商会とは
「またのお越しをお待ちしております」
包装されたペアリングケースを渡されると早々にエイブラハムは追い出される様にして店外へと誘導された。
手荒ではない、しかし確実に排除しつつ、周囲の客には全く悟らせない素晴らしい追い込みであった。
「あの、」
「老婆心ながら、彼女様には偶に贈り物をするよりこまめにお会いした方が宜しいかと存じますエイブラハム様」
「あ、ああ・・・」
「ああ、それと店内は勿論の事ですが、決してお客様を待ち伏せ為さったりしませんようお願い申し上げます」
店員の目は凍りつくような冷たさを伴っていた
因みに店員は3人に増えている
「ありがとう、迷惑を掛けて申し訳ない・・・」
「いいえ、ではお連れのアンドレアス様と公爵様にも宜しくお伝え下さい」
そう言うと店員は頭を下げた
エイブラハムはすごすごと引き下がる事しか出来ない
そして数歩進んで気付く
(あれ? 俺名前名乗ったっけ? つか、アンドレアスと公爵様にも??)
ハっとなり、エイブラハムは振り向いて店員の顔を見ると
店員はニコリと笑うのみであった・・・
(うわあっ・・・、マジか、こええー!)
エイブラハムは顔を引き攣らせそそくさと退散した
正規の手順である騎士団か警邏の捜索以外の方法で人探しをしている以上、商会での人探しはマナー違反である。
しかも名乗った覚えの無い自分の名前に、相方のアンドレアス、主人である公爵とまで言われた。
入店した時点で、いや、入店する前から全てを知られていたのだろう
背筋に冷たいものを感じたエイブラハムは頭を下げて退散した。
幸いなことに公爵の名前をエイブラハムから出してはいないので、商会と公爵家の問題にはならなかった。
あくまでも個人のマナーに注意しただけに留める商会の対応は有難かった。
間もなく、レナとマロンも商会を出たが後をつける者は居なかった。
「ちょっと目を離した隙にどうなってるのアンタ」
「リボン? 貰ったよ」
「く、そんないい物どうやったら貰えるのよ、大事にしなさいよねっ」
「うん、へへ」
ツンとしながらも、レナも色良い話を出来たお陰か口元は緩んでいた。
短い栗色の髪に揺れる真白なリボンが見えなくなるまでサリーは見送っていた
「サリー、アリッサ」
「「はい」」
「先程の接客は報告書にまとめておきなさい、若様に判断して頂きます」
「「はい」」
レナの相手をしていたマーゴットが、マロンとエイブラハムそれぞれに接客したサリーとアリッサに指示を出していた。
これが後にワーナード商会との長い付き合いになる事を2人は知らない。




