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第四十二話 殴り合いの決着

 真夜中に降臨した疑似太陽。火柱を上げ、黄金の光が獣を飲む。

 魔力核も撃ち抜き、怪獣は粉砕した――そうであったが。


「頭ぶっ飛んだぜ! これで終わりかアスハ!?」


「違う、まだだツムギ。アレは単純な攻撃で消せる魔物じゃない。見てくれ」


 着地した屋上から二人は眺める。


 地脈の大怪獣は消滅していなかった。

 確実に核は砕け、巨躯も半壊。だが地の根から肉が滲み出す。


「嘘だろ、再生し始めてんじゃんか」


「常に地脈の魔力が供給されているんだ。それを絶たないとヤツは不死身だ」


「なんでだよ。体積の半分以上魔力を失って、核も絶対に破壊したはずじゃっ……」


「アレは魂が本体じゃない。地脈の瘴気自体が本体なんだ」


「どうしろってんだよ、ンな無茶苦茶」


「安心してくれ、あの状態ならヤツを消滅させられる」


 魔物の再生を拝む中、地上から無島が跳び上がる。


「凛藤、ヤツはッ!」


「もう一息です! あと一撃で吹き飛ばせる。無島さんとツムギで俺を投げて下さい!」


「赤原、合わせるぞ」


「承知っス!」


 魔力を振り絞り、ツムギは巨大パチンコ砲を生成。無島がゴムを引き伸ばし、アスハを装填。

 弾となるアスハは浸礼魔法を練り上げる。


「頼んだぜ、英雄(ヒーロー)


「任せてくれ、英雄(あいぼう)


