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第四十一話 紡ぐ英雄

 ――オレは何者か。


 異世界の英雄、日輪の炎。

 そんな称号は、冒険者になってしばらく後に広まったものだった。


 ――オレは何者か。


 転生前の自分は教室にどこか馴染めなかった。

 なんとなく周りに合わせるのが辛くて、一人になろうとした。友達は欲しかったくせに。


 ――オレは何者か。


 転生してからの冒険者人生は、自由気ままだった。

 やる事や強さはステータスウィンドウに、生活はギルドに聞けばどうにかなった。

 

 冒険者の付き合いは楽だった。任務が終わればそれっきり。当たり障りなく縁が終わる。


 ――オレは何者か。


 それでも、オレは人に生かされた。

 スキルの使い方も、魔法のやり方も、戦い方も。教わって、受け継いで、真似して、再構築した。繋いだもんで戦ってきた。


 そんなことも、忘れちまってた。


 ――オレは何者か。


 スキルで作った武器は誰かのレプリカ。技は誰かの真似事。結局は全部、貰い物だ。


 それまでの苦難も、敵も、運命も、越えられるのは当然だった。

 だってそれは、出会った全ての人達と繋いできた力だから。

 それがあったから、オレは適応できた。


 ――オレは何者か……なんてな。


 その答えをオレは、とっくに知っていた。



 ※ ※ ※



 炎と灰は流星の翔ける下で走る。

 封印を解かれた巨獣は口を開き、魔物を吐瀉物のように産み落とした。


「アイツどうやって倒すんだ。アスハ、吹き飛ばせるか?」


「完全に滅ぼす術はここにある。けどそれを使うために、キミが一撃入れてほしい」


「なっ、オレが?」


「そうだ、ツムギが決めてくれ。頼まれてほしい、英雄!」


 厚い信頼に瞳が揺れる。欲しかったもの全てを与えられ、ツムギは満たされた。

 目元を隠しながら、ツムギはアスハへ小石を投げる。


「アスハ、使ってくれッ!」


 キャッチした石には高濃度の魔力が凝縮されていた。


「『最適化(オートクチュール)』で魔力を付与した石だ。爆弾にもリソースにもなる!」


「これは……! ありがとう、使わせてもらう」


「すまねェ、こんなことしか出来ねぇけど……」


「なっ、ツムギ!?」


 直後、先陣切ってツムギは駆け出す。

 その先はクマに似た大型魔獣。八メートルはあろう獣に、ツムギは()()()()()接近した。


 日輪の掌から黄金の光が放たれる。


「『最適化(オートクチュール)』――()()使()()


 触れた対象は()()。ツムギは発動対象を広げ、空間そのものを最適化する。


「『上っ面の秩序(レッド・リミット)』ォッ!!」


 伸ばした手は虚空を改造した。


「鉄の(はらわた)


