ワーナードの目
「ごめんなさいねマロンちゃん、ワタシ可愛い子見つけるとつい・・・」
「あ、えと、いえ?」
「うふふ、困惑してる顔も可愛いわあ、今日はどうしたのかしら?」
クリスさんはボクの前にしゃがむと目線を合わせてニコニコとはなす
「服を・・・」
日用品が少ないこと、服や下着も全然足りてなくて
スケスケピンクのベビードールを着てたらみんなに泣かれたことを言った。
「スケスケ」「ピンクの?」「ベビードール・・・」
クリスを除く男達はマロンの姿を想像したのか
コホンと咳払い、気まずげに遠くを見て誤魔化した。
「分かったわ、うんと可愛くしてあげる!勿論今もとびきり可愛いけど微妙にサイズが合ってないわね、殆ど分からないように隠してあるけどワタシの目は誤魔化せないわ、サリー!」
「はい」
「何かのご縁よ、貴女がついて全体を取り仕切りなさい」
「はい! さ、マロン様こちらへ」
「あ、アランは・・・」
「こっちは気にしないで見てもらうといい」
流石に下着やら足りないと聞いて同席する訳にはいかないアラン
「ワタシはアランと話す事があるからお願いね、直ぐに加わるからゆっくりなさい」
「はい」
ボクはサリーに連れられて店内へと招かれた
アランも友達同士で話す事があるみたい
「・・・で、あの子は何者?」
マロンと店員が店に消えると、クリスは声も顔も引き締めてアランに聞く
「・・・何者、とは?」
アランもそう簡単にマロンの素性を話すわけにはいかない
クリスは充分信頼出来る友人だが、家を背負っている以上情に流されない判断もするだろう。
「あん、もうワタシを信用出来ないって言うのね、まあいいわ、ワーナードの情報網に掠りもしない女の子で、
ある日突然メイベル侯爵家に現れ、行儀見習いとして働き始め、今日に至っては侯爵家の馬車に乗ってあの堅物アランがエスコートする存在、気にするなって言うのは無理でしょお?」
もうそこまで調べているのかという感心と
まあ調べているだろうなという納得
あの、とは何とも不可解な物言いだが、まあ疑問に思うのも無理はない。
「マロンは、」
「いつ結婚するの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
「は? じゃないわよ、学生時代、いえ今もだけどレオン様に迷惑は掛けられないと言って令嬢を躱し続けたあの「堅物アラン」が、タチアナちゃんのワンピースを身に付けた可愛い女の子を侯爵家の馬車でエスコートなんて、つまりそういうことでしょう?」
「違う、マロンとはそんな間柄じゃない」
「そんな間柄じゃない女の子をエスコートしている姿なんて、タチアナちゃん以外には見たことないのだけれど?」
実際親しい間柄ではあるが恋人や婚約者と言うよりは親愛なる友人といった意識なのでなんとも言えない。
説明するにはマロンの置かれた状況にも触れなければならないのでアランは眉根を寄せて考えた。
「クリスから見て、どう見えた」
「そうねえ・・・、ワタシが知る限り容姿や色彩で当てはまる貴族は居ないわ、でもあの美しさだと平民とも思えない、何より侯爵家が世話をしてる事を考えると王家のご落胤か高位貴族の庶子辺りかしら?」
「そうなるとウチの情報網に引っ掛かりそうな気もするのだけどそれもない、かと言ってあの年齢まで屋敷に閉じ込められていたって印象も受けないわ、そうだったら何処か陰気な空気を纏うものね、可能性を考えると孤児院から引き取って来たと言うのが自然だけど、王都、そして王都近辺で最近似た子が引き取られたって情報は無かった・・・
それに、孤児院から来たばかりなのに礼の美しさは貴族の教育を受けたものよね、でもどこか不慣れなぎこちなさもあった、うーん謎よ」
流石のワーナード家当主だった
ヒントも無く、先日顔を出しただけの行儀見習い
先程の数分程度のやり取りだけでもいい所までたどり着いている。
「神獣」の事柄さえ知れば、あっという間に事実に思い至りそうである。




