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4章2節 汝、休暇申請シ


「えっと、『伏せて』、『上』を『注意』して、『走れ』であってますか?」


「そうじゃ。うむ。徐々にできてきたな」


 ドーモ、教祖=サンです。

 相変わらず日中は馬車に乗って移動。偶に先行してヘラクルかイヨカが狩りをしたり食べれそうな物を採取してくれるので食事も問題ありません。それでも手が空いているので、せっかくの頭脳を放置するのはもったいないと信徒たちには賞罰を使い手記号の開発を命令してみました。

 金水賽教団と接触して思ったけど、やはり独自のコミュニケーションツールがあるのは情報戦において大きなアドバンテージになる。既存の言語でわからないと思って話してたら筒抜けでしたみたいな前回の例のあるのだ。人の振り見て我が振り直せ、である。今の所は順調。ちょっとした会話のレベルからもはや手話に近い領域になっている気がする。


「イカサマにこのような記号を使っていたところがあったのぅ」


 イヨカはちょっと心当たりがあったのか、俺の指示を直ぐに理解していた。確かにイカサマに使えるな、これ。あとは表音言語ベースでトーン信号でもやってみるか。ウチの才媛たちは頭が滅茶苦茶いいし記憶力が凄い。俺が色々口を出さなくても勝手に独自のコミュニケーション方法を作っている。イヨカからすると遊びのようで面白いそうだ。言葉作りが遊び。少し理解できない感覚だ。まあ暇よりマシって事なのだろう。


「猊下、昨日飛ばした使い魔は上手くイヨカ殿の両親の元に届くだろうか?」


「今のところは普通に飛んでいます。天候が大荒れの所に直撃でもしない限り問題は起きない、と願いましょう」


 2台の馬車で行動しているが、俺の隣に座る人はローテーションになっている。今日はケテトの日。ケテトの時だと魔法の話が自然と多くなる。そうそう、昨日漸くイヨカのメッセージを記した布を括りつけた特性の鷲型使い魔を飛ばすことに成功した。首に赤い布を結んでいたので間違って撃ち落とされることはないと思いたい。課題だったイヨカの両親をサーチするという機能に関してはイヨカの血を提供してもらった。普通ならサーチ感度に不安があるけど、イヨカが特殊な血筋であることが今回はプラスに働いた。母親が鬼と三覚の混ぜ子という超稀少な存在だから、それと近くにいるであろう黒妖狐という条件でサーチをかけている。


「猊下は使い魔にも長けているのだな。あれほど高度な使い魔は初めて見た。儂も使い魔は使っているが短期的で機能も最低限の簡易形の使い魔故…………」


「そうですね。ケテト程の力のある魔法使いならば長期型の使い魔を作るのも良いでしょう。望むなら手を貸してあげましょう」


「良いのか?里を出てからは文献を借りたり実地が多く、儂も腰を据えて学ぶ事は久しいが、猊下が構わないのであればお願いしたい」


「ええ、いいですよ。身を守る手段は増やしておいて損はありません。そういえば黄龍人族といえば『式』と言う系統で使い魔技術を確立していたと思いますが、ケテトは使いませんね?」

 

「分かる人には儂の種族が分かってしまうからな。里を出たばかりの時一番気を使ったのは黄龍人族独特の魔法を使わないようにすることだった」


「そうでしたね。身を隠す必要がある時に『式』は使えませんよね」


 この世界、一定以上の力を有している高名な魔法使いになると身を守る手段や研究の補助として『使い魔』を連れ歩いていることは珍しい事ではない。ただ、『使い魔』と一口に言っても種族ごとに色んな発展をさせているケースが多く、体系化するのは相当大変だろう。俺みたいなチートと言うイカサマでもしない限り全ての技術形態を知ることはおおよそ不可能だ。

 それでも一応二つの分類に分けられないことはない。分け方は超簡単。短期的な使い捨てか、補修しながらも長期間使うタイプかの2つ。ケテトと最初に出会う前、俺が撃墜した監視用の使い魔は分類上使い捨てタイプになる。道具と魔法陣さえ事前に用意してあればすぐに作れるし、コストもある程度自己の魔力によって抑えられる。これは機械にも似ていて、高機能にして多くの機能を積めばそれだけ使用電力が増えるし、逆に簡素にして機能を減らす程使用電力は抑えられる。んで、ここでいう電力はこの世界には当たり前に存在し、人々の中にもある「魔力」なる不思議パワーだと思って欲しい。なお魔力に関する説明をしようとすると凄いことになるのでここでは無視する。

