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第三十話:虹龍のきまぐれ

 ヘクトルが去って数ヶ月。時折新聞に載っている王国のニュースは中々頭が痛いなぁと。

 真っ黒な雲に覆われる雨季に入って、毎日のように聞こえる滝のような雨音を聞きながら。

 なんとなくうだうだと転がるヴァネッサが呟いた。


「おおぅヘクトル、頑張ってますわねぇ」


 ”ヘクトル王子殿下、オーガと歴史的和解!! 酋長との殴り合いの果てに国交を樹立”

 ”エルフと名乗る亜人集団、旧ソルスキア領の森を占拠。ヘクトル王子は平和的解決に展望”

 ”ソルスキア大鉱山、ドラゴンの被害により一時操業停止。王国と鬼の同盟軍が交戦中”

 見出しを読み上げると、机で勉強していたエルクも本をぱたんと閉じて、やれやれとため息をつく。


「王国って、元々魔獣モンスターが居ないわけじゃなかったんですね」


魔道具アーティファクトに封印……いやぁ、ホントとんでもないことしたんですわねご先祖様……」


 どんなものに封印されていたかまでは知らないが、自分の地元を中心にして大量の魔獣が湧いた。

 恐らく自分が売り払ったものからも湧いているのだろうなと、こめかみに手を当てて。

 そんな彼女に、彼がふと呟いた。


「殿下も、支配のドミナートルを持って帰らなくてよかったですね」


「ん?」


「持ってたら絶対に殺されてましたよ」


「あぁ……まぁ、そうですわねぇ……」


 亜人と呼ばれる、特に高い知性を持つ魔獣達も蘇ったわけだし、彼らを封じ込めていた笛なんか持ってたら真っ先に命を狙われるだろう。

 エルクはそう言って、げっそりと転がるヴァネッサの横に温かいお茶を置いた。

 彼女は体を起こして一口飲むと、最近は暇そうにぷかぷか浮かんでいるだけの美女がいないなと気付く。


「あら、アウローラは?」


「暇つぶしに、幽霊鮫ゴーストシャークの生け簀を見に行ってくると」


「あぁ、それならほっといてもいいですわね」


 なるほどなぁ。と起き上がって伸びをする。

 まぁ彼女は別に波にさらわれても溺れるわけじゃないし平気だろうと安心して。

 バケツを引っくり返したような雨音が、急に止まったことに気付いた。


「あ、エルク! 久々に止みましたわ!! 洗濯物を!!」


「ヴァネッサも手伝って下さいよ。早く片付けましょう」


 そして分厚い雲が切れて、つかの間の日差しが降り注ぐと。

 二人は慌てて洗濯カゴを持って飛び出した。



――



 その少し前。

 ビーチにたった一人、大荒れの海を優雅に泳ぐアウローラがいた。

 雨季に入る前には大勢いた人間は一人もおらず、皆家の中で長い休暇を過ごしている。

 そんな退屈さに飽き飽きした彼女は、すいすいと生け簀まで泳いでいくと、子ザメたちに魔力を与えた。


”雨で動けなくなる人間は不自由ですねぇ……ほら、エサですよ”


ドラゴンだ!!」「ごはんくれるの!?」「大好き!!」


 すり寄ってくる子ザメたちを優しく撫でて、彼女は思念で会話する。

 大人の幽霊鮫なら、絶対的な捕食者であるアウローラには近寄らないのだが、飼いならされた子どもたちは特に気にせずすりすりと。


”アトス、ポルトス、アラミス……特にこの子達は賢く成長が早いですねぇ。ヴァネッサも気に入っていましたし、この国には厄介なのが居ますし……そうですね。この子達には私の眷属になって貰いましょう”


 しばらく魔力を食べる様子を見ていた彼女は、そう言って自分の指を噛む。

 鋭い牙で付けられた傷から流れた虹色の血が、激しくうねる海にゆらゆらと漂って。


”ほら、三匹にはご褒美ですよ”


 吸い寄せられるように、名付けられた三銃士に纏わり付くと。

 彼らの身体からキラキラと、純白の鱗が生えて。胸鰭は鋭く大きく育つ。

 帯びる魔力も魚類のそれではなく、アウローラの放つ神々しい龍の力と同じようなものが、全身から満ち溢れた。


「あれ? 身体が軽い!!」「大人になったかも!!」「強くなった!?」


”ふふっ、ヴァネッサを助けてあげてくださいね。この地は割と危険なので”


「ごはんくれる人間のこと?」「ヴァネッサっていうんだ!」「覚えた!!」


 力がみなぎった彼らは、びゅんびゅんと飛ぶように泳いで。

 勢いよく海面から飛び出すと。


「海の外!」「初めてみた!!」「綺麗!!」


 そしてそのままふわふわと空を泳いで、アウローラの身体にすり寄った。


”さあ、一緒に行きましょう”



――


 

 外が晴れている間、慌ただしく洗濯や買い物に走り回る村人たちが振り返る。

 アウローラはその視線も気にせず、頭の上を飛ぶ子ザメたちを連れて帰ってきた。


「ただいまです~。雨、上がりましたね」

 

「ヴァネッサ!!」「久しぶり!!」「会いに来たよ!!」


「おかえりなさいって、その子達、アトスにポルトス、アラミスですわね?」


 謎の魔獣に飛びつかれたヴァネッサは驚きつつ、自分でつけたリボンに気付くと、三銃士を優しく撫でた。

 目を閉じて頬を寄せる彼らに、彼女も目を細める。


「あらかわいい……って、なんで空飛んでるんですの?」


「龍種に変異したんですよ」


「どういうことですの!?」


「……確かにアウローラさんと同種の魔力がしますけど……これ一体何を……」


 ヴァネッサとエルクが目を疑い、三銃士を恐る恐る撫でた。

 その質問に、アウローラは説明が面倒とばかりに食卓に座ると。


「古の時代、使い魔という呼び名で魔獣を使役する魔法使いもいたそうですし。ヴァネッサには丁度いいかなと思って連れてきたので」


「いやほんと、どういうことですの?」


「彼らはそれぞれ魔法が使えます。よく懐いていますし、貴女の手足として役に立つでしょうね」


「そうではなくって……」


 答えになっていない答えを返して、エルクにお昼の催促をした。


「あ、エルクさん。お昼ごはんを」


「なんか隠してませんか?」


「うーん、まぁでも、悪いことはしていませんよ。私も人間の料理が食べられなくなるのは嫌ですから」


 本当に心配で、善意で連れてきたのだけど。ただ、杞憂で済めば一番いい。

 そう考えて意図を隠す彼女を疑うエルク。


「……ヴァネッサに何かあったら、いくらアンタでも殺すぞ」


「ふふっ、それは私も理解してますよ。それが可能かは置いておいて」


 アウローラは穏やかな笑顔を浮かべて、ドスの効いた声を追い払った。

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