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第十七話:魔獣操者試験

「よし、順調ですの!!」


「お見事お見事。リヴァイアサンはまだ危ないと思うけど、沖にいる少し大きな魔獣は十分行けそうだね」


「明日の試験、頑張りますのよ!!」


 魔獣操者試験を翌日に控え、最後の実習を終えたヴァネッサ。

 この天才をどう育てたものかとウキウキとする所長の前で、彼女は気合を入れて拳を握り。

 今日も早めに帰宅する。


「ただいまですの~~~」


「おかえり、ヴァネッサ。どうでした?」


「余裕ですわ! まぁ支配の笛(ドミナートル)の力だと言うことは否めませんが」


 エプロン姿のエルクが、夕食の用意をしながら出迎えた。

 彼女は荷物をおろし、冷蔵庫から林檎酒シードルを出してグラスにあける。

 そしてぐいっと飲み干すと、景気よく腕で口を拭った。


「ぷっはぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 りんごの甘味と、しゅわしゅわの爽快感。

 軽い酒の味に満足して、ドンとグラスを置く。

 そんな様子にくすくすと。エルクは笑って、彼女が馴染んできたことを喜んだ。


「だんだんこの村に染まって来ましたね」


「郷に入っては郷に従えと言うやつですわ。そういえばエルク、仕事は順調ですの?」


「ぼちぼちですね。氷術士フロストマスターは結構いるので、あんまり儲かりませんけど」


 魔獣操者として訓練を積むヴァネッサに負けじと、エルクも仕事を始めていた。

 彼は得意な氷魔法を生かして、水揚げされた魚の冷凍や冷蔵庫用の氷の製造を請け負っている。

 給料は安くても午前中には仕事が終わるので、午後は彼女のための時間が作れると喜んで仕事に励んでいた。


「あ、そうそう。支配の笛のケース出来てたんで。テーブルの上に置いてますよ」


「おぉ! ありがとうございますわ!」


 麻の布袋を開けると、大人の幽霊鮫ゴーストシャークの革で作られた半透明の袋。

 中にものを入れて閉じると幽体になり、袋を閉じていても中身を触ることができる。

 この袋にストラップを付けて、落下防止に使うための不思議な素材だ。


「綺麗ですけど、この鎖って」


「あぁ、首枷につけてたやつですよ。ヴァネッサが自分で付け外しできるように加工してもらいました」


 それと一緒に収められていた、やたらと見覚えのある鎖。

 両端に板バネのカラビナが付けられていて。試しに付けてみて、しっかりしたものだと。

 その出来には満足しつつ、彼女はジト目でエルクを見た。


「……礼は言っておきますの。それで、この首枷まだ外してもらえないんですの?」


「それ、結構高いやつなので。少なくともこの村に壊せる鍛冶師はいないそうです」


「それならまぁ、仕方ないですわねぇ……」


 ため息をついた彼女は、まぁ、いいかと考え直す。

 ある意味で、この首枷は。彼から貰った婚約指輪のようなものかなと。

 そう考えるとほんの少しだけ心が軽くなった。


「……ほんとすみません」


「ま、気にしてもしょうがないですの。借金返したらエルクが養ってくれるわけですしぃ~」


 しゅんとする彼の肩をポンポンとたたき、彼女はどこか嬉しそうに。

 ふんふんと鼻歌を歌いながら二人分の食器を準備した。



――翌日



「じゃあ行ってきます。お昼には迎えに行きますね」


「いってらっしゃい。組合ギルドで待ってますわ~」


 早起きしたヴァネッサは、仕事に出かけるエルクに手を振って。

 南国らしいサマードレスに着替えて、髪を結ぶ。

 軽く化粧もして身支度を整え、首枷にストラップを付け。


「ぐふふ……これでわたくしも魔獣操者……。ちょっと思いついたこともありますし、ボロ儲けしてやりますのよ!」


 ぐふぐふと笑いをこらえながら家を出た。

 

「おはよう、ヴァネッサちゃん」


「おはようございますわ。本日は宜しくお願いいたします」


 所長と、その隣にいる試験官。

 操者互助組合テイマーズギルドの本部から派遣されてきた、南国だというのに暑苦しいコートを羽織り、フードで顔を隠す試験官の前で。

 彼女は恭しく頭を下げた。


「……所長、彼女が?」


「えぇ。間違いなく」


「ただの少女に見えるが……本物なら、いずれは古炎龍の儀に……」


「彼女はきっと、あれを鎮めます」


「そうであれば、兄上もお喜びになるだろうがな……育成を頼むぞ」


 それを見ながらコソコソと話す二人の話はヴァネッサに聞こえていなかったが。

 きょとんとする彼女に、試験官は改めて試験の内容を告げた。


「では、試させてもらおう。魔獣の種類は何でもいいが、三回以内に規定の大きさを超えたら合格だ」


「えぇ! このために練習してきましたので!!」


 確実に合格するための秘策……といっても殆ど反則ではあるが。

 彼女は不敵に微笑んで小舟に乗り、沖に出た。


「さて……アウローラさん……頼みましたわよ……!」


 目を瞑って呟き、支配の笛に意識を集中する。

 そしてアウローラの顔を思い浮かべて、彼女は煙管を振るった。


「なんだ、この魔力は?」


「彼女のですよ。あの煙管、彼女のための魔道具なんでしょうねぇ」


「いやいや、そうではない! これリヴァイアサン来るだろ! 転覆したらどうする!?」


「泳いで帰りましょ。マルカブ王子殿下」


「俺は泳げないのだが!? あと、民の前で名を呼ぶな!!」


 試験官が驚愕に目を開き、船に這いつくばって怒鳴りだすと、所長は穏やかに笑う。

 そんなやり取りを差し置いて、彼女の右手に持たれた煙管から独特の甲高い音が流れた。


「! すぐ近くに居ますわね!」


 支配の笛を通じて、アウローラの歌声が聞こえてくる。

 龍の姿に戻った彼女が近くにいる、巨大な気配を感じると。

 三人の乗った小舟が大きく持ち上がった。

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