表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/67

第五十八話 亡霊の隠家

 空気の隙間を縫い、魔力をステルスさせ、異世界帰宅部は隠密行動を取った。


「ンじゃタイムリミット一日の間に、リーマを見つけるってェことだな!」


「残念だけどツムギ、恐らくリーマは見つけられない」


「えェっ!?」


「先に見つけることは、って意味ね」


「お、おう?」


「リーマへ接近する先に情報収集するんだ。いただろう? 彼を追いかけてる連中が」


「それって、まさか」


「――『楽園のゴースト』の根城を暴いて、彼らから情報を奪い取る」


 予想を超える作戦にツムギとリリは驚愕した。


「もしバレたら、アタシ達も標的になるのよ!?」


「だからこそ、だ」


 意志を固めたアスハは迷わない。冷静に盤面を見据えていた。


「ゴースト達がしてきたのは紛れも無い脅迫行為だ。彼らは状況次第で俺達に危害を加えてくる。宣戦布告は既にされているんだ」


「だからってよ……」


「いずれ衝突するのなら、備えは必要だ」


 十字架を握る拳は固かった。


「危険な賭けになるから二人に無理強いはしないし、本気で止めるなら俺は実行しない。けど、どうする?」


「……ま、それを断れんならオレたちゃ組んでねェよな」


「ここまで数的に不利だった戦争もないけど、良いわ。いざって時の指揮官はアタシね」


「ハハっ。ちょっと、甘えすぎちゃったかな」


 涼し気な笑みでアスハは肩をすくめる。

 隣ではリリが目元に魔方陣を展開した。


「で、こういう事もあろうかと、実は魔力のマークしたままにしてるのっ。勿論、相手には分からない探知魔法使ってね」


「さっすがリリィ!」


「目標は近いわ、ついて来てね」


 術の示すまま、リリを先頭に街中を駆け抜けた。


 魔力反応を追ってからしばらく。気付けば三人は人気のない倉庫の裏手に辿り着いていた。


「お、かしいわね……」


 探知魔法に従って追いかけた『楽園のゴースト』の魔力痕。それがプツリと途絶えていた。


「痕跡も座標も、この付近で途絶えてるね。リリィはどう?」


「ただの転送魔法なら単純な探知である程度まで終えるわ。異空間に逃げたとしても、こんな近くなら感知くらいできるのに……」


「リーマのような、完全に探知を妨害するスキルの可能性は?」


「分からない、けどその線は低いと思うわ」


 少女は地面を擦り、魔術であらゆる痕跡を鑑定するが、どれもヒットしない。


「空間系の魔法やスキルは現代だと成立させるだけで一苦労。それに探知妨害までかけるなんて、人間の脳じゃ処理しきれない」


「ンなレベルの話なのか?」


「完全防音の密室を作った上で、室内の空気を原子レベルで気流調整してる、って言った方が伝わるかしら?」


「うっわ考えただけでゲロ吐きそうな演算処理」


「でもどうやって――」


 突如三人の感覚が警報を鳴らす。直後に四十メートル後方から、魔力が湧きあがった。

 溶岩のように濃く荒々しい、帰還者達の魔力が噴き出す。


「なあこれ、出てきてねェか!?」


 六人ほどの帰還者達が暗い穴から出現する。

 蓋を開けた深淵への扉は白妙のスーツ達を吐き出した。


「あの時と同じ気配……空間を移動するワープホールがあるわ!」


 現れたスーツの構成員達はアスハ達に気付かない。


「定例監視任務、開始」


 号令を告げると彼らは散り散りに走っていった。

 最後の一人が黒穴から抜けて去ると、穴の直径は縮み始める。


「ここだ!」


「アタシに掴まって!」


「いきなりだなァ!?」


 詠唱を挟む余裕も無く、リリは縮小するワープホールへ飛び込んだ。

 魔術でアスハとツムを引き込み、三人は深淵の奥へ飲み込まれる。穴は静かに門を閉じた。


 ※


 空間移動直後、三半規管が僅かに乱れた。

 目を閉じて平衡感覚を取り戻しつつ、アスハは仲間達の体を掴んで安否を確認する。


「移動した! ツムギ、リリィ」


「無事だ、何ともねェ」


「同じくよ」


 視界の揺れも収まってきた頃、三人はゆっくり目を開く。


「ここが彼ら、のっ――」


 目撃した瞬間、アスハ達は言葉を失った。映った光景に思わず目を疑う。


「うそ、でしょ……?」


 洞窟をくり抜いたような地下空間に、異世界が()()()()()()()()


 岩や砂を固めた床、巨大樹のツリーハウス、妖精族の集落。自然を利用した幻想的地形があった。

 かと思えばガス灯にレンガ道路の商店街と、産業革命期の街並み。馬車に蒸気機関車両、マンホールまであるエリアが別階層にある。別の大通りには露商店も立ち並ぶ。中東風のバザールや、日本の大正時代の屋台まで。


「商業、都市?」


 街並みの端には現代的なシャッターや運搬車両フォークリフト。デバイスや工業品も目についた。

 天井や空中は円筒状のチューブが張り巡らされ、筒内をリニアモーターカーが駆け回る。輸送するドローンや、浮遊する謎の円盤までもが空を行き交う。


「なんなンだよ、ここは」


 文明をツギハギしたような地下都市。その中央には高層ビルが建っていた。最下層から天井まで果てなく伸びている。


「ここ、異世界じゃない、わよね?」


 無数のファンタジーとテクノロジーの混在した巨大都市に彼らは困惑した。


 何よりの衝撃は、都市の人々の多くが異種族であったことだ。

 商店の店主、通行人、警備員に作業員まで、姿形は多岐にわたった。


「あれって、エルフじゃない? あ、ドワーフに、ゴブリンまで」


「リザードマン、ロボットみてェに動いてるゴーレム、桁外れな魔力の人間……アイツらまさか」


「――ああ、異世界人達だ」


 姿も知性も身分もバラバラな異世界人達が都市にいた。


「本物の異世界人だ。帰還で弱体化したオレらと、魔力が違い過ぎる」


「それに何か、変よ。種族も服装も、魔力の雰囲気も、差があり過ぎるわ。なんて言うか、まとまりがないような……」


「リリィの言う通りだ。多分彼らは、全員の()()が違う」


 信じがたい光景からアスハは推測した。


「一体奴らの目的が何なのか、少しづつ見えてきた気がする」


 これから敵に回す相手の脅威、そのスケールにアスハは鳥肌立っていた。


「ここは……()()()()()()()()()()()()()、巨大ターミナルだ」


 亡霊の隠れ家は彼らの想像を吹き飛ばすほど、暗く深い沼底であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