 とにかく、使い魔は充填された魔力で動いてるから魔力が0になると機能を停止しちゃうってこと。短期型が乾電池で動いているなら、長期型はクソデカい充電型のバッテリーを積んでると考えて欲しい。で、どっちが製作難易度高いですかって言ったらまあ当然後者よね。そんでいて作れるレベルの魔法使いが少ないから研究が個々で進みがちなうえ、基本的に技術が秘匿されている。魔法ってのは知識であり財産だからな。簡単に他人に教えるもんじゃないのよ。てなわけで、長期型の使い魔を作れる程度の能力があってもケテトみたいに誰かから教わる機会もないし、自分の研究テーマからも逸れているので後回しになって作る機会を逃している魔法使いも実は結構いるらしい。


「(ついでに俺も作ってみようかな)」


 今回俺が飛ばした使い魔は、現段階では実はオーバーテクノロジーな乾電池を積んだ短期型。短期型だけと並みの長期型など鼻で嗤う性能をしている。ただ、その分機能はかなり絞ったけどね。長期型にしなかったのは変なのに目を付けられた時直ぐに破棄できないから。申し訳ないが、ご両親がメッセージを受け取ったことは分かっても、折り返しの手紙を積んで戻ってくることはできない。そこまでの機能を付けようとすると凄い時間がかかる上に短期じゃ無理だ。かといって自己の半身に近い存在である長期型を目の届かない場所に長期間活動させるのはリスクが高すぎて流石に決断できなかった。

 え?オーバーテクノロジーってなにって?『眷属の血』を使った魔力保持装置の事です。眷属の血は現代で言うならそうね、ウランよりもエネルギー効率の良い不思議物質な訳で、その血から動力を作り出すちっさい核融合炉みたいなのを作ってみたのよ。これ俺の自作です。他にありません。この技術をもう少し研究して長期型を作ったら多分凄いのが作れる。


「ふむ、正式な使い魔はそんなに利便性の高いものだったとは。確かに作る価値は高そうだが、その分素材にもこだわってみたいな」


 馬車に揺られながら俺が長期型ならこんな機能を積んだ使い魔を作れるぞ~と色々と説明してあげると、ケテトのトパーズの目がキラキラしていた。興味があるようで何より。そうだねぇ。使い魔は素材も大事だからな。色々とケテト側からも話を聞いてみると、魔法使いならやはり一度は「わたしのかんがえたさいきょうのつかいま」を空想するらしい。それが本当にできそうとなれば胸躍らぬ魔法使いはいない。ケテトは目を輝かせながら力説した。


「素材ですか…………『魔力蜷局』でも入ってみますか?」 


「それは魅力的な提案だが、良いのか?」


「今回の一件で思いましたが、ありあわせの物で儀式をするより一度質の高いものを揃えた方が効率的だと判断しました。今後、普通の旅商人と出会った時の取引にも使えるでしょうし、私達なら遅れをとることもないでしょう。あまり長い間馬車に居ても体が訛りますしね。ヘラクルもイヨカも体を動かすことが大好きです。提案すれば快諾してくれるでしょう」


「そ、そうか」


 暫くの沈黙の後、顔を赤らめて俯き、凄い微かな声で「ありがとうございます」と呟くケテト。お礼を言う程度で恥ずかしがるんじゃないの。いや違うか。自分の為に俺が色々と理由付けて使い魔作りを手伝おうとしているからか。

 まーね、色々とあるので情も湧きますよ。信徒が多くなったら割いてあげられる時間も減るからね。今のうちだけだと思って欲しい。そう、時間を割けるうちに与えられる物は与えておきたい。


【ということで努力点支払ってもいいからちょっと休暇下さい】


【教団の成長という路線から逸れないのであれば許可します】


 ウチの御主神様の労務意識は意外とホワイトかもしれない。




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