 パチンコ砲台からアスハが射出された。


 十字架を握り締め、灰燼の青年は夜空を駆ける。

 瞬き間に巨獣の断面まで迫った。


「先生が言っていたね。君たち魔物にも、役割があるかもしれないと」


 ツムギの魔力石を砕き、力を充填。アスハの魔力が極まる。


「なら君が生まれた意味は、俺達をまた繋ぎ合わせるためだったのかもしれない。身勝手な解釈かも――いや、違うか」


 茹だる肉液、湧き上がる瘴気の煙。獣か再臨しかける中、聖職者の後継は答えを得る。


「意味なんて足掻いた先で、後からついてくるものか」


 淡い光明が彼を纏う。浄化の詠唱が終刻を告げた。


「泥下で生まれた貴方へ。疎まれし貴方へ。蔑まれし貴方へ。その結末を祖に代わって導こう……」


 亡き師の背を想い、星の白光を穿つ。


「『静寂に朽ちよ(サイレント・ディケイ)』」


 突き立てられた十字架は閃光する。

 光彩の激流は注がれ、魔獣から地脈まで直結した。浸礼魔法は巨獣を焼き、大地を粛清する。


 星が降る夜に二度目の、純白の太陽が降臨した。


 ※


 夜風に混じる断末魔を、帰還者達だけが感じていた。


 ツムギは屋上から、魔獣の消滅を眺める。

 無島が魔獣残党を確認しに出た今、静寂が訪れた。


「これで一件落着、だな」


 心を整え、友との再会に備える。そこへ見計らったようにアスハが訪れた。


「お待たせ。終わらせてきたよ、ツムギ」


 獣を排した今、彼らだけの時間が再開される。

 顔を拝むと真っ先にツムギが頭を下げた。


「もう一度謝らせてくれアスハ。酷いこと言っちまった。申し訳なかった……!」


「大丈夫、俺は《《許すよ》》」


 正面から謝罪を受け止め、真摯に向き合った。


「だからこっちも謝らせてくれ。一人にしてごめん」


 ツムギが顔を上げると、今度はアスハが謝罪する。


「友達としてキミに正面から向き合えてなかった。申し訳ない……もうツムギを置いていったりしないよ」


「気にしねェでくれアスハ……けどそう言ってくれて、めちゃくちゃ嬉しい」


「俺も、同じこと思ったよ」


「……ヘッ、へへヘ」


「……ぷっ、あはは」


 ぎこちないやり取りに耐えきれず、二人して吹き出した 。腹の痙攣が収まるまで笑い切る。


「オレが言いたいことは、さっき全部言っちまった。だからこれは、勝手な決意表明だと思って聞いてくれ」


 新たな希望を見出した日輪は誓う。


「これまでオレは、自分を変える勇気がなかった。昔も、異世界でも、今までずっとだ。だからゼロになった今、改めてオレは始めるぜ」


 親指はその胸を叩いた。


「お前たちにも胸張って話せる、オレの英雄譚をッ! オレが憧れるアスハとリリィに追いついて、自分でも認められる本物の英雄によ」


 劣等感は晴れて失せる。 


「カッケェ自分になれるように、近くで見ていてほしい」


「ああ、君ならなれる。その輝かしい物語を、隣から見させてもらうよ」


 隣で英雄譚を見守る仲間として、アスハも共に誓う。


「俺はまだ、自分の過去を克服できたわけじゃない。でも、背負いながら足掻いていく方法は見つけた」


 十字架を握った灰燼は迷わない。


「罪人でも俺は、キミの友でいる。英雄ツムギの隣に立つ、英雄もどきとして」


 宣言は高々に。月の光の下で語られた。


 だが、あと一歩足りない。

 再出発の宣言に加え、何かで確執を完全解消したいという想いが両者にあった。


「なあアスハ――」


 一瞬迷った末、ツムギは思い切って提案する。


「喧嘩しないか? 今、ここで」


 その申し出にアスハも目を丸くした。


「ここでスッキリさせておきてェ。オレはバカだから、分かりやすい形でこの喧嘩に決着を付けてェ」


 悩んだ末の結果。愚かだと理解しながら、誠実に考え出した答えだった。


「もしオレから殴りかかれば、アスハも気兼ねなくオレをぶっ飛ば―――ヴッ!?」


 景気の良い右ストレートがツムギの顔に埋まる。

 先に拳を入れたのはアスハだった。


 盛大に鼻血を噴き出し、ツムギは床に転がった。何が起きたか理解出来ていない。


 上着を脱ぎ捨て、アスハはツムギの前に立つ。

 爽やかな笑みを浮かべて手を差し出す。


「勿論、能力を使うのは無しだよね? これは男同士の喧嘩なんだから」


「……ッ! ああ、そうだな。全くその通りだ!」


 ツムギも服を脱ぎ、勢い任せに立ち上がる。

 間合いまで入り、二人は笑って拳を固める。


「誰かがここに来るまでに決着はつくよな」


 アスハが頷くと、二人して拳を顔面に突き刺す。

 避けることなく拳を受け、二人は鏡合わせのように反り返る。


「ごふァッ!」

「げぼっ!」


 衝撃で脳は揺れる。それでも彼らは立ち戻り、殴り合う。


「こ、こんなパンチ数発で、終わらせるなんてことないよね?」


「応よッ!」


 顔に、顎に、アバラに、鳩尾に。全力の拳を乱れ打つ。内出血、骨折、擦過傷。傷を負っていく。そんな痛みには二人とも慣れていた。


「がぁッ、っつぇな。腰が入ってんなアスハよォ!」


「それだけモロに食らって耐えるなんて、どんな精神力しているんだキミは!」


 彼らは互いに愉しむ。

 純粋な殴り合いも、勝敗にこだわらない戦いも、二人には初めてだった。


 喧嘩の場には似つかわしくない、透明な清々しさがそこにあった。


「うぐっ……ハハ」


「うがぁっ――へへへ」


 まさに対話だ。肌が衝突する度に、彼らの友情は固さを増す、。


「「おっらァ――!」」


 一際大きな雄叫びが、二つの衝突音に合わせて響き渡った。


 ※


「おーいお前ら、大丈夫か!」


 魔獣の消滅確認を終えた無島が屋上へ赴いた。


「いつまで経っても降りてこねぇで――は?」


 無島は絶句する。

 ツムギとアスハは大の字に伸びていた。


 先程より傷だらけで血塗れ。地面のシミが激闘を物語る。

 無島は一瞬焦りを見せるが、彼らの顔を拝んで溜め息をつく。


「……腹割って話せとは言ったけどな、本当に割るヤツがあるかよ」


 顔中を腫らした二人は、満足げに笑っていた。

 同じ具合に緩んだ二つの拳が、決着の引き分けを告げていた。


 灰と炎の決着を、その夜の流星が祝福していた。

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