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第四十八話 雨後

 切り離された時の中で、リリは思い出に耽った。

 瞼の裏に映る記憶を、胸の奥で抱き締めて。


「はあ、いけない。思い出って振り返っちゃうと現実のこと忘れちゃうわよね」


 乙女は天を見上げていた。下半身の潰れた姫に目もくれず。


「こんな、こんなぁぁぁァァァァァァ!!」


「まだ叫ぶ威勢が残ってたのね。よくやるわ」


「許さない……! 許さない許さない許さない、リリィ・シュメイ・フォルネヴィアァァァァァ!」

 

「許されなくて結構。アナタ如きの小娘の許しなんて、なんの値打ちにもならないから」



 悪姫は老婆のように老け、屍になりかけていた。癒えぬ負傷を負って尚、プリシアは呪詛を吐く。

 その胆力に驚きつつも、リリは処刑を執行する。


「ところでアナタ、魔法と物理のお勉強はした? 時間がもたらす影響ってご存じ?」


 リリは全能力を解除する。麗装を解き、月夜の花畑の空間も終了。

 だが時間だけは動いたまま。


「時間はね、空間に大きく作用するの。時間を支配するってことは、空間を完全に操れるの」


「ぺら、ぺら……」


「簡単に言うわ。時間と空間が操れたら、こーんな事が出来るの」


 リリが指を鳴らすと、プリシアの足元に黒い星が生まれる。


「重力、操作できるのよね」


 物体を呑んで無に還す暗黒星――ブラックホールだ。

 極小の黒星は華も魔力も、リリを除いて吸い込んでいく。当然、死に体のプリシアも例外なく。


 姫は虫のように這って藻掻く。無論、無意味な抵抗だ。


「い、いやっ、やめっ……もう、しにたくな――」


「安心して? 安直にゴシャって潰したり、引き裂いたりしないから」


 皮も骨も剥がされた。足先から吸われ、徐々に体が軽くなる。

 消えていく自分の肉体。緩やかに伝わる感触は、プリシアを絶望に染めた。


「時間も空間も歪んだ極小の重力空間。私が感じる数秒間に何十年も、何百年も、生きたまま、アナタはゆっくり死んでいく」


「っ――」


「魔力も術に含んでるし、きっと魂も逃げられないわ」


 残酷な最期。だが生前のプリシアの所業に比べれば生ぬるい。


「潰れるのか、分裂するのか、塵になるのか……アタシでも分かんないからどうぞ楽しんで。魔力でどうこうって次元じゃないでしょうし」


 戦乙女は餞別の言葉を贈る。


「さようなら。地獄か異世界で、また会いましょ」


 黒星はプリシアの残骸を呑み終え、爆縮して消失。亜空間は崩壊した。


 ※

 

 景色は現代の街並みに戻り、リリも無傷のまま帰還した。


「さて、これでひと段落かな――」


 だが道には微かな瘴気が漂っていた。


「魔力の反応、これ……」


 次の瞬間、リリの半径百メートル以内に魔獣が出現。

 プリシアの撒いた魔力が穢れ、魔物の肉を形作った。獣の目はリリを捉える。


「余計な置き土産してくれたわね、プリシア!」


 リリは攻撃魔法を展開する。


 しかし魔法が放たれるより早く、謎の少年の声が響いた。


「食え」


「ッ――!」


 リリは反射的に防御結界を展開。自身を隔離した。

 半透明の結界から彼女は目撃した。魔獣達が互いを襲っている光景を。


「なにが、起きて……魔獣が、共食い?」


 釘付けだった魔獣達は目もくれず、それぞれの肢体を食い千切った。

 息を飲む間に魔獣は共食いを終え、一体だけがその場に残った。


「やっと一匹になったか。それじゃ、これでお終いだ――なぁ!」


 刹那、少年が落下してきた。


 音速を超えた落下。少年は脚に稲妻を纏い、魔獣を貫通。蹴りの衝撃で魔物の全身を吹き飛ばした。


 土煙が立つ中、魔獣は消滅。埃を手で払い、少年は辺りを見渡す。


「ハァ……さっきの魔力反応はなんだったんだ? 何も起きてないならそれでいーんだけ――どっ」


 少年はリリと目が合い、数秒ほど固まった。


「ねぇ、アナタもしかしなくても、異世界帰還者だよね」


 ボサボサの髪にシワだらけのパーカー、色素の薄い肌に、すっかり染みついた目元のクマ。中学生ほどの見た目な少年は、一見して不健康そうな姿だった。


 少年は思考を再開させると、焦って踵を返す。


「なッ! 魔力が狂ってて気付かなかった。姿見せるつもりじゃなかったってのに……」


「あ、ちょ……って」


 彼女が追いかけようとした途端、少年の気配が完全に消失した。


 魔力の変化や予備動作もなく、彼は姿を眩ました。

 現場には音も匂いも体温も残ってはいない。初めから存在してなかったように。


「消えた?」


 混乱するリリが見回した頃にはもう、少年の行方は分からなかった。


「プリシアの件に加えて、このことも伝えなきゃだね。もう何がなにやら……」


 紆余曲折はあったものの、悪姫との死闘を終えたリリは安堵する。


 戦場を去る戦乙女はグループチャットを開き、共有事項を考えながら家を目指した。

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