デート 8
「アランあれは?」
「あれは・・・」
マロンが指し示した先では頭に林檎をのせた人に向かってナイフを投げる光景があったが、アランの視界にある人物が映った。
「マロン」
「んえ?」
突然アランに抱き締められた
ボクが抱きついている腕がグイっと引っ張られて半回転
背中に右腕が回される。
「アランどうし・・・」
「そのまま、公爵邸の護衛がこっちに向かって歩いて来てる」
アランの静かに潜めた声にボクの体はビクリと固まった
公爵邸の護衛、あの夜の記憶が・・・
「大丈夫、ここは任せて」
アランがすぐにボクの頭をポンポンとして髪を撫でる。
優しさと温かい腕の中で少しだけホッとした
「お久しぶりですアラン様」
「お久しぶりです」
この声はアンドレアスとエイブラハムだ
あの夜のエリーの部屋でのことを思い出し、反射的にアランの腰にぎゅうっとしがみつく。
「こんにちはアンドレアスさん、エイブラハムさん、珍しいですね、どうしたんですか?」
公爵邸をレオン王子と共に出入りしているアランは、警備の2人とも顔見知りだ。
マロンからあの日の出来事の一部始終を聞いているので、何故警備の2人が昼間から外を出歩いているのかも分かっていた、侵入者マロンを探しているのだろうと。
「すいません人を探してまして・・・、その子は?」
人相書きをアランに見せながらチラリとマロンを見るアンドレアスとエイブラハム
なるほど、栗色の髪にマロンに似た人相書きだ。
「この子はウチの行儀見習いです、マロン大丈夫だから・・・」
「マロン?」
オコジョのマロンも捜索対象、当然その名に反応するのも予想していた。
「ええ、この子は少し男性恐怖症で初対面の人は恐ろしいみたいです」
「ああ、突然声を掛けてしまってすいません」
「いいえ」
ほら、とアランに促されてボクは2人に顔を向けた
「・・・似てませんかね」「似てるな」
まあ本人だからなとは言えないアランは苦笑するのを噛み殺す。
しかし・・・
「うーん、アラン様この子の家族は?」
「天涯孤独でね、血の繋がりのある者は1人も居ない」
「・・・これは、本当に申し訳ありません」
眉を下げて謝罪をすると、2人は早々に離れていった
「アラン、どういう事?」
「簡単な事だ、確かに顔はそっくりだけど・・・」
アランの話によると意外とあっさり引いたのは
ボクの印象が全然違う事にあるのだとか
あの時の夜は戦闘直後とあって気が立っていた
血の付いたカーテンを体に巻き付けたボクの姿は引き締めた顔もあって男性的に見えたらしい。
今のボクは華奢で、か弱い女の子
仕立てのいいワンピースを着てオシャレをしているし、あの時より髪も伸びているから受ける印象が違うって。
「それだけで?」
「それだけとは言うけどな夜と昼の違いもあるし、あの人相書きだ」
「人相書き?」
「ああ、顔付きがどう見ても男性的に仕上げられている」
レオン伝手に聞いた話だと、公爵はボクの事を男として探しているとか・・・
受けた印象の違いもあるが
アランがマロンを抱き寄せて耳元で話していた為に
「まさかレオン王子の従者が侵入者と繋がりなんてないだろ」
という思い込みも手伝って簡単にスルーされたのだった・・・




