきますが」


「ああ、大方わかっていたぞ」


 この人は一体どこまで見通しているんだろう? まるで未来を予測しているかのようだぞ! そこに美鈴が口を挟む。



「司令、そろそろ種明かしをしてもらっていいような気がしてきます」


「そうだな、おい、姿を現していいぞ」


 司令が一声掛けると今まで誰もいなかった筈の部屋の壁際に1人の男性が姿を現す。黒尽くめの服に身を包んでサングラスを掛けている怪しげな男性だ。



「お前たちにはまだ紹介していなかったな。これが我が特殊能力者部隊の諜報部門のトップ、忍者部隊の服部少尉の能力だ」


「はじめまして、服部です」


 頭を下げるその姿は黒尽くめの服を着た中年男性だ。ただしその顔には妙に特徴を感じない。どこにでもいる顔に見えて、かえって印象に残り難い気がする。



「全く気配すら感じませんでした」


「それが忍びですから」


 短い言葉で語るその口調には情報収集の専門家としての矜持を感じる。それにしても恐れ入ったな、俺が全く気配する感じないとは・・・・・・



「楢崎訓練生の妹さんは私が気配を消して近づくと警戒する素振りを見せていました。私の隠形もまだまだ修行が足りません」


「あれは参考にしないでください。ただの野生の勘ですから」


 本当に呆れたやつだな、俺の妹は・・・・・・ ここまで完璧に気配を消しても気がつくとは。どこの世界に向かって突き進んでいくつもりなんだ!



「服部少尉が米軍内部に潜入していたんだ。おかげで生意気なクソガキがくだらないイタズラを企んでいると判明した。それからこんな物もあるぞ」


 司令は自分のスマホを開いて俺たちに見せる。



「メールのようですが誰からですか?」


「これはアメリカ大統領から送信されて来たものだ」


 ブフォォォォォ! ゲフゲフ!


 ちょうど口に含んでいたお茶を思いっきり吹き出してしまった。美鈴が慌ててクリーンの魔法掛けてくれる。ちょっと待てよ! 一旦落ち着こうか。司令はどこかの大統領と言った筈だ。確かアメリカだったかな。アメリカ・・・・・・ アメリカだってぇぇぇぇぇ! 何でこの司令はアメリカの大統領と面識があるんだよ!



「マクニールは私のメル友だからな。大統領に就任直後ホワイトハウスに忍び込んで強引にアドレスを聞き出した。その時なぜか意気投合して何かあるとこうして知らせてくれるんだ」


「忍び込んだんですかぁぁぁぁ!」


「私もさすがにホワイトハウスに忍び込む度胸はないですな」


 見ろよ、忍者すら白旗を揚げているじゃないか! この司令は何を仕出かしてくれるのかわかったものではないな。絶対に駐屯地最強の危険人物だ。



「それで大統領のメールはどんな内容なんですか?」


「カイザーを排除するのに手を貸して欲しいという内容だ。差別主義者で強固な独裁志向を内包している帰還者などいくらアメリカの懐が広くても持て余すだろう。だからこそこうして私が協力して罠に嵌めたんだ。本人はお前たちに罠を仕掛けようと考えていたが、そういう時こそより大きな罠に嵌り易いんだ。よく覚えておけよ」


 無理! この人の思考についていくのは俺程度の頭の出来では絶対に無理! あの美鈴ですら自分が司令の手の平で踊らされていたと聞いて呆然としているよ。ましてカイザーのような性格だったら簡単に乗せられていいように踊らされるよな。やつにはご愁傷様でしたとでも声を掛けてやりたい。



「さて、これでもうこの島で遣り残したことはないな。そろそろ富士に戻る準備に取り掛かるぞ」


 こうして俺たちは事後を国防軍の陸海空3軍に託して翌々日には富士駐屯地に戻っていくのだった。










 閑話、カイザーのその後・・・・・・



「連邦軍特殊能力者部隊准尉、クリストファー・ウイリアムズ、作戦行動中の私闘の事実によって不名誉除隊とする」


 海南島で日本の帰還者と私闘を行った容疑で私は軍法会議に掛けられた。その結果は不名誉除隊というものだ。一見軽い処分のように聞こえるが、不名誉除隊とは要するに懲戒免職と同様か、若しくはより重い不利益が生じる。


 ひとつには公民権の停止。これは選挙に関与できないということだ。将来政治家となって新しい世界秩序を目指そうとする私にとっては致命的だな。その他には退役軍人健康保険制度からの除外や履歴に必ず不名誉除隊の旨を明記する義務が生じる。要するにまともな職には就けないということだ。これらに関しては私にはどうでも良いことだが。


 もっとも帰還者としての能力まで奪われたわけではないからまだやり直しは可能だ。だがこの国はもうダメだな。政府が私を排除しようとする圧力を方々に掛けて回っている。こうなったらもうひとつの祖国に拠点を移すしかないな。


 私の父はアメリカ人で母はドイツ人、つまり私はアメリカとドイツの2重国籍を持っている。これからはドイツ人のクリストフ・ウイルヘルムとして野望の実現に邁進しよう。その中で必ずあの日本の帰還者には復讐を果たす。



 その足で私はドイツ大使館へと向かうのだった。




次回から舞台は富士に戻ります。続きの投稿は週の中頃を予定しています。どうぞお楽しみに!

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