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第五十二話 日陰での密会

 みすぼらしい少年と、喋る白猫。その会話はひっそりと行われた。


 石鐘リーマは白猫を肩に乗せ、ベンチの背にもたれかかる。

 ずっしりと重い猫に、リーマは「太ったか?」と問いかけた。白猫は適当にお茶を濁す。


「そんじゃ、いつも通り情報整理から始める。ここ数週間は情報が増え過ぎた」


「まさか()()()がこれほどまで渦中に巻き込まれるとはな。いや、平常運転というべきか」


「自分達から突っ込んでってるからな」


 拾ったマジックペンを口で開け、ボロボロのスケッチブックに情報を記載していく。リーマの汚い字を猫は揶揄った。


「この二週間、魔獣の出現率はめっきり減った。理由は勿論、あの大怪獣が現れた日から」


「地脈、と言ったな。この世界の中心へ通ずる、魔力の道であり噴出口。そこの瘴気が浄化されたことで、魔獣発生が抑制されたとな」


「つまり魔力は全部、地脈が由来ってことか?」


「そうとも限らん。異世界からの干渉も少なからずはあるだろう」


 少年は地脈と紙に記された文字にバツを描く。


「アスハが修行に向かってたって言う、あの教会の神父はどうだった?」


「我が近づけるものか。アレは、スキル発動時のお前を見つけかけた化け物だぞ。遠くから観察するのが関の山だった」


「羽山ってオッサンは結局謎のままだったな。重要人物だってこと以外、ほぼ分からず仕舞い」


「一つ確かなことは、あのアスハが浸礼魔法などと言う技術を会得したという程度か」


「浸礼魔法は実態がよく分からないけど、決戦での様子を見る感じ魔力への影響力が桁違いだ」


 眼鏡越しに伝わる眼光、視界全てを支配しているような魔力の圧、全てを悟っているような振る舞い。一目見ただけでリーマはその聖職者の実力、恐ろしさを見抜いていた。


 それと同じ気配を凛藤明日葉に感じた時、リーマは焦燥を覚えていた。


「ボクらのスキルと違って、あの魔法はこの世界に根付いたもの。基本的に浸礼魔法を上回るには、相手よりも多く魔力を使うしかない」


「全く、凄まじいものを手に入れおって」


 浸礼魔法に関する記述欄に、要観察と新たに追記された。


「『組織』は無島総吾を筆頭に、隠密行動へ移っている模様だ。何の策略があるかは知らんが」


「放置で良いさ。ボクは居所さえ特定されなきゃ、まず手出しされない。問題は敵勢帰還者だ」


「この何日か、再び行動が活発化したようだったな」


「瘴気が帰還者に影響してるってのは知ってたけど、どこまで正確かわからない。こっちも観察を続けよう」


 魔獣、地脈、帰還者。彼らの警戒対象は四方八方に転がっている。

 中でも際立って引っかかっていたものを、猫は尋ねた。


「して、リーマ。例の『ゴースト』共の件はどうなった?」


「変わらず警戒対象だ。『組織』のやつらと違って、アイツらはボクに実害を及ぼす」


「なるほど。その口ぶりからすると、目新しい情報はナシという訳か――」


 紙をトントンと叩いていた中、彼らは魔物の気配を感じる。


「リーマ」


「分かってる」


 朽ちた公園を横断するゾウのような魔物が現れた。


 推定全長三メートル超えの巨躯。二股の鼻がバラバラに動いている。獣は辺りを見渡し、のそのそと歩く。


「魔獣か。まだいたのかよ……」


「この魔力……自然発生したものではないな」


「じゃ、()()()のって事じゃないか」


 濁った瞳。川底に積もった泥のような眼でリーマは魔物を見つめた。


 直後、リーマは音もなく魔獣の体を()()()()


「おっそいな。ま、見えてなかったら当然か」


 リーマに通過された魔物は次の瞬間、木端微塵に粉砕された。軌跡には影も残らない。

 水風船が割れるような破裂音が少年の背後で響く。


「一匹、駆除完了」


 淀んだ目は酷く疲れていた。


「力の大半を失ったとはいえ、神速は未だ健在といったところか」


「このぐらいは本気じゃなくてもできる。それよりここから離れるぞ、ゴーストに居場所を――」


「――ここだっ!」


 瞬間、リーマは耳を疑った。聞こえるはずのない人物の声が、自身の鼓膜を震わせた。


 それが幻聴だと思おうとした。だが音が、気配が、魔力が、それを本物と訴える。


「おい、おいおいおい。うそ、だよな……」


 気配はスキルで遮断している。自分が観測される筈がない。そんなリーマの常識は覆された。

 自分と目が合った高校生三人に、リーマは衝撃のあまり動きを止める。


「今の反応、やっぱり!」


「おい、あれって……」


「あー君っ! この前の!」


「やっぱ石鐘本人なのかよ! なんでまーちゃんと一緒にいるんだ!?」


 少年と猫は言葉を失い、その場で硬直した。


「……石鐘くん、だね?」


 思わぬ発見に歓喜する二人の横で、アスハは冷静さを貫いた。一目見て彼は、リーマが逃げ出す機会を伺っていると察する。


 指先一つの予備動作すらアスハは見逃さない。その気迫が生むプレッシャーに、リーマは即時離脱を断念する。


「なんだか穏やかじゃなさそうだけど、逃げ道はひとまず消しておこうか」


 退路は無秩序に、新たな法則によって塞がれる。

 アスハはドーム状のバリアを展開した。四人を覆い、魔力も通さない法則と浸礼魔法を付与。


 スキルと浸礼魔法を合わせた檻に、リーマは顔を顰める。


「最悪を、引き当てちまった……」


 引き攣った表情で睨む少年。その先にには涼しげな青年達が立ちはだかっていた。

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