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【書籍②発売】最推し攻略対象がいるのに、チュートリアルで死にたくありません!【コミカライズ連載スタート】  作者: 榛名丼
第2部

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第51話.悪役令嬢の様子がおかしい


 私が沈黙していると、エルヴィスは紙袋の中身を取りだしながら続ける。


「人格反転薬を飲んだあとのオレについて知っていたのは、お前が予知夢を視たから。だがお前の不注意によって、予知夢の内容が書き換えられた……ってところか?」


 うっ、鋭い。ノアだけじゃなく、エルヴィスも同じような推測に至っていたようだ。


「まァ、今はいい。その顔を見るに、お前自身にもよく分かってなさそうだからな」


 あっさりと追及をやめたエルヴィスは、手拭きを渡してくる。私は大人しく手を拭きつつ、じっとエルヴィスを注視した。


「なんだよ」

「そんなふうに言いつつ、今まで通りに接してくれるんだなって思って」

「あ? 花乙女として敬ってほしいってか?」

「そんなこと言ってないし……」


 唇を尖らせていると、その場にひとり分の足音が近づいてきた。


「お二人とも、ごきげんよう」


 自慢の縦ロールをなびかせながら現れたのは、誰あろうイーゼラである。

 ごきげんようも何も、先ほどまで同じ教室にいたのだが……とか思っていると、ちょいちょいと手招かれる。


「アンリエッタ・リージャス。ちょっとこちらに」

「ええ……」


 私はいやな予感を覚えつつ、イーゼラに近づいていった。


 てっきり「また性懲りもなくエルヴィス様と二人で!」とか「あなたなんかエルヴィス様に相応しくありませんわ!」とか悪役令嬢っぽく怒鳴ってくるのかと思いきや――イーゼラは、かわいらしく私の制服の袖を掴んできた。


「……もうっ。どうしてわたくしを呼んでくださりませんの?」


 頬を膨らませたイーゼラに至近距離から見つめられて、私は戸惑う。


「えっ? なんで私がイーゼラを呼ばなくちゃいけないの?」

「それはっ。だって……わたくしたち、お友達ではありませんか」


 そうだったの? いつの間に?

 覚えがなさすぎるが、《魔喰い》の件がきっかけで懐かれたのだろうか。


 そういえば、イーゼラがひとりでいるのも珍しい。家格の近い友人たちを連れ歩き、猿山の大将として振る舞う姿が学園の風物詩だったというのに。


「ねぇ、イーゼラ。いつもの取り巻……こほん。ご友人たちはどうしたの?」


 するとイーゼラは、ちょっと不機嫌そうに髪をいじる。


「もうあまりお話ししておりませんわ。だってあなたを悪く言うから……」


 なんか私の知らない間に天変地異が起こってます?


 イーゼラの態度は明らかに以前とは異なっていた。私を見る目には敵意も嫉みもなく、コインが裏返ったかのように友好的だ。エルヴィスはともかく私と仲良くなりたいだなんて、春休み前のイーゼラが聞いたら泡を噴いて卒倒するだろうに。


 しかし勘違いがあってはいけないので、再度確認してみる。


「イーゼラは私がエルヴィス様と一緒にいるのにムカついて、追いかけてきたんじゃないの?」

「ムカ……? なぜです?」


 不思議そうに見返されるが、そう言いたいのはこちらのほうだ。

 しかし私の顔を見て何かに思い至ったのか、イーゼラは軽く両手を合わせた。


「ああ、そういうことですか。確かにわたくし、そんじょそこらの女性にエルヴィス様を奪われるなんて業腹だと思っていたのですが……予想通り花乙女にも選ばれたことですし、あなたなら、と、本当にちょっぴりだけ思ってますのよ。ちょっぴりだけですがっ」


 なんだかイーゼラの思考回路が変な方向に突き進んでいるが、短い会話からそれなりに分かったことがあった。


「つまりイーゼラ、エルヴィスと私を箱推ししてるの……!?」

「? はこおし、とはなんのことです?」


 言葉の意味を測りかねたようで、イーゼラが首を傾げる。

 そこで待ちくたびれたのか、エルヴィスが声をかけてきた。


「お二人とも、先ほどからなんの話をしているんですか?」

「い、いえいえっ。大したことではありませんのよ、エルヴィス様!」


 イーゼラがわたわたと取り繕う。その様子を見ていた私は、思わず噴きだしてしまった。

 とたんに、イーゼラが顔を赤くして抗議してくる。


「もう、何を笑っていますの? アンリエッタ・リージャスっ」

「ううん。特に他意はないから」

「間違いなくあるでしょう……!」


 エルヴィスだけじゃない。態度を変えないのはイーゼラも同じだ。……いや、イーゼラの場合は態度自体がおかしなことになっているけど。


 私は椅子に座り直しながら、笑顔で話しかける。


「もういいから、ランチにしようよ。イーゼラは何か買ってきたの?」


 未来のことは分からないけど、まずは目の前のことからがんばっていこう。そう思えたおかげか、三人で食べる昼食はとてもおいしく感じられた。



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