エンゲブラさまの夢見がち

『夢見がちのジレンマ。』

私の名前は「夢見がち」

芸名ではない。

れっきとした本名だ。

名付け親は、祖父の夢見我信(がしん)。

生前、我信は、全国的にも有名な占い師のひとりだった。弟子から養子となり、夢見家を継いだ父の師匠でもある。

本来の名は、漢字で「我知(がち)」となるはずだった。けど「祖父の遺言」に記されたその名に絶句した母の抵抗もあり、なんとか平仮名の「がち」に落ち着いた。

……「がち」に落ち着いた？

いやいやいや、何言ってんの、「がち」ってガチ？　女の子ですよ、私？　てか、何でそんなふざけた名前を役所も受理しちゃってるわけ？　祖父が有名な占い師で、この町でもちょっとした権力者だったからって何？　知らねーよ、ばーか、ばーか！

そんな気持ちをXでポストしたのが、今から３年前の小５の春。私は、このかわいいルックスとの相乗効果もあり、またたく間に小学生インフルエンサーになった。

「夢見る少女じゃいられなーい♪」

投げ銭おじさんたちが決めた、私のテーマ曲。これを少し口ずさんでやるだけで、数千～数万円単位の投げ銭が飛ぶ。ちょろいもんだ。

プロの配信番組のゲストにも呼ばれた。

○リコンお笑い芸人が、いやらしい顔をしながら「がちちゃん、がちちゃん♡」と何度も呼んできたのには、本当に吐き気がした。けど出演の効果は絶大で、私の配信の接続数も番組に出演するたびに伸びていった。

もちろん将来的には、改名したいと考えている。

改名の申し立ては20歳になれば、自分の意思だけで家庭裁判所で出来るという。この前チラっと配信中に、改名を考えていることを口にしたら「俺たちのがちちゃんを勝手にコロすな！」とクレームの嵐に。○害予告まであり、めでたくヤホーニュースに。おかげで配信には、また多くの新規が訪れ、投げ銭と罵詈雑言が飛び交うように。

20歳と同時に改名しても、殺されていたら世話はない。今の顔は気に入っているけど、投げ銭おじさんたちのお金を使って、整形でもするかな？

ちなみに祖父が遺した「我知」の名前は、男の子用だったことが最近になって判明。ちゃんと女の子用の名前も遺していたらしいけど、父の勘違いで「がち」になったというオチ。マジふざけんなよ、我智肆（がちよん＝父の名）！

けど、まあ、その勘違いのおかげで、私の貯金残高は８ケタを超えている。あー、ジレンマ。ジレンマ。