懊悩
ギ・・・
ベッドが沈みこむ音と自分の腹に何か温かいものがのしかかる重さに目が覚めた。
ん?
「アラン・・・」
名を呼ばれて目を開けると自分の腹部に跨るマロンが居た
その姿にアランは声を挙げる
なにを!?マロン!!
何故か喉が音を出すことは無かった
しかも身体も金縛りにあったみたいに全く動かない
マロンの格好は服を着ているとは言い難いものである
ピンクのレース生地で出来たベビードールだけを身に付けていて肌はほぼ晒していた。
夜、男性の部屋にそんな格好で立ち入り
しかもベッドの上で跨っているとなれば目的はひとつ
アランも思い至り眠気は一気に吹き飛んだ。
「ねえ、アラン・・・」
艶かしい手つきでマロンはアランの腹筋を撫で、次いで胸元へと移る。
っ!?
大した刺激ではない筈なのに、全身にゾクゾクと何とも言えない感覚が走った。
いつものような快活な笑顔とは違う、クスクスと妖しく笑うマロンがベビードールの肩紐を外してアランに覆いかぶさった。
「うあっ!?」
ビクリと体を震わせてアランは目を覚ました
ジットリと汗をかき、体が若干重いような気がする。
外は未だに暗く、夜明け前のようだった。
「俺は、なんと言う夢を・・・」
上半身を起こしたアランは髪をクシャリと握ってかきあげた。
生々しい夢は脳裏に焼き付いていた
起きたら忘れている類の夢であれば良かったのにと、枕元にある水差しからコップに水を注いで飲み干した。
ハア・・・
ため息にも熱が籠っているような気がしたが、無視して再度寝ることにしたアランは目をつぶる。
こんなとんでもない夢を見たのも、昨日マロンと出掛けた時に肌を見てしまったせいだ
商会ではクリスがカーテンを(わざと)開け放ち、下着姿を。
近くに男が居るというのに、女性達によるあけすけな会話
胸部下着を付け替える度に胸を揉み、その感触を言い合う店員。
形やら、肌の質感やら、事細かに・・・
煙草は吸わないがシガールームに逃げようとしたらクリスに掴まって逃げられず、地獄の様なひと時を過ごした。
商会を出てからも腕を組んでは柔らかい感触
極めつけは帰り際のくちづけの一件である
しかもタチが悪いことに無垢なマロンはそういう気が全く無いので、アランだけが汚れた考えだと1人ダメージを受けていた。
マロンの性別をオコジョとでも位置付けていたが、今更本格的に女性を意識したアラン
次の日からどういう顔を向けていいのか分からなくなり静かに避け始めた。
特に夢の内容が直接的過ぎたことが原因で落ち着くまでに時間が掛かってしまう・・・
アラン・メイベル侯爵家次男
20歳の年、遅めの春が訪れようとしていた。
欲の篭った令嬢を避けてきた彼は、純度100パーセントの純粋な好意に大いに戸惑った。