 瞬間、魔獣は刻まれる。

 ツムギが触れた前方五メートル圏内。侵入した魔獣はシュレッダーへ入れたように裁断された。


 上書きは出来ずとも、その適応は法則を改造した。


「ツムギ、まさか……」


「お前の『限りなき無秩序(アンリミテッド)』の劣化版だ。オレの演算能力じゃここらが限界だけどな!」


 上っ面の秩序はすぐに崩壊する。

 合わせてツムギは弓矢を作成。獣を射抜く間に、服の下で短刀を錬成した。


「すまねェアスハ、オレはお前に憧れてた!」


 本音は剣舞の間に語られる。


「お前が敵と戦って、勝ち続けて、背中で仲間ァ守ってる姿見たら……記憶ン中の自分と重ねて、嫉妬してた。ごめん!」


 正直な言葉は実直な太刀筋となる。


「オレはずっと、理想の自分から遠ざかることに耐えらんなかった。でも違ェ……大事なモンが傍にあったんだ」


 投げた剣を爆発させ、ツムギは地に触れる。


「オレの原点は、憧れから始まってたんだ。理想は、目標は、ずっと横にいた。お前たちがそうだった……」


 土の巨腕は魔獣を打ち上げ、魔物を砕く。魔力は花火のように散った。

 答えを見つけた日輪は涙ぐんだ微笑みを向ける。


「大事なこと思い出せた。ありがとな、アスハ」


「それは俺も同じだ、ツムギ」


 アスハに握られたツムギの魔力石。光を放ち、拳の中で解放される。


「キミに出会わなければ、俺もこの技に辿り着くことはなかった」


 その技は羽山詩連の下で鍛錬していたもう一つの技術。


「『限りなき無秩序(アンリミテッド)』付与――『適応化(オーダーメイド)』」


 魔力石は槍へと変貌した。金色に煌めく鋲だ。


「アスハ、もしかして!」


「作っておいてすまないけど、これそんなに持続しないから――ねッ!」


 槍を彼方へ投げ放つ。槍は放物線を描き、魔物の群れへ着弾。


 次の瞬間、槍が爆ぜる。

 爆炎を受けた魔物は体から槍が生え、串刺しとなる。棘を生やした獣から落ちていく。


 模造品は物理法則を上書きしつつ、数秒で消失する。

 まさに『最適化(オートクチュール)』の紛い物だ。


「俺だって、キミの真っ直ぐな心根を追いかけてたさ」


 灰燼は十字架を剣へ変形させて握る。


「キミのような英雄になりたかった。憧れた『赤原績』って存在は眩しかった。だからキミに、必要な言葉をかけられなかった」


 魔物を斬りつけ、浸礼魔法で断面から焼き尽くす。強化した身体で縦横無尽に立ち回る。

 アスハもまた、身近な英雄の模倣をした。


「俺は英雄じゃなく、友達の『赤原績』にぶつかるべきだったんだ」


 白い爆破で魔物を屠る。灰燼はそっと剣を下ろす。


「キミと、この出会いに感謝を」


「アスハ……ありがとう。オレからも感謝する」


 交差した英雄達は互いを尊敬していた。


「本当、物に能力乗せるのって難しいね。耐久性が特に脆い」


「お前の方こそ、よくこんな空間の演算間に合ってるよな」


 魔物を撃墜させる二人だけが戦場で屈託のない笑みを浮かべていた。


「さて、雑魚は減ってきたみたいだね」


「だけどよ、アイツの方がそろそろヤバそうじゃねェか?」


 巨獣の出産が――終わった。即ち、解放の狼煙。

 大怪獣は両腕は天へ掲げ、かつてない雄叫びを上げた。


「羽山さんの封印も効果切れか。暴れ出す前に仕留めないとだ」


「はねやま? 誰だそのひと」


「俺の先生。すごい人だったよ」


 恩師の背を思い出し、アスハの心は導かれる。


「巨獣が動き出す。みんな、攻撃を叩き込んでくれ!」


 願いに応え、乙女が単身飛翔した。


「リリィぢゃああぁぁぁあんまっでぇぇぇぇぇぇぇ!!」


「その子行儀良いから、アンタは待ってなさい山里」


「ひええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」


 杖を掲げ、リリは空に魔方陣を描く。紋様は怪獣を睨んでいた。


「御霊ノ神獣、其の怨敵を噛み砕け!」


 白影の大獅子が上半身を顕現。その牙は怪物の首元へ突き刺された。


『――!』


 巨獣は初めて反応を見せ、両腕で大獅子を鷲掴む。だが獅子も牙を緩めない。

 作り出した拮抗状態は巨獣の手を封じた。


「彼あまり長くないから、今のうちに攻撃お願い!」


 獅子に抑えられた巨獣は翼を動かし始める。羽化を試みていた。

 未熟な竜翼を広げかけた寸前、獣の根元で黒服が構える。


「地脈の魔獣とか言ってたな。だったらこの根もてめぇの一部だよなぁ」


 根に拳が撃ち込まれる。その一撃は周囲の根を破砕し、満ちた瘴気を消滅させた。

 残っていた魔獣達も全て、その衝撃で無へと還る。


「ご丁寧に生やしやがって。手入れがなってねぇ」


 最大戦力、無島総吾。魔物排出終了後、僅か二十秒で殲滅。

 全解放の『空想回帰』は地脈から巨獣の肉体制御を狂わせた。


「赤原、凛藤、ぶちかませッ!」


 ブレスを吐こうと構えた怪獣。その頭上に、英雄が迫っていた。

 異世界に名を轟かせた日輪の英雄が、剣を振り上げる。


「『最適化オートクチュール』最大付与……」


 いつしか見た剣、いつしか見た剣技、その真似事。

 しかしその模倣がもたらした武勇には、一切の偽りなし。


 黄金の炎を纏って剣は閃光する。


偽造聖剣デミ・エクスカリバーァァァァァァァァァァァァァ!」


 黄金の刃は怪獣を斜めに断絶。

 右腕を切り落とし、腹が開かれるほど斬撃を沈めた。


 斬撃を受けた怪獣は意識を手放し、半身を揺らす。


「目標確認ッ、オレの最大火力を込める。合わせてくれアスハ!」


 アスハは託された十字架に口付ける。


「粛清兵装展開、アルパージ最高出力装填」


 十字架は対地形ライフルへ変貌。銃身が目を覚ます。

 魔力は浸礼魔法に変換、増長、反発を経て、アスハの浸礼魔法で更に強化。粛清兵装の弾が装填される。


 銃口は上から怪獣を狙った。


「『最適化オートクチュール』魔力凝固、破壊性能向上……!」


 剣撃で吹き飛んだツムギはそのままアスハを掴む。

 日輪はアルパージへ触れる。内部に込められた弾に更なる破壊力を与えた。


 英雄達は獣を狙い、射出した。


「『バレット・オブ・デイライト』」


 ――流星が降る夜に、黎明が放たれた。

 白き激流は一本に収束し、星空を明るく照らす。


 紅蓮、黄金、純白へ光は変化。閃光が大怪獣を穿つ。

 撃ち放った第二の朝日を前に、少年は答えを得る。



 ――オレは、赤原ツムギ。


 人の縁を紡ぐ日輪の英雄。その残り火で仲間を照らす、異世界帰宅部の炎だ。


「ここがオレの、アルカディアだッ!」


 輝きを取り戻した日輪の瞳。そこには太陽を食らった大怪獣の姿が反射していた。

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