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100 休日のよくある風景

節目の100話を迎えました。非番で出掛ける面々は果たして・・・・・・

 駐屯地から最寄の駅に向かう車内では・・・・・・



「フィオさん、こうして駅まで送ってもらえると助かりますね」


「そうね、明日香ちゃんが言うとおり駐屯地から駅までだいぶ距離があるから、送ってもらわないと外に出る気がしないわ」


 黒塗りのワゴン車に乗って御殿場の駅に向かっているのは、私ことフィオを含めた4人よ。自宅に戻ろうとしていたカレンを強引に仲間に引き入れて、こうして外出をしているわけよ。ところでどこに行くのか決まっているのかしら?



「さくらちゃん、駅に向かうのはいいとしても、その先はどこに向かうのかしら?」


「フィオちゃん、実にいい質問だね! 私の調査網が新宿に評判のいい食べ放題のホテルがあるという情報をキャッチしたんだよ! ランチタイムは2980円という超お得な価格だからね! 今日は心行くまで食べ切るよ!」


「やっぱりさくらちゃんは食べる方向しか考えていないのよね。まあ仕方ないから付き合いましょうか」


「フィオさん、私はそんなにたくさん食べられませんよ。食べ放題というのはちょっともったいない気がします」


「これだから明日香ちゃんは素人なんだよ! ホテルのバイキングはデザートも食べ放題なんだからね!」


「さくらちゃん、本当ですか! 私、なんだか急にやる気が出てきました」


 こうして賑やかな車内では会話が弾むわ。ただしいまだに自分が巻き込まれたことに納得がいっていないカレンだけは無言でやり取りを聞いているだけね。そろそろ諦めてこのシチュエーションを楽しむ方向に考えを切り替えないとダメよ。



「新宿なんてあまり行ったことがないからワクワクしてきます」


「明日香ちゃんは田舎者だなぁ。それに比べて私のような都会派はどこに行っても平常心だからね!」


「さくらちゃんがいつから都会派になったんですか?! 学校に通っていた頃は殆ど地元から出たことがないくせに」


「明日香ちゃんは何もわかっていないなぁ! こう見えても私は六本木や渋谷なんか目を瞑っても歩けるんだよ!」


「さくらちゃんはいつの間にそんな都会に出かけていたんですか! ちょっとびっくりです」


「ふふん、私を尊敬する気になったかな?」


「ところでさくらちゃんはどんな用件でそこに行ったんですか?」


「えーと・・・・・・ 確か六本木はどこかの大使館を襲撃したんじゃないかな。渋谷は帰還者を尾行して兄ちゃんが倒したような記憶があるね」


「やっぱり中華大陸連合大使館が崩壊した件はさくらちゃんたちだったのね!」


 今まで誰も本人たちには確認しなかったけど、特殊能力者部隊の全員があの大事件は3人の犯行だと心の中で考えていたわ。その張本人がこの場で自供したのだからこれで完全に裏が取れたわね。日本と彼の国が戦火を交える引き鉄を引いたのは、さくらちゃんたちということで確定したわよ。まあ3人が何もしなかったとしても、遅かれ早かれ戦争は始まっていたのでしょうけど・・・・・・








 新宿にて・・・・・・



 はあ、お腹が苦しいわ。昼前に到着してさくらちゃんが我慢できずに真っ先にホテルのランチバイキングに突入したのよ。様々な料理の他にカニとステーキが食べ放題という豪華な内容だったから、ついつい食べ過ぎてしまったのよね。もうお腹いっぱいというところで最後にデザートまで口にしてしまったから、限界なんかはるかに突破しているわ。


 でもさくらちゃんは次元が違うわね。私たち3人も結構頑張って食べたつもりなんだけど、3人の合計の倍以上の量をさくらちゃん1人で平らげていたわ。おまけにデザートを全種類制覇してから最後に『今日はこの辺にしといてあげよう!』って、まったく余裕の表情だったのよ。当然周囲のお客さんの間でも注目の的で、どんどん積み重ねられていくお皿に皆さん目を丸くしていたわ。さすがにこのままでは体重的に色々と不味いから、少し歩いて消化していかないとね。



「うう、お腹が苦しいです! さくらちゃんはあんなに食べていたのに何で平気な顔をしているんですか?!」


「明日香ちゃん、日頃から私は鍛えているからね。強くなるためにはいっぱい食べないとダメなんだよ!」


「どこの相撲部屋ですか! それにいっぱい食べるにしても限度があるでしょう!」


「そうかなぁ? もっと時間があればあと10皿くらいは軽くいけたけど」


 明日香ちゃん、さくらちゃんの食欲についてこれ以上突っ込むのは止めましょう。次々にお皿の食べ物が消えていくあの光景を思い出しただけでもなんだか気持ちが悪くなってくるわ。カレンも私と同様にげっそりとした顔になっているわね。



