対面
「は、初めましゅ、ゔっ」ガリッ
侯爵家の一室で伯爵夫妻と対面した
伝統的なドレスに身を包んだマロンはソワソワと落ち着かない。
伯爵夫人の出迎えに侯爵夫妻が行き、部屋で待っていた。
エリザベスの家庭教師を務めていたイリア先生
イリア・リュミエール伯爵夫人と夫ホランド・リュミエール伯爵がマロンの養子縁組相手となる。
イリア伯爵夫人、イリア先生は公爵家の家庭教師として赴いていた事もあり、常に教師然として気を引き締めていた。
全く笑わない訳では無いが、ピリっと引き締まった空気を常に纏っていたのでマロンは少しだけ苦手意識があるのだ。
うっ、先生との顔合わせ、最初から噛んじゃった・・・
舌、痛い・・・
緊張から舌を思い切り噛んでしまったマロンの気分は急降下、エリザベスに対する厳しい淑女教育も見ていたので怒られると思ったのである、しかし・・・
「大丈夫ですか、マロンさん」
イリス先生がボクの前でしゃがみ
肩に手を置いて覗き込んで来た
「ほら口開けて、あーん」
「あー・・・?」
「ん、酷くはないけど痛みが続くようならすぐに言うのよ?」
「うん・・・、あ、はい」
「ふふ、そんなに緊張しないで、それに「初めまして」じゃないでしょう」
「え、」
イリア先生の目はとても穏やかで優しかった。
ボクの中の記憶だと、エリーの家庭教師としてキリっと引き締まった顔で、少し恐いイメージがあったのに・・・
目の前の先生が纏う空気は柔らかい。
「エリザベスさんの時以来ですね、元気にしてましたか?」
「うん・・・」
「不安もあると思うのだけど、私の・・・、伯爵家の養子に来てくれますか?」
「えと、ボクで良いの?」
「勿論です、ねえあなた?」
「ああ、こんな可愛らしい娘が出来るなんて嬉しいよ」
イリア先生が優しいことに混乱するマロン
先生の後ろに居たホランド伯爵はエクボを作ってニカっと笑っていた。
ホランド伯爵は中肉中背で紺色の髪、柔和な雰囲気で
教育者として有名なイリアの対比で、人格者として評判の穏やかな紳士である。
リュミエール伯爵夫妻にはひとり息子が居る
幸運なことに嫡子を授かったのは良かったのだが、出産後イリアは婦人病で次が望めなくなった。
貴族としても個人の想いとしても、子は2人以上、息子と娘が欲しかった伯爵夫妻らは予期せぬ不幸に心を痛めた。
イリアは夫に第2夫人を迎えることを勧めたが、ホランドは決して首を縦には振らなかった。
優しい夫に支えられ立ち直り、家庭教師として淑女の教育に携わっていたのは得られぬ娘への想いがあったのは誰の目にも明らかだった。
これらの事実は社交界の同世代間では有名な話で
侯爵夫人がホランド伯爵に接触した所からマロンの養子縁組は始まっている。
涙を流した時から19年、マロンの身の上を聞いた上でそういう事ならと伯爵は妻にも話した。
以前にも養子で娘を貰おうかと考えた事もあったが
家庭教師を意外と楽しんでいる様子の妻に子供の話をして悲しい想いを混ぜっ返すまでもないかと何も言わなかった。
今にして養子の話を進めたのは
息子が来年20歳になるので手もかからない
家庭教師の予定も丁度ぽっかりと空いた間の良さがあった。




