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第六十七話 暗下の共同組合

 ――多世界貿易都市、異世界マーケット運営組織『異世界ゲゼルシャフト』。

 異世界帰還者史上、かつてない巨悪。深淵の主、シモンは手を差し出す。


「是非に、我が軍門下へ下りなさい」


「ゲゼルシャフトなんて、また大層なお名前ね」


「表向きでは『楽園のゴースト』と名乗っていますが、それも仮の名。異世界ゲゼルシャフトこそ我々の真名です」


 張り詰めた緊張。一言のミスも許されない舌戦はリリにさえ冷たい汗を流させる。


共同組合(ゲゼルシャフト)は利益という絶対的信頼の元に築く関係。仕事、成果に応じて貴方がたにも相応の待遇を」


「だからアタシ達に道を外せって?」


「ええ、ええ、分かっていますとも。大義といえど裏社会飛び込む抵抗感は。ですが今一度お考え下さい――今更躊躇う必要がないということを」


 シモンの細い蛇のような目が這い寄る。


「一切法も犯さなかった異世界帰還者が何人ありますでしょうか。異世界で人を殺したことは? 現世の法律に触れることは? 私利私欲のために力を使ったことも一度ぐらいはあるでしょう」


 いやらしい点を突きつつ、男は反論の隙を与えない。


「ご安心を、我々は同胞です。理解も認知もされないことが辛いのであれば、我々が全て許容しましょう」


 甘美な悪魔の囁きは続く。


「聞くところによれば、あなた方異世界帰宅部もスキルや魔法を用いて、現代で活用する術を模索していたというじゃありませんか」


「「っ……」」


 少年少女は抱いていた後ろめたさを突かれる。刹那の揺らぎを、強欲の怪物は逃さない。


「そうです、その答えがこれです! 一度は誰もが空想する『法に触れない、夢のような金稼ぎ』。楽をして、裏技のように金を得られる手段が、この手の中に」


 ――欲望だ。誰もが空想した欲望が、シモンを代表して二人に滲み寄る。

 異世界で覚醒してしまった原罪が、白い背広とマントを着た姿で立っていた。男は欲望の体現者だ。


 だからこそリリ達は屈さない。


「シモン、説明してくれてありがとう。アタシ達、今まで迷ってたことにやっと答えを出せたわ」


「ほう……?」


「――石鐘リーマの行いは正しかった。てもってアンタ達は存在してはいけない危険因子だってことも!」


 差し出した右手は少女に払われる。


「そんな誘いに魅力感じるほど、アタシ達は異世界を気楽に生きてこなかったの」


「そりゃスキルが金になんのは良いけどなァ……人を不幸にして稼ぐ金に、何の価値があンだよ」


 貼り付いていたシモンの笑みは破れて鬼面が露わになる。


「……愚者が」


 直後、聖なる爆撃がシモンの足元で炸裂した。


「神聖魔法、浄爆ッ!」


 杖を振るったリリは爆煙に紛れ、ツムギを連れて逃げ出す。


「ここを破壊して脱出するわよ!」


「脱出経路はどうすんだ!?」


「逃がすとおもっ――」


 シモンが飛ばした怒号に割り込み、機械音声が介入する。


『演算処理代行、デュアルコア起動。マスター、リンドウアスハの入力プログラムを実行』


「ッ!!」


 意識外からの強襲に一手、シモンは後れをとった。

 振り返った先で、灰燼の退魔師が十字架に口づけている。


「座せ」


 粛清兵装は特殊弾を射出した。

 着弾直後に液状化してシモンに被さる。流体は形状記憶合金と同じく数秒で凝固。シモンをその場に拘束した。


「ッ――なん、ですか、これはッ」


 シモンは頭上の少年を睨み付けた。その腕には橙髪の女を抱えていた。


「危険な目に遭わせた。すまないリリ少女! ツムギ少年!」


「アスハッ! ハルカお姉さんと合流してたの!?」


「さっきね。遅くなったけど、今から脱出しようッ」


 アルパージの演算代行で感情消費も軽減。アスハの表情に人間らしさが戻りつつあった。彼の腕の中ではハルカが嘲笑を向けていた。


「おひさ。良い恰好だな」


 シモンの乱れた前髪、土埃に汚れた白スーツをハルカはまじまじ眺めた。


「貴様ッ、どこから入ってきた女狐……!」


「目立ちたがりは相変わらずか、()()!」


「貴様の、野鼠が如き薄汚さも健在だな……()()ァ」


 両雄、鋭い殺意を交わしていた。只ならぬ因縁を感じつつ、アスハは脱出経路を思考した。


「脱出と同時にここを破壊する! みんな、早く撤収だ」

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