「フィオさん、ところでこのあとはどうしましょうか?」


「そうねぇ、ちょっとゆっくり散歩でもしながら色々と見て回りたいわね」


「私、行きたいところがあるんです! 東口の方にアニ○イトがあるんですよ! 一度行ってみたかったんです」


「なんだ、明日香ちゃんはアニメ好きを拗らせているんだね!」


「さくらちゃん、アニメは私の永遠の友達なんですからね! 拗らせているなんて心外です!」


「まあいいでしょう。ナビで見ると靖国通りの向こう側だから行ってみましょう」


 こうして明日香ちゃんの意見の元に私たちはアニメ○トへと向かうわ。そして中に入ると、そこは日常とは全くの別空間だったのよ! マンガ本が並んでいる店程度にしか認識していなかった私には目眩がするようなグッズの数々と、平日だというのにそこに群がる人々。等身大のアニメキャラの看板が差し招くようなポーズで奥のコーナーへと誘っているわね。昼過ぎという殆どの人が働いている時間にも拘らず、こんなにも大勢の人で賑わっているなんて驚きの光景だわ。あの一角に固まってリュックを背負っている人たちはもしかしたらニートと呼ばれる皆さんかしら? その他には外国人観光客と思しき姿が大勢目に付くわね。



「カレン、なんだか私には無理みたい」


「フィオさん! 何を言っているんですか! ここは聖地ですよ! 私たちは敬虔な巡礼者なんですから、お財布の中の有り金をすべてここに寄進しなければなりません!」


 ま、まさか! カレンは明日香ちゃんよりも重症のアニオタだったの! 瞳をキラキラさせながら外国人が群がっている人気のコーナーに飛び込んでいくわ。でも私とカレンの外見は欧州系だから、観光客が群がっている中に飛び込んでも全然違和感がないわね。でも私は無理よ! あの中に入っていく勇気はないから、できるだけ静かな場所に佇むしかないわね。


 

 


 2時間後・・・・・・



「大収穫でした! お財布のお金だけでは足りなかったので、近くのATMで下ろしました」


「カレンさんは思いっきり大人買いを決行しましたね。私には真似ができません」


「明日香ちゃん、これは神聖なるお布施ですからね。金額など気にしている場合ではないです!」


「さすがです! 私、カレンさんを尊敬します! あとで戦利品を見せてください」


 2人とも人が変わったようになっているわ。さっきまでお腹が苦しくてフーフー言っていたのに。あっそうだわ! もう1人忘れるところだった! さくらちゃんはちょっと店内を見て回るとすぐに飽きて、今は階段の踊り場にある椅子でグーグー寝ているんだったわ。でも下手に起こすと危険だから・・・・・・



「さくらちゃん、これからアイスクリームを食べに行くわよ!」


「目が覚めたよー! さあ大急ぎで行くんだよ!」


 こうして私はカレンと明日香ちゃんが両手に持っている袋をマジックバッグに収納して外に出るわ。それにしてもこんなに肌寒い季節にさくらちゃんは本当にアイスなんか食べたいのかしら?



「3丁目にあるデパートの地下に美味しいアイスがあるから行ってみましょう」


「いいねぇ! デパチカが楽しみだよ!」


 こうしてデパートに誘導すれば少しくらい服を見る時間が取れるでしょう。大賢者が知恵を絞った作戦よ。さくらちゃんは地下に放置しておけば1人で勝手に楽しんでくれるでしょう。



 こうして私たちはデパートに向かって歩き出すわ。人通りの多い舗道を私とさくらちゃんが並んで、その後ろにはカレンと明日香ちゃんがついて来ているのよ。2人ともアニメの話に夢中であまり前を見ていないみたいね。それからさくらちゃんもアイスとデパチカで頭がいっぱいで、他の事は考えられないみたい。本当にこの人たちは大丈夫なのかしら?


 人混みの流れに沿って歩いていると、舗道に乗り上げて駐車している邪魔な車があるわね。黒塗りの高級セダンで濃いスモークガラスといういかにもその筋の人が乗る車のようね。私とさくらちゃんはその車を避けて舗道の真ん中に寄ったんだけど・・・・・・



 ガンッ!


「キャー!」


 物音がして振り向くと明日香ちゃんがセダンのボンネットに上半身からダイブしている光景が目に飛び込んできたわ。きっとカレンとの話に夢中になっていて駐車してある車に気が付かなかったのね。両手を広げてボンネットに彼女の上半身がへばり付いているじゃないの!



