第四十三話:頂点巨神
「本当に、なんでこんなことしたんですの!」
「だってフォティアが……」
「どう考えても貴女のせいでしょうよ! エリトリアの人たちはみんな逃げたし、当面貴女の大好きな料理も食べられませんのよ!! 残ってるのはせいぜい魚と木の実くらいですわ!!」
「うぅ……それは……困ります」
しゅんと小さくなって人間の姿になったアウローラを、ヴァネッサが叱り飛ばす。
虹龍が怒ろうと知ったことかと頭にきた彼女は遠慮なく、クドクドとお説教を続けている所に。
「ふたりともやっと降りてきましたね! グリちゃん、乗せてあげて下さい」
「ふたりを」「なおしたの」「ぼくたちだよ!」
”ヴァネッサ、いい。あれ、やだ、こわい”
無事に降りて、なんだか打ち解けた様子のエルクとキンググリフォンがやってくる。
どうやら先に帰ってきた三銃士に治癒魔法を受けていたようで、元気そうに歩いていた。
「グリちゃん、この龍は大丈夫ですわよ~」
”……”
怯える声が聞こえてヴァネッサが説得すると、巨獣は黙って伏せをして、乗るように促す。
その姿を見て、港に残って休んでいた操者達はみな大口を開けて、呆然とヴァネッサたちを見ていた。
「魔法も使わずに手なづけたの?」
「会話できるのが魔法、と言えば使役魔法ですけれど……」
「天才って、冗談かと思ったけど本物だったわ」
「あはは、お恥ずかしいですわ」
褒められて頬を染めて、キンググリフォンに乗った彼女の後ろから。
既に嵐も収まったということで、ミラもやってきた。
「ヴァネッサさん、エルクさん。ありがとうございました」
「いえいえですの~。では、わたくしたちもこれから遺跡に向かいますわ」
「私はもう少し海を抑えておきます。ジェフが戻ってこられるように。古炎龍を再封印したら、あの人と一緒に遺跡で暮らそうと思いますので」
「逢えたんですの!? よかったですわ!」
そして照れくさそうに、入れ墨の入った手にいつの間にか嵌められていた、古びた指輪を見せる。
あぁ、多分五十年前の結婚指輪なんだろうなぁと。ヴァネッサは少し元気が出て、二人が暮らせるように頑張ろうと拳を握った。
「虹龍様も……ちょっと酷い嵐でしたが、ありがとうございました」
グリちゃんの背中で小さくなったままのアウローラにも、小さく頭を下げて。
ミラは手を振ると、荒れ狂う海に向かって手を広げた。
「こちらはお任せ下さい。皆様の勝利を願っています」
「えぇ!! 行ってきますわ!! エルク、出ましょう!」
「はい。グリちゃん、嫌なのはわかりますけど、ヴァネッサがついてますよ」
ヴァネッサは力強く返答すると、エルクの方を見て。
行きたくないと嫌がるグリちゃんをなんとか御した彼は、大空へと飛び立った。
――
元気になったキンググリフォンは三人と三匹を乗せて。
馬車なんかよりも圧倒的なスピードで、みるみる炎の遺跡が迫る。
「始まってますわねぇ」
ヴァネッサの視線の先には、オイドマ・フォティアの巨体が揺れる。
撃ち出された時に翼を痛めたらしく地表に留まったまま、人間とエルフと鬼の連合軍から魔法の集中砲火を浴びせられていて。
その巨龍と同じほどの大きさの、人型の魔道具と戦っていた。
「!! あ、あれは!?」
「んえ、アウローラ、知ってるんですの?」
「巨神!? タルヴォさんと、テンキさんの!? 一体誰が動かして……」
それを見たアウローラが目を丸くして。
ヴァネッサとエルクも首を傾げると、彼女は心底驚いたように二人に教えた。
――少し前
「ふはは!! 五百年前と変わらないな巨神!!」
「お前がこれ乗るとキャラ変わるのも変わってないなぁ」
炎の遺跡のドームを頭として。全身を玉鋼で構築された巨大な人型の魔道具が、大地を割って立ち上がる。
テンション高く叫ぶタルヴォと、呆れたように周囲の文字を光らせ点検するテンキ。
そして。
「うおぉぉぉぉぉぉすげえええええええ!! 朕の国にこんなの埋まってたのかよ!!」
「みっともないぞアルゲニブ。まぁ子供心がくすぐられるのは分かるが」
外を眺め、キラキラと目を輝かせる国王と、軍人として冷静に努めようとしつつもワクワクがあまり隠しきれていないヘクトルも、一緒に乗っていた。
眼下では連合軍が手を振って、その巨体に歓声を送っている。
「ヘクトルさまぁぁぁぁぁぁ♡」
「頑張ってくださぁぁぁぁぁい♡」
「ほら、お前の恋人の双子ちゃんも手を振ってるぞ!!」
「それで、乗ったはいいものの。俺たちは何をすれば?」
遠くから聞こえる嬌声と冷やかす国王をスルーした王子は、起動試験を続けるテンキに聞く。
鬼の酋長はテキパキと作業を進めながら指示を下した。
「アルゲニブはそこの魔法陣。魔法を増幅して巨神の左手のひらから放出する。一発ずつしか撃てないが、最大三つまでその宝玉に貯蓄できる。どんどん貯めて撃ってくれ」
「楽しそうだなこれ!!」
言われたとおりに、光り輝いた魔法陣の上で氷の呪文を唱える。
すると眼の前の宝玉が淡い水色に輝いて、魔法が使える事を知らせた。
「それでヘクトルはそっち。動きをそのまま巨神がトレースするから頑張ってくれ。武器はオリハルコンブレードが二本、普通の剣と同じように扱えるぞ。無理な動きは俺の方で修正する」
「分かった。アルゲニブ、上手く連携するぞ」
「そうだな、欲しい魔法や撃つタイミングは指示してくれよ!」
王子は一番大きな魔法陣の上を指示されて入ると、自らが巨神になったように外が見えた。
軽く手を動かすと、ごごごという地響きとともに巨神が動くのを感じて。
おお!! と楽しくなって、今度は足を動かそうとすると、テンキが魔法陣を止めた。
「あー、もうちょい待ってくれ。起動試験あと少しで終わるから」
「す、すまない。少し楽しくなってしまった……」
まだ早いと止められて、ヘクトルは一度大人しく魔法陣を離れる。
そして、はるか遠くの上空でアウローラがオイドマ・フォティアを口に含んだ頃。
すべての準備が終わって、テンキが親指を立てて笑った。
「準備完了だ。みんな、俺が全体のサポートするから、よろしくな」
するとタルヴォが大きく頷いて。
「ヘクトル! アルゲニブ! 操縦は理解したか? 私がダメージを修復するから、存分に暴れてくれ!!」
人間二人を位置につかせると、続けて叫んだ。
「さあ行くぞ!! 五人の力を一つに合わせ!! 龍を斬り伏せ世界を救う!! 頂点巨神!!」
五人……? という言葉が気になったヘクトルだったが、タルヴォは全く気にしてないような素振りで。
大きく手を広げると、ドームに描かれた魔法の文字が一斉に輝き。
「GO!! カイザァァァァァァァ!!! アトラァァァァァァァァス!!!」
猛烈な勢いで吐き出された古炎龍に向かって、全身を黄金色に光らせて。
古代の巨神が瞳に炎を灯し、立ちはだかった。