「おいおい、人の車に何をしやがるんだ!」


 そこにいかにもその筋の関係者という風体の男が車から降りてきたわ。明日香ちゃんは慌ててボンネットから起き上がって頭を下げているわね。



「ごめんなさい、車が停めてあるなんて気が付きませんでした」


「おいおい、これだけのことをしておいてゴメンで済ませようって言うのか! ほらここを見てみろ! 傷になっているじゃないか!」


「すいませんでした、本当にごめんなさい」


 明日香ちゃんは必死に謝っているけど、男は聞き入れようとしないわね。そうこうする内に車から別の男が現れてくるわ。



「おい、どうしたんだ?」


「あっ、兄貴! この女が車に傷をつけたんでさぁ」


「なんだと! そりゃあ困った話だな。お嬢さん、見てのとおり値の張る車だ。修理代は高くつくぜ!」


 もうこの時点で明日香ちゃんは真っ青になっているわね。怖そうな男2人に凄まれて気弱な性格が露になって、膝がガクガクしているじゃないの。国防軍特殊能力者部隊の一員としてちょっと情けないわね。



「ちょっと待ちなさい!」


「まあまあ、フィオちゃん! ここは私に任せてよ」


 あまりに明日香ちゃんの怯えぶりを不憫に思った私が口を挟もうとしたら、食い気味にさくらちゃんが止めに入ったわ。一体何を考えているのかしら?



「さてと、そこの2人は私たちにどうしろというのかな?」


「決まっているだろうが! 修理代を払えって言っているんだよ!」


「ほほう、この程度の傷でいくら払えというのかな?」


 ここで男たちがひそひそと相談を開始するわね。私たちに聞かれたくないのかしら? でも大賢者の前では内緒話なんて不可能よ。



「集音」


 特定の音だけを拾う術式をこっそりと小声で呟くと、2人の会話がはっきりと耳に入ってくるわ。



「兄貴、金髪の2人は見たこともないような上玉ですぜ」


「おう、ここは思いっきり吹っ掛けて借金で雁字搦めにしてやろう」


「事務所に連れ込んで薬漬けにするって手もありますぜ。後はソープに落としてやれば大儲けです」


「ガキの方は使い物にならないから金髪2人に精々頑張ってもらうしかないな」


 どうやら話がまとまったようね。それにしてもヤクザの典型的な手口よね。いちゃもんを付けて多額のお金をせびり取るなんて、この時代に通用するとでも思っているなかしら。本当におめでたい連中ね。



「とりあえずここにいる全員うちの事務所まで来てもらおうか。金額の相談はそこでするぜ」



 誰が大人しく付いていくと思っているのかしら? さて、一先ずは大賢者の魔法で眠ってもらいましょう! そう思って私が術式を組もうとしたら・・・・・・



「よし、いいよ! 事務所で相談しようか。さっさと案内するんだよ!」


 私が魔法を発動する前に、さくらちゃんが相手の要求を了承してしまったわ。人一倍耳がいいさくらちゃんにも男たち2人の話は聞こえていたでしょうに。



「さくらちゃん、一体どうするつもりなの?」


「最近ペットが増えて何かと物入りなんだよ。せっかくいい金ヅルがこうして現れたんだから、精々搾り取ってやるんだよ」


 参りました! ええ、降参ですとも! さくらちゃんは逆にお金を搾り取ろうと企んでいるみたいね。確か異世界に行く前にもこういうことをしていたらしいと明日香ちゃんから聞いたわね。でも国防軍の一員なんだからさすがに不味いでしょう。



「さくらちゃん、あなたは国防軍の訓練生という立場があるんだから」


「フィオちゃん、バレなきゃいいんだよ! 私のお小遣い稼ぎに付き合ってよ」


 私たちがひそひそ話をしている間に男たちはどこかに電話して迎えのワゴン車がやって来たわ。真っ青な顔の明日香ちゃんと何が起きているのか理解が追いついていないカレンも一緒にその車に乗って、私たちはヤクザの事務所に乗り込む羽目に陥ったわ。


 それにしても悪い予感というのは当たるのよね。明日香ちゃんという地雷がきっかけを作って、さくらちゃんという爆発物が暴走を開始するという不幸な出来事にこうして巻き込まれていく私でした。




この小説の投稿開始から1年ちょっとで100話を迎えることができました。皆さんの応援のおかげと感謝しております。


このところずっとランキングに留まっているおかげで、閲覧数が凄いことになっているのがこうして投稿を続けられる最大のモチベーションとなっています。引く続きこの小説をどうぞ応援していただけますよう、心からお願い申すあげます。


さて、危ない人たちの事務所に連れ込まれる一行は果たしてどうなるのか・・・・・・ 投稿は日曜日を予定しています。どうぞお楽しみに!

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